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新時代の若手社員をどうフォローし、戦力化すればいいのか
~パナソニックの事例から~

<協賛:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ>
  • 坂本 崇氏(パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター戦略企画課 課長)
  • 志鶴 友香氏(パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター)
  • 荒金 泰史氏(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員/マネジャー)
パネルセッション [V]2021.12.22 掲載
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ講演写真

社会の目まぐるしい変化やVUCA時代の到来などにより、若手を中心に就労に対する価値観が大きく変わりつつある。以前は定着率が高いとされた企業でも、近年は活躍が期待された若手が、突然辞める現象が見られるという。離職に至る背景には、現場の影響が大きい。マネジャーが若手の変調を早めに察知し、適切にフォローするために、人事ができる支援とは。新入社員850人中、初年度の離職者数を2名に抑えたパナソニックの事例から、新入社員の定着、戦力化の秘策を探った。

プロフィール
坂本 崇氏(パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター戦略企画課 課長)
坂本 崇 プロフィール写真

(さかもと たかし)2006年の入社以来、生産技術者としてモノづくりに従事。創業者が遺した「ものを作る前に人をつくる」の再興を志し、2018年に社内公募制度により人事部門へ異動。以来、様々な人事データを活用した入社後のオンボーディング支援やマネージャー支援などの取り組みを推進している。


志鶴 友香氏(パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター)
志鶴 友香 プロフィール写真

(しづる ゆか)2019年パナソニックに新卒入社。採用ブランディングの業務経験を経て、現在はピープルアナリティクスに従事。採用部門として採用から入社後のオンボーディングにかけての従業員体験の改善に取り組む。


荒金 泰史氏(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員/マネジャー)
荒金 泰史 プロフィール写真

(あらがね やすし)入社以来アセスメントサービスに従事し、企業の人事課題に対し、データ/ソフトの両面からソリューションを提供。実証研究を重ねる。入社者の早期離職、メンタルヘルス予防、エンゲージメント向上、組織開発に詳しい。現場マネジャーの対話力を向上させるHRテクノロジーサービス『INSIDES』の開発責任者を務める。


マネジャーによる若手の成長支援を手助けするツールの必要性

リクルートマネジメントソリューションズは、経営資産の中で最も重要である「人と組織」をテーマに、企業のマネジメントを支援し続けている。これまでもアセスメント、トレーニング、コンサルティング、HRアナリティクスの四つのソリューションを組み合わせ、採用から組織開発までさまざまな人事課題を解決に導いてきた。同社が開発した数あるソリューションの中でも、現場マネジャーの対話にフォーカスし、メンバーの状態を可視化するサーベイツールが「INSIDES」だ。

INSIDESは1回3~4分程度のアンケートから、回答者の状態を5段階のワーク・メンタリティ、20項目の阻害要因、4種類の性格タイプをかけ合わせて測定。現場マネジャーにはメンバーごとの「パーソナルレポート」「面談(1on1)レポート」や、チーム全体を俯瞰できる「チームマップ」などが配布される。これらは部下とのコミュニケーション促進や、メンタル面のケアに役立つ。オンライン相談機能や活用ガイダンスなど、運用面のフォローも充実しているのが特徴だ。

このINSIDESを用いて、若手社員の戦力化とリテンションに取り組んでいるのがパナソニック。本セッションでは、パナソニック リクルート&キャリアクリエイトセンターの坂本崇氏と志鶴友香氏が、『INSIDES』の開発責任者であるリクルートマネジメントソリューションズの荒金泰史氏のファシリテートで、新入社員の定着と戦力化について語った。

パナソニックでは従来から入社3年目の社員を対象に、状況把握のアンケートと早期離職に至る社員への面談を実施してきた。ここ10年ほどは、次のような推移や傾向が見られる。

1)離職率の増加とやりがいのない社員……10年前は2%台だった3年後離職率が徐々に上昇傾向にある。アンケートでも「やりがいが感じられない」と4分の1が回答した。
2)配属が希望通りでもモチベーションが低い……できるだけ希望に沿う配属を行っていたが、必ずしもモチベーションに寄与していない。逆に希望どおりの配属先でなくても、モチベーション高く働き活躍する社員が見られる。
3)世代間の価値観や就業環境の変化……一つの会社に定年まで働き続ける考えから、転職も視野に入れ、自身の労働市場価値を非常に気にするように。そのため業務を通じて成長や貢献を実感できないと、モチベーションを維持しづらい。オンラインツールを介した業務遂行や在宅勤務が増加しており、若手が不安定な状況にあっても上司や先輩はフォローしにくい状況にある。

志鶴:人事が直接若手社員にできるフォローの範囲には限界があります。若手社員の働きがいや戦力化については、日々若手社員と関わる現場マネジャーの影響が大きいと考えました。

そこで同社では、従来の施策に加え、マネジャーとメンバーとのコミュニケーション活性化や、よりタイムリーに本人の意欲や状態を把握できるように、パルスサーベイの導入を決めた。数あるツールの中でも、INSIDESは以下の3点が採用の決め手となった。

志鶴:一つ目は、短期的に個の状況を詳しく知ることができる点です。対象者(回答者)のワーク・メンタリティを5段階で知るだけでなく、その背景にあたる要素ごとの配点もわかります。二つ目は、回答者本人とマネジャーに、行動変容を促すレポートが配信されること。アドバイスレポートによって、上司と部下のコミュニケーション改善などが期待できます。メンターや人事も結果を見ることが可能です。三つ目は、採用時の適性検査SPIのデータと掛け合わせた分析が可能なことです。データ・ドリブンを進めるうえで、セグメント別に傾向を探ることは重要です。

コミュニケーションが活性化し若手の離職が激減

INSIDESは運営サイドで実施頻度を設定できる。最適なタイミングと業務負担を現場レベルで明らかにするため、トライアルを実施。期間は2020年の9月から1年間で、対象者を新卒入社1年目に絞り、頻度は2週間に1度、月に1度、2ヵ月に1度と対象者を3パターンに分けて行った。結果、次のような効果と課題が明らかとなった。

〈効果〉
・モチベーション状態が半年~1年で改善し、スコアが5ポイントほど上昇した。また850人の新入社員のうち、1年目での離職を2人にまで抑えることができた。
・新型コロナ感染症による影響で、導入前はコミュニケーション面に課題を感じていたが、レポートを中心にINSIDESがうまく機能した。現場マネジャーとメンター、人事とそれぞれで、高い満足を得られた。
・集団ごとの傾向を探るのに、データ活用の可能性の高さを感じられた。

志鶴:新入社員のメンタリティーには個人差があるものの、通年での傾向を確かめることができました。全体では入社初年度の1月に、モチベーションが低下する傾向が見られます。また2年目の始まりの4月は、マネジャーからの期待達成度に対する回答スコアが低下しました。当社の新卒社員は、8月に配属が決まるのが基本です。1月頃はそろそろひとり立ちする時期にあたり、4月は上司からの期待に変化が見られるのかもしれません。

講演写真

トライアルを経て、2021年9月よりINSIDESの正式導入を開始。対象者を新卒入社は1~3年目、キャリア入社は1年目に広げた。また実施頻度も入社1年目は1ヵ月に1度、2年目以降の社員は2ヵ月に1度とした。

現時点ではサーベイによる若手の状態把握とコミュニケーション支援に留まっているが、今後はより踏み込んだ取り組みも視野に入れている。INSIDESとSPI、タレントマネジメントなどの社内データも活用し、採用活動やリテンションのさらなる効果を図る。

坂本:新時代の若手社員のフォローと戦力化は、マネジャーへのサポート体制の構築がカギになります。アメリカのギャラップ社の調査によると、社員の退職理由の50%はマネジャーに起因し、社内の人間関係の70%はマネジャーに左右されるとも言われています。つまり、人事によるマネジャーへのフォローは、若手の早期活躍にも直結すると考えられます。

最後に坂本氏は、自社の人事の将来像を「経営者と上司の意思決定を支える役割」と表現した。データ・ドリブンをベースにしたロジカルな提案に加え、全員一律ではなく個にフォーカスしてそれぞれの体験価値を高めていく働きが重要だと述べて、発表を締めくくった。

「ものをつくる前に、人をつくる」全社共通の価値観が現場の同意につながった

ここからは、荒金氏と坂本氏、志鶴氏の3者によるパネルトークが行われた。荒金氏はあらかじめ三つのテーマを用意。視聴者によるチャットでの質問も交えながら進められた。

荒金:最初はINSIDES導入による、現場や人事関係者の反応についてお聞きしたいと思います。お二人は本社人事のお立場ですが、部門人事や各部署との調整は大変ではなかったでしょうか。『そこまでやるの?』といった反発はなかったですか。

志鶴:当社はカンパニー制を敷いていますが、カンパニー人事、部門人事ともに大きな反発はありませんでした。最初の提案で、若手社員に対する課題感に共感してもらえたからです。トライアルへの参加はそれぞれに委ねていましたが、全カンパニーから手が挙がりました。

坂本:施策をただ通達するだけでなく、背景を課題や仮説も交えて丁寧に伝えることが大事だと思いました。メンターも含めたすべての関係者に、施策を通じて実現したい姿を語るように意識しました。当社には、「ものをつくる前に、人をつくる」という創業者(松下幸之助)の言葉があります。この考えにひかれるマネジャーは多く、今回の施策も納得の様子でした。あらかじめ「どうしてやるの?」といった反応があることは想定できたので、導入で“なぜ”の部分を伝えたのがよかったのだと思います。

講演写真

荒金:私もサポートしながら、現場からの質問が熱いなと感じていました。上司の方々が部下の面倒を丁寧に見ている印象ですね。ところで施策のキーパーソンにマネジャーを置いたのは、他社から見ると攻めているように映るかもしれません。

坂本:人事と現場で、複眼的に若手社員を見ることが大事だと考えます。それを支えるのが毎回のレポートです。特に現場では、レポートがマネジャーとメンターをつなぐ一助になります。当社のメンターは若手の業務面と精神面の両方のケアを任されるので、一人で抱え込んでしまうこともありました。しかしレポートがあることで、若手の状況を説明しやすくなりました。

荒金:レポートが関係者の共通言語になるのですね。さてここで、視聴者から「運用にあたり、マネジャーの負担感を減らすには?」といった質問が来ています。

坂本:上司側からすれば、部下にどのような働きかけをするか、1on1で何を話すかなどを、自分でゼロから考えるのは結構な負担になると思います。それがINSIDESのレポートだと、会話の糸口や部下の状況を探るきっかけを得られやすい。上司の負担軽減につながっていると感じます。

志鶴:レポートには行動変容につながるアドバイスが記されています。書いてあることをそのまま当てはめることはなくても、指針のひとつになると思います。

回答することによるインセンティブの明示が浸透のポイント

荒金:実際にパルスサーベイを導入してみて、効果やメリットをどのように捉えていますか。

志鶴:導入後のアンケートでは、コミュニケーションの頻度と質、若手社員のモチベーションが向上したという結果が見られるので、期待する効果を得られたと判断しています。カンパニーによっては定期面談や研修のテーマ設定に、INSIDESのデータを活用していると聞きます。デメリットは運用面です。頻度が高まると、異動などによる回答者情報の更新作業が増えるので、少し手間に感じるかもしれません。

坂本:調査は連続した時間の一瞬を切り取ったものですから、若手の状態を探るには3年目調査だけではパルスサーベイに及びません。特に新入社員は1年間でいろんな出来事に遭遇しますから、気分の浮き沈みも激しい。頻度を確保して推移を捉えるのは重要なことです。また、マネジャーたちは、私たちが想定していた以上に、データを活用しながら意識高く取り組んでいます。また事業部や職種、入社ルートやSPI結果など、属性別の傾向も明らかになってきました。もちろんバイアスが生じないように、配慮は必要ですが。ただ以前より現場から「この職種は初期段階でこうなりやすい」と言われていたことが、データで裏付けされるようになったのは大きな収穫です。

講演写真

荒金: INSIDESは記名式調査であることから、若手が回答をつくろったり抵抗を感じたりしたことはなかったのでしょうか。

志鶴:回答分布を見る限り、率直に答えている印象です。私は入社3年目なので、対象者にあたります。毎月の設問数にそれほど負担は感じませんが、前回の回答を記憶して偽った回答を入力する余裕はないですね。

荒金:最後の質問です。回答しない社員への対応や、マンネリ化を回避する方法をお聞かせください。

坂本:未回答の社員にはリマインドをかけますが、悪いことと捉えていません。むしろ“回答をしない”という現象に、私たちは注目しています。上司と共有されるのは分析レポートであり、回答内容が直接伝わることはないのですが、もしかすると何か答えづらい理由があるのかもしれません。回答が本人のインセンティブになることを、上司との関係構築と自身の成長やモチベーション向上と絡めて伝えるように意識しています。また回数を重ねると、慣れや飽きはどうしても起こりうるので、どうアプローチするかは今後の課題と捉えています。

荒金:お二人から、新入社員の定着と戦力化のポイントについて、詳しくお話をうかがうことができました。本日はありがとうございました。

本講演企業

当社は、“個と組織を生かす”というビジョンを掲げ、最も重要な経営資産の一つである「人と組織」に焦点をあてたリクルートグループ内のプロフェッショナルサービスファームです。個と組織の力が最大の優位だと言い切れる会社が溢れる社会を実現します。

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