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学生の傾向からひも解く、採用動画の実例とメッセージの効果的な伝え方

  • 村田 真生氏(カーネマン株式会社 代表取締役・コンサルタント)
特別講演 [G-5]2023.12.21 掲載
カーネマン株式会社講演写真

近年、動画視聴が習慣化している学生との接点を持つため、採用における動画コンテンツの重要性が高まっている。しかし、効果的な動画を制作するためのノウハウがなく、悩みを抱える採用担当者も少なくない。本講演では、動画活用によって企業のプロモーションを支援するカーネマン株式会社 代表取締役の村田真生氏が、採用動画制作のコツと事例を解説した。

プロフィール
村田 真生氏(カーネマン株式会社 代表取締役・コンサルタント)
村田 真生 プロフィール写真

(むらた まお)俳優・作曲家を経て、アデコのBPO部門に入社。スーパーバイザーとして、出向先企業の事務処理部門で生産性改善・採用業務を担当。その後、レジェンダ・コーポレーションに入社し、大手各社の採用支援業務に携わる。2015年にカーネマンを創業し、官公庁および中小・大手・上場企業の動画活用による販促・採用を支援。


オンライン化が進む採用活動で、就活生へのアピールにつながる動画活用とは

カーネマンは2015年の設立以来、動画活用とデジタルマーケティングによる採用・販促・公共施策の支援事業を行っている。創業者であり代表取締役を務める村田氏は、もともとミュージカル俳優・作曲家として活動した後、会社員に転身し、顧客企業の業務改善や採用支援業務に従事してきた経歴を持つ。

もともとカーネマンはマーケティングに特化した動画制作と運用支援を展開してきたが、視聴者の行動変容を促す技術が採用領域に活用されていないことに着目。2019年から、採用動画の制作支援事業も開始した。

コロナ禍を境に企業における採用活動のオンライン化が進み、2022年度実績では、採用動画の依頼件数および予算はコロナ前の3倍以上に増加しているという。採用ニーズの高まりを示すとともに、課題解決支援の動画あるいはコンテンツの重要性が増してきていることが数字にも表れている。現在は、大手企業や官公庁など、幅広い顧客層にサービスを提供している。

村田氏は、まず就活生の動画視聴に関する傾向について触れた。

「就活生を対象としたインターネット調査によると、7割の就活生が『採用動画を視聴して企業の志望度が高まった』と回答しています。また、9割が『採用動画はあったほうが良い』と感じています。YouTubeやSNSなどで企業の採用動画が視聴される機会が増えていることも、大きく影響しているのでしょう」

続いて、二つの傾向が紹介された。一つ目は「高画質・高音質に慣れている」という点だ。

「近年では、プロでなくてもクオリティの高い動画を作れるため、画質や音質が悪いだけでチープな印象を与えてしまいます。そのため、フルハイビジョン以上の解像度で動画を制作することが必要不可欠です」

二つ目は「短い尺・早いテンポに慣れている」という点だ。

「若者を中心に、短い時間でいかに効果や満足感を得られるかを表す『タイパ(Time Performance)』という言葉がよく聞かれるようになりました。実際に、就活生の間でも1分以内のショート動画が人気のようです。よほどのファンでない限り、10代・20代の方に10分以上の動画を最後まで視聴させるのは難しいのが現状です」

実際、有名企業がオフラインで実施した90分間の会社説明会の様子をそのまま動画化したところ、最初の5分間で約7割の就活生が離脱していたことがデータ分析によって明らかになったという。リアルの体験と動画視聴は全くの別物だと捉えほうがよい。ただ、短い動画でもテンポが悪いと長く感じられてしまうため、離脱の要因になってしまうという。

「ゆったりとした語り口調や画面切り替えは、丁寧な印象は伝わるものの、素早く情報収集をしたい現代の就活生には大きなストレスを与えてしまいます。就活生に好まれるYouTuberやインフルエンサーは、間延びを防ぐため、編集で徹底的に冗長な場面を削っています。テンポよく映像やナレーション、出演者の話を展開することが動画制作のポイントです」

メッセージを効果的に伝えるための四つのポイント

就活生の動画視聴に関する傾向をふまえて、企業が効果的にメッセージを伝えるためにどうすればよいのか。村田氏は、四つのポイントを解説した。

1.就活生にとって「頭を使わなくても」理解できる内容にする

わかりづらい表現や単語は、聞き手にとって脳内で情報処理を行う負荷がかかりやすい。とくに、就活生になじみのない横文字のビジネス用語や業界の専門用語には注意が必要だ。村田氏は例として「ソリューション」なら「課題解決」、「サステナブル」なら「持続可能な」への言い換えを推奨している。

「何度も読み返す機会のある採用サイト上の文面とは異なり、動画は基本的にあまり見返されることがありません。そのため、初見で理解できる言葉に置き換えて伝える必要があります。また、理解しやすい内容にするには、情報の絞り込みも重要です。覚えきれないような情報量は記憶に残らず、逆効果です。自社の魅力をあれもこれもと伝えたくなりますが、本当に届けたい情報を取捨選択することが重要です」

2.第一に「WHY=なぜ」を語る

マーケティングコンサルタントであるサイモン・シネック氏が2009年に提唱した「ゴールデンサークル理論」によると、「WHY→HOW→WHAT」の順で伝えると共感を生みやすいという。

WHY・・・なぜ(使命、目的、存在意義)
HOW・・・どのように(「なぜ」を実現するための手段)
WHAT・・・何を(提供する商材・価値)

しかし、多くの企業は自社が何をしているか、つまり「WHAT」から語り始めてしまう。

「WHYを最初に語らないと、就活生に自社の存在意義や目指す姿が伝わりません。WHYを文頭で明確に示し、HOWとWHATで企業の取り組みと提供製品がもたらす価値を具体的に示すことが大事です。そうすると、他社と差別化された、効果的なメッセージに生まれ変わります」

3.ネガティブに捉えられがちな要素を先回りして払拭する

「企業が隠したくなるような欠点やデメリットを、あえてさらけ出すことで共感を生み出せる」と村田氏は言う。その際、伝える順番も重要で、最初に良い内容、次に欠点、最後に再び良い内容で締めくくる流れが効果的だ。

残業時間がどのくらい発生するのか、全国転勤の有無やキャリアパスなど、就活生が気にする事項を先に提示することで、企業への信頼向上も見込める。

「良いことしか言わないセールストークは、ついつい疑ってしまいますよね。それと同じで、企業の良い面だけをアピールしていては就活生からの共感が得られません。デメリットに見えることにこそ、企業の本当の魅力が隠れているものです」

4.戦略的なワンメッセージを伝えることに集中する

採用動画は、企業の認知度向上やミッション・ビジョン・バリューおよび事業の理解促進など、さまざまな活用目的が想定される。しかし最終的なゴールは、何よりも「ワンメッセージを就活生の心に刻み、行動を促すこと」にある、と村田氏は語る。

「人は、情報量の多さでは感動しません。『これだけは共感してほしい』『これだけは覚えておいてほしい』という戦略的なワンメッセージをしっかりと立てることが重要です。そのメッセージを軸として動画の内容を構成することをおすすめします」

講演写真

事例から見る、採用動画制作の全体像とコツ

ここからは、カーネマンで過去に制作された採用動画の事例を通じて、動画制作の具体的な流れやノウハウが解説された。支援先として紹介されたのは、多くの国内大手法人に導入されている統合人事システム「COMPANY」の開発会社、株式会社Works Human Intelligence(以下、WHI)だ。

同社は、就活生にはややなじみの薄い、「統合人事システム」というBtoB領域の事業を展開していることもあり「企業や事業に対する理解度をより深めたい」との課題意識を抱えていた。そこでカーネマンが支援に入り、採用課題を解消するため、企業の全体像を伝える内容からオフィスを紹介する内容まで、6種類のテーマに沿った11本の動画制作に携わった。

採用動画がどのように作られていったのか、村田氏が順を追って解説した。「まずは、いきなり制作に入るのではなく、念入りな事前打ち合わせが重要です」と語る。ここまで語られた就活生の動画視聴に関する傾向や、メッセージを効果的に伝えるための四つのポイントをWHIに伝え、動画制作に入る前に基本の考え方について理解を深めてもらうプロセスだ。

「これら重要なポイントをしっかりと把握することで、目的に沿った採用動画を制作できます。反対に、基本が押さえられていないと、依頼主と制作側との意思疎通が困難になり、就活生の傾向を無視した自己満足の内容となってしまうので注意が必要です」

依頼主に動画制作の基本を理解してもらった後は、制作側のインプット時間も設けている。具体的には、企業のミッション・ビジョン・バリュー、主力事業の概要、競合優位性、企業文化、募集職種と求める人物像、福利厚生・制度について知るための勉強会を実施した。

「WHI様には、自社の強みや求める人物像などをしっかりと説明していただきました。制作側も、熱量が高くメッセージが伝わりやすい動画制作のため、企業理解に努めています」

魅力的な動画制作に欠かせない、社内のさまざまな役職・部署との協働

双方の情報共有ができたら、次のステップではスケジュールを設定する。動画の出演者は経営層や他部署の社員も多いため、密なスケジュール共有やタスク管理などの連携が重要だ。

「動画の内容をチェックしていく人員が多い場合は、リスケジュールも想定されます。あらかじめ納期に余裕を持たせてマイルストーンを設定することをおすすめします。関係者への共有を怠ってしまうと連携がうまくいかなくなるため、注意が必要です。WHI様では、あらかじめ経営層の方々に動画の構成をお伝えしたうえで、中間報告の機会も設けられていたため、スムーズな進行を実現できました」

また、効果的な動画を制作するポイントとして、村田氏からは「人選を人事部だけで決めない」点もあげられた。各部門長や経営層にもヒアリングを行い、動画の目的に沿った出演者をピックアップしてもらうといいそうだ。在籍している社員のエンゲージメント向上も期待できる。

「人事部内では思いつかなかった人選ができるだけでなく、動画制作をきっかけに社内の交流が生まれるのも大きなメリットです。関係者間のコミュニケーション機会を創出できるのは、採用動画制作ならではと言えます」

合わせて、撮影場所をできるだけ多く確保しておくことも魅力的な動画制作につながるという。

「人を魅了する映画や舞台では、背景や場面設定が次々に切り替わり、観客を飽きさせません。採用動画の中でも、撮影場所や出演者の動きに変化をつけることで、臨場感が生まれ、引き込まれる動画視聴につながります。実際にWHI様では、さまざまな会議室や執務スペース、ビルのエントランスなど、10ヵ所以上の撮影場所を用意していただきました」

次は、構成を固めすぎないこと。カーネマンでは、映像イメージについて詳細に記載する「絵コンテ」ではなく、要点だけ押さえた「字コンテ」の作成を推奨している。

「一般的な動画制作では、どのような映像を撮るか、社員に何を話してもらうのかなど、しっかりと台本が作り込まれています。しかし、イメージを固定してしまうと、動画の編集段階で『他のパターンの映像やコメントを挿入するのがよさそうだ』と感じても、追加することができません。表現の柔軟性を高め、動画の最終的なクオリティを向上させるためにも、ある程度イレギュラーを想定しつつ、大まかなイメージだけ押さえておくといいでしょう」

村田氏は「撮影の際に出演者の台本丸覚えやカンペ読みは避けてほしい」とも語った。社員が台本やカンペを一言一句間違えないようにしようという意識が強く働き、その結果「棒読み」になってしまうからだ。事前に作った台本のテキストがどれだけ素晴らしい内容になっていても、棒読みではメッセージの効力が大きく損なわれてしまう。社員や会社の魅力も伝わりづらくなってしまうので、注意が必要だ。

自然かつ魅力的なコメントを引き出すために、カーネマンでは聞き手を交えた会話形式で撮影を行うことを提案している。

「採用動画に出演する方々の中には、社長をはじめ話し慣れている方もいれば、話すのが苦手だという方もいますが、会話形式で問いかければ、誰もが自分自身の言葉で話すことができます」

講演写真

最後に、村田氏による総括で講演は締めくくられた。

「就活生の目線に立って、短く伝わりやすい内容で伝えること、そしてWHYを語ること。社内のさまざまな役職・部署を巻き込みながら、魅力的な動画制作のための構成や撮影に望んでください」

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