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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2021-春-」講演レポート・動画 >  パネルセッション [N] 「部下の強みを引き出し、成長させる管理職」の育て方

「部下の強みを引き出し、成長させる管理職」の育て方

  • 東 由紀氏(コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事/総務本部 人事統括部 人財開発部 部長)
  • 戸部 雅之氏(三井情報株式会社 人事総務統括本部 本部長)
  • 松尾 睦氏(北海道大学大学院 経済学研究院 教授)
パネルセッション [N]2021.07.02 掲載
講演写真

多様化する人材のマネジメントや、リモート環境での部下とのコミュニケーションなど、管理職が抱える課題は増えるばかりです。部下の育成もその一つですが、強みを引き出し成長させていくために管理職に求められることとは何でしょうか。また「育て上手な管理職」を育成するために、人事・人材開発担当者はどのような教育を行うべきなのでしょうか。コカ・コーラ ボトラーズジャパンの東氏、三井情報の戸部氏、「経験学習」研究の第一人者である北海道大学大学院の松尾氏が、いま求められる「管理職育成」のあり方についてディスカッションしました。

プロフィール
東 由紀氏( コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 人事/総務本部 人事統括部 人財開発部 部長)
東 由紀 プロフィール写真

(ひがし ゆき)ニューヨーク州立大学卒業後、外資系と日系の金融機関でセールスやマーケティングの業務に従事し、2013年に人事にキャリアチェンジ。野村證券でグローバル部門のタレントマネジメントとダイバーシティ&インクルージョンのジャパンヘッドに着任。その後、アクセンチュアを経て。2020年2月より現職で人財開発、採用、評価制度を統括。中央大学大学院戦略経営修士、職場におけるLGBTアライと施策の効果について研究。 2018年11月からAllies Connectの代表として、企業×アカデミック×社会のアライをつなげる活動を開始。特定NPO法人東京レインボープライド理事、認定NPO法人ReBit アドバイザー。


戸部 雅之氏( 三井情報株式会社 人事総務統括本部 本部長)
戸部 雅之 プロフィール写真

(とべ まさゆき)1989年、現・三井情報の前身会社の1社である三井情報開発株式会社に技術職として入社。多数の大規模システム開発プロジェクトを経験後、2007年よりITコンサルティング部門を統括し、業務プロセス改善を実現するコンサルタントを数多く育成。2011年英国現地法人MKI (U.K.)社長。2015年本社技術部門にてクラウドサービス、金融ソリューション、スマートサービスなどの技術本部長を歴任、2018年よりコーポレート部門にて人材戦略、人事制度改革を担当。2019年人事総務統括本部長。


松尾 睦氏( 北海道大学大学院 経済学研究院 教授)
松尾 睦 プロフィール写真

(まつお まこと)1988年小樽商科大学商学部卒業。92年北海道大学大学院文学研究科(行動科学専攻)修士課程修了。99年東京工業大学大学院社会理工学研究科(人間行動システム専攻)博士課程修了。博士(学術)。2004年英国ランカスター大学にてPh.D. (Management Learning)取得。神戸大学大学院経営学研究科教授などを経て現職。著書に『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』(「HRアワード2020」書籍部門 入賞)『「経験学習」ケーススタディ』『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』(「HRアワード2012」書籍部門 最優秀賞 受賞)(いずれもダイヤモンド社)ほか。


リーダーシップ開発に必要な三つの指標

まずは「経験学習」研究の第一人者である北海道大学大学院の松尾氏が、本セッションの趣旨について解説した。テーマは、「部下の強みを引き出し、成長させる管理職の育て方」。そもそも、なぜ今、部下の強みを引き出し、成長させていく管理職が求められているのだろうか。

「人材育成に熱心な企業を調査したところ、高業績者の管理職には二つのタイプがいました。一方は、いわゆる“ゴリゴリ系”。『業績を上げるやり方はわかっているから、オレの言う通りにしろ』と命令して部下を動かすタイプです。もう一方は“育成系”。部下の強みを引き出しながら業績を上げます。どちらのタイプでも、短期的に見れば同じ業績を出し、同じように評価されています。しかし中長期的な視野で捉えると、ゴリゴリ系では部下が育たず、徐々に数字を上げるのが難しくなっていきます。中長期的に数字を上げていくためには、いかに育成タイプのマネジャーを増やしていくかが大切なのです」

では、育て上手な管理職はどのように部下に向き合い、支援をしているのか。松尾氏は、経験学習モデルを例に挙げて解説した。

「『経験する』→『振り返る』→『教訓を引き出す』→『応用する』という経験学習モデルは、部下を育てることにも当然ながら活用できます。『経験する(成長ゴールによる経験の意味づけをする)』→『振り返る(失敗と成功を振り返る)』→『教訓を引き出す(強みを認識する)』→『応用する(強みを活用し・強化する)』。育成系の管理職は、このように部下の経験学習を支援することができます」

ここで松尾氏からセッション参加者にある質問が投げかけられた。一つは、「会社にマネジャーの育成力データはあるか」、もう一つは「会社でマネジャーの育成力向上をサポートしているか」だ。

「さまざまな企業を支援する中で『育成力についてのデータをください』というと、『ない』と回答されることが約8割。測定できないものはマネジメントできない、というのが私の考えです。管理職の育成力を上げたいのであれば、まず今の力を把握することが重要です。また、人事や人材開発の部署は、マネジャーの育成力向上をしっかりとサポートしてください。なぜなら、支えなければ、マネジャーがつぶれてしまうからです。現在マネジャーには、業績もコンプライアンスも人材育成もハラスメント対策もと、さまざまな領域が任されています。マネジャーを支える仕組みが必要です」

講演写真

続いて松尾氏は、この後に発表されるコカ・コーラ ボトラーズジャパンや三井情報のケーススタディでは、Center for Creative Leadership(アメリカのリーダーシップ研究所)が定義したリーダーシップ開発モデルをもとに、各社の管理職育成施策が紹介されると述べた。

リーダーシップ開発モデルは、育成力を評価し、活用するための指標。Center for Creative Leadershipでは「アセスメント(測定):育成能力の評価や強み・弱みの評価」「チャレンジ(挑戦):成長を促す経験」「サポート(支援):コーチングやトレーニング、コミュニティ」が重要だと定義されている。この三つの指標がそろってはじめて、いいマネジャーが育つのだ。各社のケーススタディ紹介では、「どのようにアセスメントを収集し、評価しているのか」「どう挑戦を促し、マネジャーの支援をしているのか」に絞ってプレゼンテーションが行われた。

コカ・コーラ ボトラーズジャパン 東氏のプレゼンテーション:
「リフレクションサーベイ」と「選抜型変革リーダーの育成プログラム」

続いてコカ・コーラ ボトラーズジャパンの東氏が登壇した。コカ・コーラシステムのビジネスは、原液の供給および製品の企画開発や広告などのマーケティング活動を行う「日本コカ・コーラ株式会社」と、製品の製造・物流・販売から回収・リサイクルを行う5つの「ボトラー社」で構成されている。同社は、18年間で国内12のボトラー社が統合され、2018年にコカ・コーラ ボトラーズジャパンとして新しく設立された内資系企業だ。

「国内12のボトラー社が統合されたことで、各社約1000~6000人だった従業員は、約1万6000人規模に。売上収益ではアジア最大のボトラー社となり、海外拠点とのコミュニケーションも飛躍的に増えました。また、2019年に、現社長のカリン・ドラガンが就任し、ビジネスモデルを変更したことに伴い、企業理念『Paint it RED! 未来を塗りかえろ。』と、この企業理念を総称とするミッション・ビジョン・バリューを刷新。同時に社員に求められるスキルが急激に、そして大きく変化したのです」

同社で従来求められていたのは、製造業として決められた手順に沿って、ルールを順守したものづくりができるリーダーだった。しかし、企業統合によりビジネスモデルを転換したことで「これまでの方法を率先垂範するマネジャー」ではなく「変革を推進するリーダー」を育成する必要が出てきた。

東氏は同社が手がけている管理職育成施策について、まずはリーダーシップ開発モデルの“アセスメント”にあたる「リフレクションサーベイ (360度調査) 」を紹介した。同社では、2018年から年に一度、上司と部下、本人による360度サーベイを実施している。特徴的なのは、結果を管理職とその上司に提供し、改善・強化ポイントに対しアクションプランを立て、業務の中での実践と、定期的な振り返りを繰り返していること。加えて低スコア者に対しては、人事が個別対応している。全社的な課題は、管理職向けの研修テーマとして改善に取り組んでいる。

「360度調査のデータを取ることによって、全社的な課題を把握できるようになりました。データを取り始めた当初は、自身の業務遂行力は高いけれど、育成系のスコアが低い管理職が多かったんです。全社的な課題は管理職研修のテーマとして取り組み、低スコア者に対しては上司を巻き込んだ育成で改善を促しました。低スコア者は毎年減少しており、本人と部下のスコアギャップも改善しています」

東氏が続いて紹介したのは、リーダーシップ開発モデルの“チャレンジ”にあたる選抜型変革リーダーの育成プログラム「コカ・コーラ ユニバーシティ ジャパン(CCUJ)」。“これまでのやり方は選択肢にない”を掲げ、2020年に設立し、変革を導くリーダーの育成を目指している。

CCUJでは、各部門の人財会議により選定されたキー人財を部長レベル、課長レベル、現場のリーダーレベルの3階層に分けて、6ヵ月から1年をかけて変革推進リーダーとして育成する。製造業の現場では「失敗」は許されないため、研修はあえて「失敗して良い場」とし、新しい考えや方法を試すことが推奨されている。例として紹介された課長向けのCCUJ IIでは、期間中に約10回の集合セッションを実施。インプットとアウトプットを反復し、経験学習サイクルを回すことで変革リーダーとしての知識とマインドセット、経験が得られる仕組みになっている。

研修の効果を定量的に計測し、可視化することにも力をいれている。九州大学ビジネス・スクールの松永正樹准教授との共同調査によると、「研修や取り組みの効果は、着実に出ています。研修前後に受講者に対して実施した調査では、全方位型・変革志向リーダーの割合が19.8%から31.9%に増加、支援と育成志向リーダーの割合は15.3%から26.1%に増加しました。反対に、弊社のこれまでのリーダー像である権限依存型とプレイングマネジャー志向リーダーの割合は低下し、狙い通りの意識変革が見られました」

また、東氏からは「変革リーダーのネットワーク構築」にも注力していることが語られた。これはリーダーシップ開発モデルの“サポート”にあたる。

CCUJの研修実施期間中は変革推進リーダーを横のラインでつなぎ、同じ役職同士で互いにサポートする横のネットワークを構築。CCUJの研修終了後は、修了生のCCUJ Alumniネットワークを通じてメンタリングプログラムや全社的な課題に取り組むスモールプロジェクト、経営層とのネットワーキングなどを実施し、他の役職層の変革推進リーダーとの縦のネットワーク構築が計画されている。研修で変革推進リーダーを育成するだけではなく、社内にネットワークを
構築することにより、変革が推進される組織の醸成を人事としてサポートしているのだ。

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三井情報 戸部氏のプレゼンテーション:
「育成を目的とした管理職登用試験」と「社員全員参加のワークショップ」

続いて登壇したのは、三井情報の戸部氏。同社は、1967年に三井物産の情報システム部門が独立して発足以来、各分野の専門技術を携えたICT企業を結集。2007年に現在の三井情報株式会社となった。業界や規模を問わず、さまざまな企業のIT活用やデジタルトランスフォーメーションの推進を支援。コンサルティングから開発・構築、運用・保守、クラウドサービスまで幅広い選択肢から最適なソリューションを提供している。従業員数は2300名規模で、毎年4%ずつ増加している。まずは戸部氏より、三井情報の人事体制が語られた。

「当社では2019年に『人材基本方針』を再定義し、考え方を明文化しました。その人材基本方針のもと全社共通研修や人事ローテーション、人事評価、OJTリーダー制度、育成ガイドラインなど全社員共通の育成施策が企画・実行されています。また、部門ごとに人材育成に関する実行責任者を置き、営業や技術、コーポレートなど各部門の研修やローテーション、個の把握などを行っています」

続いて共有されたのは、三井情報の管理職登用試験について。これはリーダーシップ開発モデルの“チャレンジ”にあたる。

「当社では、管理職登用試験を“管理職育成の場”として運用しています。上司は部下を管理職に推薦する際、受験者をどのように育成するかを推薦書に明記します。管理職にチャレンジする受験者も、論文と面接で、マネジメントへの考え方やキャリアプランなどをじっくりと問われます。評価後は、受験者と上司にフィードバックが行われ、受験者のみならず上司への育成にも重きが置かれています。実は、外部の管理職登用試験のサービスを利用していた時期もありましたが、5年前から内製し、会社全体で人を育てていく体制をとっています」

また、風土醸成の一環として、社員全員が参加して討議するワークショップを開催。会社としてどのような価値観を大切にしているか、あるいは自分たちが何を大事に仕事に取り組んでいきたいかなど、自由に意見を出せる場をつくっている。

これとは別に、各部門でライン長を中心に自主的に運営する車座形式の場も運営。懇親会やタウンミーティング、合宿など社員の声を聴き、ざっくばらんに話せる場となっている。営業系の部門では、人材育成に関する実行責任者がマネジャーを支援。営業部門全体で人を育てることを大切に、部内の人事課題を議論する「人事マスター会議」が月1回開催されている。

戸部氏は、プレゼンテーションの最後に、リーダーシップ開発モデルの指標“アセスメント”についての同社の取り組みをこう紹介した。

「全社ワークショップや、管理職向け車座の会で出た意見や考え方を収集し、データにまとめています。評価アンケートでは出てこないリーダーの考えや思い、リアルな声を丁寧に拾っていくことを重視。また、当社の評価シートには、全ての等級において『人材育成(定量・定性)』の項目があります。ライン管理職は『人材マネジメントと育成』の定義に基づき、後継者育成がマストになっているのです。このような取り組みも、人材育成を重視し、管理職が育つ風土づくりにつながっていると感じます」

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管理職を支援するネットワークをいかにつくるか

ここからは松尾氏がファシリテーターを務めて、ディスカッションが行われた。

松尾:東さんにうかがいます。研修だけに終わらないネットワークを構築されているのは世代間ギャップの解消にもつながり、とてもすばらしいと感じました。「横の組織×縦の組織」でのネットワーク構築は、具体的にはどのように実施されているのでしょうか。

東:CCUJはまもなく第1期が終わるところなので、実施はこれからになりますが、基本的には部長層、課長層、管理職一歩手前のリーダー層から選抜して5~6人ほどの小グループをつくり、メンタリングをはじめとするスモールプロジェクトを動かしてもらう予定です。なんとなく集まっても、ただ雑談で終わってしまったり、途中で開催されなくなってしまったりすることが多いので、研修期間中に受講者がディスカッションの中で挙げていた会社に対する課題をプロジェクト化して取り組んでもらいます。そうすると、部長や課長は一般の社員が何を考えているのかを把握できますし、一般の社員側も、1階層・2階層上の管理職がどんな視座で物事を捉えているのかがわかるようになります。「会社を知って、貢献する」意識を醸成するためにも、縦と横を横断するネットワークをつくっています。

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松尾:三井情報でも、縦×横のコミュニティをつくっていらっしゃいますね。

戸部:先ほどお話した社員全員が参加して討議するワークショップでは、あえて部署や職種、職位を問わないグルーピングをしています。ですからワークショップの冒頭は「初めまして」からスタートするケースも多いんです。まったく違う立場、まったく違う職種にいるような人たちが普段何を考えて仕事をしているのかに触れられる貴重な場になっています。

松尾:車座の会は、全社でのワークショップと異なり、現場で自主的に開催されているとのことでした。非公式に話し合われたことを、どのように人事は把握しているのでしょうか。

戸部:いろいろなケースがあります。開催された車座の会に人事や経営企画のスタッフが見学に行くこともありますし、会が終わったあとに別途ヒアリングを行うこともあります。場合によってはアンケートを取ることもありますね。

松尾:自主的に行われているものだから「自分たちでやってね」で終わるのではなく、きちんと人事側が聞きに行ったり、話し合われた内容を本部に持ち帰って、参加者に「とても面白い会をしていますね」とフィードバックしたり。“見守ってもらえている感”、“支援してもらっている感”があることで、コミュニティが途切れずに、循環できているのだろうと思いました。

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質疑応答:
育成を評価する難しさ。管理職の納得感を高める工夫とは

松尾:ここからは本セッションの視聴者からの質問を取り上げたいと思います。東さんに「管理職の育成スコアは、具体的にどのように測定しているのでしょうか?」という質問がきています。

東:リフレクションサーベイと、CCUJでは、管理職に質問している項目が違います。リフレクションサーベイでは、二十数問ある質問の中の一部に、育成に関する項目があり、「能力開発に関心を持って成長や目標達成のためのサポートができているか」や「目標達成をすることにより、どのようにキャリアに役立つかを伝え、部下のモチベーションを引き出せているか」など、育成にまつわる行動をピンポイントに聞いています。

CCUJは、管理職に求められる役割における育成の優先順位を、いろいろな角度から質問しています。研修前には育成の優先順位が低かったのが、研修後には「非常に重要」「最重要」の割合が高まっています。

松尾:リフレクションサーベイで、上司と本人での評価に大きなギャップが生じた場合、どのように対応されていますか。結果を上司にフィードバックするだけで、その差が縮まるものなのでしょうか。

東:基本的には上司と本人にフィードバックをして、その後の改善はお任せしているのですが、育成スコアが著しく低い場合には、人事の担当者が間に入って三者面談をしながら課題を洗い出し、必要であればメンタリングやコーチング、研修などを受けてもらいます。ピンポイントに対応をしていて、その結果、ロースコア者は減っていっている状況です。

松尾:戸部さんへの質問です。「アセスメントでアンケートに出てこない考え方や思いを把握する取り組みを挙げていらっしゃいましたが、どのように把握されているのでしょうか」

戸部:たとえば先ほどお話したワークショップでは、「会社の何が好き?」「将来どんな会社になってほしい?」「大事にしたいことは?」というテーマでディスカッションや発表をしてもらいました。所属する組織やライン管理の中では出てこないような話が出てくるので、そこででてきたキーワードをテキストマイニングで分析すると、頻出するフレーズが浮かび上がってくる。そのような言葉から、当社の社員の傾向分析や風土づくりに活かしています。安心できる、また共感し合える場だからこそ出てくる表現を拾うことを大事にしています。

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松尾:両社とも、アンケートだけではなく、現場の声や働く人々の生の声を把握しようとされていますね。とても重要なことだと思います。続いて、東さんへの質問です。「CCUJでは、どのようなプログラムでリーダーの変革マインドを醸成しているのでしょうか?」

東:要点だけお伝えすると、“変革をリードする!”というのがCCUJのテーマになっています。そのために必要なマインド、たとえばダイバーシティ&インクルージョンやインクルーシブ・リーダーシップなどを学ぶプログラムを、講義や演習を交えて実施しています。

加えて、大きなテーマとして取り入れているのが「リーダーとしての軸を探求する」というプログラムです。そもそも自分自身が何を大事にして、何を目指しているのかという自分の軸をしっかりと持っていないと、誰も見たことがない・やったことがないことを人に提案し、周囲を説得し、推し進めていくことはできないと考えているからです。発する言葉一つにも、リーダーとしての軸が表れますから。上の階層に行けば行くほど「リーダーとしての軸を探求する」プログラムを長めに入れるようにしています。

松尾:お二人に質問がきています。「育成という指標に対して評価することの難しさを感じています。評価された管理職の納得感を高める工夫があれば教えください」。これはいかがでしょうか。

戸部:正直なところ、まだ当社も悩みながらやっているのが実状です。管理職登用試験や評価面談などを通じて、管理職自身の考えや将来のビジョン、あるいは抱えている課題を聞き、サポートすることはできるようになってきました。ですが、評価への納得感という点でいうと上長と部下の対話だけで行われている部分がまだ大きいんです。

ただ近年、若年層向けの360度評価をスタートし、評価内容を多面的・多角的に捉えられるようになってきています。さまざまな角度からの評価情報を提供することで、納得感を上げられるのではないかと考えています。当社においても、現在進行形で課題を解決する施策を模索している最中です。

東:これは本当に難しい問題ですよね。当社では、育成スコアが低い管理職に対しては人事が介入し、何がダメなのか、なぜギャップが生じているのかをかなり細かくフィードバックしています。そのため低スコア者に対する評価の納得感というのはまだ得られているのですが、全社的に取り組みができているかを問われると、「できています」とは言えません。

変化の激しいビジネス環境で、コンプライアンスもきつくなっている中、ダイバーシティ&インクルージョンも、新しい変革もやらなければならないと、どうしても管理職側はパワーで人を動かす、強いリーダーシップを発揮しがちです。それに対して、部下が上司の育成力やマネジメント力に低い評価を付けた場合、「そうは言っても、目標達成のためには必要でしょう?」と上司側が思ってしまう。

そこで必要なのは、人事側が一つひとつ細かく丁寧に、リフレクションサーベイの読み方を伝えていくこと。間に入って、「部下はこんなコミュニケーションを求めていますよ」と伝えることではないかと思います。ただ、やはりとても難しいテーマですよね。松尾先生はどうお考えでしょうか。

松尾:数値でポン、と低い評価が出てくると、受け取った側は「えー、何これ?」とか、「そうは言っても仕方がないよ」と思いがちなのですが、定性のコメントを読むと「そうか、そういう側面もあるな」と案外納得することはあると思います。お二人がおっしゃるように、多面的に定量・定性の評価を合わせて伝えること。また、専門家が間に入って「こういう意味ではないでしょうか」と評価の見方や解釈を伝えることが重要だと思います。

本セッションは、リーダーシップ開発モデルに沿って、部下の強みを引き出し、成長させる管理職の育て方をテーマに議論しました。リーダーシップ開発モデルの指標の一つであるチャレンジは多くの企業で行われていますが、一方で、アセスメントやサポートが不足している企業は多い印象があります。

アセスメントについては、コカ・コーラボトラーズジャパンも三井情報も、定量だけではなく定性、つまり生の現場の声をテキストマイニングやワークショップで吸い上げて収集されていました。数値だけではなく、定性の情報を収集し、共有することで納得感が生まれ、課題の理解も深まるのだと思います。

また、両社ともコミュニティを形成し、マネジャーを支えています。横のコミュニティと縦のコミュニティを掛け合わせ、お互いがフィードバックして支え合う。そのような体制があれば、思い切ったチャレンジができますし、ダイバーシティ&インクルージョンに基づいたマネジメントも実現しやすいのではないかと感じます。東さん、戸部さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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