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イノベーションを起こすための組織をどうつくるか~組織文化、評価、人材育成の観点から~

<協賛:ヤフー株式会社>
  • 木下 達夫氏(株式会社メルカリ 執行役員 CHRO)
  • 口村 圭氏(ノバルティスファーマ株式会社 人事統括部 ファーマP&Oビジネスパートナー ヘッド)
  • 藤村 博之氏(法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授)
パネルセッション [G]2021.12.22 掲載
ヤフー株式会社講演写真

イノベーションを起こす組織をつくることは企業の重要な課題の一つだ。本セッションでは、メルカリのCHRO・木下氏、医療のイノベーションを創出するノバルティスファーマの事業人事責任者・口村氏、そしてイノベーションの専門家である藤村氏が取り組み事例を基に、実践から学んだイノベーションを起こす組織づくりのポイントを語り合った。議論から見えてきたのは「多様性、好奇心、賞賛」というキーワードだ。

プロフィール
木下 達夫氏(株式会社メルカリ 執行役員 CHRO)
木下 達夫 プロフィール写真

(きのした たつお)P&Gジャパン人事部に入社し採用・HRBPを経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部でブラックベルト・HRBP、2007年に金融部門の人事部長、アジア組織人材開発責任者を務めた。2011年に8ヵ月間のサバティカル休職取得。2012年よりGEジャパン人事部長。2015年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任。


口村 圭氏(ノバルティスファーマ株式会社 人事統括部 ファーマP&Oビジネスパートナー ヘッド)
口村 圭 プロフィール写真

(くちむら けい)大阪大学文学部卒業後、東レ株式会社 人事勤労部門にて国内外の工場労務、制度企画、グローバル人事、退職金改革などを経験した後、2006年にジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に入社。複数の医療機器ビジネスユニットのHRBP、人材開発・採用グループのシニアマネジャーを担当。2012年にコクヨ株式会社に入社、グローバル人財育成担当部長、人財開発部長を経て、2015年より人事総務部 統括部長(兼 広報室長)として働き方改革と健康経営を軸とした組織文化の変革に従事。2019年5月より現職。


藤村 博之氏(法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授)
藤村 博之 プロフィール写真

(ふじむら ひろゆき)京都大学助手、滋賀大学助教授、教授を経て、1997年に法政大学経営学部教授、2004年4月から現職。2007年度から4年間、法政大学キャリアセンター長を兼任。専門は労使関係論、人材育成論。主な著書に『考える力を高めるキャリアデザイン入門』(編、有斐閣、2021年)、『新しい人事労務管理[第6版]』(共著、有斐閣、2019年)、『〈働く〉は、これから―成熟社会の労働を考える』(共著、岩波書店、2014年)、『人材獲得競争―世界の頭脳をどう生かすか』(共編、学生社、2010年)などがある。


イノベーションの創出を支援する「Yahoo!副業」

はじめに、協賛企業であるヤフーの求人本部 事業推進部 部長 兼「副業」サービスマネジャーである渡邉真啓氏が、イノベーションの創出を支援する「Yahoo!副業」について解説した。

「このサービスを始めたきっかけは、当社で2020年7月にギグパートナー(副業)の募集を行い、4500人以上の応募をいただき、ユーザーニーズを感じたことです。実際に人材を受け入れて、事業運営に貴重な意見を集めることができました。これらの成果から、日本に副業を通じた個人と企業の新しい関係性をたくさん生み出したい、事業も個人も成長し労働生産性が上がる一助になればと考え、2021年3月にベータ版サービスをリリースしました」

ヤフーの副業活用の方法はアドバイザリー型だ。企業と共に一緒に何かを生み出すために、知識ノウハウの補充や違う角度からのアドバイスを行う。こうした副業活用のメリットは、中途採用に比べ、必要なスキル・経験を持った人材を集めやすいこと、そして、業務委託契約のため雇用のリスクがないことにある。

「2021年9月末現在の登録数は10万人を超えました。その6割以上が正社員の方で、8割が30代以上です。先行的に約70社から190件の案件を掲載していただき、5ヵ月で3200件超の応募がありました。現状ではサービス利用費は完全無料で行っています」

法政大 藤村氏:イノベーションは草の根から起こる

はじめに藤村氏は「イノベーションは草の根から起こる」というオーストリアの経済学者、シュンペーターの言葉を紹介した。

「『草の根』とは現場です。問題が起きている現場で問題を発見し、解決策を考える。それがイノベーションにつながります」

では、イノベーションを起こす組織はどんなことをしているのか。ポイントは三つある。

「一つ目はメンバーが常に議論していることです。新しいアイデアを受け入れて、他の人の意見を否定しない。あるいは、おかしいことは『おかしい!』と率直に言える組織です。二つ目は失敗を許容する風土。前例にないことを面白がる。新しいアイデアをとりあえず実行してみる。『やってみなければわからない』という考え方を共有している組織です。三つ目は精神的、時間的に余裕があること。そうした余裕がないとイノベーションは生まれません」

講演写真

イノベーションは議論から生まれる。しかし、最近、企業では議論をしなくなっているのではないかと藤村氏は指摘する。

「1980年代までは部下が上司に議論を挑む姿がよく見られました。新入社員はそういう先輩の姿を見て育った。組織の中でさまざまなことが言えることがやはり大事だと思います。そのために、組織内に自由に意見を言える雰囲気をつくり出し、価値観のぶつかり合いを歓迎する。そこから新しいものが生まれます」

メルカリ 木下氏:イノベーションを起こすための4大方針

メルカリのミッションは「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」ことだ。木下氏はミッションに向けた三つのバリューを紹介した。

「ミッションを実現するためにはイノベーションが不可欠であり、それに向けた三つのバリューを制定しています。一つ目は『Go Bold 大胆にやろう』。前例のないことにどんどん挑戦する。リスクを取って失敗から学ぶ。二つ目は『All for One 全ては成功のために』。皆が力を合わせることで大きな成果を実現する。三つ目は『Be a Pro プロフェッショナルであれ』。個々が専門性を持って、成果を出すことにコミットしています」

では人事制度のポリシーは何か。「個人と組織の非連続な成長のために」として、会社の非連続な成長のため、個人と組織にも非連続な成長を求めている。

「人事制度もそれらを促進することをポリシーとして設計されています。その結果として、『WIN-WIN MAX』『WakuWaku MAX』の実現を図っています」

講演写真

メルカリでは個人と組織の成長の実現に向けて、四つの大方針を掲げている。

「一つ目は『大胆なチャレンジ』です。社員一人ひとりのチャレンジを後押しし、そのチャレンジを評価します。二つ目は『パフォーマンス・バリュー発揮度に基づき、競争力のある報酬を提供する』。新しいことに取り組んでいる人が報われるような人事制度をつくっています。三つ目は『多様性への対応』です。メルカリの東京オフィスのエンジニアの約5割が海外出身であり、全体では約40ヵ国から人が来ています。多様な人材が集まることで、よりイノベーティブな成果が生まれると信じています。四つ目は『プロとしての成長を促す』こと。全員が自律したプロであり、自主性を持ってキャリアを構築、成長できるように支援します」

そしてメルカリのHRのミッションは、「メルカリグループの事業成長のために組織・人材のWIN-WINを最大化する」ことだ。そのため「Go Bold」のバリューに基づき、人事領域において、大胆な取り組みを実現。「All for One」に関しては、多様な社員との対話を重視。「Be a Pro」では、人事のプロとして成果を出し、常に向上を心掛けている。

「日本における先進の人事事例を仕掛けて、社会にポジティブなインパクトを与えることを目指したいと考えています」

ノバルティスファーマ 口村氏:社員の能力を引き出す企業文化の醸成

ノバルティスファーマは製薬メーカーとして最先端のデジタルサイエンスを活用し、新たな事業に取り組んでいる。同社のパーパスは「Reimagine Medicine ~新しい発想でこれからの医薬品と医療の未来を描く」。口村氏は「薬の定義自体を見直しながら、サービスも含めて人々の健康に貢献できるあらゆることを手掛けていきたい」と語る。

「そのため、『事業と資本の選択と集中』『中核事業の強化』『主要地域での事業の加速』といった戦略を打ち出しています。施策では『社員の能力を最大限に引き出す』『イノベーションによる変革』『オペレーションエクセレンスの常時実施』『データとデジタルの活用』『社会における信頼構築』を掲げて実践。この中で最優先に行っている施策が『社員の能力を最大限に引き出す』ことです」

講演写真

そのために同社が日頃から心掛けているカルチャーが三つある。

「一つ目は『Inspired自らを鼓舞し互いを刺激し合う』。パーパスに皆がインスパイヤーされ、気持ちを共有。互いを刺激し合いながら大胆に行動することを目指します。二つ目は『Curious好奇心を持つ』。自分の仕事に関わらないことも含めて、幅広く好奇心を持ち、学び続けることを目指します。社内では参加者を募ってラーニングフェスティバルなどを開いています。三つ目は『Unbossed主体性を持って自ら動く』。上から言われたことだけをやるのではなく、主体性を持って自ら動くということです。激変する環境に適応しながら、皆で知恵を出し合い、荒波を乗り切っていくことを目指しています」

また、同社ではパーパスの実現に向けて、業績管理の見直しも行っている。新たな制度では評価レーティングを廃止し、チーム貢献・協働にフォーカス。上司・同僚のタイムリーなフィードバックを実践し、業績向上に向けたコーチングを行う。また、チームへの貢献や協力、成功につながる行動を促すために、1年を通して同僚や社員に対する賞賛を奨励していく。

「2020年までに8ヵ国1万6000人でトライアルが行われた後、2021年に日本で管理職を対象に導入するにあたっては、各現場から選ばれた課長クラスが集まったコミュニティを形成、制度を先行体験してもらい、その情報を部門に持ち帰ってシェア・実践し、またその結果をコミュニティに共有するといったボトムアップの学習サイクルを軸として展開しました。2022年には全社員対象に本格導入される予定です」

ディスカッション:「多様性、好奇心、賞賛」がイノベーションを生む

ここからは、藤村氏、木下氏、口村氏によるディスカッションが行われた。

藤村:イノベーションを起こす組織づくりについて議題を三つ設定したいと思います。一つ目は、木下さんがおっしゃった「多様性」です。日本企業は多様性をつくることが本当に苦手ですね。二つ目は、口村さんが言われた「好奇心を持つこと」。視野を広く持って学び続けることは大事です。三つ目は、口村さんの話で「賞賛」という言い方がありましたが、「お互いに認め合うこと」です。では、はじめに多様性について木下さんにお聞きします。社内に40ヵ国出身の人がいると、さまざまな問題も起きるかと思いますが、その点はいかがですか。

木下:多国籍な人員を抱えることには言語の壁など心配の声も一部ありました。しかし、世界的なマーケットプレイスをつくるという目標を掲げていますから、多様な人材が活躍できなければ意味がありません。言語の壁はありますが、お互いに歩み寄るよう努力しています。

藤村:日本人は議論に慣れていない人が多いと思いますが、外国人を受け入れる管理職に戸惑いはありませんでしたか。

木下:組織が小さいころから「心理的安全性」に注力してきたこともあり、以前からマネジャーがモノを言いやすい文化がありました。メンバーの「Go Bold」を後押しすることがマネジャーの役目と考えています。また、情報格差のある中でマネジメントしないことを徹底しています。できるだけ情報が共有された状態をつくることで、多様な人をまとめることが可能になると考えています。

藤村:ノバルティスファーマでは、多様性への対応はいかがでしょうか。

口村:製薬から事業を広げるうえで、これまでの勝ちパターンが通用しないことが増えています。社内にはこれまでにいなかったプレイヤーも増えました。現在は、現場で起きていることを持ち寄り、衆知を集め、一人ひとりの意見を反映し、工夫できるチームがより重要になってきています。また、個人の好奇心を高めることも重要で、個の中での多様性を豊かにすることが大事だと考えています。

藤村:次は二つ目の議題である「好奇心を持つこと」についてお聞きしたいと思います。日本のビジネスパーソンは世界と比較してもあまり勉強していません。イノベーションを起こすためには、さまざまなことを学べる余裕をつくる必要があります。口村さんにお聞きしますが、学びについてどのように支援されていますか。

口村:オンデマンドで学べるコースを常時無料で用意し、いつでも興味のあるテーマを選べるようになっています。また、ラーニングフェスティバルといった学びのキャンペーンを企画して、興味の持てるトピックスを用意しています。人事でもなるべく自主的に学べるよう工夫しているところです。

藤村:メルカリでは学びに関してはどのような支援を行っていますか。

木下:社内は中途入社のエンジニアが多く、成長意欲の高い人が多いですね。自主的な勉強会もよく開かれています。学びについて、よく社内で話題にするのは「タテかヨコか」ということです。タテとは専門性をより深くすること、ヨコは仕事の守備範囲を広くすることです。その人が志向することを会社としては応援したいと考えています。今は事業の多角化ということもあり、皆が新規事業について盛んに学んでいるところです。

藤村:次に三つ目の「互いに認め合う」という議題ですが、口村さんにお聞きします。今は業績管理の手法を変えている最中かと思いますが、社員の反応はいかがですか。

口村:日本では今年、新制度を管理職以上に導入しており、来年からは全社員に導入する予定です。社内では、レーティングをしないことで公平性が損なわれるのではないか、といった声も聞かれました。しかし、これからはチーム全員で目標の達成度や仕事について振り返れるようになるので、「仕事が腹落ちした」などの声も聞かれます。よいサイクルが生まれたチームもあります。「いかにフィードバック上手になれるか」を合言葉に、良い形で制度を定着させたいと考えています。

藤村:メルカリではイノベーティブな人事になるために、どんな施策を行われていますか。

木下:メルカリの組織がうまくいっている要因の一つは、1on1が根付いていることにあると思っています。コロナ禍で働き方がリモートワーク中心になりましたが、1on1で定期的に互いを認め合い、期待を伝えられる場があることで、スムーズな組織運営が可能になっている。2021年9月には、日本全国どこでも働ける「YOUR CHOICE」という制度を始めました。なぜ実施に踏み切れたかというと、コロナ禍でのリモートワークでも社内にイノベーションを起こせていると経営陣が自信を持てたからです。

藤村:私は最初に「イノベーションとは面白いことをやること」とお伝えしました。面白いことを考えて、それを実行しようとする人たちが組織内にいて、他のメンバーが「面白いからやってみろ」と背中を押す雰囲気のある組織が、イノベーションを起こせると思います。面白いことを考えるには時間的、精神的余裕が必要ですから、働き方改革は、そこにもつながるものだと思います。ぜひ皆さんの会社でも面白いことをして、どんどんイノベーションを起こしてほしいと思います。本日はありがとうございました。

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ヤフー株式会社は副業受入希望の企業様と、副業したい個人様のマッチング機会を作る「副業マッチングプラットフォーム」を提供しています。副業者とは直接業務委託契約の募集が可能です。登録者数10万人超から社内にない知識やスキルを持った優秀な人材と出会うことができます。サービス利用費は現在完全無料ですので、この機会に是非副業人材の活用をご検討ください。(サービス利用費完全無料は今後変更の可能性がございます)

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