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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2019-秋-」講演レポート・動画 >  特別講演 [H-5] 組織を元気にする健康経営 〜社員のメンタルヘルス対策の鉄板手法か…

組織を元気にする健康経営
~社員のメンタルヘルス対策の鉄板手法からはじめよう~

  • 刀禰 真之介氏(株式会社メンタルヘルステクノロジーズ 代表取締役社長/株式会社Avenir 代表取締役社長)
  • 吉村 健佑氏(労働衛生コンサルタント/精神科専門医・指導医/千葉大学医学部附属病院 産業医)
  • 宮田 秀之氏(ニッセイ保険エージェンシー株式会社 専務取締役 執行役員)
東京特別講演 [H-5]2019.12.24 掲載
株式会社メンタルヘルステクノロジーズ講演写真

昨今、社員のメンタルヘルスや健康経営の重要性が注目されているが、うまく導入されているケースはまだ多くない。どうすれば導入が進むのか。メンタルヘルス関連のサービスを提供するメンタルヘルステクノロジーズ代表取締役社長 刀禰氏が中心となり、千葉大学医学部付属病院産業医の吉村氏、健康経営に取り組むニッセイ保険エージェンシーの宮田氏が、効果的な手法や実例について語り合った。

プロフィール
刀禰 真之介氏( 株式会社メンタルヘルステクノロジーズ 代表取締役社長/株式会社Avenir 代表取締役社長)
刀禰 真之介 プロフィール写真

(とね しんのすけ)デロイトトーマツコンサルティング、三菱UFJ証券、環境エネルギー投資などを経て、2011年、株式会社Miewを設立(2018年8月株式会社メンタルヘルステクノロジーズに社名変更)し、代表取締役に就任。その後、株式会社Miewの100%子会社としてAvenirを発足し、同社の代表取締役就任。


吉村 健佑氏( 労働衛生コンサルタント/精神科専門医・指導医/千葉大学医学部附属病院 産業医)

(よしむら けんすけ)千葉大学医学部医学科卒業後、千葉県内で精神科医として診療に従事。東京大学大学院精神保健学講座にて産業精神保健学を学ぶ。厚生労働省にて医系技官として、法案成立に従事。精神科産業医として、大規模液晶工場、エンジニアリング事務所、精神科病院などでの経験を積み、現在は千葉大学医学部附属病院産業医。


宮田 秀之氏( ニッセイ保険エージェンシー株式会社 専務取締役 執行役員)

(みやた ひでゆき)日本生命保険相互会社 企画部、人事部、リテール販売部各部門を歴任。その後ニッセイ保険エージェンシー株式会社で経営全般の企画立案を担当。


働き方改革とメンタルヘルス対策の相関に注目

クラウドサービスなどのメンタルヘルスソリューション事業を行うメンタルヘルステクノロジーズと、企業への産業医案内などの産業医産業保険事業を行う子会社のAvenir(アベニール)は、連携して企業の健康経営、メンタルヘルスに取り組んでいる。専門医や社労士へのホットライン、オンラインカウンセリング、産業医・保健師の提供など、組織のさまざまなニーズや課題に応えるメニューを揃えているという。

刀禰:最近、ストレスチェックならぬメンタルチェックというサービスをリリースしました。産業医と精神科指導医に監修いただき、2000万人ものデータをベースにした統計学・心理学の面から、休職や離職リスク、ストレス体制、コミュニケーションレベルなどが診断されるものです。こちらも含めて、厚生労働省が推奨しているメンタルヘルスケアの“四つのケア”に対応したサービスを組織の状況によってパッケージで案内しています。「四つのケア」とは、厚生労働省の提唱する「セルフケア」「ラインによるケア」「産業保険スタッフによるケア」「事業外資源によるケア」です。当社では、産業医とクラウドサービスのパッケージ化、企業規模と予算に応じた提案、一人ひとりスクリーニングした医師の質の高さなどを強みとしており、年間継続率99%という高水準を保っています。取引先は800社、1600事業所以上にのぼります。

講演写真

さて、今回のセッションでは、社員のメンタルヘルス対策について議論していきます。近年の動向として注目されるのは、2011年に精神疾患が5大疾病とされたこと、2016年のストレスチェックの義務化。また、2017年に健康経営有料法人認定制度がスタートし、2019年に大企業766法人・中小企業2502法人が認定されるなど急増していること。今後も、2020年にパワハラ相談窓口の設置義務化、中小企業の働き方改革の施行、2024年に医師の働き方改革などが予定されています。

吉村:私は働き方改革の中でも、特に「産業保険機能の強化」という流れに注目しています。四つのケアが提唱されても、なかなか現場に浸透していないのが実態です。2007年~2009年のデータによると、メンタルヘルス活動には33%ぐらいの事業所しか取り組んでいません。この状況に厚生労働省も危機感を抱き、ストレスチェックが導入され、さらに働き方改革の中では産業医を中心とした産業保険機能の強化が提唱されています。

宮田:当社では4、5年前から、働き方改革とメンタルヘルスに関する、さまざまな取り組みを進めてきました。産業医については「機能として労働基準監督署が社内に入った」という意識を社内で共有。産業医からのアドバイスは、トップにもしっかりと伝えるようにしています。また、ストレスチェックを実施するだけではなく、従業員の会社への満足度、仕事への満足度を定点観測しながら、経営の一つの指標として位置付けています。数値は徐々に上昇しており、メンタル面の向上は働き方や経営にリンクしていると言えます。

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健康経営を上手に進めるポイントは「第一次予防」

刀禰:健康経営には、ブランディング、採用の優位性、健康経営有料銘柄取得による金利優遇という企業にとってのメリットも含まれますが、一番の目的は「生産性向上」にあるのではないでしょうか。この点をうまくアピールすれば、トップをうまく巻き込み、健康経営を進めていくことができます。しかし、トップの理解を得られないケースは少なくありません。

宮田:昔とは違って、トップの意識は当面の短期業績に向きがちです。私は「政府、経済産業省、厚生労働省、経団連が示している健康経営は重要です」と伝えて、トップの動機付けを行い、説得しました。「健康経営優良企業認定を取りましょう」という提案も有効ですね。

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吉村:「メンタルヘルス不調になりにくい職場づくりに取り組んだ結果、労働生産性が上がった」など、健康経営においては、産業保険活動と労働生産性をいかにつなげるかが重要です。その際のキーワードは「第一次予防」。「上司への教育によるメンタルヘルスに対する認識と部下に対する対応の向上」「ストレス対処能力を上げていく個人向けのストレスマネジメント」「働きやすい職場をどうつくるかを職場単位で考え実行していく職場環境改善」という三つを実行していくと、労働生産性が上がっていくと言われます。実際のデータからも、第一次予防による労働生産性上昇は明らかになりました。

刀禰:「労働生産性の向上」=「働きやすい職場」×「労働生産性向上の手法」という方程式が考えられますね。また、「労働生産性向上の手法」=「オペレーションの最適化」×「一人ひとりの社員の能力を上げる教育」×「効率の高いIT活用」、そして「働きやすい職場」=「社員の心身の健康」×「リーダーシップ(ノーハラスメントであるということ)」×「個人が成長を実感する仕組み」×「納得性の高い評価」×「明確なルールとその遵守」という関係もあります。人事は、こういった視点から経営陣を説得するとうまくいくと思います。

吉村:方程式の中に示された「ノーハラスメント」という言葉は大変重要です。第一次予防の一つに挙げた「上司への教育によるメンタルヘルスに対する認識と部下に対する対応の向上」の中に示されている「教育」というのは、ハラスメントをしないように部下とコミュニケーションをする、意思を伝える、というスキルが大部分を占めます。ハラスメントがあると士気が下がり生産性も下がります。

宮田:「ノーハラスメント」は、当社でも毎月のように研修の中で取り上げています。技術論というよりも意識改革なので、ストレスチェックの中で「上司の支援は部下から見たら低いか高いか」という項目をハラスメントの一つの指標として使いながらアドバイスを行っています。

刀禰:健康経営で一番成功しやすいパターンは、経営層を巻き込んでKGIとKPIをしっかりと設定することです。KGIに採用コスト減少、KPIに休職率の減少などを掲げて、セルフケア研修、相談体制の拡充、相談しやすい仕組みづくりなどを実施し、成果を出しつつあるという事例もあります。

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成功のコツは「不信」「不満」「不安」をこの順に取り除く

吉村:精神疾患者数の推移データを見ると、平成14年は260万人でしたが、平成29年になると420万人へ急激に増加。メンタルクリニックや心療内科の開業が進んだこと、メンタルクリニックを訪れる心理的ハードルが下がったことが原因として考えられます。

刀禰:産業保健医からは、IT化と職場ストレスが大きな原因と聞いています。情報流通量が急増し、パソコンに例えるならデータが溜まって動きが悪くなっているのと同じ状態が、人間の脳で起こっているのです。また、責任と仕事量の多いプレイングマネジャーが増加していることが職場ストレスを大きくしているとも言われます。プレイングマネジャー層は一番メンタル不調を起こしやすいため、特にケアが必要です。

吉村:コンプライアンスが強化される傾向にあるため、さまざまな要求がトップから現場に降りてきます。例えば、現場で行う日々のチェックリストが増えたり、トリプルチェックが求められたり。その不満は現場の責任者へと向かうことになりますから、やはりマネジャーのケアは重要ですね。

刀禰:メンタルヘルスケアにスムーズに取り組むための法則が、これまでの経験からわかってきました。「不信」「不満」「不安」の三つを、順に取り除くという法則です。「不信」を取り除くには、コンプライアンスを遵守し、経営層が部下のメンタルヘルスとストレス耐性の構造をしっかり理解しなければなりません。「不満」を取り除くには、休職復職の仕組み化という職場環境の改善が必要です。

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吉村:復職支援や復職の判断がきちんとできないため、職場に復帰しても以前と同じメンタルの状態に戻ってしまうケースは多いですね。「この負荷の仕事を任せられるにはどんな水準を満たしたらいいか」などといったように、人事労務や健康管理のスタッフが、現場の上司と一緒に事例を積み上げながら明文化していくことが重要です。

刀禰:例えば、「週5日、1日8時間、元の部署で元の業務ができる」といった復職要件をしっかりと定めておけば、あまり問題にはなりません。

吉村:本人の意欲が高かったり、あせっていたりすると復帰を急ぎがちですが、「最初の2週間は4時間だけ」など、余裕を持たせた水準を設定しておくといいでしょう。業種別や階層別に要件をつくっておくのもいいと思います。「不満」を取り除くには、産業医などの相談窓口の整備も必要です。

宮田:当社では、産業医がうまく機能していなかったため、思い切って産業医を専門とされている方にお願いすることにしました。健康経営の要は、間違いなく産業医だと思います。当社は専属の産業医を雇うまでの規模ではないため、嘱託という形ですが、状況は大きく改善しています。今年から産業保健師も加わってもらい、チームとして健康増進に取り組んでいます。

吉村:「不安」を取り除くには、セルフケア、ラインケアも重要です。特に、同じストレスを受けても反応レベルは個々人で違うことを、上司は認識しておくべきです。職場に相談のできる上司がいれば、ストレスは緩衝することが、研究によって明らかになっています。

刀禰:組織フェーズによって、取り組む課題は異なります。すると、50人ほどの規模ではコンプライアンス遵守、100人以上では休職復職の仕組み化、300人以上では四つのケアの仕組み化、というように解決手段も変わってきます。まずは、自社に応じたステップを踏んで対策を進めること。それがひいては、労働生産性向上にも結びつくのです。

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