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現役トップ産業医と語る、「働き方改革×健康経営×メンタルヘルス問題」

  • 刀禰 真之介氏(株式会社メンタルヘルステクノロジーズ 代表取締役/株式会社Avenir代表取締役)
  • 吉村 健佑氏(労働衛生コンサルタント/精神科専門医・指導医/千葉大学医学部附属病院産業医)
  • 三宅 琢氏(株式会社ファーストリテイリング 本部産業医/産業医科大学 訪問研究員)
  • 宮田 秀之氏(ニッセイ保険エージェンシー株式会社 専務取締役)
東京特別講演 [D-5]2019.06.25 掲載
株式会社メンタルヘルステクノロジーズ講演写真

働き方改革、健康経営、メンタルヘルスはどれも人事にとって重要な課題だが、これらは密接に関わりあっている。中には明確に数値化・可視化できないものもあり、取り組み手法に悩む企業は多い。メンタルケアのプロとして独自サービスを提供する株式会社メンタルヘルステクノロジーズの代表取締役・刀禰真之介氏が進行役となり、産業医の吉村健佑氏と三宅琢氏、健康経営を指揮するニッセイ保険エージェンシー株式会社の専務取締役・宮田秀之氏を迎えて、働き方改革、健康経営、メンタルヘルスの課題をいかにして解決すればいいのかを語り合った。

プロフィール
刀禰 真之介氏( 株式会社メンタルヘルステクノロジーズ 代表取締役/株式会社Avenir代表取締役)
刀禰 真之介 プロフィール写真

(とね しんのすけ)デロイトトーマツコンサルティング、三菱UFJ証券、環境エネルギー投資などを経て、2011年、株式会社Miewを設立(2018年8月株式会社メンタルヘルステクノロジーズに社名変更)し、代表取締役に就任。その後、株式会社Miewの100%子会社としてAvenirを発足し、同社の代表取締役就任。


吉村 健佑氏( 労働衛生コンサルタント/精神科専門医・指導医/千葉大学医学部附属病院産業医)
吉村 健佑 プロフィール写真

(よしむら けんすけ)千葉大学医学部医学科卒業後、千葉県内で精神科医として診療に従事。東京大学大学院精神保健学講座にて産業精神保健学を学ぶ。厚生労働省にて医系技官として、法案成立に従事。精神科産業医として、大規模液晶工場、エンジニアリング事務所、精神科病院などでの経験を積み、現在は千葉大学医学部附属病院産業医。


三宅 琢氏( 株式会社ファーストリテイリング 本部産業医/産業医科大学 訪問研究員)
三宅 琢 プロフィール写真

(みやけ たく)東京医科大学 眼科兼任助教神戸アイセンター病院外来医、東京大学政策ビジョン研究センター 客員研究員、東京大学先端科学技術研究センター 客員研究員公益社団法人、ネクストビジョン理事一般社団法人、産業医ラウンジ理事長、株式会社ヤフー、産業医三井ホーム株式会社 統括産業医 他


宮田 秀之氏( ニッセイ保険エージェンシー株式会社 専務取締役)

企業における産業医の必要性とは?

メンタルヘルステクノロジーズは子会社と共に、メンタルヘルステクノロジーソリューションと医師の案内を二つの軸にして、健康経営のサポートを行っている。全国約30万人を数える医師のおよそ半分と連携し、契約先事業所は大手からベンチャーまで1400以上。eラーニング、相談サービス、研修、システムなどさまざまな形でソリューションを提供している。まず、同社の刀禰氏がサポート内容を紹介した。

講演写真

刀禰:メンタルヘルスについては、厚生労働省が推薦している四つのケアという概念を元にサービス化しています。「セルフケア」「ラインによるケア」というストレスマネジメントに対してはeラーニングや研修、「産業保健スタッフによるケア」「事業外資源によるケア」に対しては産業医サービス化や専門医へのメール相談サービスが該当します。大きな特徴は、スクリーニング・サービスの標準化・集合知を重視して産業医と連携していること。その上で、メンタルマネジメント対応や休職者対応など、組織の課題や状況にマッチした産業医を紹介しています。また、医師向けにメンタルヘルスに関する勉強会や、産業保健のレベルアップを目指した講座も開いています。

働き方改革法案では、産業医と産業保健機能を強化する改正がなされた。これは何を意味し、今後どのように取り組むべきなのか。ゲストの3名がそれぞれの意見を述べた。

吉村:産業医には、事業主に対する勧告権が与えられています。労働安全衛生法や労働基準法に即しているかを監視して、そうでない場合は事業主に遵守することを勧告できます。ですから、企業には産業医との二人三脚の体制をいかに構築していくか、というスタンスが求められます。

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三宅:メンタルヘルスへの対応や職場環境などアドバイスを求めたときに「専門外なのでできない」と答える産業医は、法的に問題があるといえます。企業としては、そういった点を確認して、場合によっては他の産業医に変える判断を下すべきです。今後は、両立支援やハラスメントなどの問題が増えると予想されるので、頼れる産業医が必要です。対話力があるか、一緒に考えていく姿勢があるかが重要です。

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宮田:当社は1年前に健康経営に取り組んだときに、産業医を変えました。現状と条件をメンタルヘルステクノロジーズさんに伝えたところ、フィットした方を推薦いただき、大変うまくいっています。お客さまと従業員を大切にすれば業績はサステナブルに右肩上がりになると確信していますが、その第一歩は産業医にあると思います。企業経営において、重要な人材といえるのではないでしょうか。

講演写真

健康経営のポイントは「社会アピール」と「体質改善」

メンタルヘルステクノロジーズでは、健康経営を「永続的な増収増益を狙うための組織マネジメントの一つ」と定義している。生産性向上のためには、オペレーションの最適化・教育・IT投資が不可欠だが、最初の二つには社員の心身の健康が影響していると刀禰氏はいう。

吉村:健康経営のポイントは二つあります。一つは、経済産業省による健康経営のキャンペーンに企業として取り組んでいる事実は、社会に対して前向きなアピールになること。もう一つは、キャンペーンに沿って要件を満たしていくと、会社の体質改善が実現されることです。

三宅:私が一番伝えたいのは、健康経営にはお金がかからない、ということです。まずは、健康診断の受診率や長時間労働や喫煙率など、手元にあるデータを評価して、国の求めている健康とのズレに着目し、プロジェクトを始めればいいのです。大事なのは、健康経営によって一番喜ぶのは、従業員であること。経験上、新入社員がつくったプロジェクトや障がい者の方たちの提案を入れると結果的に奏効しています。新卒者の提案例を挙げると、メンタル不調の最初の兆しでもある欠勤や遅刻の連絡を、電話からLINEのスタンプに切り替えたところ、ちゅうちょせず上司にサインを出せるようになりました。

宮田:健康経営に関するプロジェクトでは、女性活躍推進の取り組みの中で女性たちから出たアイデアを元に一緒に実行しています。全支店から任命したリーダーと産業医が参加する安全衛生委員会では年間計画をつくり、月や季節に応じたさまざまな取り組みを全社で行っています。

20人の不必要な離職を防げば1億円の損失を改善できる

現在、日本の精神疾患者の数は400万人。20年前の2.5倍にあたる。2011年には、五大疾病にも加わった。原因はIT化と職場ストレスに集約されると刀禰氏はいう。IT化は情報流通量を20年で20倍以上に増やしたが、人の脳が処理できる量は変わらない。スマートフォンを1時間見て得られる情報量は、20年前に1日の仕事で得られた情報量にほぼ等しいという説もある。

講演写真

刀禰:SNSを使ったやりとりが増えために、バックグラウンドが違う人とのコミュニケーションが減り、同世代でも話が通じないケースも増えてきました。仕事の質と量の両方が上がり、高ストレスにさらされがちな40代男性に一番自殺が多い、という現状もあります。厚生労働省の試算では、年収500万円の社員が1年間休職した場合の経済的損失は1490万円。私の試算では、年収500万円の社員が20人辞めた場合の損失は約1.2億円。20人の不必要な離職を防げば、1億円改善できるわけです。

吉村:厚生労働省が掲げているメンタルヘルスを予防する四つのケアの中で、最初に取り組むべきなのは、産業保健スタッフなどによるケアです。ここで個別のケースにきちんと焦点を当てて対応できるようになったのちに、ラインによるケア、セルフケアへと、一人ひとりが自分でストレスマネジメントができるようにしていく流れになります。認知行動療法的アプローチに基づくセルフケアは一番効果が高いので、それを指導できる産業保健スタッフの存在も大事です。

三宅:どの企業でも効果がある手法を紹介します。新入社員は5、6月に不調になる傾向が強いため、その時期に実施している新入社員研修で教えているのが“食う寝る遊ぶ”というセルフチェックのポイントです。食欲の変化、睡眠の質の変化、趣味の時間に感じる面白さの変化を振り返って、そこに「揺らぎがある」「おかしい」と感じたら相談するように伝えています。夏場には、ラインケアとして管理職の研修を行い、当日連絡の勤怠不良等からいち早く揺らぎに気づくよう指導しています。日々のラインケアとして簡単にできるのが挨拶運動です。挨拶した相手の表情がおかしいと感じたときに、どのようなタイミングで産業医に相談すればいいかをアドバイスしています。他にも対話研修やフォローアップ研修などを通年で行えば、従業員と産業医の距離感が近くなる効果も得られます。

宮田:周囲ができるだけ早期発見することが大切だと、経験上感じています。外見ではわからないため、顕在化したときには深刻になっているケースもあります。当社では毎月、全管理職が所属員に問題がないか、問題があれば誰にどんな懸念があるのか、報告書を提出する仕組みをつくりました。その情報に基づいて、人事部と総務部と産業医が一緒に対策を取っています。ラインの管理監督者が気づくことの重要性を学ぶ研修も開催しています。

事前に寄せられたメンタルヘルス対策への質問に回答

ここで、参加者から事前に寄せられた質問に産業医の二人が回答した。一つ目の質問は「何から初めて何をしたらいいのか」。

吉村:メンタルヘルス対策は、厚生労働省が示している手順に従えば充分に及第点が取れます。気負う必要はありません。最初に行うべきなのは法令遵守。労働基準法や労働安全衛生法が守られているかという観点で、やるべきことを一つひとつ挙げていってください。例えば、産業医が行うべき業務がきちんと行われているかをチェックすると、かなりカバーできるはずです。また、トップの宣言も重要です。年頭や年度が変わったときの挨拶などで、社長に「メンタルヘルス対策に取り組む」と語ってもらうと、稼働しやすくなります。

次の質問は、「メンタルで休職や治療に入った社員の見守り方や、復職プログラムに添えない社員への対応法はどうすればいいのか」。

吉村:復職プログラムがしっかり準備されているか、確認するところから始めて欲しいですね。プログラムは厚生労働省が示すひな形を自社用に変更するだけで作成でき、治療中や休職中の社員への情報提供の方法もわかります。プログラムに添えない場合は、関連する情報を集めて、産業保健スタッフと産業医と人事労務担当者が復職支援プログラムの修正を行っていきます。

続いての質問は「産業医の面談時以外に、人事担当者として休職中の社員にうまく関わっていく手法は何か」。

吉村:腫れ物に触るようにして、メンタル不調者に接することはやめたほうがいいでしょう。不安が増してしまうからです。人事労務担当者として管理上必要な情報を提供しながら、極力支援していること、配慮していることが相手に伝わるよう心がけてください。

次に「働き方改革、健康経営、メンタルヘルス対策、それぞれをどう連動させてシナジーを発揮したらいいのか」という包括的な質問が寄せられた。

三宅:どれだけきちんと現場のニーズを引き出せているかがポイントです。参考になる障がい者雇用の事例についてお話ししますと、障がいのある労働者は「このままでは普通には働けない」と早い段階で意識して、幼少期からテクノロジーを活用するなど、さまざまな働き方を検討している人がいます。それはまさに働き方改革の本質であり、障害があっても生き生きと働ける職場こそが健康経営のできた職場と言えます。またそのような職場ではメンタル不調者も少ないはずです。課題意識の高い人の意見を中心に考えれば自然とシナジーは発揮されると思います。

以前は、残業未払い問題が人事労務上の大きなテーマだったが、やがてメンタルヘルス不調が浮上し、今では大きなテーマになっている。「次はフィジカルの不調に移行していくだろう」と刀禰氏は予測する。刻々とテーマは変わっていくが、時代と個々の企業の状態に応じて柔軟に向き合う姿勢が、人事には求められている。

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