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NTTデータの「共創型OJT」に学ぶ
経験学習を促し若手社員が自ら動き出す振り返りとは?

  • 矢野 忠則氏(株式会社NTTデータ 法人事業推進部 企画部 HR担当 シニア・スペシャリスト)
  • 後藤 正樹氏(株式会社コードタクト 代表取締役社長)
特別講演 [M-6]2023.12.21 掲載
株式会社コードタクト講演写真

自律人材の育成が重要視される中、NTTデータ法人部門では、新入社員同士で編成したチームに大きな仕事を任せ、主体的な学びを促進する「共創型OJT」を開始した。入社直後に強烈な経験をするこの施策では、学びを最大化させる「振り返り」が重要なポイントとなる。本講演では、育成担当の矢野氏が「HRアワード2023」企業人事部門優秀賞を受賞した「共創型OJT」を基に、主体性を育む若手育成施策設計のポイントについて語った。

プロフィール
矢野 忠則氏(株式会社NTTデータ 法人事業推進部 企画部 HR担当 シニア・スペシャリスト)
矢野 忠則 プロフィール写真

(やの ただのり)新卒でNTTデータに入社し、金融系SEや新規事業開発を経験。2006年よりコーポレート人事で人材育成業務に従事。2015年よりITサービス・ペイメント事業本部の部門人事として人事業務全般を担当している。


後藤 正樹氏(株式会社コードタクト 代表取締役社長)
後藤 正樹 プロフィール写真

(ごとう まさき)大手予備校にて物理科講師、サイボウズ、教育系企業でのCTOを経て、現在、株式会社コードタクト代表取締役、株式会社スタディラボ取締役、東京理科大学非常勤講師、デジタル庁非常勤国家公務員。また、オーケストラ指揮者としても活動している。


株式会社コードタクトは、【「学び」を革新し、誰もが自由に生きる世界を創る】というミッションを掲げている。最先端のICTを活用し、誰もが自分のやりたいこと・得意なことを発見し、主体的に成長できる環境を創っていくという。誰もが自由に生きられる世界の実現のため「学び」を革新しているのだ。

同社の『チームタクト(TeamTakt)』は、企業向けのジョブトレーニング支援クラウドだ。オンラインでのOFF-JT(研修)やOJTを効果的にサポート。学び合いを通して、セルフマネジメントできる人材を増やすことを目的としている。IT業界や商社をはじめ、多くの業界・業種の人材育成や組織育成に採用された実績を持つ。

同社のビジョンは【個の力をみんなで高め合う「学びの場」を創る】。社会課題が多様化して複雑化する現代に必要とされる能力は、多面的な視点や 興味・関心をもって、主体的に才能を磨くこと。 そして、さまざまな価値観の人たちと交わりながら、物事を進めていくことだと同社は考えている。こうした能力を身につけるために欠かせないのは協働学習(みんなで学び合う)だ。 同社は個の力をお互いに高め合う「学びの場」を創造している。

従来の徒弟制OJTによる課題を解消するために「共創型OJT」の取り組みを始めた

講演ではまず、NTTデータの矢野氏が、共創型OJTに取り組んだ背景を話した。

「私が人材育成に従事しはじめたのはネット系のベンチャー企業が増えてきたころでした。ベンチャー企業では若い世代に新しい会社を任せたり、若手が新たなサービスを立ち上げたり、非常にいきいきと活躍していました。一方、当社はプロジェクトマネージャーとして一人前になるのに10年ほどかかる。当時のOJTは、新人一人に対して先輩社員一人がトレーナーとしてつく徒弟制度型でした。この仕組みをアップデートする必要があるのではと考えました」

講演写真

徒弟制度型OJTでは、先輩社員が方法を細かく教えるため、新人が創意工夫をする機会がなかった。同じような人材ばかりが育つことになり、DX領域のように、上司や先輩が必ずしも正解を知らない領域で活躍する人材の育成に向いていないと矢野氏は考えた。

他にも、徒弟制度型OJTにはいくつかの課題があった。一つは、新人に「教わる立場」が固定化され、受け身になってしまうこと。自分で道を切り開く、学習していく姿勢を育みにくい。

二つ目は、自分の仕事が顧客や社会に与える意味やインパクトを感じづらいこと。先輩社員が一つの仕事を細かいタスクに分解して新人に渡すため、仕事の全体像を想像し、意義を感じることが難しくなるのだ。

三つ目は、コロナ禍を経たオンラインワークの定着による弊害だ。別々の場所で働いていると、新人が先輩社員の様子を見て学習すること、逆に先輩社員が指導することが難しくなった。

四つ目は、キャリア自律の難しさだ。当時は、ファーストキャリアを会社側が決め、同じ部署で3~5年働いていた。これでは、新人はキャリア自律の意識を醸成しにくい。

こうした課題を払拭し、人材育成のスピードを上げていくため、2020年から取り組んだのが「共創型OJT」だ。

「共創型OJTでは、新入社員だけのチームを組成し、チームに大きなミッションを与えます。ミッションを達成するために必要な知識やスキルは、適宜自分たちで自主学習。先輩や上司はマイクロマネジメントをせず、新人に任せます」

講演写真

共創型OJTの効果と、実際の取り組み例

取り組みを始めた2020年は、一部組織の新入社員60名のうち、30名に共創型OJTを取り入れ、他の30名は従来の徒弟型OJTを実施。いわゆるA・Bテストの形式を取った。

「結果として、共創型OJTのほうが育成に優位だという結果が出ました。当時はちょうど新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期で、当社にもリモートワークが浸透していきました。新入社員60名のうち3割ほどがコミュニケーション上の問題を抱えてしまったのですが、そのすべてが徒弟型OJTの新入社員でした。この結果を踏まえ、2021年には対象組織の新入社員すべてを共創型OJTに切り替え、2023年からは対象組織を拡大して100名超の新入社員に適用しています」

具体的なプログラムは二つある。一つは、アジャイル開発エンジニアやサービスをデザインできるDX人材を育成する「デジタル特区」。もう一つは、自律型人材の育成とキャリア自立の意識醸成を目的にした「本部内インターンシップ」だ。

「本部内インターンシップは、6月1日から翌年3月31日までを三つの期間に分け、三つの組織をローテーションで経験し、さまざまな顧客や先輩、組織風土に触れます。新人はインターンシップが終わるまでに、どのような仕事がしたいのかを考えて、人事はその希望を踏まえて配属します」

取り組む仕事は、顧客理解・チームワーク・主体性の観点で、新入社員が成長できるようにデザインしている。具体的な例として、矢野氏は「CATCH&GOストア」の取り組みを紹介した。

「本社の食堂の一角に、ダイエーさんに協力いただいてレジのない無人コンビニをオープンしました。新入社員にはオープン前の準備から携わってもらいました」

この店舗は天井に多数のカメラ、棚には重量センサーがあり、来店者がどの商品を手に取り、どこにいるのかをトラッキングするシステムになっている。

新入社員たちは、店舗運営に必要な部品の組み立てや動作確認、運営マニュアルやPOPの作成などを担当。プレスリリースを出してメディアからの取材対応も行うなど、プロジェクトに関わる一連の仕事を経験した。

「ビジネスパーソンが成長する要因の70%は、仕事の経験による学びと言われています。経験して振り返りを行い、そこから教訓を引き出す。そして、教訓を違う場面で実践する。この経験学習サイクルをいかに良質な形で回していくかが重要です」

経験学習サイクルを回すためには、顧客理解・チームワーク・主体性の三つの観点から自分たちの行動を振り返ることが必要だ。うまくできた場面・うまくできなかった場面それぞれについて、なぜそうなったのか、どのような心理状態だったのかを振り返る。

「言語化した教訓は、チームメンバーと共有して学び合います。他者の教訓で自分が生かせそうだと思ったものは、翌月に自分で試す。ジョブトレーニング支援クラウド『チームタクト(TeamTakt)』を活用して、このサイクルを促進しました」

目標管理には、OKRも活用している。GoogleやMetaなどシリコンバレーの有名企業などが導入している仕組みだ。

「週次で、OKRで描いた高い目標にマッチした活動ができているかを振り返ります。マッチしていなければ、目標もしくは活動内容を見直します」

共創型OJTは基本的に新入社員にすべてを任せているが、HR担当が通年でフォローを行っているほか、受け入れ組織の先輩社員にも必要に応じたサポートを依頼している。共創型OJTを実行するのに重要な点を矢野氏は次のように語った。

「新入社員を初心者ではなく、私たちにない価値観をもった人材として扱うことです。正解は必ずしも私たちが持っているわけではありません。実際に、新入社員の企画が顧客に響いたこともあります。新入社員の育成は会社の大事な投資活動であり、将来役に立つ経験をさせることが大事だと考えています。チームで育成することでメンバー同士が高め合い、健全な競争意識をもって取り組んでくれた点も非常によかったと思います」

振り返りの促進に役立つ『チームタクト』

次に、ジョブトレーニング支援クラウド『チームタクト』を提供するコードタクトの後藤氏が、教育心理学の点から共創型OJTについて語った。

「ジマーマンの『自己調整学習』という自律型人材を育成するためのフレームがあります。何かを覚えるときに、書くのか、聞くのか、読むのかといった学習方略(学習方法)を自分で考える。そして、振り返りによって自分を客観的に見る。それが自律的な人材です。この仕組みを私たちは『チームタクト』で実現しようと考えています。

共創型OJTの特徴として、仕事の進め方が自由であることがあります。裁量が大きい仕事の中で自己選択・決定ができることで、新人の動機づけが高まります。学習方略そのものがOJT自体に組み込まれているところが優れた点です」

講演写真

矢野氏の話にあった教訓化については、次のようなワークシートが用いられた。成長目標に、顧客理解・チームワーク・主体性のいずれの軸を選択したかを記載し、背景・経験・評価・要因・学びという軸で内省を行う。ワークシートは、プログラム終了後取り組み全体の総括として冊子を作成し配布したという。

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『チームタクト』は一覧性に優れ、回答を共有しやすいツールだ。また、「いいね」やコメントの機能があり、記述の傾向やよく閲覧されている回答などが一目でわかる。

「直近では、新たな機能として、振り返りの文章をAIが分析する機能をつけました。振り返りに必要な事実、感想、要因の考察、仮説の検証・結論の要素がどのくらい盛り込まれているかが数値でわかります。足りない要素が見えやすくなるなど、より深い振り返りを支援します」

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共創型OJTに対する質疑応答

後藤:ここからは、参加者からの質問に答えていきます。まず、共創型OJTの取り組みで、特に大変だったことは何でしょうか。

矢野:特に最初の1、2年は現場組織のマネージャーの理解を得ることに苦労しました。

また、共創型OJTを経験した新入社員にインタビューをしたところ、「成長実感のあるエキサイティングな1年だったが、実際に何ができるようになったかわからない」という声も聞かれました。従来の徒弟制度OJTは、議事録の書き方、名刺交換の方法など現場の型を覚える機会が多く、何ができるようになったかわかりやすいのです。一方、共創型OJTは試行錯誤しながら型を作っていくため、何ができるようになったかが明確ではありません。

この話を受けて、「できるようになったことを言語化するサポートが必要だ」と考え、経験学習サイクルに着目したワークショップを始めました。

後藤:動機付けにつながるタスクの選び方について、ポイントがあれば教えてください。

矢野:Z世代の特徴は、顧客や社会に対して意味や意義の感じられる仕事をしたいという意識が高いことです。そのため、顧客との接点がより多い仕事の方がモチベートされやすい傾向があります。

例えば、新入社員に某コンビニエンスストア向けの新サービスを企画するというお題を出しました。プレゼンテーション相手は先輩社員や管理職です。しかし、新入社員のやる気がなかなか見られませんでした。新人の話を聞きに行ったところ、「なぜ顧客に直接提案をさせてもらえないのでしょうか」と言われました。そこで、実際に顧客の声を聞いたり、提案したりできるように調整したところ、モチベーションが上がったという事例もありました。

また、人事は3ヵ月や4ヵ月など期間を区切ってプログラムを実施しますが、新入社員たちはその期間で完了できそうなサイズを意識したテーマ設定はしませんでした。新人のインターンシップを受け入れる現場組織には、彼らがモチベートされる大きなミッションを与えてほしいと依頼しています。期間内にどのようなチャレンジができそうか、新入社員自身に考えさせています。

後藤:本日は素晴らしいお話をありがとうございました。

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