なぜハラスメントがなくならないのか?
インシビリティ(礼節の欠如)から考えるギスギス職場の風土改革
- 津野 香奈美氏(神奈川県立保健福祉大学大学院 ヘルスイノベーション研究科 准教授)
- 荻原 英人氏(ピースマインド株式会社 代表取締役社長)
インシビリティとは、他者への思いやり・配慮を欠いた無作法な言動のことで、積極的に相手を傷つけようとする意志が曖昧なため、その存在が見過ごされがちな行為である。しかし、これらの行為が積み重なると、職場の雰囲気が悪化し、ハラスメントや離職につながる恐れがある。日々の小さなギスギスがハラスメント問題につながらないよう、どのように職場環境を改善しマネジメントするかについて、インシビリティ研究の第一人者である神奈川県立保健福祉大学大学院の津野香奈美准教授と、EAPサービスを提供するピースマインド株式会社の荻原英人代表が語り合った。
(つの かなみ)東京大学大学院医学系研究科専門職学位課程および博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科講師を経て現職。令和2年度厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査検討委員会」委員。日本産業ストレス学会理事。著書『パワハラ上司を科学する』
(おぎわら ひでと)国際基督教大学卒。1998年メンタルヘルスサービスのピースマインド創業。日本・アジアにおけるEAP(従業員支援プログラム)サービスのパイオニアとして「はたらくをよくする」事業を推進。Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」選出。著書『レジリエンス ビルディング』。
ハラスメント対策の決め手はインシビリティにある
ピースマインド株式会社は、日本における『EAP(従業員支援プログラム/Employee Assistance Program)サービスのリーディングカンパニー』として、職場における「人」に関する課題の解決を総合的に支援している。「はたらく人が抱える『不』を解決し心豊かな未来を創る」をミッションとし、「『はたらくをよくするエコシステム』を創り、いきいきとした人と職場を増やす」をビジョンとして、従業員一人ひとりと組織全体のパフォーマンス向上を促進し、生産性を高めることに尽力している。
まず、ピースマインドの荻原氏がハラスメントの問題点について語った。社員の心身の健康への取り組みと状況の可視化の重要性も注目される昨今、企業の生産性向上と「はたらく人」の心の問題は、切っても切り離せない経営テーマである。2020年6月には職場でのパワーハラスメント防止を義務付ける関連法(通称:パワハラ防止法)が適用され、2022年4月からは中小企業にも防止措置が義務付けられた。
これにより、企業によって差はあるものの、ハラスメント防止への取り組みは実行されてきた。一方で、一通りのハラスメント対策を行った企業が新たに直面している問題が、いわゆるグレーゾーンである、職場風土や対人関係に悪影響を及ぼすようなコミュニケーションの問題だ。
上司がメンバーの発言に関心を示さないなど、明確なハラスメントではないが、周囲への振る舞いが心理的安全性の低下や周囲の負担につながっていることが、徐々に対人関係のストレス要因となり、離職やパワハラにつながる恐れもある。このような他者への思いやり・配慮を欠いた無作法な言動は「インシビリティ(礼節の欠如)」と定義づけられている。
「ハラスメントの相談件数は増加傾向にあり、リスクにつながるような事案も増えています。インシビリティは、まだ聞き慣れない言葉だと思いますが、ハラスメントがない、風通しのよい職場をつくる施策のきっかけになるものとして、情報を提供できればと考えています」
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