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新ドコモグループの挑戦:社員の自律的キャリアを支援する人材開発のあり方

  • 田中 威津馬氏(株式会社NTTドコモ 人事部 人材開発 担当課長)
  • 江口 統一朗氏(株式会社ファインド・シー 代表取締役)
特別講演 [D-2]2022.06.21 掲載
株式会社ファインド・シー講演写真

NTTドコモ・NTTコミュニケーションズ・NTTコムウェア3社による再編を控え、新ドコモグループの組織文化の変革が始まった。社員の自律的キャリア開発を最重要課題の一つに掲げ、従来の人材開発とは異なる新たなスタイルでの施策へと舵が切られている。現場ではどのように社員に向き合い、どんな手応えを感じているのか。NTTドコモの田中氏を迎え、同社のキャリア自律・1on1を支援するファインド・シー代表の江口氏がその実態を聞いた。

プロフィール
田中 威津馬氏(株式会社NTTドコモ 人事部 人材開発 担当課長)
田中 威津馬 プロフィール写真

(たなか いつま)英インペリアルカレッジロンドン・情報システム工学科卒。バルセロナESADE MBA Co2017。入社以来、モバイルネットワークのエンジニアとして日本と世界を繋ぐ国際通信の仕事に従事。通信の国際規格を決める国際会議の議長など歴任。2021年夏から現職。


江口 統一朗氏(株式会社ファインド・シー 代表取締役)
江口 統一朗 プロフィール写真

(えぐち とういちろう)新卒で人材紹介JACにて幹部人材の紹介営業に従事。1度ファインド・シーに入社後、上場IT企業にて人材開発、会長室、事業開発に従事し組織を動かせない現実に葛藤。2013年にファインド・シー出戻り入社後、組織人事分野の営業として大企業のマネジメント育成、組織開発を支援。2021年代表取締役就任。


田中威津馬さんが人事なら、ドコモのキャリア自律は変わる!

ファインド・シーは2002年の設立から20年を迎えた少数精鋭企業だ。ビジョンとして掲げるのは一人ひとりがあるべき基本(型)を備えながら、自分の意思や個性を発揮しながら働き、生きていくことで実現される「型破りができる社会」だ。個と組織の課題に対して、妥協せずに変革を促せるようなベストの企画と提案を行っていく、という信念を貫いている。顧客に寄り添った組織開発のプロフェッショナルとして、主にマネジメント層向けに1on1や、ミドルシニア社員へのキャリア自律支援といった数々のサービスを提供。NTTドコモや東京海上日動火災保険ほか、大手企業への導入実績も数多い。

講演冒頭で江口氏は、今回の講演に込めた思いを述べた。

「田中さんとは現場エンジニアの時からの関係で、この人こそ変革人材だ!と思っていました。それがまさかの人材開発担当課長に就任。これはドコモが変わるぞとワクワクしました。1年ほど前に人事に就任されたとき、『これからはキャリア自律を一番に取り組んでいく』という話をされました。多くの企業でも意識されているテーマですが、NTTドコモという大艦隊でどのように取り組まれていくのだろうと興味を持ちました。田中さんは帰国子女で、元エンジニアであり、世界を舞台に活躍されてきたユニークな経歴をお持ちですから、人事と言う立場から、どのように組織や人に影響を与えていくのか。今日は皆さんの参考になる話がたくさん出てくると思います」

キャリア自律を企業戦略にリンク

田中氏は、モバイルネットワークのエンジニアとして日本と世界をつなぐ通信インフラ事業に長年にわたり従事。通信の国際規格を決める国際標準化会議の議長を若くして務めた経験も持つ。人事部には2021年夏に異動、いわゆる伝統的な日本企業のアップデートをテーマに「メンバーシップ型からジョブ型へ」「クローズドからオープンへ」「出社前提からリモート中心へ」など、多くの変革に取り組んでいる。田中氏がまず自社の紹介から始めた。

「当社はもともと携帯電話事業者という成り立ちですが、今ではインフラや端末などのハード、アプリなどにとどまらず、IoTなどのソリューション、ビッグデータなどの情報処理、スマートライフ事業や、dポイントの会員基盤など、モバイル通信業界、ICT、プラットフォームなど、全ての領域を担っています。

当社の伝統的な強みの一つに、日本中、また世界とも通信を絶対に途絶えさせないという使命感に基づいた業務プロセスの統制・仕組み化があります。やるべき業務や判断基準など全てをマニュアル化、新サービスの開始時も一気に全国的にスケールさせる知見とネットワークを有しています。人事制度やキャリア開発も、そういった強みや体系に最適化した形で、整えられてきました。

一方で、変化のはやい社会情勢や市場競争環境により、従来の業務プロセス統制や仕組み化の間にジレンマが生じています。ドコモの成長のために、新規事業を探索、既存事業も変革し、社会と産業の構造改革と新たなライフスタイルの創出に今まで以上に取り組むことが求められています」

NTTドコモはこれまでも探索・変革を重視してきたが、今まで以上に積極的に取り組む必要があるという。ソフトウェア開発人材やデータ活用人材、イノベーション創出人材などの人的資本を戦略的に増やすことに取り組みつつも、ドコモの人材育成で最重要視しているのが「自律的キャリア」、すなわち、社員一人ひとりが自律的に能力開発とキャリア開発に取り組み、その発揮を通じてお客様への価値提供に貢献していく仕組みづくりだ。

「『どうしたらイノベーションをどんどん起こせるか、どうしたらもっと働きがいを感じられる会社にできるか、そして新たな価値を世の中に届けられるか』という企業の課題に自律的キャリアを絡めて、『あなたの本当にやりたいことは何か今一度向き合い、ぜひその実現ために熱量を高め、仕事に邁進してほしい』というメッセージを発信しています」

実験的取り組みである「第三者支援」や「匿名チャンネル」などを実施

自律的キャリアという新しいキーワードが加わったことで、人事育成・人材開発業務の変革にドライブがかかった。キャリア開発、働き方の改革、DXなど、統合的支援へと幅が広がったと田中氏は語る。

「キャリアを考えるにあたっては、自分の強みを活かしていきいきと楽しく働いてほしい、その結果として価値提供・業績向上につなげていきたいというのが基本スタンスです。伸ばしてもらう観点は、リーダーシップ、情報収集力、対人理解力などの『コンピテンシー』と、データ分析、開発能力、マーケティングスキルなどの『専門性』。これらのキャリア開発をトータルサポートしていきます。

中でも大事なのは、上司部下間のキャリア面談。キャリアを考える場を設けて、スキルの棚卸し、スキル開発のアクション計画などを話し合います。この面談前後に必要となるものは何か、と言う問いを軸に、さまざまな実験的取り組みを展開しています」

講演写真

まず、自分のキャリアを考える際の参考になる情報開示を強化。社内にはどんな職種があり、どんなスキルが必要か、自分の強みが活かせそうな職種は何か、という視点から眺められるように全社で定義付けを試みた。従来開示されていなかった情報だったため、ハレーションも心配されたが、結果的に現場の協力も得られ、社員からも好評だという。

次に、1on1型の第三者支援も開始。これは上司部下間だけではうまくいかないケースを支援する仕組みであり、メンター社員が共感・傾聴を通じて新たな視点を提供する。国家資格キャリアコンサルタントの資格を持つ社内有志が集まって面談を受ける企画を立ち上げたところ、即日満員状態になったという。

他にも、自分のキャリアややりたいことに向き会える時間・場としても機能しているのが、ドコモアカデミーだ。

「自律的・自発的に挑戦を促す仕組みを設けて、イノベーション、新規事業のアイデアを育てるプログラムです。『あなたは何をやりたいのか』を徹底的に問うカリキュラムと社内外の有識者による1on1を通じ、社員の行動変容とモチベーション向上など、大きな効果が現れています。また、自分のやりたいことを主体的に発信していく方もどんどん増えて、手応えを感じています」

もう一つ、田中氏は、社内の公開Slackにチャンネルを立ち上げ、運営している。キャリアの悩みを、誰でも匿名で人事部に相談できる場だ。キャリア、給料、経営方針、研修など、従来はタブー視されていたトピックが一気に共有され、投稿数も参加者も激増。社内コミュニティの中で一番大きなチャンネルの一つとなっている。田中氏は、毎週動画配信も実施し、社員の悩みにリアルタイムで応えている。

「本当に多くの社員の方が、忌憚(きたん)のないストレートな意見をあげてくれます。よく出てくるキーワードとして、私が気になっているのは、『ない』です。何かがない、何かができない、何かがなされない、やりたいことがうまくいかないなど、いろいろな『ない』が社内に溢れている。何かを打破したい、変えたい、でもどうしたらいいかわからない、と考えている社員たちの思いと叫びが24時間伝わってきます。過去のクローズドな人事のイメージを覆し、社員一人ひとりの悩みに応えたいと言う気持ちで、これらの声に向き合っています。一人ひとりが口に出せずにいたモヤモヤを吐き出し、人事部がそれに反応することが、自律的なキャリアを考えるきっかけになっていくのではないかと捉えています」

こういった新しい取り組みに対して、田中氏は二つの課題が見えてきたと語る。一つ目の課題は、「本人の自律的キャリア」と「会社の事業の要請」のせめぎ合いだ。

「『やりたい仕事があるのに、なぜ叶わないのか。自律的キャリアと言っているのに、結局異動させられてかなわないじゃないか』というような、本人の気持ちと、『希望は叶えたいが、業務体制維持のため難しい』という会社の思惑の衝突がどうしても生じてしまいます。これに対しては公募制度の拡大や社内外兼業の推奨など、さまざまな打ち手を考えていきたい」

二つ目の課題は、変化を起こすための管理職能力の開発だ。

「上司部下間のキャリア面談を行うのにもスキルが必要です。キャリアの長い管理職は、会社の命に従う形でキャリアを築いてきたのに、突如これからは『自律的キャリア』だと言われている。また、「面談が上手な上司がいい上司」と言う若手の声の変化・価値観の変化も応えていかなくてはいけない。どう話せばいいのか、どう傾聴すればいいのか、という戸惑いの声を多く聞きます。管理職のサポートは非常に重要だと考えます」

ディスカッション:キャリア自律のリスク、シニア層への対応とは

続いて、田中氏と江口氏とのディスカッションが行われた。

江口:多くの企業の担当者から、「キャリア自律を進めていくと社員が辞めるリスクが高まるのではないか」という声を耳にしますが、どう思われますか。

田中:いろいろ追跡調査をしてみると、会社を辞める理由は、そもそもキャリア自律を果たしたからというよりも「会社そのものに魅力を感じなくなった」「将来にワクワクしなくなった」「給料や転勤先に不満がある」といったことが中心になっています。このような理由への対処をまずは優先させるべきですし、キャリア自律の支援はその対処になりうる。自律的キャリアを考える中で、やりたいことが実現できるドコモにしていきたい。

江口:エンゲージメントの強化にもなる1on1の重要性をどう捉えていますか。

田中:重要性は増しています。リモートワークが増え、コミュニケーションの総量を意識して取らなければならなくなったためです。コミュニケーション量に応じて、「会社がどういう方向に向かっているのか」「上司や周りはどう考えているのか」といったことのチューンナップや、心地のいい雰囲気づくり、ケアもできます。1on1は密室で行うため、効果測定しにくいと言えます。今後はそこにテクノロジーを使って可視化を図っていこうと考えています。

江口:キャリアコンサルタントを社員が担っていますが、資格取得の支援や活動へのインセンティブはありますか。

田中:資格取得支援制度は今年度から追加しました。社内の資格保持者の方々が業務時間内に対応できるような制度も整備する予定です。社内の人に聞いて欲しくないという社員の声に応え、キャリアコンサルタントは社内だけでなく社外の方も加えたハイブリッド方式で運営しています。

講演写真

江口:先ほどのお話にあった課題である「『本人の自律的キャリア』と『会社の事業の要請』のせめぎ合い」に関して質問です。「本人の希望が叶わなかったときは、どのように対応していますか」。

田中:これは難しい問題です。社内コミュニティのチャンネルなどを通じて私が社員の方々にいつも言っているのは、「ポジションにはどうしても限りがある」、ということです。しかし、実際に挑戦する機会が存在するかどうかと、そして実際に挑戦するかどうかで納得感は全く変わってきます。公募に挑戦したり、自分はそこに行きたいと意思表示してアクションを起こしたりすれば、結果はどうあれ納得度は違う。実例を交えながら、こういったことを伝えるコミュニケーションも大切です。もちろん、挑戦しやすくなる支援と制度もたくさん用意したいですね。

江口:次に「上意下達になじんできたようなシニア層へのキャリア自律支援は難しいと思いますが、工夫や注力している点はありますか」という質問も寄せられました。

田中:シニアの問題は大変難しい問題です。川下り型のキャリア、山登り型のキャリアという言い方もありますが、ご本人が納得されている形かどうかというのが大事では。ここは、ドコモアカデミーへの参加の効果を感じています。いきいきとしたシニアの姿は、若手社員へのよい刺激にもなります。

江口:最後に、ドコモ様でも前向きに導入検討中の、当社で製作した年上の部下とのキャリア面談動画サービスについて。つくった作った背景として、若手管理職のほとんどが年上の先輩である部下がおり、特に人生を含むキャリアの相談に乗ることに苦労しています。いざキャリア面談の場で「やりたいことが思い浮かびません」「どうせ異動希望を言っても叶わないのでは」「定年までこのままでかまいません」などと言われたら、どのように対応するか。シーン別にポイントをまとめたものです。各シーン3〜5分で面談前に視聴して面談ポイントを確認できます。

田中:どれも、当社のキャリア面談でよく耳にするセリフですね。全部当てはまります。大変参考になります。

最後に田中氏は「社内外でオープンに考えや状況をシェアして、果敢に施策に反映させていきたい」と今後への意気込みを語り、講演は終了した。

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