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人事施策を脳科学の理論から考える~リーダー育成、働き方改革、従業員のエンゲージメント向上における現場目線の人事戦略~

  • 濱中 昭一氏(ダイドードリンコ株式会社 取締役 執行役員 人事総務本部長)
  • 鈴木 清美氏(エーザイ株式会社 人財開発本部 タレントストラテジー部 部長)
  • 枝川 義邦氏(早稲田大学 研究戦略センター 教授)
東京パネルセッション [I]2019.07.12 掲載
講演写真

近年はニューロマーケティングなど、マーケティング分野での活用が進んでいる「脳科学」を、人事に応用しようとする動きが活発化している。脳の働きが人の考えや行動にどう関わっていて、それを人事戦略に取り込むにはどうすればいいのか。脳科学と経営学をクロスさせた研究で知られる早稲田大学の枝川教授と、ダイドードリンコの濱中氏、エーザイの鈴木氏が、脳科学を活かした人事戦略について議論した。

プロフィール
濱中 昭一氏( ダイドードリンコ株式会社 取締役 執行役員 人事総務本部長)
濱中 昭一 プロフィール写真

(はまなか あきかず)大学卒業後、1987年ダイドードリンコ株式会社に入社。1994年より各営業所の所長を歴任後、2001年に営業管理課長に就任。2002年に人事部が発足した際、人事課長に就任。2011年に人事総務部長、2013年に執行役員人事総務本部長を経て、2017年より現職。


鈴木 清美氏( エーザイ株式会社 人財開発本部 タレントストラテジー部 部長)
鈴木 清美 プロフィール写真

(すずき きよみ)2012年4月、エーザイ株式会社にキャリア入社。タレントストラテジー部長として人事制度改革、グローバルモビリティポリシー導入を推進。2015年より人財育成、採用(新卒・キャリア)を担当。キャリアのスタートは公立中学の英語教諭。英国留学を経て、欧系出版社にて英語教育教材の企画、日印ITベンチャー立ち上げに携わった後、ジョンソン・エンド・ジョンソン、エスティ・ローダーの日本支社にて主に人事企画、人材開発業務に携わる。


枝川 義邦氏( 早稲田大学 研究戦略センター 教授)
枝川 義邦 プロフィール写真

(えだがわ よしくに)東京大学大学院薬学系研究科博士課程を修了して薬学の博士号、早稲田大学ビジネススクールを修了してMBAを取得。早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)の初代認定を受ける。研究分野は、脳神経科学、人材・組織マネジメント、研究マネジメント。早稲田大学ビジネススクールでは、経営学と脳科学とのクロストークを視座に置いた講義を担当。一般向けの主な著書には、『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『記憶のスイッチ、はいってますか~気ままな脳の生存戦略』(技術評論社)、『「覚えられる」が習慣になる! 記憶力ドリル』(総合法令出版)など。


枝川氏によるプレゼンテーション:
人事施策に脳科学を活かす

まず枝川氏が、人事施策に脳科学を活かすとはどういうことかを語った。枝川氏はよく聞かれることとして、「心理学と脳科学はどう違うのか」という問いを挙げた。心理学では脳をブラックボックス状態と捉える。そこに入るインプット(刺激)を変えて、アウトプット(行動・反応)の変化を観察するのが、伝統的な心理学の研究手法だ。

「一方、ブラックボックスになっている脳の情報処理の仕組みを、ベールを剥いで見てみようとするのが脳科学です。例えば、働き方改革における労働生産性の向上や長時間労働の是正は、健康と関連しますから脳科学と深い関係があります。仕事の効率化も集中力やヒューマンエラーに関わるため、脳科学が出てくる場面はかなり多い。他にもモチベーション、リーダーシップ、マーケティング、感情マネジメント、クリエイティビティなども脳の働きと深い関係にあります」

講演写真

例えば、マーケティングに脳科学がどう活かされているのか。人がモノを買うときには情報をインプットし、情報処理から意思決定がなされて消費行動が起こる。すべての意思決定は脳の活動性に依存しており、脳の応答性を知れば効果的なマーケティングが可能となる。そこで注目されたのがニューロマーケティングだ。

「具体的には、少人数の脳の活動を測定することでマスの動きを予測する、といった手法を取ります。例えばある実験では、あまり知られていない曲を聴いてもらい、それが好きか、ヒットすると思うかといったアンケート調査を行うのと同時に、聴いている間の脳の活動を調べています。すると、自分に対して『報酬』となる脳の働きをした曲は、3年間のセールスを調べたところ、ヒットとの相関性が高かったのです。つまり、少数の反応を調べることで、マスの行動が予測できた、ということです。ここで面白いのは脳の活動を調べたほうが、『売れると思う』と書いたアンケートの回答よりも相関値が高かったこと。心に聞かずに脳に聞け、ということですね。実際、産業界でも多くの企業が脳科学を活用しています」

次に枝川氏は、脳科学におけるモチベーションについて解説した。モチベーションとは行動のスイッチを入れるもの。では、何がスイッチを押すのか。

「それは人の欲求です。人事領域でよく知られるマズローの欲求階層と脳の構造には、高い相関性があります。ただし難しいのは、人にはいろいろな欲求が存在すること。やる気のスイッチがどれによって入ったのかがわかりません。しかし、脳には報酬系の神経ネットワークがあります。これが働くかどうかが、やる気が出るかどうかの分かれ目といえそうです」

脳には身体を調整するとともに、脳での考え方そのものが脳の反応性を変えるという働きもある。

「物事に何か付加価値があったとき、それに反応し、脳が活動し始めます。外から入った情報で脳の活動性自体が変わる、ということです。そう考えると、例えば差別化、プレミアム要素を付けるといった施策は脳に刺さるものとなるかもしれません」

濱中氏によるプレゼンテーション:
ダイドードリンコのエンゲージメント向上施策

次に濱中氏が登壇。ダイドードリンコならではの生産性向上策を語った。それはカフェインナップという方法だ。

「コーヒーを飲んだ後に、10~20分ほど短時間の仮眠を取ります。コーヒーを飲んで少し時間が経ってからカフェインの効果が出るので、目覚めた後の生産性はアップします。午後からの眠気の発生を防止するほか、リフレッシュや疲労の回復などの効果もあります。この施策は強制ではありませんが、効果を感じる人は多いようで、本社では約半数ほどの人が行っています」

人事では毎日15時をめどに、席に座ったまま15分程度のストレッチを行うことを推奨。セルフエクササイズ集を配布し、フォローアップメールを送るなど、習慣化を促している。

「最近では、時間外労働が1ヵ月平均で一人当たり11時間削減されています。これはカフェインナップとストレッチの効果ではないかと考えています。若手も以前より元気になり、行動的になった印象があります」

同社では他にも、健康と学びの支援を行っている。健康支援制度では、心身の健康増進を支援する活動に対して、クラブ認定を行い、活動費用を補助している。学習支援制度では、社員自ら自己研さんに励むことができる環境・風土づくりを目的に、e-ラーニングや通信教育の費用を会社が負担している。また、ビジネススクールや資格取得の通学に対して支援金を出しており、資格を取得した際には祝金なども出している。

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次に濱中氏は、組織風土改革について語った。組織風土改革の柱となるのが、「DyDoチャレンジアワード」だ。従業員のチャレンジを推進し、チャレンジする企業風土を醸成することを目的に創設され、昨年はチャレンジ賞33案、チャレンジアイデア賞123案が集まったという。

「メインとなるチャレンジアイデア賞は、誰もがイキイキと働ける職場環境づくりへのチャレンジという観点から、社員投票によって表彰内容が決定されます。最近では、自販機の横にレンタル傘を置いて貸し出す『レンタルアンブレラ』や、利用者の健康状態に合ったオーダーメイドサプリメントをその場で抽出する『ヘルスサーバー』、面倒に思う人間ドッグが楽しくなる『人間ドッグA判定に金一封』といったアイデアが受賞し、実際に行われています。これからは報酬などでなく、『社内で認めてもらえた』『会社が見てくれている』といった認知が重要になるのではないでしょうか。評価とは別に、社員が主体的に動けるものを会社が用意し、それを認めることがエンゲージメント向上につながると考えています」

鈴木氏によるプレゼンテーション:
エーザイが取り組むグローバルリーダー育成

続いて鈴木氏が登壇し、まずはエーザイの企業理念を紹介した。

「理念はヒューマン・ヘルスケア(human health care)です。患者さまと生活者の皆さまの喜怒哀楽を考え、そのべネフィット向上を第一義とし、世界のヘルスケアの多様なニーズを充足することを理念としています」

エーザイはグローバルに五つのリージョンを持ち、国内社員約4900人、海外社員約5600人。今では日本人よりも海外の社員が多くなっている。海外展開の始まりは1960年ごろで、当時の社員はOJTにより育っていった。しかし近年は、若手が育ちにくい状況になっていたという。そこで大学の研究などを活用したE-GOLD、E-ACE、EJGCという新たな研修制度が考え出された。

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「E-GOLD(Global Leadership)は、グローバルリーダー候補を対象とした研修です。CEO主催で、一橋大学名誉教授である野中郁次郎先生のSECIモデル(知識創造理論)をベースにしています。共同化、内面化、表出化、連結化によってイノベーションを起こそうとするものです」

二つ目の研修は、次世代タレントを対象とするE-ACEだ。主催はCTO。神戸大学大学院経営学研究科教授の三品和広先氏が監修、講師を務めている。ここでは、企業がこれから存続するために必要となる「新たな立地=誰に何を売るのか」を見つける「能力=時機読解能力」を身に付けることが目的だ。

三つ目の研修は、営業関連組織の若手グローバルタレントの発掘・育成を行うEJGC。公募選抜により、2年間にわたって英語での教育を行う。

「これにより、外国人と自由にディスカッションできるほどの語学力と異文化コミュニケーションスキルを身に付けます。この研修を終えると、E-ACEへの参加資格が得られます。営業職以外の研究開発や生産管理などはグローバルな組織体で語学力が高いため、直接E-ACEに選ばれます。研修による一気通貫の3ステップができてからは、グローバルに活躍してくれる人材層がより厚くなりました」

ディスカッション:
脳科学の考え方を活かすポイントとは

枝川:2社に共通しているポイントは、社員のモチベーション向上、チャレンジ指向性の醸成であるように思いました。濱中さんのお話の中に、施策によって残業時間が月平均で11時間減ったとありましたが、その時間を他で活用しようといった動きはあるのでしょうか。

濱中:当社は健康経営を進めており、運動や睡眠の充実に力を入れています。同時に自主性のある風土も広めており、社員が自ら運動に臨めるよう、さまざまなクラブ活動を認定しています。活動頻度はクラブの内容によってさまざまですが、社長をはじめ多くの社員が自主的に参加しています。

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枝川:自ら選ぶという行動は、モチベーションを高めるために有用ですね。エーザイさんは研修が成長段階ごとに用意されているという印象を受けましたが、研修間には何かつながりがあるのでしょうか。

鈴木:E-ACEに出たからといってE-GOLDにも出られるという保証はありません。その間は個人で頑張らなければいけない。社員から見ても、連続したものには見えていないと思いますね。

枝川:段階における個別のゴールということですね。ゴール設定というのは大事で、例えば、「アイデアを一つ出して」というと、一つしか出ませんが、「三つ出して」というと三つ出てきます。お尻に火が付くという状況でも、人は追いつめられるとより高い成果を出します。ただし、脳にも身体にもストレス反応が起きているため、長く続けることはできません。モチベーションはどこかで下がる時期が来ます。下がるタイミングで次の施策を打つと効果があると思います。前のものと種類の違うモチベーションを与えるのもいいですね。

では次に、チャレンジ指向性についてお聞きします。両社とも挑戦の風土づくりから入られていると感じました。ただし、日本人は遺伝的に不安を感じやすい人の割合が高いので、失敗へのフォローがあるかどうかの影響は大きいと思います。何か配慮されていますか。

濱中:今年つくった当社のグループ行動規範に「失敗を賞賛する」とあります。これは若手の社員からの要望でつくられました。また、失敗ではありませんが、チャレンジアワードで落選した場合は、次回以降に応募する意欲が低下する可能性もあるため、フォローに力を入れています。前年の入賞者はイベントスタッフとなり、応募を呼び込むインフルエンサーとなって地方に行ってもらったりしています。また、応募案件は入賞作だけでなく、すべての案件に対して必ずフィードバックを行っています。会社は通った人だけを見ているんじゃない、ということを伝えています。

鈴木:当社の今年の人財成長支援方針は「hhc理念は失敗を恐れない~10000回の挑戦がイノベーションを生む~」です。1万とは全社員数ですが、社員全員が失敗を恐れずに個々で挑戦していく。チャレンジの姿勢を持つことの大切さを、いつも伝えています。

枝川:今回のセッションでいろいろな情報が共有され、新たな気付きにつながれば幸いです。本日はありがとうございました。

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