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360度フィードバックで解決する納得感のある人事評価制度運用

  • 深井 幹雄氏(株式会社シーベース 代表取締役)
特別講演 [S-4]2023.12.21 掲載
株式会社シーベース講演写真

ワークスタイルが多様化する中、どのように人事評価をすべきかに悩む企業は少なくないだろう。「昇進昇格」「次世代リーダーの選抜」における評価の妥当性の担保や、「リモートワーク導入後の評価の納得感」「自社コンピテンシーやバリュー理解度の把握」といった課題を解決するうえでは、360度フィードバックが有効だという。本講演ではシーベースの深井氏が、納得感のある人事評価制度を運用するにあたり、360度フィードバックの活用方法について語った。

プロフィール
深井 幹雄氏(株式会社シーベース 代表取締役)
深井 幹雄 プロフィール写真

(ふかい よしお)1995年エン・ジャパン入社。執行役員として新卒サイト、派遣サイト、エージェントサイトの事業部長を経験。2017年シーベースの代表取締役に就任。年間100社を超える企業を訪問し、組織開発、人材開発の課題解決をサポートする。


企業が人事評価制度見直しに迫られる社会背景

シーベース(CBASE)は「フィードバックと対話で、すべての人と組織、社会をアップデートする」をミッションに掲げ、人材および組織開発を支援するHRクラウドサービスを提供している。2000年に設立し、日本の人事部「HRアワード2023」ではプロフェッショナル部門に入賞。AIテクノロジーを積極的に活用し、顧客の組織成長につながる仕組みづくりに尽力している。

シーベースでは大きく二つのサービスを展開している。「CBASE 360」は、大手企業をはじめとする1000社以上の導入実績を誇り、リピート率95%、年間回答人数約80万人以上が利用するクラウド型の360度評価システムだ。他者からの視点をもとに本人の課題をより具体化して把握し、改善につなげている。

「組織診断」は、多面的に組織コンディションの把握と改善策の支援を実現し、手軽に本格的なES調査(従業員満足度調査)を行えるシステムだ。企業が抱える課題はそれぞれ異なる。シーベースではこれらクラウドサービスを活用しながら企業に伴走し、現状の見える化、課題解決をサポートする。

講演の冒頭で深井氏は、人事評価制度運用を見直す企業が増えている理由を三つ挙げた。一つ目は「管理職の昇進昇格の妥当性」だ。課長層は会社と個人の都合を重ね合わせる重要な役割を担う。しかしリクルートマネジメントソリューションズの調査では、社員が「昇進昇格の要件が曖昧で納得できない」「管理職の質が低下している」と感じていることがわかった。

昇進昇格にあたり、それまでの「業績」を重視してきた企業は多いだろう。しかし米国の事例で「上司による評価」と「周囲からの360度評価」の関係を探ったところ、両者の相関が低いことが判明した。また、上司は「業績(結果)」を評価し、部下は「関係構築」を評価するなど、また評価者によってパフォーマンスを異なる視点で見ることが明らかになった。

「管理職の昇進昇格の妥当性を高めるため、評価には一定の客観性を持たせる必要があります。これまで見ていなかった関係構築面を評価するうえでの材料が、360度評価の活用により収集できるようになります」

二つ目は、「上司の見えてない仕事環境下での評価の納得感」だ。ADECCOグループが行った「人事評価制度に関する意識調査」によると、従業員の約6割が人事制度に不満を抱えている。特に近年ではテレワークが進み、個業化が進んでいる。従業員同士が直接接する機会が減り、プロセスのブラックボックス化が進み、共有できない状況になっている。

異なる時間、異なる場所で働いていると、人事評価の妥当性や納得感を高めることが難しい。ここでも、360度フィードバックによって、仲間からフィードバック収集を行うことが有効だ。

三つ目の理由は、「バリューの浸透」。現在は、変化が激しく、かつ、過去の常識が通用しない。そこで重要になるのは、自社が何を大切にしているかというバリューを浸透させていくことだ。

個人でアンケートに回答し、バリュー浸透度を図ることもできる。360度フィードバックを用いると、社員が相互にバリューに基づいた行動ができているかをフィードバックすることが可能になる。また、仲間を評価する中で、評価軸としてバリューをあらためて意識し、自らにも浸透させる機会にもなる。

360度フィードバックで自分を知り、成長へつなげる

ここからは、「人事評価」において、360度フィードバックがどのように活用できるのかを深井氏が解説した。

「まずは、上司が誰かを評価する際に、『上司では見えない部分』を補完する材料として活用することがポイントです。上司と部下では見えている世界が異なります。上司が見えていない部分を、部下の立場から見た情報を集めることで補完できる。それによって、評価の妥当性や納得感を高めるのです」

また、360度フィードバックで得られる情報は、仕事中の自分を知る鏡になる。職場での行動に対する本人と他者との認識のギャップが、成長へのヒントとなるのだ。上司以外の同僚や部下、後輩など、それぞれの主観的なフィードバックが多数集まることで、自分を映す鏡となる。

深井氏は、360度フィードバックは、あくまでもその人の「行動の癖へのフィードバック」であり、「能力評価」ではないと話す。

上司のフィードバック材料収集としての利用が浸透してきたら、第2段階として、ジョブアサインや異動配置にも活用の場を広げられる。例えば人材マップで人材の特徴をさまざまな観点で可視化することによって、よりその人の特徴を客観的に把握でき、参考材料になる。

【図】組織レイヤー:人材マップ

続いて、さらに具体的な例を引き合いに、人事評価における360度フィードバックの活用シーンを紹介した。人事評価での活用シーンは「評価面談の材料」「評価会議・登用検討の材料」の二つだ。

「まずは評価面談の材料として、結果レポートの内容をフィードバック面談に生かすこと。評価面談において重要なのは、妥当性と本人にとっての納得感です。本人のフィードバック結果の受け止めは、評価自体の本質的な受け止めにもつながります」

「CBASE 360」におけるフィードバックレポートの構成は、「総合結果」「強みと改善点-マトリクス分析」「設問別結果」「フリーコメント結果」となっている。

「360度フィードバックの結果を使うときに重要なのは、絶対値を比較するのではなく、回答者タイプごとに項目間の相対の関係を比較することです。例えば本人は強いと思っているが、他者からは改善点・弱いと思われている点。こうした差を見て、認識の違いが生まれる理由を考えます。開放の窓を広げる意識で、原因を考察していくことが重要です」

マトリクス分析ではさらに細かく、本人回答と他者回答の違いで気づいていない改善点や強みが明確になる。さらにフリーコメントを見ることで、他者から見た癖・特徴についてより具体的な行動を知るヒントを得られる。

「評価面談のポイントは、日常の行動、フィードバック、その後のリフレクション。上司が面談の中でしっかりとリフレクションのサポートをしていくことが重要です。まずは相手の気持ちをフォローし、対話で相互理解、前向きな取り組みへと期待を伝えて送り出す、面談ではこの三つのステップを踏むことです」

評価面談の目的は、実施の半年から約1年前の評価の決定、そして次の期間に対する目標設定にある。そのうえで建設的な気づきは重要であり、レポートを活用することで対話・受容・理解促進し、自分の中の納得度を高められるのだ。

次に深井氏は、「評価会議・登用の検討材料」として、360度フィードバックを活用する方法を紹介した。データを活用することで多面的な切り口で考察でき、人をいろんな角度で確認することが可能だ。

「評価会議において、先入観でバイアスが働いてしまう、複数人のマネジャー同士の会議で空中戦になることもあると思います。その際、一つのファクトとして360度フィードバックを活用できます。複数の目、複数の観点で、人の多様な側面を見ることができるからです」

360度フィードバックは多方面で活用可能

ただし、実際には、いきなり360度フィードバックを人事評価に使うと失敗を招くという。まずは個人の「人材開発」から始め、「組織開発」「評価材料」「パフォーマンスマネジメント」の順に、利用範囲を広げていく必要がある。

【図】360度フィードバックの活用発展のステップ

いきなり360度フィードバックを評価材料にした場合、「自分がつけた結果で相手の評価が悪くなったらどうしようか」などという不安から、相手への忖度(そんたく)が働く可能性がある。そのため、まずは人材開発で利用し、360度フィードバックが「一人ひとりの行動の癖を表すものであり、気づきを得るために実施するもの」という理解を浸透させる。そのうえで、組織開発や人事評価での運用を始めることで、率直で建設的なフィードバックが得やすくなるのだ。

深井氏は、各ステップの具体的な事例を取り上げた。

「『個人の開発・組織の開発』の事例として、T社を紹介します。同社では管理職に対して年1回、360度フィードバックを実施。管理職の能力開発、バリュー・理念がどれくらい職場で浸透しているか確認することが目的です。結果は、上司との面談でフィードバックしますが、評価とは切り離して、あくまで本人の能力開発のために活用されています」

次のステップである「人材開発と評価」では、2社を紹介。B社は、リーダーシップ要件の浸透を図り、昇進・降格の参考材料にするため、管理職全員に年1回の360度フィードバックを実施。結果は本人と上司の面談で活用するが、管理職登用の会議でもデータを活用している。

U社では全社員に対し年2回実施。バリューに基づく行動がとれているかを人事評価で判断するためだ。バリュー別にコメントを集め、バリューがどれくらい体現できるようになってきているかを上司との面談を通してすり合わせ。結果を評価に反映させていき、活用している。

続いて、最終段階の「パフォーマンス評価」で活用している例を2社取り上げた。

「よりダイレクトに人事評価に活用している事例として、M社でのパフォーマンス評価への活用があります。給与、昇降級を、全て360度フィードバックの結果で決定。MBOも実施していますが、そちらは賞与に反映されています。評価がぶれないよう、直属の上司の評価結果を7割、周囲からの評価を3割のウエートで反映。評価者の違いによる不公平感の解消につなげています」

次に、IT系企業のMBOで360度フィードバックを使用しているG社の例を紹介した。

「システム開発は一人でできる仕事ではありません。仲間との協業があってこそ、進められます。周囲からの信頼が大切だと社員に意識してもらうため、100点満点のうち5点分だけ、360度フィードバックの結果を反映させているのです。評価はメッセージという側面も多分にあります。G社のような活用方法も一つの手段です」

最後に、参加者からの質問に深井氏が回答した。

最初に「360度フィードバックを人事評価に直接反映させているのですか、それとも参考材料にするのでしょうか」という質問に対して「ダイレクトに反映させている企業、参考材料にしている企業、どちらもある」答えた。

「私たちは年間で200~300案件に携わっていますが、ダイレクトに反映させている企業は全体の5%程度です。一方で評価面談のときの参考材料、登用の際の参考材料にしている企業が約7割あります」

評価の頻度に関連した質問もあった。「年2回評価だった場合、初期の導入初期から定着期までどれくらいの期間を見ればよいか」というものだ。

360度フィードバックでは、回答者側が主観的にフィードバックをすることもあるため、初期は点数にブレが出ることがある。深井氏によれば、点数が安定してくるまでには、3回程度の評価経験が必要になる。評価が年2回の企業であれば、評価面談を着実に実施することを前提に、1年ほどで定着し、回答の妥当性も上がってくることが予想される。

最後に、「リモート勤務だと、協業者をブラックボックス化して正しいフィードバックができないのではないでしょうか。また、ある程度、規模が大きい組織でないと意味がないのでしょうか」という質問を取り上げた。シーベースがまさに、フルリモートで、規模の小さい企業であるという。

「実はシーベースは現在約50人の規模で、フルリモートです。当社でも、上司だけで評価を決めるには本当に材料が足りないと痛感しています。社員一人ひとりに対して、伸びている部分や頑張っている部分を伝えたいのに、材料がない。そこで360度フィードバックが非常に役立っています。フルリモートでも中小企業でも、活用できます。フルリモートでも中小企業でも活用できますので、ご興味がございましたら、当社にご連絡ください。」

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