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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2021-秋-」講演レポート・動画 >  特別講演 [T-8] 自律的キャリア形成と企業変革の推進

自律的キャリア形成と企業変革の推進

  • 新家 伸浩氏(パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 常務 CHRO)
  • 飯田 智紀氏(株式会社ベネッセコーポレーション 大学・社会人事業開発部 部長(Udemy事業責任者))
特別講演 [T-8]2021.12.22 掲載
株式会社ベネッセコーポレーション講演写真

デジタル化の進展やコロナ禍など、急速な外部環境の変化により、企業の経営戦略も変革を迫られている。その中核として重要性を増しているのが、人事戦略のバージョンアップだ。DXを担える人材をどのように育成するのか。複雑化・高度化する課題に対応する新たなスキルを既存の人材に身につけてもらうには何が有効なのか。パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社の事例をもとに、個人のキャリア形成や自律型人材育成に向けたラーニングカルチャー醸成のポイント、今後の企業における人事戦略のあるべき姿について考えた。

プロフィール
新家 伸浩氏(パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 常務 CHRO)
新家 伸浩 プロフィール写真

(しんや のぶひろ)パナソニック株式会社にて人事としてB to Bビジネス分野に従事。2017年よりコネクティッドソリューションズ社 人事センター 人事戦略室長として人事制度・カルチャー変革を牽引。2021年10月より現職。


飯田 智紀氏(株式会社ベネッセコーポレーション 大学・社会人事業開発部 部長(Udemy事業責任者))
飯田 智紀 プロフィール写真

(いいだ とものり)ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)とソフトバンクグループ株式会社で経営企画、事業再生・国内外投資業務などに従事。2015年9月よりベネッセホールディングスに参画。現在はベネッセコーポレーションでUdemyを中心に社会人教育事業(自律型・DX人材育成、リスキリングなど)を推進中。


人材育成をとりまく二つの環境変化

本講演は、株式会社ベネッセコーポレーションの協賛により開催された。同社は世界中の学びたい人をつなぐラーニングプラットフォーム「Udemy」を構築・運営し、グローバルで約4400万人の学習を支援している。講座は最先端の知見を紹介するものから実践的な学び、またテクノロジー系からビジネスコミュニケーション系まで、豊富なラインナップを誇る。

2019年には法人向けサービス「Udemy Business」をリリース。およそ6000講座が受け放題となるコースを、LMS(学習管理機能)とセットで提供している。すでに国内だけで500社以上が導入。日経225に選定されている企業の35%以上が含まれることからも、その評価の高さがわかるだろう。2020年には優れた人事領域向けサービスに贈られる「日本の人事部HRアワード」を受賞。DX推進のための人材育成や、ラーニングカルチャー醸成による自律型人材の充実、リスキリングの推進などを図りたい企業から広く注目されている。

講演に先立ち、この日のテーマにつながる「人材育成をとりまく環境変化」について、ベネッセコーポレーションの飯田氏が要点をまとめた。現在、コロナ禍の影響もあって急速に進行している変化が二つあるという。「学びに向かうマインド」と「求められる人材要件」だ。

「マインドセットの変化は、コロナ以前から始まっています。デジタル化、DXの進展により、全世界で約8500万人分の仕事が失われましたが、同時に9700万人分に相当する仕事が新たに生まれています。それはAIやデータサイエンスなど、デジタルを使ってビジネスを変革するために必要な仕事です。そこで重要になるのが、リスキリング。従来からの能力を高めるスキルアップだけでなく、デジタルを中心に新たなスキルを追加習得するリスキリングの必要性を多くの人が認識するようになりました。コロナ禍により、その意識はより明確になりつつあります」

人材要件の変化も、DX推進に伴うものだ。文系人材にも、デジタルの素養が求められるようになっている。また、エンジニアやデータサイエンティストは複雑化・高度化した課題を解決するため、より高いスキルを求められるようになっている。

これまでの人材育成は、業務経験を重視し、事業が育つ過程で人材も育つと考えられてきた。しかし、デジタル化が進んだ現代では、スキルを持った人材がいなければ事業も伸びなくなっている。これによりロミンガーの法則が変化し、上司も部下もインプットが必要な時代になってきたといえる。

講演写真

「学びに向かうマインドセットとして、スキルアップよりもリスキリングが重要な時代になりました。また、変化した人材要件に対応する人材育成プランの再構築も求められています。こうした環境下で注目されているのが、陳腐化しないスキルを個別最適化しながら、自律的に学べるラーニングプラットフォームです。本日のパナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社の事例は、こうした取り組みに前向きな多くの企業にとって、大変参考になると思います」

パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社が進める、自律的キャリア形成支援による企業変革

パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社(以下CNS社)の新家氏からは、同社がラーニングカルチャーの醸成にどのように取り組んでいるか紹介された。

CNS社は、現在大きな変革の時を迎えている。パナソニックグループの持株会社制移行に伴い、2022年4月より全世界で約3万名の従業員を擁するパナソニックコネクト株式会社という、新たな事業会社となることが決まっているのだ。これに備えて、着々とビジネストランスフォーメーションを進めている。こうした企業変革を人材面から支えるのが同社の「自律的キャリア形成の支援」であり、そのために「ラーニングカルチャーの醸成」に取り組んでいる。

「当社は自律的学習を推進する『三つのステップ』で、ラーニングカルチャーの醸成に取り組んできました。企業主導で従業員にスキルを身につけてもらう従来型の方法は、大量生産型ビジネスモデルの時代には通用していました。しかし、課題が多様化した現代では、従業員の自律がポイントになります。従業員が自ら学び、企業や上司がそれを支援する良い循環を生み出していきたいと考えています」

ラーニングカルチャー醸成のステップ1は、1on1ミーティングの定着だ。2018年から、上司発の面談を部下主体の1on1に変え、個々の自律を引き出すことに重点を置いた。ここでポイントになるのが、上司のコミュニケーションスキルだ。係長以上の組織責任者約2000名を小グループに分けて研修を実施し、対話スキルを強化。継続的に、質的なブラッシュアップを行っている。現在は1on1実施率が98%になり、アンケートでも非常に有益だという感想が増えている。

ステップ2は、Udemyによるラーニングプラットフォーム構築。2020年11月からトライアルを開始し、人事部門やIT部門などから徐々に範囲を広げて、1年後には全社員を対象に本格導入した。希望者は全員受講可能という仕組みにしたところ、最初の2週間で約40%の社員がUdemyでの学習を希望した。履修はまだ始まったばかりだが、満足度、成長への役立ち度のアンケートでは、全階層で5段階中4以上の高評価となった。人事も利用者の学習を支援するとともに、さらに利用者を増やす取り組みを行っている。

最後のステップ3は、ラーニングパスの明確化だ。会社として従業員に何を身につけてほしいのかをガイドするため、階層・職種に合わせてラーニングパスを明確化する。また、身につけたスキルを生かすキャリアの選択も、今後は従業員に委ねる方式に切り替えていく。将来的には異動の大半を社内公募方式にすることも視野に入れている。このステップ3はプロトタイプの段階だが、2022年度のローンチ予定で作業を進めている。

「ラーニングパスが明確化され、何を身につけるべきかがわかると、それを実際の学びに結びつける1on1の役割がさらに重要になります。上司の対話力、部下の話を引き出す力も向上させていきたい。この三段階の取り組みと循環が定着することが、ラーニングカルチャー醸成のひとまずのゴールと考えています」

講演写真

1on1の定着からラーニングプラットフォーム構築へ

飯田:自律的キャリア形成を推進するために、まず1on1から取り組まれたそうですが、その理由をお聞かせください。

新家:上司と部下、人事と上司、人事とメンバーなど、いろいろなコミュニケーションがありますが、メンバーが中心になっていない状態では、何を導入しても形骸化して定着しないと考えたからです。ビジネス変革も、カルチャーから変えていくことが重要です。当社ではそれをコミュニケーションから変えていきたいと考え、まず1on1に取り組みました。

飯田:定着するまでには、どんなご苦労があったのでしょうか。

新家:部下から自律を引き出すことが1on1の目的ですが、最初から十分にできたわけではありません。上司の対話スキルに左右される部分が大きいからです。部下が本当に言いたいことが言えているか、上司の意見の押しつけになってないか、1on1で成長を実感できているか。そのあたりを確認しながら、進めていきました。上司の対話力が不十分なことがわかれば、改善するための研修なども実施して、地道に取り組んできました。今後も、1on1の質の向上には注力していくつもりです。

飯田:上司への支援、研修はどのような内容なのでしょうか。

新家:コーチングテクニックのアップデートなども重要ですが、いかに部下の成長に寄り添えるかに尽きます。それができている良い上司のもとに良い部下が集まっている実例をつくって社内に周知し、横展開することが大事だと考えています。

飯田:第二段階として、ラーニングプラットフォームの構築に取り組まれました。

新家:どんなときでも、学びたい人はいます。まず、その思いに応えるのが先だと考えて、ステップ2でラーニングプラットフォームを構築しました。我々も試行錯誤しながらやっているので、この順番が絶対とは思っていません。Udemyを選択したのは、すぐ業務に使えるコンテンツが豊富だったからです。

飯田:取り組みにあたって、ビジネス変革のためのラーニングカルチャーというコンセプトが明確にされているのが印象的でした。その考え方は、従業員の方々も十分に腹落ちしているのでしょうか。

新家:人事が一方的に「必要なスキル」を叩きこんでも、それ以上のものは生まれません。多様化し、変化する環境下では、個人が自律的に自分で考えて良質なものを選んでいく方が、結果として組織全体が強くなると考えています。ですから、従業員の腹落ち感にはかなりこだわっています。会社の進む方向や、そこでどんなスキルを持った人が活躍できるのかを理解した上で、従業員が自ら活躍したいと思って学んでくれるのがベストです。これがまさに、ステップ3のラーニングパスの明確化の取り組みにつながる部分です。

ラーニングカルチャー定着に向けての取り組み

飯田:自律型キャリア形成では、個人が主体的に学ぶことが必要です。企業が学んでほしいことを個人にも学びたいと思ってもらうには、何がポイントになるのでしょうか。

新家:「どういうスキルを身につければ活躍できるのか」を示すのと同時に、実際に公募などで活躍の場を与えられ、成果を出して評価される実例を見せることも重要だと思います。自発性や自律の精神を育てるためには、成功例を見せて競争原理を働かせることも効果的ではないでしょうか。

飯田:4割の方がUdemyの受講を希望されています。かなり多い方だと思いますが、ラーニングカルチャー浸透の手応えは感じられていますか。

新家:この数年間、当社が企業変革、ビジネス変革に取り組んできたことは、従業員も肌身で感じていて、自らも学び、変化していこうという意識が生まれつつあるように感じます。

飯田:ラーニングカルチャー浸透に、階層や年齢による違いなどはありますか。

新家:差が生まれないように配慮している部分でもあります。同じ学びでも、ベテランほど新しいことの吸収に苦労するものですし、伸びしろのある若手に優先的に投資しているように見えても、組織内にコンフリクトが生じてしまいます。ベテランにも伸びしろはあるので、新たなスキルを身につけて、これまでの経験をもっと発信してほしい。もちろん若い人も、どんどん積極的に学んでほしい。そういうメッセージを出すようにしています。今回は4割の人が手を挙げてくれましたが、逆にいえば6割はまだ希望していません。そこに働きかけていくことが、今後の課題だと考えています。

飯田:Udemyに今後期待されること、希望などがあればお聞かせいただけますか。

新家:当社は「コネクト」という社名の通り、「つなぐ」というキーワードを発信していきたいと考えています。Udemyにも、ある企業の良い取り組みを、他社でも参照できるような「つなぐ」仕組みがあったらいいですね。社内でも社外でも、学び合うことは非常に有効です。教えて感謝されたり、教わって自分の成長を実感したり。そういう喜びは新たな学びへのモチベーションにつながります。デジタルのプラットフォーム上でも、そういう体験ができたらすばらしいでしょう。

飯田:今日はキャリア自律から企業変革への取り組みについてお話しいただきました。その先にどんな理想形があるとお考えでしょうか。

新家:企業の存在理由は世の中に価値を提供することですが、それはすなわちビジネスで成功し続けることでもあります。そのために学びがあることを、社内で共通の認識にしていきたいと思っています。ビジネスでの成功を重ねていかなければ当社も存続できませんし、日本全体もそうでしょう。そのためにみんなが学び続ける、一つの事例として見ていただければと思います。

飯田:Udemyも、成功するための学びを支援し、その重要性や喜びをこれからも発信していきたいと考えています。ありがとうございました。

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