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「心理的安全性」の高い組織をつくる

  • 武田 雅子氏(カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer)/株式会社ZENTech 社外取締役)
  • 佐々木 丈士氏(Facebook Japan株式会社 執行役員 人事統括 (Head of Human Resources))
  • 村瀬 俊朗氏(早稲田大学 商学部 准教授)
パネルセッション [A]2022.07.04 掲載
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近年、心理的安全性が注目されている。組織に対して心理的安全性を持つことで、人は自分の意見を安心して発言できるようになり、そうした組織はパフォーマンスが向上するといわれる。では、どうすれば心理的安全性の高い組織がつくれるのか。カルビー、Facebook Japanの事例をもとに、ディスカッションが行われた。

プロフィール
武田 雅子氏(カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer)/株式会社ZENTech 社外取締役)
武田 雅子 プロフィール写真

(たけだ まさこ)1968年東京生まれ。89年に株式会社クレディセゾン入社。全国のセゾンカウンターで店舗責任者を経験。2014年人事担当取締役に就任。2016年には営業推進事業部トップとして大幅な組織改革を推進。2018年5月カルビー株式会社に転職、翌年4月より常務執行役員。全員活躍の組織実現に向け、人事制度改定など推進中。


佐々木 丈士氏(Facebook Japan株式会社 執行役員 人事統括 (Head of Human Resources))
佐々木 丈士 プロフィール写真

(ささき たけし)フォード・ジャパン・リミテッド、フィリップ モリス ジャパンにおいて人事ビジネスパートナーとして、さまざまな事業部門の組織開発を担当。2015年6月よりフェイスブックに入社、現在は日本、韓国、マーケティングソリューション事業部の人事戦略を担当。


村瀬 俊朗氏(早稲田大学 商学部 准教授)
村瀬 俊朗 プロフィール写真

(むらせ としお)1997年に高校卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaにて産業組織心理学の博士号を取得。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)を務めた後、Roosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はチームワークとリーダーシップ。


カルビー 武田氏:職場における心理的安全性について

カルビーのコーポレートメッセージは「掘りだそう、自然の力」。企業理念は「私たちは、自然の恵みを大切に活かし、おいしさと楽しさを創造して、人々の健やかなくらしに貢献します」。同社では自然、そして素材を大切にしている。

同社には独自の心理的安全性への取り組みがある。社内は役職ではなく「さん付け」。性善説マネジメントであり、マイクロマネジメントではなく、「成果から逆算するマネジメント」を推奨している。

「会議や研修の開始時には、リーダーや事務局が心理的安全性を宣言。場の目的を伝えたうえで『この場は何を言っても大丈夫な場だ』と伝えています。また、トップ自ら『ポジティブな領空侵犯』を推奨。個々の職務は決まっていますが、それを超えて思ったことがあれば『ポジティブな領空侵犯をしてくれ』と言っています」

良い行動を見かけたらリアルでもオンラインでも、きちんと褒めて再現性を上げる。また、年に1回エンゲージメントサーベイを行っているが、その中で「安心できる職場ですか」と質問し、心理的安全性を定点観測している。

「マネジメントの人たちには、心理的安全性を『なぜ推進するのか?』を問うようにしています。サーベイの項目をゴールとするのではなく、会社とメンバーがより成長するための職場とするためです」

サーベイ後は「サーベイ実施→回収集計→分析→FBワークショップ→対策立案→実行」のサイクルを回し、ワークショップの実施や対策立案も人事が並走する。

「社内ではサーベイ後の変化を『変える』ではなく、『アップデート』と呼んでいます。ワークショップはカンパニーごとに幹部も集まって開いています。その中で対策を考え、実際に職場に課題を持ち帰ってもらう。これを1年間でぐるぐると回しています」

特に人事が重視しているのは、単純にサーベイのスコアではなく、成功している事例だ。

「各部門をよく見ていくと、スコアを上げているリーダーが必ずいます。そこで実際にどんなことをしたのかを聞き出すためにインタビューを行い、その内容を社内で横展開しています」

武田氏が今実現したいと考えているのは、「全員活躍」や「D&I」からの心理的安全性だ。例えば、全員が活躍するために必要な要素は「メンバーが存在ではなく参加(=当事者意識)していること」「それぞれが持ち味を活かした働き方をして、職場に居場所があること」「それぞれが『貢献実感』と『成長実感』を持っていること」などがある。

「こういうことがそろってくれば、全員に心理的安全性が備わるのではないでしょうか。チームの心理的安全性を確認するときに問いかける言葉に『チームの中で違和感を口に出せる?』『一見、バカげたチャレンジを言い出せる?』『等身大の自分でいられる?』といったものがあります。こうした内容はまさにチームの活動に関わるもので、これからも心理的安全性を軸により良いチーム運営を追求したいと思います」

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Facebook Japan 佐々木氏:心理的安全性に関する新たなバリュー

米Facebookは2021年10月に社名を「Meta」に変更した。これは同社が推進する仮想世界を意味する「メタバース」が由来だ。Metaが掲げるミッションは変わらず、「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」というものだ。

「Metaのサービスや製品を月に1回以上利用している人は、世界で30億人以上います。まさにコミュティづくりの支援として、世界80を超える都市に拠点を持ち、サービスを提供しています」

今回、正式にバリューに入れた項目に「BE DIRECT AND RESPECT YOUR COLLEAGUES」がある。「率直に話し、同僚に敬意を持つ」といった内容だ。

「自分と違う仕事を担当している人やチームに対しては、尊敬が必ずベースにあるべきです。その一方で、意見や質問を投げかけるときには率直に話しかけていく。要するにフィードバックが常時行われる状況、かつ、それがリスペクトを持って行われる環境を築きましょう、ということをバリューとしました」

同社では、心理的安全性そのものをテーマとはしていないが、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの観点からトレーニングや自発的なリソースグループの活動を行っている。

「トレーニングには全社員が受けるもの、部下を持つ管理者が受けるものがあります。リソースグループはテーマごとにつくられており、例えば、アジアの女性社員あるいは女性社員の活躍を支援する人の集まりや、障害を持つ人あるいは障害を持つ人を支援するリソースグループがあり、各々で学びや取り組みを行っています。本日はお二人と意見交換をさせていただき、その内容をアップデートしたバリューをいかに社内に浸透させられるかについてのヒントにしたいと思っています」

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早稲田大学 村瀬氏:心理的安全性と感情の役割

2021年は心理的安全性が注目された年といえる。しかし、それを本当の力にするための道のりはまだ遠い。

「心理的安全性は構築して終わりではなく、維持していく必要があります。この点が悩ましいところです」

心理的安全性が高まると安心安全に意見が言えるが、議論を交わし、多様な意見を統合しようとすると、そこに感情のやり取りも起きてくる。「この感情の把握は容易ではない」と村瀬氏は強調する。

「そもそも人の急激な感情の動きである情動は、大昔、生存が関わるような体験をもとに形成されており、原始的で身体的な反応といえます。社内の会議や議論の際に生存の危機は訪れませんが、脳は昔のように機能します。感情とは何かというと、思考を伴う情動の解釈です。例えば、カップルでつり橋を渡っていてドキドキしてしまった感情を考えると、この感覚の原因を探り、意味を導かなければなりません。ドキドキは恐怖なのかトキメキなのか。解釈を考えているとわからなくなります」

感情にきちんと向き合うことができる人は、意思決定がきちんとできるという研究データがある。例えば人が仕事で投資をしているときは、常にアラートが出ている状態になる。ここで情動のままでいると、意識にきちんと対応できない。

「『自分としてはこの状況は怖いし、興奮状態にあるけれど、自分はこの会社が好きでこういうことをやっていて、そこに何かを期待している』と感情に移行できると、それが意思決定の質を向上させることにつながります。情動から感情への昇華が効果的な対応につながるのです」

ただし、人が情動にうまく対応するには、「情動→抑制行動→再解釈→感情の対応」といった段階を踏まなければならない。この思考のプロセスが非常に重要になるのだが、より妥当な感情へと移行させるには高い技術を要する。

「感情は非常に複雑であり、その中で心理的安全性を維持しようとすれば、きちんとした感情を伴うように仕向けなければなりません。それができなければ、イライラして相手に怒ったり、せっかくつくった心理的安全性を壊してしまったりする。心理的なトレーニングに関してもきちんと考えていかなければいけません」

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ディスカッション:心理的安全性をうまく機能させるには

村瀬:人を褒めるという話がありましたが、苦手にしている人は多いと思います。また、フィードバックそのものも実は難しいものです。お二人は従業員の行動をアップデートするときに、どのような点を意識されていますか。

佐々木:日本人はフィードバックがうまくできない、という話をよく聞きます。フィードバックするほうはぎこちないし、受けるほうも驚いたりしてしまう。日本を含めたアジアのハイコンテクストな文化の国の社員に働きかけているのは、フィードバックを受ける人が「自分から求めにいく、聞きにいく」ということです。そうすることでフィードバックを行う側は「ああ、本当に求められているな。思ったことを言っても怒らないな」と安心してフィードバックできるようになります。「言葉を求めにいこう。待っていても来るものではないよ」ということを意識させています。

村瀬:相手をリスペクトして、お互いのメッセージをきちんと伝えるために、特に行われていることはありますか。

佐々木:マネジャーにとって一番危機的な状況は、自分の言動がどう思われているかがわからないことです。そのため、誰もがコメントを引き出す工夫をしていると思います。スキル的なことを言えば、部下に「何が悪かった?」と聞くのではなく、一段ブレイクダウンして「次にどうすれば良くなると思う?」とポジティブトーンで聞いてあげることです。そして受ける方も、「フィードバックを本気で自分の成長につなげたい」といった熱量を、事前に上司へ伝えておくことが大事だと思います。

武田:私が意識していることは二つあります。一つ目は、褒めるときにはその対象となる人の行動を具体的に褒め、かつ、その周囲に対しても「すごくない?」と巻き込んでしまうことです。人は褒めることで気持ちもハッピーになるので、それを周囲にも広げて、褒めることが習慣化するきっかけになればと。特に素晴らしい事例を聞いたときは、広報に頼んで記事にしてもらい、よりたくさんの人たちから賞賛が本人へ行くように仕掛けたりしています。

二つ目は現場での成功例を全社に広げることです。マネジメントを本当にうまく行っているマネジャーはたくさんいます。例えば、部下からのサーベイでハイスコアを取るマネジャーがいれば、部下から「どのようにマネジメントしているか」を聞き出して、その内容を他の人たちに伝えています。

村瀬:褒めることは慣れていないとなかなかできないように思いますが、武田さんがカルビーに入られたときには、そのような土壌はあったのでしょうか。

武田:食品メーカーということもあり、変化に慎重なところはあったと思います。でも一人、二人と褒めてポジティブな感情を出していくと、それが広がっていくので、あとはスムーズでした。私自身も自分より目上の方を褒めることも意識的に行います。「こんなにいつも現場に感謝されていて、本当にすごいですね」とみんなの前で褒めるんです。私はその行動を「またやってほしい、もっと続けてほしい」と思うから褒めるのですが、そのように「いいな」と思ったことを正直に伝えると、誰もが変わってきます。「いろんな方向にそういうベクトル出していいんだ、パス回しをしていいんだ」ということが、段々わかってくる。私は皆さんが『変わることができる』と思って接していますし、そうした思いを正直に伝えることで、だんだん広がっているように思います。

佐々木:確かに可視化することは大事ですよね。褒めてあげたい事象は、おそらくカルビーさんの中にもともとあったのだと思います。でもそこに脚光を当てる文化がなくて、これまでイメージがしにくかったということですよね。例えば、昨今のカタカナ人事用語などもそうですが、日本語でわかりやすく言い換えられない言葉は、社内に浸透しにくい。それがうまく言い換えられれば、「自分の会社ではこうなるな」とイメージできて、浸透しやすくなると思いますね。

村瀬:心理的安全性をおびやかすような状況を見たときは、どのように対応されていますか。

武田:対応はケースバイケースです。言葉で説得するとしたら「私たちは同じ目的があって、同じリソースを使って、より大きい成果を出そうとしていますよね」と。そこからブレイクダウンして「そうすると、多分あなたの今の行動は期待されている幅からはみ出ていることだと思いますよ。そのことをどう評価されますか」といった言い方になると思います。

佐々木:人を褒めるばかりではなく、決めごとを破ったときには、罰則など一定のルールも必要だと思います。ただし、「罰せられるからやらない」というのは心理的安全性にそぐわないので、あくまでもミニマムなものになると思います。

村瀬:お二人のお話をうかがって、心理的安全性は「ゴールは何なのか」を言語化して皆に腹落ちさせ、そのゴールを個人や組織にとって本当に意味のあるものにしていくことで生まれてくると感じました。また、心理的安全性は維持していく必要がありますが、個人の努力に依存せず、いかにシステム化するかがポイントになると思いました。本日はどうもありがとうございました。

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