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東京海上日動火災保険が目指す「日本で一番人が育つ会社」その戦略とは

  • 真田 茂人氏(株式会社レアリゼ 代表取締役社長/NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会 理事長)
  • 菊地 謙太郎氏(東京海上日動火災保険株式会社 人事企画部 人材開発室 能力開発チーム 課長代理)
東京特別講演 [H-5]2019.06.25 掲載
株式会社レアリゼ講演写真

VUCAの時代に突入し、企業には新しい価値が求められている。東京海上日動火災保険株式会社は、その源泉となる人材育成に危機感を持った。そこで打ち出したのが「日本で一番人が育つ会社」という目標だ。人材育成施策には「リードマネジメント」「サーバント・リーダーシップ」「OJT」「対話」といった言葉が並ぶ。具体的にどのような戦略を行ったのだろうか。東京海上日動火災保険の菊地氏、株式会社レアリゼの真田氏が語った。

プロフィール
真田 茂人氏( 株式会社レアリゼ 代表取締役社長/NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会 理事長)
真田 茂人 プロフィール写真

(さなだ しげと)株式会社リクルート、外資系金融会社、人材サービス会社設立を経て、株式会社レアリゼ設立。個人の意識変革を起点とした組織開発を強みとし、日本を代表する企業・官公庁など幅広い分野で多数の研修導入、講演実績がある。また、サーバントリーダーシップの普及を通じて、グローバルリーダーの育成に取り組んでいる。


菊地 謙太郎氏( 東京海上日動火災保険株式会社 人事企画部 人材開発室 能力開発チーム 課長代理)
菊地 謙太郎 プロフィール写真

(きくち けんたろう)2011年、同社へ入社。営業部門にて保険専業代理店をはじめ、大学や地場大企業などを担当。2017年より人事部門へ配属。能力開発チームとして、組織開発、マネジメント力向上施策などを担当


菊地氏によるプレゼンテーション:「日本で一番『人』が育つ会社」の実現に向けて

講演写真

最初に菊地氏は、マネジメント環境の変化について語った。これまで社員は同じ場所で同じ時間を過ごしていたため、似たような価値観やモチベーションに対するマネジメント手法で問題がなかった。しかし、今後は状況が変わっていく。

「これからは異なる場所で限られた時間を過ごすことになり、価値観もより多様化します。社外とのコラボレーションも増え、マネジメント手法も従来の画一的なやり方では対応できなくなります。重要なのは、上司と部下のタッチポイントが減る中でどう対応すべきか、ということ。私たちは、チームメンバー同士がお互い関与し合うことを目指さなければならない、と考えています」

東京海上日動火災保険は、2015年度に策定した中期経営計画で「日本で一番『人』が育つ会社」を企業目標とした。育つ側、育てる側がともに成長する、永続的な成長スパイラルを目指している。

「人が育つために必要なことは、社員一人ひとりがなりたい姿を想い描いて、自発的に成長しようという発意を持つこと。育つ側は管理職も含めた全社員で、育てる側は社員一人ひとりです。たとえ新入社員でも、他者に気づきを与えるという点では育てる側だと考えます。当社が目指す状態は『共に育つ、共に育てる会社』です」

ではマネジャー層に対して、どのような施策を行ったのか。同社の管理職は従業員全体の約21%で、5分の1を占める。菊地氏は、マネジャー層の変革が全社変革のレバレッジポイントとなると語る。

「当社のマネジメントにおける課題は、育てる側の上司よりも優秀な部下が育たないことです。自分の成功体験やこうすれば成功確率があがる、といったいわゆる「勝ちパターン」を伝承することは得意ですが、自分を超えるような優秀な部下を育てられない。右肩上がりの時代には上司が経験した成功体験を早く積ませることで部下が育ちましたが、解が一つではない成熟した時代では、上司の成功体験が通用しないことも出てくるため、部下の『こうしたい』といった自発性や発想力を最大限に引き出すことが必要になります。これからは、顧客接点が多い部下が自ら考え、行動し、発信していかなければなりません」

では、人事は具体的に何を行ったのか。これまで同社の人材育成は経験則が主体だったが、それだけに頼らないために、暗黙知を形式知として人を育てる力の底上げを図ったという。

「『育てる本』3部作を作成して展開しました。一冊目は『Tips集』で、場面ごとの指導法やアプローチ法を解説。二冊目は実際の事例をまとめた『好取組事例集』。三冊目は『育成計画サポート』で、そもそもの育成に対するWHYを考え、育成プランの立て方を考えるための補助ツールです。

次に行ったのは研修だ。マネジメントを見つめ直す機会として、三つの研修を提供した。一つ目は、新任マネジャー向けのリードマネジメント研鑽(けんさん)会。レアリゼも協力し、リードマネジメント(エンパワーマネジメント)を正しく学び、実践を通じた経験に学ぶ内容だ。

二つ目は年1回、全マネジャーに対して行うマネジメント研修。部長がファリシリテーターとなり、自社特有のマネジメント課題と向き合い、マネジャー同士で研鑽する。

三つ目は自己開発プログラム。意欲のあるマネジャーが対象で、マネジメントの知識や経験をアップデートする内容だ。受講料は一部自己負担となる。

「これらの研修は、繁忙度の高いマネジャーにとって、自分のマネジメントを一度立ち止まって見直すための良い機会となっています」

真田氏によるプレゼンテーション:サーバント・リーダーシップとリードマネジメント

講演写真

ここで真田氏が登壇。東京海上日動火災保険の支援を8年前に始めた当初の状況から解説した。

「マネジメント層が変わらないと会社全体を変えることはできないのではないか、という議論から始まりました。そこでは当然、マネジメントのあり方が議題となります。そこで私たちは、リードマネジメント(エンパワーマネジメント)という考え方を提案しました」

リードマネジメント(エンパワーマネジメント)とは、脳機能・心理学的アプローチでマネジメントを捉えたものだ。似た考え方に、サーバント・リーダーシップがある。こちらはリーダーシップを哲学的アプローチで捉えたものだ。

「最終的に両者は、同じようなことを言っています。例えば、リーダーは自分の不完全さを理解しなければいけない。リーダーは相手をリスペクトする必要がある。管理やコントロールでなく、人の主体性を引き出す必要がある。協力を引き出してチームコミュニティ・組織をつくる必要がある、といった内容です」

リードマネジメント(エンパワーマネジメント)では「人の行動原理」および「人へのアプローチ」を、外的コントロールと内的コントロールの二つに整理している。多くの人は外的コントロールの考え方を自然と身に付けている。しかし、それではうまくいかない。なぜなら、人は実際には内的コントロールで動くからだ。人は自ら行動を選択して動いている。

「私たちは、他人を直接変えることはできません。しかし、他人に影響を与えることはできます。相手がよりよい行動を選択するように支援することができるからです。それにのっとった考え方がリードマネジメント(エンパワーマネジメント)です」

一方、サーバント・リーダーシップはリーダーが主役でメンバーを道具のように使うという支配型のリーダーシップの対照的な発想だといえる。主役はメンバーであり、リーダーがそれを支えるという考え方だ。実は今、サーバント・リーダーシップの考えを取り入れて成功している企業が増えているという。

「サイバーエージェントの藤田晋社長は、創業期から実践されていました。部下への影響力において、支配型リーダーは権力を使い、部下を畏怖させます。しかし、サーバント・リーダーは部下と信頼関係を築き、部下の自主性を尊重します。現在の多様化、VUCAの時代には、支配型リーダーは機能しなくなっているのです」

菊地氏によるプレゼンテーション:「OJT」と「対話」で人を育てる

講演写真

再び菊地氏が登壇。管理職向けの打ち手に続き、管理職候補への打ち手を紹介した。

「環境変化に対応するために、管理職候補の早期育成を行っています。手段は三つ。一つ目は、集合研修とOJTの連動です。階層別の集合研修として、新任課長代理層を対象とした『新任StageD研修』と、実際のマネジャー補佐を対象とした『新任StageE研修』を実施。集合での学びは最低限に抑え、受講者自身がアクションプランを立て、それを実践する、あくまでOJTを意識して行っています」

二つ目は、役割付与の明確化だ。人材育成ならびに組織活性化を掲げ、課長代理層から人材育成の役割を従事割合に組み込むことが課される。三つ目は、他流試合・越境学習だ。育ってきた環境から離れる機会、多様な価値観と触れる機会を提供している。

「社員は徐々に会社の価値観に染まっていくため、ときにその価値観を揺さぶられる経験が必要です。そこで人材を選抜し、社外に出して自身の仕事のやり方や価値観が通用しないような体験をさせています」

次は組織におけるメンバーの育成だ。これは「共に育つ・共に育てる」という組織開発の一環の施策となる。マネジメント層だけが部下を育成するのではなく、チームメンバーが互いに成長に関与し合うスタイルで育成を行う。ポイントとなるのは対話だ。

「当社には、真面目な話を気楽な雰囲気の中で行う『マジきら会』という文化があります。対話の促進にはこの文化を生かそうと考えました。そこで、全社で対話のルールを三つ決めました。一つ目は『鎧を脱ぎ去る』。これは自己開示です。立場・役割に関係なく、良い面も悪い面も含めて、ありのままの自分でいるようにします。二つ目は『相手の世界を味わう』。傾聴を重んじることです。自分の価値観で良し悪しを判断するのではなく、相手の価値観を感じて尊重します。三つ目は『感じたことを言い合う』。ありたい姿に向けて、感じたことを躊躇なく発言します。しっかりと説明できなくても問題はありません。対話にはファシリテーターの存在が重要ですが、なるべく目先のファシリテーションスキルに場が左右されないように、ファリシリテート手法を目的ごとに標準化した『対話パッケージ』を作成しました」

次に気になるのは、人材育成施策が実際に現場で行われる際の支援だ。そこで準備したのは人材育成ポータルサイトと社内報「みんなのイクログ(育成のログ)」だ。

「育成に関して迷ったときも、ポータルサイトへアクセスすれば必要なツールが揃っています。『育つ側、育てる側……、何ができるかな』など、問いの言葉で項目をまとめており、解決方法を探しやすいように整備しています。また、育成施策をより現場に照らし合わせ、現場からの発信媒体として、人事作成の社内報『みんなのイクログ』を発行。年1回の発行で、社員や職場の取り組みや思いを紹介し、社員一人ひとりの心をつないでいくことを目指しています」

いろいろな育成施策を紹介してきたが、同社には施策のベースとして意識している問いが三つある。

一つ目は「人は何によって成長するのか?」。「70:20:10の法則」にあるように、70を占める「OJT=経験」を重視している。二つ目は「人によって成長スピードが異なるのはなぜか?」。経験学習サイクルにある、いかに経験から「内省」するかが、成長スピードを加速させるカギだという。そして三つ目は「個の成長を促す環境とは何か?」。ここで最も重要なことは職場の関係性、成功循環モデルでいうお互いの「関係の質」だ。互いを人として受け容れ合うことが大事になる。最後に菊地氏は、今後人事として取り組みたい三つのマネジメントの課題を述べた。

「一つ目は、タッチポイントの創出と頻度・質の向上。二つ目は、組織活性化の強化による組織力の最大化。三つ目は、人事のあり方の変革です。育成は答えが一つではありませんから、10年後、20年後の将来を見据えて試行錯誤しながら取り組んでいきたいと思います」

最後に真田氏よりまとめの言葉があり、講演は終了となった。

「私は、東京海上日動火災保険様は、人材育成において日本で一番熱意を持つ会社だと思います。常に現場を把握、研究され、ここまで短期間で成長されています。本日の講演が皆さまの参考になれば幸いです」

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