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「ミドルシニアのキャリア自律」の実効性を高める施策のポイント

  • 小高峯 康行氏(株式会社ビジネス代謝ラボ 代表取締役)
特別講演 [M-3]2021.12.22 掲載
株式会社ビジネス代謝ラボ講演写真

定年年齢が65歳に引き上げられ、70歳までの就業機会の確保も努力義務とされた今、40~60代のミドルシニアのキャリアを考えていくことがますます重要になってきている。ともすれば意欲や能力が下降し、労働生産性の低下が懸念されるミドルシニア人材を、企業はどうすれば活性化することができるのか。その具体的な施策とポイントについて、ビジネス代謝ラボの小高峯康行氏が語った。

プロフィール
小高峯 康行氏(株式会社ビジネス代謝ラボ 代表取締役)
小高峯 康行 プロフィール写真

(こだかみね やすゆき)1991年(株)リクルート入社 2002年(株)ファインド・シー設立 代表取締役就任 2020年(株)ビジネス代謝ラボ設立 代表取締役就任 大手企業を中心に、採用・教育・人事制度など数々のコンサルティングを経て、現在に至る


ミドルシニアがいきいきと働ける社会が必要

ビジネス代謝ラボは、小高峯氏が約20年前に設立した研修・コンサルティング会社での知見を基にして、2020年に創業。ミドルシニアのキャリア自律を目的とし、さまざまなサービスの提供を目指している。特徴的なのは、「人が辞めない会社は本当にいい会社なのか?」と、従業員が退職しないことをよしとする従来の一般的なキャリアの捉え方に疑義を呈し、会社の新陳代謝を積極的に促している点だ。

設立から約2年、まずは多くの企業に現状や課題のヒアリングを行い、ミドルシニアのキャリア自律に向けた施策の情報収集をしてきた。今後は会社のポジティブな代謝を目的とするさまざまなサービス(研修やWEBサービスなど)を開発し、展開していくという。

いまミドルシニアのキャリア自律が求められる理由について、小高峯氏は次のように語った。

「高年齢者雇用安定法の改正で70歳までの就業機会の確保が努力義務とされ、今後さらにミドルシニアの現役期間が長期化していきます。国は2017年、企業の従業員に対する役割は『雇い続けることで守る』から、『社会で活躍し続けられるよう支援することで守る』に変容が求められているのではないかと発表しています。

国としても社会で活躍できる人材を育成する必要があると提示している中、従業員に『社内外を問わず、長期間いかにイキイキと働いてもらうか』が日本の新たな課題になってきているのです」

小高峯氏は、同社が顧客ら289社に実施したアンケート結果を紹介。高年齢者雇用確保措置や、一定の年齢に到達した際に役職を降りる役職定年の現状と課題を明らかにした。

高年齢者雇用確保措置では、65歳までの雇用義務については全体の75%が「継続雇用」制度を導入するなどして対応。一方、努力義務とされた70歳までの就業機会の確保については、すでに対応を終えた企業が全体で9%、今後の対応を決定して現在準備に入っている企業が12%と、制度を整えている企業が全体の2割程度にとどまることが示された。

従業員を70歳まで就業させることへの懸念としては、「与える仕事、ポジション設計の難しさ」「老化による生産性の低下」がそれぞれ61%でトップとなった。

「同一労働同一賃金の問題もあり、『賃金が低くなるので、これまでと同じ仕事をさせられない』『生産性を保ち続けてもらえる仕事が分からない』といった課題を感じている企業は多いようです」

役職定年については、従業員が300人以下の企業での導入が23%にとどまるが、1001人以上の企業では54%が導入しており、35%の非導入企業も今後検討したいという意向を示している。

役職定年制度を導入した際に生じるのが、「モチベーションの問題」だ。労働政策研究・研修機構のデータによると、意欲は30代、能力とキャリア形成は40代以降で低下していくこと、低下幅の割合は非管理職ほど高いことが報告されている。

「企業の競争力を上げていくために若手に重要なポジションを任せていく役職定年は、会社を活性化させていくために必要ですが、役職を降りた社員のモチベーションは下がります。すでに企業からは、『DXを推進したいが、ミドルシニアの抵抗が大きい』『長く働くと本人のやりたいことも変われば会社から求められるスキルも変わる』『キャリア自律を促進するためのミドルシニアの自己認知がずれている』といった声が挙がっています。

今後70歳までの雇用が進むと、一つの会社で定年まで働いた場合、同じ会社で約50年間働くことになります。たとえば55歳で役職定年になった後の15年間や、40歳で管理職になれないことがはっきりしてからの30年間という長い期間、会社の中でどう活躍してもらえばいいのかが、今後課題としてますます大きくなっていきます」

キャリアマネジメントと社外転身で活性化

講演写真

次に小高峯氏は、ミドルシニア人材の活躍・活性化を目的として導入している制度や課題についてのアンケート調査結果を発表した。導入済みの制度として最も多いのが「キャリア研修・面談」で20%。次に「資本関係のある企業への在籍出向・転籍制度」が18%、「社内公募・社内FA制度・社内副業制度」が16%と続いた。

キャリア自律を促進する上での課題は「一人ひとりの意識改革」が68%でトップ。次に、「管理職(上司)の理解と対応」54%、「若手時代からの風土づくり」50%と意識醸成の項目が上位になった。「キャリア研修の充実」や「制度の充実」といった制度面への言及はその後に続いており、キャリア面談など制度を整えている企業でも個人の意識を変えることは難しいことがわかる。

ここで小高峯氏は、ミドルシニアのキャリア自律を推進し、会社の新陳代謝を促す中長期的な施策として、社内の人材を活性化させる「キャリアマネジメント」と、人材を流動化させる「社外転身」の事例を紹介した。

「キャリアマネジメントとは、個人の価値観に照らし合わせたキャリア開発と、組織として求めるキャリアを融合させる取り組みを指します。年齢の上昇や役職定年に伴い、モチベーションや能力の発揮度合いが下がっていき、主体的に仕事に取り組まなくなることがあります。そういう問題の解消を目的としています」

そして、ある企業の事例を取り上げた。主要顧客の設備投資が増加し、質・量ともに仕事が変化する中、ミドルシニア社員に対しては「いまの仕事に関する能力は発揮できているが、新しい能力や知識を得る機会は減少しており、今後必要とされるさまざまな要件に対応できない可能性が高い」と認知されていた。またミドルシニア社員のかつての部下が上司となり、コミュニケーションが難しくなる問題も生じており、数年後にはミドルシニア社員の比率が3割を超える中で喫緊の対応が求められていた。

そこで同社では、50歳手前から3年間に及ぶキャリアマネジメント施策を実施した。1年目はキャリア研修でキャリアを考えるきっかけをつくり、その上で、上司と部下との話し合いを習慣化することによる関係構築を重視。2年目はミドルシニア社員の技術や強みを言語化し、その発揮方法を上司と相談。3年目は今後変化が起きても強みを発揮し続ける方法を上司と話し合う、という流れだ。単に話し合いの場を設けるのではなく、社外のキャリアカウンセラーとの面談を通して、上司との面談の際の論点を整理。上司側に対しても、キャリア面談の進め方などの教育を行った。

「一連のキャリアマネジメント施策の結果として、『自身のキャリア形成に向けて、課題に対して具体的に行動している』と自身を評価したミドルシニア社員の割合は、30%から70%に上昇しました。『行動変容の必要性や健全な危機感が醸成された』『会社への不満や不信感が薄れ、自分ごととして考えるようになった』『上司、同僚とのコミュニケーションが増えた』といった変化も見られ、非常に高い成果が出ています」

次に紹介したのが、中長期的に人材の流動化を図っていく「自発的な社外転身」の取り組みだ。ここで必要になってくるのが「キャリア自律意識の醸成」「トリガーとしての制度設計」「社外転身のハードルの低下」だ。

「ミドルシニアになってからいきなり研修を行うのではなく、若いうちから研修を行うことで、キャリアについて考える風土をつくる。ここで気を付けるべきなのは、事前に設計したコミュニケーションシナリオを基に効率的な面談をすることです。管理職は部下育成に加えてプレーヤーとしての成果を求められるなど、仕事がオーバーフローしています。シンプルにやっていくことが大事です。また、この施策がリストラではないんだと社員に分かってもらえるようなコミュニケーションを取れる管理者向けのトレーニングも必要です」

次に、「トリガーとしての制度設計」。小高峯氏は多くの企業が早期退職制度を整備している一方、形骸化している状況を指摘する。その中で、ある自主的な社外転身者を排出している企業が実践する取り組みを紹介した。何年かに一度、対象年齢に該当すれば退職金を上積みすることで、定期的に社外でのキャリアを考える期間をつくる、というものだ。

「早期退職の道を選んだある社員からは『会社を辞めることは1回目の募集期間で決断できなかった。ただ、その後も自分のキャリアを考えていたので、2回目の募集には自ら手を挙げた』という声も寄せられたそうです」

三つ目の「社会転身のハードルの低下」は、たとえば従業員に出向や転籍を求める前に、転職活動を勧めてみるという施策だ。

「なかなか難しいかもしれませんが、社員が自分にどういう可能性があるのかを理解してもらってから出向の話をする企業が少しずつ増えています。転職活動への不安を取り払うのがポイントです」

「社員の幸せ」がすべてのベース

講演写真

小高峯氏は続いて、ミドルシニア人材のキャリア自律意識を醸成するためのポイントを五つ紹介した。「キャリア研修」「上司面談」「キャリアコンサルタントの有効活用」「キャリア自律月間」「対象者が幸せになる制度」だ。

「中でも一番大事なのは、対象者が幸せになれるかどうかを考えることです。会社としてこうなってほしいというのではなく、本人がどうやったら幸せになるのかを一緒に考え、寄り添う姿勢が重要です。たとえば、『社外に転身してほしいので、ここまでなら退職金を上積みできる』という発想で退職希望を募っても、なかなかうまくいきません。社員がネクストキャリアで本当に幸せになれるのかという観点で金銭面や精神面のフォロー策を講じることが重要です」

一方、社員に対して社外への転身を勧めることで、会社側が想定していた以上に優秀な人材が辞めていく可能性もある。だからこそ、その人たちが残りたい、この会社で働き続けたいと思うような魅力的な会社作りをしていかなければならない。

「キャリアの意識醸成のきっかけとして推奨するキャリア研修では、環境(Must)やスキル(Can)よりもワクワクする未来像(Will)が重要です。多くの企業が定年後のマネープランなどの研修を行っています。今後必要となってくるお金が現実に分かるので、研修を行えば行うほど現状維持志向を強めるという課題を持っている企業が多いようです。また、スキルの棚卸などを強化しても、できないことに着眼しがちで、できることで仕事をしようとする傾向を強化するという声も多く伺います。その結果、なかなか行動変容が生まれません。

新しい一歩を踏み出すことが難しいからこそ、Willベースが必要になってきます。一旦自分のスキルは置いて、やりたいことベースで内発的欲求に問いかけていくことが大事です。当社によるキャリア研修を実施したある企業では、研修2ヵ後にアンケートを取ったところ、社員の87%が実際に何らかの行動を起こしたと回答しました」

そのほかにも必要なこととして、継続的なキャリアコンサルタントの活用、キャリア自律月間の設置なども挙げられた。

「キャリア自律はお金をかけにくいテーマでもあります。たとえば研修や面談と併せて会社が考えるキャリア像の発信や講師による講演会、社員同士の座談会などを実施する機会を設けていくといいと思います」

小高峯氏は次のような言葉で講演を締めくくった。

「この2年間いろんな企業の困りごとに接する中で、ようやくうまくいく可能性を見出しつつあります。2020年には電通が社員200人強を個人事業主化し、業務委託を結ぶという事例がありましたが、こういった新しい取り組みにも注目しています。

従業員がいまのスキルを生かして社外を目指すのか、あるいはスキルをアップデートしながら社内で活躍していくのか。この選択肢に向かい合うための個人のマインドセットを整えた上で、働く人の幸せに立脚したキャリア支援を行うことが重要です。幸せを求める社員にとって魅力的な会社をつくっていくことがますます重要になってきています」

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