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世界の経営学から見る、日本企業の「イノベーション創出」と「ダイバーシティ」

  • 入山 章栄氏(早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授)
基調講演 [S]2024.01.09 掲載
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コロナ危機を経て、日本企業の経営にさらなる変化、イノベーションが求められている。なぜ今、企業にダイバーシティが必要なのか。世界中の経営学者により、科学的な手法でダイバーシティ研究が進んでいるにもかかわらず、その知見は日本へ十分に届いていない。女性管理職比率3割を達成することがダイバーシティだという表層的な理解さえある。本講演では、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏が、世界の経営学の知見を用いながら、日本企業のイノベーション実現へ必要不可欠なダイバーシティについて語った。

プロフィール
入山 章栄氏(早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授)
入山 章栄 プロフィール写真

(いりやま あきえ)慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後2008 年米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013 年より早稲田大学大学院早稲田大学ビジネススクール准教授。2019 年より教授。専門は経営学。


イノベーションを起こすなら、経路依存性を破壊せよ

「これからの企業は、人事・組織で決まります」

入山氏のその一言から講演は始まった。入山氏はまず、イノベーションが求められる社会構造について解説した。現代の日本では雇用が流動化し、終身雇用制は終焉(しゅうえん)に近づいてきている。どの企業も人手不足であり、採用しようにも売り手市場だ。「この会社に未来はない」と思われれば、採用できないどころか従業員も辞めてしまう。そのような状況下、人事の責任はますます大きくなっている。

「2022年はエポックメイキングな年でした。日本経済新聞で記事になっていたのですが、30代の平均給与で、初めてベンチャー企業が大企業を上回ったのです。かつては『ベンチャーには夢はあるけれど金はない』というイメージがあったので、みんな大企業に流れていきました。しかし今は、夢があって金もある。そうなるとベンチャーを選ぶのは当然の流れです」

さらに、この流れを加速させているのが「ホワイト離職」という現象だ。昨今は、社会的にコンプライアンス意識が高まり、ハラスメントを戒める潮流がある。これに対して、入山氏は「パワハラがいけないのは当然である一方で、パワハラを基本姿勢としてやってきた会社が多いのも事実」だと言う。過去のやり方を否定され、どのように指導すればいいのか分からないシニア層が、若手に対して「何もしない」ことを選ぶようになった。その結果、成長したい若手が、定時で帰れる職場を後にしている。

「こういった課題があるからこそ、人事の役割が重要になってきているのです。では、人事には何が求められるのか。戦略人事という考え方がありますが、もともと人事は戦略です。会社によって戦略は違うので、人事は戦略をベースにすることが重要。その上で、社会の不確実性が高まっている今、企業の戦略はイノベーションになってきています。イノベーションを起こせない会社は存続できません。つまり、『人事=戦略』であり、『戦略=イノベーション』なので、『人事=イノベーション』になるわけです」

ただし、会社を変えることは一つひとつ石垣を積み上げるような作業であり、効果が見えづらい。ダイバーシティのための取り組みも、その効果が数年で現れることはない。人事には時間がかかるのだ。

変化に時間がかかることの理由に、入山氏は「経路依存性」を挙げる。会社は複雑な要素がありながらも、噛み合っているから回っている。逆に言えば、噛み合っているからこそ、どれか一つの要素だけを変えようとしても、変えられない。

「そのことが一番分かりやすいのが、今日のテーマである『ダイバーシティ』です。私がいろいろな企業にお伝えしているのは、ダイバーシティだけをやろうとしても無理だということ。会社を構成する複雑な要素が、同質人材のほうとガッチリ噛み合ってしまっているんです。

本当にダイバーシティを進めたければ、新卒一括採用や終身雇用を見直すしかありません。さらに言えば、多様な人を採用するなら、評価制度も多様にする必要があります。働き方が多様化すれば、DXも必要です」

人事の役割は「知の探索」ができる人材・組織風土を作ること

ダイバーシティとイノベーションを実現するため、入山氏は「経路依存性」を破壊することを提案した。イノベーションは、新しいアイデアを満たすことで生まれる。では、新しいアイデアはどう生まれるかというと、既存の「知」と「知」を掛け合わせることによって生まれる。

「歴史の長い企業ほど、考えられる組み合わせをもう試してしまっています。そこでポイントになるのが、『両利きの経営』。なるべく遠くの知に触れて、離れた知を組み合わせる『知の探索(Exploration)』と、徹底的に深掘り、磨き上げる『知の深化(Exploitation)』をすればするほど、イノベーションを起こす確率が高まるというものです。ところが、実際の企業組織は知の深化に偏りがちなのです」

両利きの経営を実践するために重要なのが、人事の役割だ。「知の深化」だけでなく「知の探索」ができる人材を発掘したり育成したりすることで、経路依存性を壊していく。

ここで入山氏は、ゴーゴーカレー創始者・宮森宏和氏の座右の銘を引用した。「発想力は、移動距離に比例する」というものだ。知の探索は、自分の認知の外に出ていくこと。その手っ取り早い方法が、物理的に遠くへ移動することなのだという。会社の外に出て、会ったことのないタイプの人に会い、見たことのない現場を見たることは、知の探索においてとても重要だ。

「経営理論的に言えば、ダイバーシティは知の探索には非常にリーズナブルです。知は誰が持っているかというと、当然、人が持っている。組織で知の探索をするなら、同質性の高い集団よりも、多様な人がいる集団のほうが知の幅が広くなります。

日本の課題は、『なぜダイバーシティが必要か』という腹落ちが弱いこと。日本だと、『ダイバーシティ=女性の管理職比率30%』といった数値を連想する方が多いと思います。もちろん数値目標はあったほうがいいのですが、『なぜそれが必要か』を理解することが重要です」

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イノベーションに必要な「タスク型」ダイバーシティ

近年の研究では、ダイバーシティには大きく分けて二種類あることが分かっている。一つは「タスク型」と呼ばれるもので、考え方や経歴など、見た目では分からないバックグラウンドが多様化された組織のこと。もう一つは「デモグラフィー型」で、女性と男性、外国人と日本人、シニアと若手といったように、見た目で分かりやすい属性のダイバーシティのことを指す。

「今、日本でダイバーシティというと、デモグラフィー型を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、アパーナ・ジョシ氏らの有名な研究によると、タスク型ダイバーシティは組織のパフォーマンスにプラスの影響がある一方で、タスク型のプラス効果を押さえた上でデモグラフィー型の純粋効果だけを取り出すと、デモグラフィー型はむしろ組織にマイナスになる影響があるということが分かりました」

では、デモグラフィー型のネガティブ効果を出さないためにはどうすればいいのか。「男性グループ」「女性グループ」といった断層を徹底的に取り去ることだと入山氏は提言する。また、ダイバーシティを実践する上で大事なポイントは「違和感を楽しむこと」。多様な人材がいる会議は紛糾しやすく、時間も長くなる。一方で、揉めない会議からはイノベーションは生まれない。違う意見の組み合わせに価値は宿るのだ。

「ダイバーシティの本質は、会議が全会一致ではなくなることです。あなたの意見に反対する人が出てきても『なるほど、そういう考え方もあるのか』と受け止めなければいけません。また、社長や役員はもちろんですが、管理職がしっかりと理解していることが重要です。

また、ダイバーシティとセットで必要なのは、『インクルージョン』です。「なるほど」といって、相手の話を聞くことが大切です。もう一つ、『エクイティ』も知っておいてください。エクイティの考え方に基づいて、誰もが同じスタートラインに立てる環境づくりを徹底的に行うことが大事です。

ダイバーシティは、一朝一夕で実現できるものではありません。時間がかかるから、効果が見えないからと途中で諦めず、苦労を乗り越えて組織を変化させていってください」

日本の会社の最重要ポイントは「人事」

講演の最後は、視聴者からの質問やコメントに触れた。ダイバーシティについては、組織内ダイバーシティだけでなく個人のダイバーシティへの質問や、KPIの設定など具体的な質問が寄せられた。

「『組織のダイバーシティだけでなく、個人のダイバーシティについても教えてください』という質問をいただいています。ダイバーイティが目指す本質は、『知の探索』です。組織内ダイバーシティはもちろん重要ですが、一人の人が多様な知見や経験を持っていたら、その人の中で知と知の組み合わせが生まれる。実は、ダイバーシティというのは一人でもできるのです。

『イントラ・パーソナルダイバーシティ=個人内多様性』は、私も研究しています。イントラ・パーソナルダイバーシティが高い人は、パフォーマンスが高い。また、そういう人たちはいろんな経験をしているので、多様性の高い組織を受け入れやすいのです。また、イノベーターには個人内多様性が高い人が多い。人事の皆さんには、人材育成で副業制度などをうまく使いながら、社員の個人内多様性を育んでほしいと思います。

続いて「ダイバーシティに取り組む際、効果が出るまでに重要なポイントはありますか。KPIを設けて進捗を確認し、ブラッシュアップしていくという認識で間違いないでしょうか」という質問を取り上げた。

「会社で戦略的には考えた方がいいですね。会議でどれだけの人が話しているか、上司と部下のミーティングで上司が話しすぎていないか、といった指標を設けている会社もあります。ダイバーシティの本当の効果というのはなかなか目に見えませんが、その中でどれだけ多様な人材がいるかを測定するのも、一つの考え方だとは思います。

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講演の最後には、入山氏から参加者へ激励のメッセージが贈られた。

「日本企業の最重要ポイントは、人事です。皆さまの力で日本の人事をもっと変えて、イノベーティブにして、日本経済全体を動かしてほしいと思います」

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