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日立のグリーン事業をけん引するグローバル人財の育成施策
~グローバルリーダーをめざして~

  • 狩野 智之氏(株式会社日立アカデミー ビジネスパートナリング本部 グリーンエナジー&モビリティBP部長)
特別講演 [D-5]2023.12.21 掲載
株式会社EdulinX講演写真

日立製作所のグリーンエナジー部門では、事業をリードしていくグローバルな人財の育成に取り組んでいる。Off-JTは、日立グループのコーポレートユニバーシティである日立アカデミーで企画・実施されているが、各プログラムにおいては「グローバル」をどのように捉え、どのような工夫を施して受講者の学びの最大化を測っているのだろうか。約20年にわたる人財開発の経験を持つ、日立アカデミーのビジネスパートナリング本部部長・狩野氏が、各研修のコンセプトから進め方まで、英語力、グローバルビジネススキルなどの主な研修内容も紹介しながら、詳細を解説した。

プロフィール
狩野 智之氏(株式会社日立アカデミー ビジネスパートナリング本部 グリーンエナジー&モビリティBP部長)
狩野 智之 プロフィール写真

(かりの ともゆき)日立製作所の技術者を経て、2004年から日立グループのコーポレートユニバーシティ(現. 日立アカデミー)にて研修開発、事業企画、グローバル施策(経営研修世界展開、世界標準システム導入)等の特命業務、事業・機能部門個別の人財育成支援に携わる。現在、グリーンエナジー&モビリティセクタの人財育成を推進中。


人財育成を進める背景・体制・テーマ

本講演の協賛企業であるEdulinX (エデュリンクス)は、新入社員からマネージメント層まで、幅広い階層に対して、グローバル人材育成に関する研修や教育ソリューションを提供している。2001年に創設以来、1200を超える企業や教育機関のグローバル人材開発を支援し続けてきた。

柱となっているのは「Reallyenglish(英語に特化したeラーニングプラットフォーム)」「Prospera Training Solutions(専門領域のスキル向上に特化された教育ソリューション)」という二つのブランドだ。これらを通じて、英語学習のeラーニングコース群から、専門性の高いビジネススキルや特定の知識習得に役立つコース群まで、グローバル人材育成に関するトータルソリューションを提案。最先端のeラーニングシステムとLMS(Learning Management System)や、オンラインのライブレッスン、従来型の対面授業も含め、さまざまな形態のコースがそろう。

さらに、eラーニングや人材開発分野における世界のリーディングカンパニーとのパートナーシップを急速・果敢に拡大・強化し、あらゆるステージ・レベルの研修・学習ニーズを満たす、幅広いオンラインソリューションを提供する体制強化を進めている。日立アカデミーにも、「Reallyenglish」のTOEIC対策プログラムを提供している。

本講演で事例を紹介した日立アカデミーは、日立製作所の100パーセント子会社である。日立グループのコーポレートユニバーシティとしてグループの成長を人財育成面から支えている。本社のある東京・上野のほか、全国各地に拠点を構えており、従業員は約500名。研修受講者数は年間約14万6000人に及ぶ。

主な研修分野は、デジタルトランスフォーメーション研修、IT研修、OT(Operational Technology)研修、ビジネススキル研修、経営研修。全方位の企業教育を研修領域としており、主催する研修数は約1300に上る。その他、グループ内の各事業体向けに約1200のプログラムもコーディネートすると同時に、グループ以外にも約600のコースを提供している。

ミッションは「高度な専門性を生かし、日立のコーポレートカルチャーの浸透と優れた人財の育成を通じて社会に貢献する」、ビジョンは「人がつながり、学びが触発されるワールドクラスの知の拠点となる」。「IT×OT×プロダクト」といったグループの強みを最大限に活かして、社会課題の解決をリードできる人財の育成を進めている。

「日立は、デジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズの領域で、社会イノベーション事業を推進しています。本日は私が担当している、グリーンエナジー&モビリティ領域の中のエネルギーソリューション事業を担当する人財向けの教育についてお話しします」

狩野氏はまず、人財育成施策の背景となる三つの状況を掲げた。「経営環境の複雑さの加速」「インフラ事業におけるボーダレスな生存競争の高まり」「デジタル技術の進歩による新たな価値創造の機会」。これらを踏まえると、今後の人財には、従来の枠組みを超えてグローバルに協創・競争できること、また、グローバルに通用する働き方が求められる。グローバルなステークホルダーへの説明責任もあり、勘・経験・度胸に頼りすぎないマネジメントやリスク管理の必要性も高い。特にモノカルチャー、ハイコンテクストな文化に育った日本の人財に対しては、一般論・抽象論では認知が深まらないため、事業のコンテクストに沿った実践的な取り組みが望ましい。

「そこで、幹部・上司・HR部門と連携しながら、OJTと連動させた多様なOff-JTを重視しています。まずグローバルの考え方を定義した上で、それに基づくさまざまなOff-JT施策が人財開発システムの一部として有機的に機能するように位置づけると共に、各Off-JTでの受講者の学びを最大化するように工夫を施しました。

よって、日立製作所のエネルギー人財本部とは、人財施策ごと、ビジネスユニットごとに常に連携しながら教育施策を進めています。さらに、日立アカデミー内にあるそれぞれの研修領域の専門家とも、案件ごと、課題ごとに連携しています」

グローバルにビジネスを推進する選抜人財向けの教育は、「グローバルを三つの区分に分けて育成施策を構成している。(1)「グローバル共通言語としての英語力、および英語によるビジネス遂行スキル」、(2)「グローバル共通に経営マネジメントするための経営用語を使って事業を語る能力」、(3)「グローバルなビジネスリーダー/エグゼクティブに求められる環境課題・社会課題を解決しサスティナブルな経営を実現するマインドセットとその土台となる洞察力、ダイバーシティマネジメント力、リベラルアーツ」。(1)から(3)の順でプログラムの実践レベルおよび選抜レベルも高まる。

講演写真

レベル・コースに分け、随時見直し更新

「グローバルの三つの区分ごとに行なっている研修の中から、いくつかを紹介します。

まずはEdulinXさんの「Reallyenglish」というTOEIC対策講座です。『650点突破コース』『800点突破コース』を設定しています。基本的にeラーニングによる個人学習がメインのコンテンツですが、成果把握のためにIPテストを事前・中間・事後に実施し、カリスマ講師に直接質問ができるセミナーも実施しています。

キーとなるのは「Study Together」という取り組みです。受講者をグループに分けて、1、2週間に1回以上のチームミーティングを自主的に行ってもらい、グループ間の競争とグループ内の協力を促す仕組みです。事前イベントでグローバル成長のマインドセットをし、事後イベントで学びの振り返りと実務で英語を使えるようになるための継続学習の計画を立案、発表することでコミットメントしてもらいます。

初年度に学習の中だるみが見られたため、EdulinXさんに対策を相談のうえ、中間イベントを追加し、グループごとに前半の振り返りと後半に向けた対策を検討してもらいました。また成果が出ている受講者にヒーローインタビューをして学習の工夫や学習時間づくりのノウハウを共有してもらうことで、やる気を他の受講者に伝搬してもらうようにしました」

導入して4年目になるが、受講者のスコアの伸びは著しく、狩野氏も驚いたほどだという。

「グローバルビジネススキル研修は、英語を使ったコミュニケーションの研修です。スピーキング、テクニカルイングリッシュ、テクニカルライティング、ビジネスプロポーザル(提案力向上)、プレゼンテーション上級編、ミーティング・ネゴシエーション上級編、ミーティング・ファシリテーション上級編、グローバル対話力強化、という、8つのコースを実施しています。外国人講師による研修前後の評価によって各受講者の成果を把握し、そこから新たに見つかった課題に応じて、翌年度以降のメニューを更新しています」

CMPE (Case Method Programs for Energy)というプログラムでは、「ケース・メソッド」という教授法を活用して、経営リーダーになる模擬訓練を行っている。選抜の早い段階から、模擬的に経営リーダーに求められる能力を発揮する場を提供。経営リーダーに求められる能力を発揮させるには年数がかかるため、クラスルームという安全な場で鍛錬を重ねる狙いがある。汎用ケースで思考力を鍛えたうえで、実際の事業をケースとして、討議の質を実践レベルに高めていく。各受講者たちのパフォーマンス発揮状況をチェックしたり、発揮できない阻害要因を考えたり、講師と話し合いながら、内容を逐次ブラッシュアップしているという。

受講者の評価アンケートによると、回数を重ねるほど、経営リーダーの視点へと目線が上がってきたという回答が増加している。

「次は、ELP シリーズ (Energy Leadership Programs)という選抜レベルが高い人財を対象にしている研修です。グループ共通の経営研修を補完するもので、グリーンエナジー事業のコンテクストで、個にフォーカスし、経営リーダーに求められる能力をより実践的に発揮する継続訓練の場として3ステップを設定しました。

ELP1は、特定のコンピテンシーにフォーカスして強化を図るものです。プログラム期間中は社外講師との1on1と並行して育成責任者である経営幹部との1on1を行い、OJTとの連動を図っています。

ELP2は、経営リーダーに求められるコンピテンシーの総合発揮の場として提供しています。講師は、上場企業の社外取締役もされているリーダーシップ開発の専門家です。受講者には経営者の立場で、社外取締役やグローバルなステークホルダーと対話する訓練をしてもらいます。

ELP-ALは、ELP2のアルムナイが集い、相互啓発しながら経営リーダーに求められるコンピテンシーを継続的に発揮する場です」

ELP受講者のアンケート結果は、5段階評価でほぼ満点。講師からは、終了後に受講者一人ひとりについての所感をタレントマネジメントチームにフィードバックしてもらい、OJT施策を検討するための参考情報として活用している、と狩野氏は語る。

「このようにして、経営幹部・上司・事業ラインのHR、および講師と連携することで『人財開発システムの一部として機能するための工夫』、『受講者の学びや気づきを最大化するための工夫』を、各Off-JT施策に組み込んでいます」

自律的に選択できる学びのスタイルが望ましい

最後に、本講演の協賛企業であるEdulinXの登坂氏が進行役となり、質疑応答コーナーが設けられた。

登坂:視聴者から、「受講者数を増やすための取り組みを何かされていますか」という質問が届いていますが、いかがですか。

狩野:ご紹介したグリーンエナジー事業での成功事例を、他のビジネスユニットやグループ会社を担当している弊社の同僚に共有しています。また弊社の語学研修部門とも連携していて、グループ内に展開しやすくしています。

登坂:狩野さんは、今までにも数多く研修を設計されてきて、対象者やテーマもさまざまだったかと思いますが、部署のカラーといった部分も研修設計の際に重視していますか。

狩野:かなり考慮しています。事業特性が違いますし、過去の教育にも濃淡がありますから、人財の能力も異なります。それぞれの弱い面、強化したい面などを経営幹部やHRと話しながら設計をしています。この方が、実際の成果にも繋がりやすいと思っています。

登坂:視聴者から「TOEIC以外のスコア基準はありますか」という質問があります。他にあれば教えてください。

狩野:現在グループでオフィシャルな基準があるものはTOEICだけですが、事業体や教育部門の中で話していて必要性を感じるのはスピーキング力です。しかもグローバルにビジネスをリードできる経営リーダーには人々の共感を呼ぶ英語を話してもらう必要があると考えていますので、スピーキング力以外の基準も必要かもしれません。

講演写真

登坂:「日頃は語学を業務で使用しない社員も含めた、全体の語学力底上げの工夫などお聞かせください」という質問にアドバイスをお願いします。

狩野:グループ会社全体を見渡すと、海外に出ていない事業もあります。ただ、日立グループはジョブ型人財マネジメントの導入を進めていますから、自分を磨いていればグループグローバルのさまざまなポジションにチャレンジできる可能性があり、上司や部下に日本人以外がやって来る可能性もあるわけです。もう少し言うなら、国内事業を担当していても、自分自身のキャリア構築のため、組織の成長のために「グローバルな視点」を持つことは重要です。語学はそのきっかけにもなるのです。このような話も交えて、従業員に対する語学習得への意識付けに取り組んでいます。

登坂:語学だけでも多様な学習ツールがあります。研修にもよると思いますが、選定のポイントは何かありますか。

狩野:ジョブ型の推進には、従業員が自らキャリアを構築していくマインドセットが欠かせませんから、従業員が「自らコンテンツを選んで」学べる環境を会社が準備しておくことはポイントになります。日立ではLXP(Learning Experience Platform)を導入しています。

会社が対象に応じて効果的な教育を選んで付与できるようにしておくこともポイントです。日立アカデミーでは語学研修チームを中心に評価しながら、さまざまな語学コンテンツのポートフォリオを組んでいます。「Reallyenglish」はその中でもROIが高いコンテンツと考えています。過去には「650点突破コース」の受講者が「Reallyenglish」に加えて、自らプラスアルファの学習をして900点を取ったことがあったので大変驚きました。本人に最初のテストで手を抜いたのか確認したのですが「本当にそのようなことはしていない」とのことでした。

登坂:弊社としても、現場のさまざまな要望に即して自由に選べるコースやコンテンツの開発を、今後も進めていきたいと考えています。本日はありがとうございました。

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