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次代の経営を担うリーダーを育成する

  • 東野 敦氏(江崎グリコ株式会社 グループ人事部 戦略企画グループ兼海外人事グループ長)
  • 石原 健一朗氏(ダイドードリンコ株式会社 人事総務部 人事グループ マネージャー)
  • 小杉 俊哉氏(慶應義塾大学大学院 理工学研究科 特任教授)
大阪パネルセッション [OD]2019.07.19 掲載
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変革が進む中、次代の経営を担う真のリーダーの育成が期待されている。慶應義塾大学大学院特任教授の小杉俊哉氏は、企業が多様な経験を提供することが新たなリーダー育成につながると語る。独自のリーダー育成施策を実施する江崎グリコの東野氏、ダイドードリンコの石原氏を招き、次世代リーダーの育成について議論が行われた。

プロフィール
東野 敦氏( 江崎グリコ株式会社 グループ人事部 戦略企画グループ兼海外人事グループ長)
東野 敦 プロフィール写真

(ひがしの あつし)大手自動車完成車メーカーで、一貫してグローバルHR部門に在籍、海外の研究開発法人や海外拠点の立ち上げ、生産性向上など、数多くの現地法人の支援に携わる。フィリピンへの駐在等を経験した後、2015年に江崎グリコ株式会社入社、海外人事の責任者としてGlicoのグローバル展開を推進中。


石原 健一朗氏( ダイドードリンコ株式会社 人事総務部 人事グループ マネージャー)
石原 健一朗 プロフィール写真

(いしはら けんいちろう)大学卒業後、大手電子機器メーカーに新卒で入社し、在職中は一貫して人材開発、組織開発に従事。教育研修の全社統括部門において、階層別教育や役職別教育を新規で立ち上げ、教育体系の再構築を実施。企画部門の責任者として階層別教育の内製化、各種研修の企画・運営・講師を担当。また、多角化企業の同社において、各事業のさまざまな部門の組織開発を行った経験を踏まえ、複数の階層向けのリーダーシップ教育プログラムを新規に自前で開発し全社展開を実施。2015年にダイドードリンコ株式会社に入社後は、次世代リーダーの育成選抜プログラムを主軸に据えた教育体系の構築に従事しながら、採用、教育チームを統括。


小杉 俊哉氏( 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 特任教授)
小杉 俊哉 プロフィール写真

(こすぎ としや)早稲田大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。日本電気株式会社、マッキンゼー・アンド・カンパニー インク、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ株式会社人事総務本部長を経て独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授を経て現職。元立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科 客員教授。専門は、人事・組織、キャリア・リーダーシップ開発。著書に、『職業としてのプロ経営者』、『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)、『リーダーシップ 3.0-カリスマから支援者へ』(祥伝社新書)など。


小杉氏によるプレゼンテーション:日本の組織はリーダー育成を行ってきたのか

小杉氏はまず、「日本の組織は果たしてリーダーを育成してきたのか」と会場に問いかけた。

「マネジメント教育は行っても、リーダーシップ育成は行ってこなかったのではないでしょうか。例えば日本企業には『多面評価は部長まで』というところが多く、役員になるとあまり行われていません。この点は諸外国と異なります。本来であれば社外からのアセスメントを受け、役員もそこから伸びなければいけません」

小杉氏は、マネジャーとリーダーは全く違うものだと語る。マネジャーは組織上の役割だが、リーダーは本来、役職とは関係がないものだ。

「マネジャーは物事を正しく行うこと、つまりHOWが課題になります。しかし、リーダーは正しいことを行う、WHATが課題。個人の名前で周囲に影響力を与えて、何かを生み出すことがリーダーの役割です」

近年は人材の意識や環境が変化しているにもかかわらず、若手には昔ながらのやり方を押しつけている点にも問題があると、小杉氏は語る。

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「23~38歳のミレニアル世代が労働人口の35%を占めるようになっています。この世代は『あまり海外に興味がない』『私生活を大事にする』『リスクを取らない』『身の回りにフォーカスするか、社会指向が強い』といった特長があり、私たちとはかなり意識が違っています。22歳以下のZ世代はさらに異なり、デジタル・ネイティブで、共感・感動がないと動かない、また、既存の組織を信じていないため、結果的に独立・起業指向が強いと彼らと接していて感じます。以前からの雇用、人材管理の手法には限界があるのではないでしょうか」

組織と個人の関係も、上下の関係から対等の関係に変化してきている。個人は「起業家のように」自律的に動かなければリーダーにはなれない。今のリーダーには顧客志向、課題発見・仮説構築力(know what)、継続的学習が求められている。

「今、上司や経営トップはビジネスの答えを持っていません。そのため、顧客に最も近い現場が答えを持つことを期待されています。日本企業はEOD(Employee on Demand)、つまり必要な人材を必要なときに採ってくることができない以上、社員に自律的に働いてもらわないとイノベーションは起こりません。だからこそ、いかに多様な人材に自律的に動いてもらうかが、カギとなります」

企業が働き方改革に取り組んで業務効率を上げても、「今日の飯の種」のために100%の時間を使っているようでは「明日の飯の種」は生まれない。小杉氏は、今のリーダーには問題を解く能力ではなく、問題文を作る能力が求められていると語る。

そのような流れに沿った企業の取り組み事例として有名なのがGoogle社の「20%ルール」だ。これは業務時間のうち、20%を普段の業務とは異なる業務に当てるものだ。また、3M社では「15%カルチャー」として執務時間の15%を自分の好きな研究に使ってよいという制度を設けている。では、次世代のリーダーを生むために人事はどのような環境を用意すべきなのか。

「一般的に自律した人材は組織の2%程度だと実感していますが、これをどのように増やしていけばいいのか。今は個人としてミッション、ビジョン、アクションプランへのコミットメントが求められる時代です。次世代リーダーは、今までの社内純粋培養ではダメで、もっと他流試合が必要になるでしょう。企業が多種多様な経験の場を用意し、人材を支援していかなければリーダーは育たないのではないでしょうか」

東野氏によるプレゼンテーション:人財育成の考え方とリーダー育成の取り組み

続いて東野氏が、江崎グリコで2018年から始まった人事戦略を解説した。

「『人で勝つ』をテーマに、グローバルレベルの人事の仕組みを整備し、企業戦略を迅速に実行する。そして、組織・人のパフォーマンスを可視化し、生産性を高め、目標を提示して人財を育成することを人事戦略としました」

同社はグローバルで一体となるために、パフォーマンスの可視化、エンゲージメントの向上を図っており、今は大改革の真っただ中にある。特に人材育成ではリーダーシップの育成、皆で学びあうラーニングカルチャーに力を入れている。その中で全体の底上げを目的に行っている施策がメンタープラン「GMP(Glico Mentor Plan)」だ。

「新卒およびキャリアで入社した新規配属者に対して、所属部署以外の先輩社員をメンターとして配置。抱えている問題や悩み、自身のありたい姿やキャリアについて対話できる体制を整えました。実施期間は、新入社員の場合は配属から翌年3月まで、キャリア入社者の場合は入社後6ヵ月間。月に1回1時間以上、メンターとの面談の場を持ってもらっています」

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相談内容は、「自己啓発の進め方」「仕事への取り組み方」「キャリアプランについて」「人生観(趣味や価値観)」「ワークライフバランスについて」などだ。メンターである先輩社員と対話を重ねることで、より一層主体的に仕事に取り組むことを後押しする。

加えて、同社が力を入れているのは、オープンイノベーションによる傾聴術研修だ。ダイバーシティ環境における4社合同のコミュニケーション研修であり、同社はメンター研修の一部に組み込んでいる。

「入社3年目の人財育成担当者の発案で実現したものです。業態、職種が異なる参加者による対外試合であり、講師・会場は各社の持ち回りで、外部研修と同様の緊張感があります。研修では当日初めて会う人の話を傾聴することから得られる経験と気付きがあり、社内でも高い評価を得ています」

石原氏によるプレゼンテーション:次世代リーダー育成の考え方と施策

最後に石原氏が、企業成長と発展を支える次世代リーダーを育成・選抜するプログラム「DIA(DyDo Innovation Academy)」について語った。

「構造改革以前は、ミッションやビジョンの概念整理やベクトル合わせができていませんでした。リーダーを育てるには、本人がリーダーシップを発揮した経験が重要です。このプログラムでは『逆境に身を置く』『全力を出して限界や挫折を知る』『当事者意識を持って主体性を発揮する』『自分の頭で考える』といった経験をすることを重要視しています」

「DIAは2016年に立ち上げられた、5年間におよぶプログラムだ。1年目から2年目までは木であれば根を張る期間。3年目以降は幹や枝を育てる期間であり、現在は3年目の段階にある。

DIAの目的は主に二つ。一つ目は、将来のDyDoを支える世代(チーム)を育て、グループ経営視点をもった現場リーダーを輩出すること。二つ目は、成長戦略にチャレンジし、リーダーシップを発揮した自らの経験を語れる人材を増やすことだ。

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「1年目のテーマは、問題解決です。自部署における問題を把握して、原因を分析。解決策を考えて目標を立て、その目標を達成するためにきちんと計画を立てます。2年目のテーマは、課題解決です。3年後のビジョンを描き、その実現に向けた課題を設定します。その上で、半年後の達成目標を決めて計画を立てますが、行動を起こすことが最も重要です」

DIAの流れは「受講者確定→事前課題→研修→約半年間の現場実践(事後課題への取り組み)」となる。研修後も受講者同士で集まり、定期的に事後課題を考えるサークル活動を行う。1年目は初級管理職クラスの等級で45歳までの社員を対象にして上長に案内を送り、研修を実施。2年目以降は上長ではなく本人宛てに直接案内を送り、手挙げ式で受講希望者を募っている。

「3年目のコースにはハードな『アドバンス』と通常の『ベーシック』を用意し、受講者本人に受講コースを決めてもらいます。『アドバンス』では最後に受講者同士で相互評価を行う選抜試験があり、これを通過しないと次に進めません」

DIA1年目の受講者は130名だったが、3年目で最終的に面談に進んだ人数は35名。人数が絞り込まれていく過程の中で、人事は手応えを感じている。

「DIAによって、社内のチャレンジに対する概念が変わったように思います。また、部門を超えた交流が増えて、部門間の相互理解も進みました」

ディスカッション:人事が行うべき真のリーダー育成とは

小杉:東野さんにお聞きします。リーダーシップのトレーニングに傾聴を取り入れていますが、どんな意図があったのでしょうか。

東野:メンターの人たちから、「何を話せばいいのかわからなくなるので、ゴールを明確にしてほしい」とよく言われます。「相手の話を聞くことが目的」と伝えるのですが、メンターはすぐに答えを教えようとしてしまいがちです。そこで、社内にもっと話を聞く文化を醸成したいと考え、傾聴を取り入れました。

小杉:傾聴には、関係性を構築する側面もあります。関係性がよくなれば、前向きになって主体的になれる。その意味でも、傾聴は効果的です。一方、石原さんは主体性を大事にされていますね。具体的にどのように取り組まれているのでしょうか。

石原:受講者には、職場や仕事の潜在的な問題を自ら抽出してもらっています。しかし、それが職場の上司にとってはあまり触れられたくない問題だったりする。そのため、上司を巻き込んで問題を解決していくこと自体が難易度の高いハードな経験となります。そういった状況を逆境と想定して行っています。

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小杉:自ら課題に足を踏み込むというのは、感覚的にはGoogleの20%ルールに近いのかもしれません。ここで、事前に参加者からいただいた質問を二人にお聞きしたいと思います。マネジャー育成の延長線上で、経営リーダーを育成していくことは可能だと思われますか。

東野:経営リーダーの育成は社内だけでは限界があります。しかし、一方で自らを動かしていくドライブを得るには、企業理念のもとでやったほうがいい。両方をバランスよく活用することが重要だと思います。

石原:選抜教育は上司が部下を選んで推薦するケースが多いですが、経営リーダーを育成する場合、自ら手を挙げる主体的な人を尊重することが重要です。自分で考えて自らレールを敷いていけるような人材が求められます。

小杉:次の質問です。リーダー人材で有望だからといっても、ポストは自由に与えられません。ポジションはどのように対応していけばよいと考えていますか。

東野:グローバルでは本部長が入れ替わると、リーダーに若手を登用するなど、本部長の一存で新たにリーダーがつくられます。その点では新陳代謝が行えるシステムになっている。これがうまく機能すれば、若くて力のあるリーダーが生まれます。こういった仕組みを活用していきたいと思います。

石原:選別教育でリーダー育成を行っていますが、ポストとはひもづけないようにしています。「DIAに参加すればポストもついてくる」と思って参加する人ではなく、組織や会社のために自らリーダーシップを発揮したいと思う人を尊重したいからです。結果的には参加者がポストに就くことが多くなっています。

小杉:お二人の話をうかがって、リーダーは環境をつくって自ら育たないと、真のリーダーにならないことがよくわかりました。こういう発想をもって、人事はリーダーを育成していかなければなりません。また、現状を変えていくには自分自身に対してもリーダーシップを発揮しなければならない。これを自律と呼びますが、自律している人しかリーダーにはなれないのです。皆さんもリーダーシップを発揮して、会社を変えていっていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

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