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自律的組織をつくるための人材育成 ~自ら考え行動する人材になるための「探究力」~

  • 矢吹 博和氏(株式会社HackCamp 取締役副社長/株式会社ラーニングプロセス 代表取締役)
特別講演 [A-5]2021.12.22 掲載
株式会社HackCamp講演写真

不確実性が高く正解がない昨今、自ら考え主体的に行動できる人材を育て、自律的な組織へと成長することが求められている。そのためには自らが“問い”を立てながら課題や目的を設定し、柔軟に行動していく必要があるが、その際に必要な「自分ごと化」を促すためにはどうしたらよいのだろうか。HackCampの矢吹博和氏が「探究力」に焦点を当て、VUCA時代に適応できる組織づくりや人材育成のポイントについてミニワークを交えながら語った。

プロフィール
矢吹 博和氏(株式会社HackCamp 取締役副社長/株式会社ラーニングプロセス 代表取締役)
矢吹 博和 プロフィール写真

(やぶき ひろかず)50分で合意形成を実現できる「視覚会議©️」メソッドを10年前に開発。大手企業を中心に1000名近くの共創ファシリテーターの育成を行う。また、ありたい姿から逆算で戦略を作る「バックキャスティング」手法を活用したワークショップを行っており、経営や事業戦略への同手法導入コンサルタントとしても活躍。


VUCA時代は、主体的に物事を考え自分ごと化する「問い作り=探究力」が重要に

ハッカソン・アイデアソンをはじめとする各種ワークショップを企画運営するHackCamp。独自の共創メソッドを強みに、企業やNPO、行政などあらゆる組織での人材育成や組織開発に携わってきた。この豊富な実績と知見を強みに、答えのない問題に対処できる自律的な個人・組織への変革を支援している。

HackCampでは、共創メソッドを活用した人材育成・組織開発・研修サービスを提供。誰もが共創の場をつくることができる再現可能なフレームワークを用いて、実践型研修をはじめとした集合型研修やeラーニングコンテンツ、活用定着サポートなどを、各社の状況に合わせながら多角的に支援している。また、ワークショップやアイデアソン・ハッカソンなどのプログラムによる共創の場の企画・運営も担う。「ありたい未来」を起点としたプランニングに重きを置き、本質的なアウトカムの創出を目指している。

50分で合意形成を実現できる「視覚会議」メソッドの開発者で、大手企業を中心に10年以上にわたり1000人近くの共創ファシリテーターの育成を行ってきた矢吹氏は、自ら考え行動する自律自走人材の育成が求められていると話す。そもそも、自律自走できる人(自ら考え自分で動ける人)とできない人(何もせず指示を待つだけの人)の違いはなんだろうか。矢吹氏は、前者は何を考えてどう行動するかのアクションプランが明確で、主体的に自分で考えることができる人材、後者は何をすればいいか不明確である状態の人材であると定義する。

「とはいえ、『主体的に考えろ』と上司や会社から言われても、今の時代はそれができない事情もあります。未知なテーマやこれまでの経験が通用しない業務も増加し、過去の経験が使えず仕事の進め方やアプローチの仕方がわからないことも多いでしょう。また、新しい分野の学習や価値観のアップデートが必要になることもあります。つまり、『一体私達は何をすればいいのか?』『何を知る必要があるのか?』『何から考え始めればいいのか?』、さらには『何を手放す必要があるのか?』もよくわからない時代にいるということです」

そういった時代において、主体的に考え自分ごと化するためには「問い作り」=探究力が重要であると矢吹氏は説く。知りたいことや疑問、課題、仮説をすべて「問い(疑問文)」で作り、その中から本当に重要と思える問いを選定することで、自分ごと化が進むのだという。

「自分ならではの問いを設定し、『これってどういうことなのかな?』『どうすればできるんだろうか?』と仮説を作ります。自分なりの問いだからこそ、問いに対する探究心や主体性が生まれ、『自分で解きたい』と自分ごと化ができる。そうすることで、自分ならではの答えやアクションを導けるのです」

自分ならではの問いはどのように作るのだろうか。ここで矢吹氏は、講演参加者にミニワークを実施。宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』のラピュタ城の画像と、「天空の城ラピュタは重力に逆らう」という「問いの焦点(お題)」を提示。画像を見て感じた疑問や質問を頭の中で考えるよう促した。

「『なぜラピュタは重力に逆らって浮かぶのか』『重力に逆らうにはどんな力が考えられるのか』『地球の周回の際に遠心力と重力が釣り合う高さはどれぐらいか』『強力な磁場があれば重力に逆らえるのか』といった問いが浮かぶかもしれません。ポイントは、自らの好奇心で問いを作ることです。このように、自らで問いを作ることで『多くを学べる』『知らないことに気づける』『洗練された思考を生む』『課題が明確になる』『問題解決につながる』ことができるのです」

講演写真

解決策よりも“問いそのものを探す力”が必要

続いて、本講演のキーワードとなる「探究」について解説。探究とは「自分自身で問いを立てて、その答えを出したいという探究心を大切にしたアプローチ法」であると定義し、4段階で構成されている探究学習のサイクルを紹介した。

(1)課題の設定
自ら問いや仮説を設定し課題意識を持つ
(2)情報の収集
必要な情報を取り出したり収集したりする
(3)整理・分析
収集した情報を、整理したり分析したりして思考する
(4)まとめ・表現
気づきや発見、自分の考えなどを判断し表現する

「自ら設定した問いは主体性を生み、その探究を通じてテーマや答えを自分ごと化することができます。昨今は、解決策や回答は完全にコモディティ化していて差がつきにくく、インターネットで検索すれば答えがたくさん出てきますよね。今の時代は、どこに課題があるのかという“問いそのものを探す力”が大事なのです」

また、不確実性で変化が激しい時代(=VUCA時代)においては、問題解決しようにも過去のやり方が通用しない。これまでは、会社などから示された「ありたい姿・ゴール(Why)」に対して、「現状(as is)」を分析して「課題(What)」を設定し、「解決策(How)」を考えることができた。もしくは、会社から提示された「課題」の「解決策」を考えれば良かった。VUCA時代は、「ありたい姿・ゴール」が不明確で、情報も十分に揃っておらず、課題も定義されていない状態といえる。

「ありたい姿は何なのか、今どのような状態にあるのか、何を知る必要があるのか、何が課題なのか、どうすれば〇〇できそうか、なぜ〇〇なのか、もし〇〇できたらどうなるのか。こういったさまざまな課題設定や仮説作りをしていかなければ、問題解決の情報が揃いません。だからこそ、不足や未定義の部分を補うために探究が必要なのです。どうしても我々は問いの答えをいきなり探そうとしてしまいがちですが、今日お伝えしたいのは『問いを作ることに集中しましょう』ということです」

探究力をつける質問づくり手法(QFT)とは

続いて矢吹氏は、探究力をつける「質問づくり手法(QFT: Question Formation Technique)」について説明。QFTは、アメリカで開発された問いづくりメソッドの基本プロセスで、主体的・対話的で深い学びを実現する方法としても注目され、小学校から大学の授業で活用されている。

従来の授業では、教師やファシリテーターがあらかじめ決められた問いを提示し、生徒は与えられた問題の「正解」を探していた。QFTでは、教師やファシリテーターは問いを作るための支援者で、あくまでテーマ(問いの焦点)を示すことが目的。生徒らは問いを作る主体として、自分が解きたい「問い」を作るのだ。つまり、「解決策」ではなく「問い」を考えることが大きな違いだ。

矢吹氏はQFTの具体的な流れを次のように紹介した。

Step1:ファシリテーターが問いの焦点を指定
Step2:質問づくりのルールを提示
Step3:質問出し
Step4:質問の改善
Step5:質問に優先順位をつける
Step6:Next Stepを考える
Step7:振り返り

矢吹氏は、「Step4:質問の改善」がQFTの最も重要なステップであるという。Step4では、Step3で出した自分ならではの疑問点や仮説の問いを、YESまたはNOで答えられる閉じた質問(Closed Question)と、YESまたはNOで答えらない説明を必要とする開いた質問(Open Question)に分類する。その後、Open QuestionはClosed Questionに、Closed QuestionはOpen Questionに変換する。

さらに、QFTの活用事例とその効果を紹介。新卒・中途採用でQFTを取り入れた場合、応募者に問いを作らせることで瞬時にその人の思考力(課題設定力、仮説設定力、構想力や発想力など)を確認でき、自律自走型人材かどうかの判別ができる。また、チームでの新規サービス企画立案で活用すれば、未知のテーマに対してチームが自律自走することができる。他人の問いから多様な視点を学べるうえ、チームで検討すべき問いを絞り込め、次の行動もチームで共創して構築できる。「自分たちのバイアスや固定概念をいい意味で壊してくれた」「旧来の価値観のアップデートにも効果的」という利用者の声も紹介した。

問いづくりを通して『本質的に何を考えるべきか』を明らかにする

続いて矢吹氏は、問いづくりがどのように探究心を上げるのかを講演参加者に体感してもらうべく、「Step 4:質問の改善」の閉じた質問(Closed Question)と開いた質問(Open Question)をそれぞれ変換するミニワークを実施した。

まず、変換する際のコツを、「会議運営を改善する」を例にとって説明。「改善すべき対象は何でしょうか」というOpen QuestionをClosed Questionに変換する場合は、仮説やアイデアを入れた問いにする。問いに対する自分なりの返答を入れた質問を作る(例:改善すべき対象は会議プロセスですか)、前提条件や制約条件を確認する(例:オンライン会議も改善の範囲に含まれますか)、仮説や疑問を入れて質問を作る(例:改善案が作られたとして、周知徹底できるのですか)ことがポイントだ。

また、「会議の進め方に課題はありますか?」というClosed QuestionをOpen Questionに変換する場合は、前提や固定概念を問い直す。例えば、前提を探求してみる(例:会議の進め方のあるべき姿はなんですか)、前提以外の要素を探究してみる(例:会議参加者はどのようなメンバーが最適か)、仮説や意見を探求してみる(例:会議廃止してチャットにしたらどんな弊害が生まれそうか)といった方法が考えられる。

ミニワークでの問いの焦点は「自律自走する人材の育成」だ。矢吹氏は参加者に、「自律自走ができているとはどういう状態か」というOpen QuestionをClosed Questionに変換し、チャットに投稿するように呼びかけた。参加者からは、「自律自走とは、自分で考え動ける状態ですか」「業務上の成果が上がっていると自立自走ができていますか」「進んで報告ができている人は自立自走できていますか」などの問いが投稿された。

続いて参加者は、「自律自走している人材のロールモデル(お手本)は自社に存在するのか」というClosed QuestionをOpen Questionに変換。チャットに投稿された問いは、「自律自走しているロールモデルとは何ができている人のことですか?」「ロールモデルになりうる振る舞いはどのようなものですか?」「自律自走している人材のロールモデルは誰ですか?」などがあった。

実際にQFTのワークを業務に取り入れるときは、30分ほどで問いを作って分類・変換し、最終的にどの質問が一番大事かを決めてアクションプランを決めていく。

「皆さんが『自律自走する人材育成をしたい』と考えたとき、研修カリキュラムを考えることが最も重要な業務と思われているかもしれません。しかし、そもそも『自律自走とはどんなことができればいいのか』という定義やゴールイメージが不明確のままになっている可能性があります。われわれは解決策を考える方向に行きがちですが、問いづくりを通してまず『本質的に何を考えるべきか』を明らかにすべきです」

矢吹氏は、問いを作ることで「自分ごと化」につなげていくことの重要性を語る。

「問い作りを通じてテーマに向き合い、自分ならではの問いを作ります。答えを探す前に、さまざまな角度からClosed Question⇔Open Questionへと問いを変換することで、多くの仮説が挙がり検討内容がより具体化されます。複数人で問いづくりや変換を行えば多様な仮説やアイデアを共有することもできて、重要な論点がより明確になります。そして、自分で『解きたい』と思える問いが発見できたと、自己効力感が高まり“自分ごと化”につながるのです」

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