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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2022-春-」講演レポート・動画 >  特別講演 [D-7] GMOペパボの人事部門が行った、試行錯誤から学ぶOKRとは

GMOペパボの人事部門が行った、試行錯誤から学ぶ「OKR」とは

  • 船橋 恵氏(GMOペパボ株式会社 HR統括部 副部長)
  • 太田 紘子氏(GMOペパボ株式会社 HR統括部 HR統括グループ 人事企画チーム)
  • 奥田 和広氏(株式会社タバネル 代表取締役)
特別講演 [D-7]2022.06.21 掲載
株式会社タバネル講演写真

正解のない時代と言われる今、目標管理手法「OKR」の注目度がますます高まっている。しかし、「OKRに興味があるが、実際はどんなものかわからない」「OKR導入の第一歩目の踏み出し方を知りたい」「OKRを導入したが、うまく運用できていない」と悩んでいる担当者は多いのではないだろうか。本講演では、株式会社タバネルの奥田和広氏がOKRの導入支援の中で得た成功のポイントを解説し、OKRを全社導入・運用しているGMOペパボ株式会社の実例を紹介。同社のOKR導入の旗振り役であるHR統括部 副部長 船橋恵氏と太田紘子氏から、HR部門でのテストから全社導入、運用後の変化、人事評価との関係など、現場感のある実例を伝えた。

プロフィール
船橋 恵氏(GMOペパボ株式会社 HR統括部 副部長)
船橋 恵 プロフィール写真

(ふなばし めぐみ)2009年GMOペパボ入社。役員秘書、サービスディレクターを経て、2013年より人事部門に従事。2014年育休中に社会保険労務士資格を取得。採用や研修、評価制度等の制度設計、運用等の業務を担当し、現在はHR統括部の副部長として組織力向上をミッションとした業務に注力。


太田 紘子氏(GMOペパボ株式会社 HR統括部 HR統括グループ 人事企画チーム)
太田 紘子 プロフィール写真

(おおた ひろこ)複数社で人事に携わり、労務管理や新卒・中途採用を経験。2018年にGMOペパボへ入社し、中途採用をメインに人事企画に従事している。


奥田 和広氏(株式会社タバネル 代表取締役)
奥田 和広 プロフィール写真

(おくだ かずひろ)一橋大学商学部卒業。ファッション・化粧品メーカー、コンサルティング企業などで勤務。取締役として最大 170 人の組織マネジメントに携わる。OKR、組織マネジメントのコンサルティングを行う株式会社タバネルを設立。 著書に『本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR』がある。


OKR成功のポイントは「狙いを定めて守破離」

株式会社タバネルは、新たな目標管理手法として注目を集めるOKRの導入から運用までを支援するコンサルティングサービスを提供している。OKRとは、「Objectives (目的・目標)とKey Results(重要な結果指標)」の二つの項目からなる目標管理の手法だ。創業当初のGoogleで採用されたことで注目を集めた。FacebookやOracle、Twitterなど米国企業で多く採用されているほか、日本でもメルカリ、Sansan、freeeが先行的に導入。さらに、静岡銀行や花王、大日本印刷など業種・業態、企業規模にかかわらず多くの企業で導入が進んでいる。

タバネルではOKR導入を検討している企業や組織づくりに悩みを持つ企業などを対象に無料面談を行い、組織の状況や課題に応じたコンサルティングプランを提案。企業に合った導入・運用を支援するほか、導入後もオン・オフラインで継続的なサポートがあることが強みだ。

OKRの第一人者であり、『本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者である奥田氏は、多くの企業へのコンサルティングで培ってきた知見を伝えている。

講演ではまず、奥田氏が登壇し、今OKRが注目されている背景について説明した。奥田氏は、日本の高成長企業の特徴を分析した調査を提示。その結果によると、日本の高成長企業は、低成長企業と比べて、目標・コミュニケーション・多様な価値観への対応に違いがあった。具体的には、「社員が会社に関する関心事(目標や成果)などの情報を得ている」「マネジャーがオープンなコミュニケーションを維持している」、そして「多様な価値観を持った人材を意図的に採用・育成する方針がある」の三つの項目で差が見られた。

正解のない時代と言われ、戦略・人材・組織を取り巻くテーマに日々さまざまな変化が起こっている現在。自社の戦略実現に向けて多様な人材と組織の力を最大化するために、求められる目標のあり方も変化を強いられている。そこで、着目されているのがOKRだ。

「OKRとは、目標管理フレームワークであるとともに、コミュニケーションツールとして大きな役割を担うものです。OKRの設定から運用までで大事なポイントは、チームで設定したOKRを高頻度で振り返ってフィードバックし合いながら、意欲と努力のベクトルを合わせ続けることです」

大企業から中小企業まで多くの企業でOKR導入の支援をしてきた奥田氏。OKR成功のポイントは「『狙いを定めて守破離』の順番で進めていくこと」と強調する。

まず「狙い」は、「流行の目標管理手法だから」とやみくもに導入するのではなく、自社の戦略や組織、人材課題に向けた導入目的を明確にすることが重要だ。導入の最初の段階である「守」は、導入教育で基本の型を共有認識して運用すること。そして、基本の型で進めていく中で「破」で独自の工夫を行うとともに、継続的なフォローや、成功事例の展開をしていく。最後の「離」の段階で、基本を離れて、成果を出すためにブラッシュアップを行っていく、という順番だ。

「OKRというのはあくまでツール。自社の戦略実現やビジョンを目指すために、自社流のOKRに進化させるということが大切なポイントです」

講演写真

GMOペパボはHR部門でOKRをテスト運用し、課題を抽出

続いて、GMOペパボ株式会社のHR統括部HR統括グループ人事企画チームの太田氏が登壇し、同社におけるOKR導入の狙いやプロセスを紹介した。

GMOペパボがOKRを導入したきっかけは、2020年に行った評価制度のアップデートだった。それまで使用していた評価制度は、まだ同社の組織規模が小さく、少数精鋭で運営していたころに導入されたものだった。そのため、個人で成果を出すことが求められ、個人が期初に立てた目標の達成度合いで評価をしていた。

しかし、組織規模が拡大して目標も大きくなったことで、個人ではなくチームで成果を出すことが必要になり、評価制度を変更することになった。その際、評価制度は個人の成長支援を目的とした内容へとアップデート。チームの目標設定や管理のツールとしてOKRを導入したのだ。

「新評価制度の評価対象は、目標の達成度合いではなく、目標達成に向けた行動と成果です。それらを全社共通の等級要件に当てはめて、充足程度に応じて評点を行います。個々の評価資料は全社に公開されています。評価プロセスとしては、まずパートナー(社員)が自己評価で点数をつけますが、その際、『なぜこの点数なのか』という言語化も提示します。自身の等級に何が求められているか、キャリアアップするためにはどこを伸ばせば良いのかを明確化することで、上司はパートナーの成長を支援することができ、本人も成長を意識した行動ができる仕組みとなっています。

OKRはあくまで目標設定と管理の手法であるため、OKRの達成度は直接評価に反映していません。しかし、新評価制度では、目標達成に向けた行動と成果を評価するため、OKRでの取り組み自体を自己評価に使うことは認められています」

続いて太田氏は、OKRの導入準備として行ったことを説明。準備期間は1年間設け、2020年1月からの新評価制度の運用開始と同時に、HR部門で試験的にOKRの運用を開始した。自部門で運用して得た課題から、全社導入の際にもぶつかるであろう課題を抽出。それらに対処すべく、5月に全社導入に向けたプロジェクトをHR内に立ち上げた。その後、9月にOKRのナレッジ共有会を行い、10月から12月にかけて運用開始に向けた社内研修を実施した。

HR部門でのトライアルから出た課題は、「適切な目標設定をする難しさ」だった。初回の1クオーターでのOKRは、マネジメント以上がトップダウンで目標を設定したため、Objectives (目的・目標)が限定的な内容になってしまい、通常業務をOKRに組み込めないメンバーも出てきてしまった。2クオーターからはチームで話し合ってOKRを設定し、マネジメント以上の承認を得るやり方へと変更した。

このようにHR内でのトライアルから出た課題を生かして、パートナーの負荷を軽減しスムーズに導入できるようにHRで支援。勉強会や社内研修の企画実行、運用の際のフォーマットの作成などを行った。勉強会は「OKR Talk」と名付け、OKRを導入していたチームと課題や改善策などを共有。現在も四半期に一度、成功や失敗事例を話し合う場として定期的に開催している。

「社内研修は、当初は全て自分たちで進める予定でしたが、企画会議で『OKRの本質からずれることなく、自社に合う形で導入できるよう専門家の力を借りよう』という話になり、タバネルの奥田さんにご協力いただきました。

研修内容は、チームメンバーで話し合って来期のOKRを設定し、その内容を発表するもの。Zoomを利用したオンラインで実施しました。参加者は約30人で、全10回ほど開催。研修後のアンケートでは、回答者の90%以上が『OKRについての理解度が上がった』『組織で高い目標にチャレンジすることに期待が持てた』と回答し、OKR導入の下地ができたと感じました」

2021年1月からの運用開始後、HRでは、適切な支援ができるように四半期ごとに各部門長へのヒアリングを実施。並行して「OKR Talk」を定期的に開催した。1年が経過するタイミングで、全社の運用状況を把握するべく社内アンケートを実施。アンケート結果では、『OKRとその進捗状況の可視化ができている』が90%以上、設定と進捗も70%以上が定期的に実施されており順調に運営できているという結果を得られた。

「OKR運用2年目は、OKRがマッチしづらいと言われている管理部門で、新しいチャレンジに取り組んでいます。一つ目は、管理部門のトップOKRの設定です。今までは各部門でOKRを設定していましたが、管理部門全体で同じ目標に対し協力して動けるようにするため、2022年2月から管理部門の役員とHRで設計を開始しました。二つ目は、管理部門全体のOKR共有会の実施です。他部門の目標や成果の状況を把握することで相互理解を深め、情報共有やスピーディーな連携によって生産性の向上を図りたいと考えています」

講演写真

現場にOKRを定着させるコツは

ここからはGMOペパボ株式会社HR統括部副部長の船橋氏が加わり、OKRについてよく寄せられる疑問や参加者からの質問に答える形式でディスカッションが行われた。

奥田:私はOKR運用の支援をする中で、「運用の定着が難しいのではないか」という質問をよく受けます。どのような工夫をされていますか。

船橋:定着は難しいなと今も感じています。私たちが定着させるために行ったことは二つあります。一つ目は、導入の際にタバネルの奥田さんに全社研修を行っていただいたのですが、その後に入社したメンバーがいつでもその情報が見られるよう、社内サイトに研修の動画や資料を掲載したこと。二つ目は、トップのコミットメントです。3ヵ月に1回、各部門の責任者と私たち事務局とでミーティングを行い、目標設定の内容や浸透度合いを確認しながら、他部門からのナレッジを共有するよう場を設けていました。このようにして、OKRを前進していくメンバーと各責任者が定期的に目線を合わせる機会をつくったことが当社の工夫ですね。

奥田:トップとのコミットメントも、現場の社員にも話を聞く機会も大事ということですね。導入支援をしている私としては、OKRを推進する立場の方の地道なフォローも大事なポイントだと感じます。

続いて、GMOペパボさんでは人事評価とOKR運用は別ということですが、うまく取り組むための工夫はありますか。

船橋:評価制度は会社によって設計や考え方が異なるので、各社のお悩みを一括で解消できる回答は難しいと前置きしておきます。大前提として、評価制度とOKRの関係性をどのように位置づけるかを明確にしたり、整理したりすることが必要かと思います。

当社の場合は、OKRの達成率や達成度合いは直接個人の評価には反映させていません。評価制度自体が、評価期間における個人の成果やプロセス、取り組んだことを振り返って自己評価資料として述べて、その上で上長との目線合わせをして最終的な評点をするというプロセスをとっています。その自己評価の部分に、各人がOKRを通して取り組んだプロセスやもたらした成果を記載する、という位置づけです。

そのため、直接OKRの達成率を個人評価に反映するわけではありませんが、間接的には個人の評価に反映しています。「全く評価と関係ない」となると、自分ごと化しない動機にもなってしまうので、当社の場合はうまくバランスが取れた関係にできていると思っています。

講演写真

奥田:狙いを明確にすることと、バランスを取ってきちんと説明していくということですね。とはいえ、現場の人にとっては、最初は理解しづらいかもしれません。不安や不満の声はなかったのでしょうか。

船橋:評価者側から「HR部門から全社に導入するものとして、個人の報酬に反映させないことはどうなのか」「評価に直接ひもづけた方がいいのではないか」という意見はありました。そのときは「OKRと評価制度自体を直接ひもづけてしまうと、ストレッチの効いた高い目標を設定しづらくなり、達成難易度が低く保守的な目標を設定する誘引となってしまう可能性がある。あくまで目標設定はOKRとして、組織の目標設定はOKRを活用してください」と案内をしました。

OKRの醍醐味は、まさに奥田さんが先ほど説明された「高い目標に向かって、チーム全員が意欲と努力のベクトルを合わせ続けること」だと思います。それをきちんと活用するという意味で、目標設定と切り離すように説明をして納得いただきました。

奥田:では最後に、OKRについて情報収集や検討されている方に向けて、お二人からアドバイスをお願いします。

船橋:最近強く感じていることが、全社に発信するメッセージづくりの重要性です。HRは、経営からのリクエストを翻訳しながら現場に落とし込み、パートナーをモチベートしていくことが大切です。経営と現場をつなぎ、現場がモチベートされるようなストーリー設計・メッセージづくりにおいてOKRというツールを導入するのも一つの手段だと思います。

太田:「高い目標を個人で達成しろ」と言われると心理的負担が高いと思いますが、「チームで助け合いながら達成する」となればかなり心情が違ってくると思います。OKRはそういったところがメリットだと感じているので、チーム連携の強化を図りたい企業さまは、ぜひ導入の検討をいただければと思います。

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