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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2019-春-」講演レポート・動画 >  パネルセッション [TD] 導入企業が語る、HRテクノロジー導入、活用の本音

導入企業が語る、HRテクノロジー導入、活用の本音

<協賛:株式会社SmartHR>
  • 宮田 昇始氏(株式会社SmartHR 代表取締役)
  • 中村 朋広氏(株式会社サッポロドラッグストアー 人事部 給与厚生担当)
  • 加藤 清宏氏(株式会社セクションエイト 財務・経理部 部長)
  • 篠崎 孝太氏(合同会社DMM.com 人事総務本部 人事部 東京労務グループ チームリーダー)
TECH DAYパネルセッション [TD]2019.06.25 掲載
株式会社SmartHR講演写真

近年、HRテクノロジーを活用して人事業務の効率化を推進する企業が増えている。一方、実際に導入した企業の「生の声」を聞ける機会は多くはない。本パネルセッションでは、労務管理クラウド「SmartHR」をはじめ、複数のツールを運用している企業の担当者を迎え、導入後の効果や社内での反響、導入を決定した際の社内の説得方法など、HRテクノロジーツールの導入・活用の実際についてディスカッションが行われた。

プロフィール
宮田 昇始氏( 株式会社SmartHR 代表取締役)
宮田 昇始 プロフィール写真

(みやた しょうじ)株式会社SmartHRの代表取締役CEO。2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に自身の闘病経験をもとにしたクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を公開。利用企業数は公開後3年で20,000社を突破。2019年1月には、保険業界における非合理の解消を目指す「SmartHR Insurance」を設立した。


中村 朋広氏( 株式会社サッポロドラッグストアー 人事部 給与厚生担当)
加藤 清宏氏( 株式会社セクションエイト 財務・経理部 部長)
篠崎 孝太氏( 合同会社DMM.com 人事総務本部 人事部 東京労務グループ チームリーダー)

2万4,000社以上で利用されている労務管理クラウド「SmartHR」

講演写真

セッションの司会・進行役を務めた株式会社SmartHRの代表取締役・宮田昇始氏は、労務管理クラウド「SmartHR」の開発者としても知られる存在だ。「SmartHR」はサービス開始から約3年。すでに2万4000社以上の企業で活用されている。現在ではIT系企業、飲食・小売チェーン、不動産、人材派遣、医療、鉄道など、さまざまな業種での導入が進んでいる。ベンチャーから数万人単位の大企業までをカバーできる機能を網羅した労務管理クラウドサービスだ。

宮田:私たちは、企業の人事担当者が抱える煩雑な業務を簡素化することを目的に、サービスを開発してきました。本日は「SmartHR」以外のHRテクノロジーも含めて、さまざまなお話をしたいと考えています。事前アンケートではポジティブな話だけでなくネガティブな情報も知りたいという要望もありましたので、そのあたりも意識して有意義な時間にしたいと思います。

パネリストの三氏は、飲食チェーン、小売チェーン、ITサービスとそれぞれ異なる業種の人事担当者。HRテクノロジー導入・運用の担当者として、現場を知り尽くしている。パネルセッションは、「YES」「NO」「YESとは言い切れない」「オフレコ」の4種類の回答札がパネリストに配られ、質疑応答を実施。回答札で自身の立場を明らかにした上で意見を述べるスタイルで進められた。

HRテクノロジーを十分に活用できているのか

宮田:では、最初の質問です。皆さまの会社では、HRテクノロジーを十分に活用できていますか。

中村:YESです。サッポロドラッグストアーは、全国に約250店舗のドラッグストアーや調剤薬局などを展開しています。人事書類を紙でやりとりしていたころは、各店舗に書類をメール便で送る作業が欠かせませんでした。書類の量も作業の時間も膨大で、本部から店舗に送り、それが返ってくるまでに3週間程度かかることもありました。しかし、「SmartHR」の導入後は即日回収も可能になり、効果を大いに実感しています。

加藤:YESとは言い切れません。セクションエイトでは、複数のHRテクノロジーを導入しています。このうち、「SmartHR」は十分活用できていますが、それ以外の評価システムや勤怠システムはまだ使いこなせていません。感覚的に言えば、HRテクノロジーの活用度は60%程度でしょうか。

篠崎:当社も、YESとは言い切れません。当社も個別最適でHRテクノロジーを複数導入してきたので、システム間の連携にまだ改善の余地がある段階です。複数のシステムで同じ作業をしていたり、データ連携にCSVを使っていたりするケースがいくつもあります。

講演写真

宮田:次の質問です。HRテクノロジーを導入して良かったと感じていますか。

加藤:YESです。当社はアルバイト従業員が多く、頻繁に入退社があります。入退社書類のやりとりは、以前はFAXや郵送でしたが、「SmartHR」によって大幅に省力化できました。また、雇用契約機能は社内ルールの徹底や何か問題が発生した場合の担保にも使えます。直近では、勤怠管理で株式会社Donutsの「ジョブカン」を導入しました。アルバイト人件費の予算・実績管理がリアルタイムで行え、実際の数値を見ながら各店舗を指導するといったことも可能になりました。

篠崎:YESです。HRテクノロジーで業務効率化が大きく進んだことは間違いありません。管理上、何か問題が発生したときもサービス内に情報があるので、すぐに確認できるのもメリットだと感じます。「SmartHR」以外では、株式会社システムディの「規程管理システム」を活用しています。それまではWordで規程を管理していましたが、このシステムによって、改訂管理や従業員への公開、新旧対照表作成から労働基準監督署への届け出まで一貫してできるようになりました。最近では、株式会社アトラエの組織改善プラットフォーム「wevox」も導入しました。従業員のモチベーションやエンゲージメントを把握することで、リテンションなどに活用したいと考えています。

中村:当社では、YESと言い切れません。細かいことですが、当社の本拠地である北海道には、マイカー通勤の従業員が多くいます。一方、「SmartHR」の交通費申請は公共交通機関の利用を前提としているので、そこは当社の実情には合わなかったですね。

宮田:では、「SmartHR」を導入して良かったかどうか、率直なご意見をお聞かせください。

篠崎:YESです。「SmartHR」は主に年末調整の効率化を目的に導入しました。期待したとおりに業務がスムーズになり、社会保険関連の人員も削減できました。当社はIT企業なので、エンジニアやデザイナーなど、システムの挙動を気にする社員がいるのですが、「SmartHR」はとても好評でした。今後は人事マスターとしての活用も考えているので、さらに機能を強化してもらえるとありがたいです。

中村:YESです。当社には従業員が約3,500人在籍し、年末調整や雇用契約書の作成、発送には相当な労力がかかっていました。担当チーム四人だけでは対応できないで、繁忙期には派遣社員を一人追加していたのですが、「SmartHR」導入後はチームメンバーのみで回せるようになりました。また、給与明細は以前からメール配信を行っていましたが、3,500人のうち、約1,000人がメールアドレスを持っていないため、その分を紙で対応するのも大きな負担でした。その作業も「SmartHR」のおかげで不要になり、助かっています。

加藤:YESです。ペーパーレス化できた点はとても良かったと考えています。社会保険の申請など、これまで社会保険労務士に委託していた業務も内製化できました。要望としては、中村さんのお話とも少し重なりますが、メールアドレスを持たない従業員には、初めて「SmartHR」にログインしてもらう「招待」が難しい。当社のアルバイトは20代前半の若年層が中心で、メールアドレスを持たずLINEしか使えない人も多くいます。導入以来、その「招待」段階での苦労が続いているので、ぜひLINE対応を実現させてほしいと思っています。

宮田:ほかのHRテクノロジー企業からも、招待に関して苦労しているという話をよく聞きます。フィーチャーフォン利用者やそもそも携帯電話を持たない人は高齢者に多く、スマートフォン利用者でも若年層を中心に、メールアドレスはなくLINEを利用している人は多いですね。今後はLINE対応を実現します。ちなみにセクションエイト様には、スマートフォンを使わずに店舗でログインへの招待ができるシステムをご提供しています。

HRテクノロジー導入に際して、経営陣はどう反応したのか

講演写真

宮田:次は、参加予定の方への事前アンケートでも質問が多かったものですが、「HRテクノロジーを導入したことで、ご自身の評価に変化はありましたか」というものです。いかがでしょうか。

加藤:NOです。HRテクノロジーを導入したことが直接評価されたことはありません。確かに業務効率化は実現しましたが、システムを導入すれば改善するのは当然、という判断なのかもしれないですね。一部の店舗には、「以前はFAXを送るだけでよかったのに、『SmartHR』が導入されてからは、招待をしっかりやらなければいけない。管理部門は楽になったのだろうが、店舗の負担は増えている」という認識もあるようです。

篠崎:YESとは言い切れません。HRテクノロジーはあくまでも手段で、それが直接評価に結びつくわけではありません。しかし、業務が効率化したことで、結果的にほかの業務に時間を割けるようになり、評価される仕事ができるようになった面はあると思います。また、人事部のメンバーの業務負荷を下げた点も評価につながっています。

宮田:回答をうかがうと、HRテクノロジーの導入自体が大きく評価されたことは少ないようです。しかし、結果としてコア業務に専念できる時間が増えれば、評価につながる仕事ができる可能性は高くなるといえそうです。これは「SmartHR」を開発した狙いとも一致しするものです。では、次の質問です。HRテクノロジーを導入するに際して、経営陣は協力的でしたか。

加藤:YESです。「SmartHR」はもともと役員が見つけてきたもので、評価システムなども同様です。経営陣自体がシステム導入に積極的なので助かっています。ただ、導入後の成果などは常にアピールしていくことも必要だろうとは感じています。

中村:当社も、YESです。デジタル部門のチーフオフィサーが以前務めていた企業で「SmartHR」を使っており、当社へ入社した後に社長に直接紹介してくれたのが導入のきっかけでした。そのため、トップダウンで進めることができ、非常に導入しやすかったです。その後、私から提案した「SmartHR」とAPI連携できる勤怠システムや給与システムの導入プロジェクトも進んでいます。順調にいけば今期中にも実現できそうです。

篠崎:YESとは言い切れません。当社の経営陣の場合、費用対効果やメリット・デメリットでその都度判断するスタンスです。評判がいい、便利だ、というだけでは絶対に導入は無理。逆に言えば、費用対効果やメリットを具体的に打ち出せれば即決もありえます。難しいのは、これまでの業務内容や工数を費用に換算して経営陣に的確に伝えること。「こんな業務があるのか」という反応もあり、要は人事の仕事が十分に理解されていないということでもあるのですが……。その点、年末調整などは、役員もその煩雑さを経験として知っているので話が早かったですね。

宮田:HRテクノロジー導入時に上長、決裁者の説得は大変でしたか。

中村:NOです。「SmartHR」導入はトップダウンで進んだので、説得の苦労は特にありませんでした。一番配慮したのは対現場、店舗の店長でした。一気に全てを導入するのではなく、まず入社手続き、次に給与明細配信、雇用契約書、最後に年末調整と、段階的に進めていきました。それでも従業員を50人以上抱える「メガ店舗」の店長からは「大変だった」という話を聞きました。ほとんどがアルバイト、パートなので、やはり最初のログインができないケースがかなりあり、導入初日は本部でもその対応に追われました。

篠崎:YESです。基本は費用対効果を訴えていくわけですが、それでアピールしにくい場合には、「この対応を適切にしておかないと労働法規に抵触する可能性が出てくる」といって説得することもあります。雇用契約でトラブルになると最悪のケースは訴訟になり、その場合、どのくらいの賠償金が想定される、といったリスクを示して納得してもらったこともあります。

HRテクノロジーは働き方改革を実現できたのか

宮田:HRテクノロジー活用は働き方改革の推進に寄与したのでしょうか。

中村:YESです。小売チェーンという業態の特性上、少数の正社員と多数のパート・アルバイトという人員構成が年々顕著になってきています。そのため、店長の仕事は非常に多岐にわたり、業務量も膨れ上がっていました。その原因の一つが人事書類の取りまとめでしたが、「SmartHR」導入によって大いに軽減されたのは間違いありません。残業削減にも寄与していると思います。

加藤:YESとは言い切れません。正直言って、まだ実感は沸いていません。少なくとももう半年以上は様子を見て、それからの判断になるでしょう。ただ、最近導入した「ジョブカン」の勤怠管理システムにより、個々人の日々の業務量や残業時間などが可視化できるようになりました。これはプラスの効果を生みはじめているように思います。

篠崎:当社も、YESとは言い切れません。働き方改革については、まだ法令遵守までしかできてないのが現状です。当社はIT系で、エンジニアなどの中には仕事が好きでもっと働きたい、という人もいます。世間一般でいう働き方改革がフィットしない部分もあり、どうバランスをとっていくのかが人事の課題だと考えています。ただ、HRテクノロジーによって人事がそういうことを考える時間を持てたという意味では「寄与した」と言えるかもしれません。

宮田:今日は業務効率化に関わるHRテクノロジーの話が中心でしたが、最後に、今後HRテクノロジーで実現したいことがあれば教えてください。

加藤:「SmartHR」を入口として、勤怠や人事給与の各システムを連携・集約していきたいと思っています。従業員が何かを調べたいと思った場合に、これを見ればすぐにわかるという形をつくっていきたいですね。

中村:当社も各人事システムがCSV連携になっている現状がありますが、これをAPI連携にしていくことが当面の課題です。加えて、採用エントリーシステムとも連携できれば、より少ない作業量でより多くの処理が可能になると構想しています。

篠崎:運用については可能な限り自動化、効率化を進めたいですね。その上で「運用する人事」から「新しい働き方を考える人事」「課題のある従業員に個別対応できる人事」へと組織を変えていきたい。そのためにも、社外も含めた情報交換を積極的に行おうと考えています。

宮田:今回のセッションで、各社ともシステム間の連携を重視していることがわかりました。皆さん、本日はありがとうございました。

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