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「エンゲージメント」が組織力強化と業績向上を実現する
従業員と企業が支えあい、互いの成長に貢献しあう関係とは

  • 有沢 正人氏(カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(人事最高責任者))
  • 藤間 美樹氏(参天製薬株式会社 執行役員 人事本部長)
  • 服部 泰宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 准教授)
大阪パネルセッション [OB]2019.07.25 掲載
講演写真

近年、企業と個人の双方が相乗的に成長するためのキーワードとして「エンゲージメント」が注目されている。しかし、世界と比較すると日本人のエンゲージメントは低い、というデータもある。どんな環境や仕組みを用意すれば、従業員のエンゲージメントは高まるのか。カゴメの有沢氏、参天製薬の藤間氏、神戸大学大学院の服部氏が議論を交わした。

プロフィール
有沢 正人氏( カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(人事最高責任者))
有沢 正人 プロフィール写真

(ありさわ まさと)1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。 銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入などを通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2012年10月より現職となり、国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者となる。


藤間 美樹氏( 参天製薬株式会社 執行役員 人事本部長)
藤間 美樹 プロフィール写真

(ふじま みき)1985年神戸大学卒業。同年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社、営業、労働組合、人事、事業企画を経験。人事部では米国駐在を含め主に海外人事を担当。2005年にバイエルメディカルに人事総務部長として入社。2007年に武田薬品工業に入社し、本社部門の戦略的人事ビジネスパートナーをグローバルに統括するグローバルHRBPコーポレートヘッドなどを歴任。2018年7月より参天製薬に人材組織開発本部副本部長として入社し、2019年4月より現職。参天製薬のグローバル化を推進。M&Aは米国と欧州の海外案件を中心に10件以上経験し、米国駐在は3回、計6年となる。グローバル化の流れを日米欧の3大拠点で経験し、グローバルに通用する経営に資する戦略人事を探究。人と組織の活性化研究会「APO研」メンバー。


服部 泰宏氏( 神戸大学大学院 経営学研究科 准教授)
服部 泰宏 プロフィール写真

(はっとり やすひろ)1980年神奈川県生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)取得。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、同准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て、現職。日本企業における組織と個人の関わりあい(組織コミットメントや心理的契約)、経営学的な知識の普及の研究、シニア人材のマネジメント等、多数の研究活動に従事。著書『日本企業の心理的契約: 組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)は、第26回組織学会高宮賞を受賞した。2013年以降は人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた「採用学プロジェクト」に従事、同プロジェクトのリーダーを務める。著書『採用学』(新潮社)は、「HRアワード2016」書籍部門最優秀賞を受賞。近著に『日本企業の採用革新』(中央経済社)がある。


服部氏によるプレゼンテーション:「エンゲージメント」の定義とは何か

最初に、服部氏が「エンゲージメント」とは何かを解説した。エンゲージメントとは、仕事に誇りややりがいを感じ、熱心に仕事に取り組み、仕事からの活力を得てアクティブにいきいきとしている状態だ。

「人間は、さまざまなエネルギーをもらって生きています。例えば、ある仕事に集中したり、ある活動に熱中したりしているときは、モチベーションが行動の強いエネルギーとなっています。ただし、モチベーションは基本的に『短期エンジン』で持続性がありません。『長期エンジン』になるのは、キャリアです。目標や目指すプロジェクトなど、長い目で見たときに自分は何をしていきたいのか。年単位で物事を考えると、キャリアはエネルギーになります。そして短期でもなく長期でもなく、中期的なエンジンとして直接的なエネルギーとなるのがエンゲージメントです。『こういう雰囲気があれば、よく仕事ができる』といった環境や制度が影響します」

講演写真

ここで服部氏は、エンゲージメントが入社から時間経過とともに変化する調査結果を紹介した。入社直後は中間的なエンゲージメントレベルからスタートするが、しばらくは研修や新しい仲間との交流を通じてワクワク状態になるため、その値は高まる。ところが、実際に現場へ配属されると現実とのギャップに直面してエンゲージメントは低下。その後は会社の制度や上司のサポートを受けて次第に上昇していくが、さらにその先は、キャリアのさまざまなフェーズによって、従業員それぞれで変化していく。

「エンゲージメントを考える際に欠かせないのは、組織と個人の関係です。日本で長年支持されてきた考え方はコミットメントで、日本の人事の根幹モデルでした。組織に愛着があり、一体感を持って働き続けることによって、組織からメリットが提供される。そのようにして、長くて深い関係を築いていくモデルです。コミットメントは、個人が自分のことを見つめたり、会社との関係を相対化して考えたり、自分自身でモチベーションをあげたりといったことをしなくても成り立つ関係でした。ところが、この関係は少しずつ変わってきました。背景にあるのは、働き方の多様化や価値観の多様化です」

アメリカで現在、大事なモデルの一つと言われているのが「心理的契約」だという。企業で働く個人とその雇用主との間に、契約書などで明文化されている内容を超えて、相互に期待しあう暗黙の了解が成立、作用することをいう。「うちの会社ではこういうことが実現できる」「こうすれば、こんなふうに応えてくれる」と、会社と個人がお互いに求め合う内容を明確化。一人ひとりしっかりとコミュニケーションを取ることで、長く太く親密な関係になる。

「心理的契約関係が今の時代ではエンゲージメントを高めると考えられますが、そのためには制度や仕組みが必要です。カゴメと参天製薬では、どのような取り組みを行われているのでしょうか」

有沢氏によるプレゼンテーション:カゴメの人事制度改革の事例

カゴメは、従業員と会社のリレーションシップを向上させるには従業員に働きやすい環境を提供することが必須だと考え、そのために「生き方改革」を推進しているという。「生き方改革」はエンゲージメントに通じるものだ。

「『生き方改革』とは、個人の暮らし方を向上させること。そのためには、個人が働きやすい職場環境を提供するだけではなく、会社からの働きかけではない個人による自律的なキャリア形成を積極的に支援する仕組みが必要だと考えました。そこで、異なる価値観をお互いに認めあう風土を醸成するためのコミュニケーション改革と並行して、働きやすい制度の導入、スキル・能力の開発支援、活躍し続けられる環境整備を進めました」

講演写真

例えば、スケジューラーと勤怠システムを連動させることで、総労働時間の見える化を実現。上司は部下の行動を簡単に把握できるようになった。また、個人の状況や仕事内容に応じて勤務スタイルを柔軟に選べるよう、フレックス勤務制度を導入。勤務時間の分割も認めて柔軟性を極限まで高めたところ、総労働時間の短縮につながったという。

「また、副業を全面的に解禁することで、従業員が一ヵ所に限定しない多様なキャリア構築の機会を作り出せるようにしました。また、テレワーク勤務制度の導入によって、外出先や自宅から職場に移動する時間がなくなり、新たな時間が創出されるようになっています。こうした制度により、今まで会社で使い過ぎていた時間を個人の時間に振り向けるよう、促しました」

さらに同社では、単身赴任をなくし、今後増えると予想される育児や介護との両立に対応するため、「地域カード」制度を新設。カードを利用すれば、自分の希望する場所で勤務できる。

「多様化する個人の価値観に応じて柔軟に選択できるような働き方のオプションをつくって、一人ひとりが自分のキャリアを自律的に選べる環境を整備したのです。『生き方改革』という考え方を理解してもらい、そのための機会を提供することが、従業員のエンゲージメントを高める上で最良の手段だと信じています」

藤間氏によるプレゼンテーション:推進のための参天製薬の工夫

続いて藤間氏が、どうすればエンゲージメントを高められるのか、参天製薬における考え方や実際の取り組みを紹介した。

「エンゲージメントに限らず、さまざまな戦略をうまく進めるには、組織風土が重要です。やりたいことがあれば、それに沿って風土を変えなければいけませんし、変えられないのであれば、戦略を変えた方がいい。戦略と風土にはバランスが大事です。また、その風土をつくっていく上で重要な存在となるのがリーダーです」

ここで藤間氏は、参天製薬が実施したエンゲージメントサーベイの結果を紹介した。「基本理念」の理解度は高いが、「日々の実践や行動」や「ビジョン・戦略」に関する数値が低い傾向にあるとの結果が出たという。このデータを基に「会社のビジョンや戦略がなぜ実践できていないのか」を軸にしてヒアリングを進めた結果、「思い込みとズレ」というキーワードが浮上してきた。

「本部長やマネジャーは『目標ややるべきことを、メンバーにきちんと伝えている』と言うのですが、メンバーに話を聞くと『何のためか』という肝心な視点が抜けていました。そのため、上司から『やれ』と指示をされても、どこを向いて取り組んでいけばいいのかがわからない。仕事を進めにくく、やる気が出にくい状態になっていたわけです。このように、上司とメンバーの間にあった『思い込みとズレ』がエンゲージメントの向上を妨げていたことが明らかになりました」

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そこで藤間氏は、成功循環モデルの中で「関係の質」の改善にフォーカスした。関係の質が改善できれば、思考の質、行動の質、結果の質も改善し、好循環のサイクルを生むからだ。関係の質を高める際に重要な「観察・質問・傾聴・認知・承認」を意識できるよう、社内での対話やコミュニケーションをサポートしたという。

「ナンバー2の存在にも着目しました。素晴らしいナンバー2がいれば、上司が交代しても業績が維持できる、エンゲージメントにつながる、という研究結果があります。先ほどお話しした『思い込みとズレ』にも通じますが、ナンバー2が存在する意義は上司とメンバーの間をうまく取り持つことだと考えます。人事は言わば、トップと現場の間に位置するナンバー2的存在。人事の役割は非常に重要だと再認識させられます」

ディスカッション:『おとな扱い』をする効果とは

服部:自社のエンゲージメントの状況を、どのように把握されていますか。

有沢:サーベイを通じて把握していますが、自由意見をたくさん書いてもらうことを目的としています。そのコメントに対して「どうしたら実現できるのか」「なぜこのようなことを書いてきたのか」と考えるようにしているからです。労働組合にも必ず共有した上で「どのように考えて書いたのだろうか」と意見を聞いています。また、ビジネスパートナー制度を導入し、専門のキャリアコンサルタントから「思い込みとズレ」などを開示してもらっています。これらを踏まえて制度や仕組みがうまく運用するようにし、エンゲージメントにつながるようにしています。

藤間:特に理念の浸透状態を重視しつつ、エンゲージメントサーベイで把握しています。サーベイ後の取り組みの中でエンゲージメントに効果的だったのは、ワークグループによる分析です。先ほどお話しした「思い込みとズレ」はここでも指摘されました。

服部:先ほど、リーダーの存在が重要だというお話がありました。現場でエンゲージメントを高めていかなければならないリーダーには、どんなことをやってもらっていますか。

有沢:リーダーに求めているのは、いかに自分がメンバーに期待しているのか、また、何をやってもらいたいのかを、誰にでもわかるような言葉で伝えることです。それにはフィードバックが重要だと考え、評価者研修を行いました。フィードバックの場では、望ましいキャリアパスやキャリアを考えるための情報も提供しています。あくまで自分のキャリアをつくるのは自分自身だというメッセージも伝え続けています。

藤間:リーダーに対しては、「子ども扱い」と「おとな扱い」をキーワードにしています。人事に関することは人事の責任だから任せておけばいい、と考えるリーダーは多いのですが、リーダーにも責任があることを自覚してもらう。つまり、リーダーを「おとな扱い」しています。甘やかすような「子ども扱い」はしません。すると、メンバーのキャリアに対して、リーダーのポジティブな行動が生まれます。

講演写真

服部:「おとな扱い」の話から、ある社会学者の「予言の自己成就」という言葉を思い出しました。信念を持って行動すれば実現する、という考え方です。アメリカのある学校で「このクラスは頭が良く将来を嘱望された子どもたちです」と聞かされてから授業を始めたクラスと、「普通の子どもたちです」と聞かされてから始めたクラスでは、前者のクラスの成績が格段に伸びたという研究報告があります。先生が子どもたちの能力を信じて接すると、よい結果につながるのです。つまり、「おとな扱い」とは相手を信じているからこそできることであり、人事が信じて進めると施策は奏功し、エンゲージメントも向上していくことになります。では、最後にお二人から一言ずつ、アドバイスをお願いします。

有沢:上層部からの押し付けでは、自律的キャリアは育ちません。やはり、「おとな扱い」が大切です。当社では、自分で自分の価値を上げるために研修を受けてもらいたいと考えて、選択性の研修制度に変えました。

藤間:人材育成は、子育てと似ていると思います。手取り足取りのレールを敷けばある程度うまくいくでしょうが、挫折があったときに弱い。しかし「おとな扱い」をすれば、一時的に停滞期があったとしても生まれ変わり、エンゲージメントが高く、強い組織がつくられていくと思います。

服部:本日は、素晴らしいお話をありがとうございました。

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