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これからの「働き方」と人事の役割について考える

  • 尾原 和啓氏(IT批評家)
  • 堀 達也氏(経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室 室長補佐)
  • 谷本 美穂氏(グーグル合同会社 人事部長)
  • 安田 洋祐氏(大阪大学大学院 経済学研究科 准教授)
東京パネルセッション [C]2019.07.29 掲載
講演写真

働く個人にとって、転職は当たり前の選択肢となりつつある。副業(複業)・兼業やリモートワークなどの新しい働き方を選ぶ人、フリーランスとして外部から企業に関わる人も増えている。多様な働き方が混ざり合っていく時代に、企業と個人はどのような関係性を築いていけばいいのだろうか。また、そのために人事はどんな役割を果たしていくべきなのだろうか。本セッションでは、新しい働き方を体現する、インドネシア・バリ島在住の尾原和啓氏が現地からのインターネット中継で登壇。働く個人、行政、企業人事、研究者といった異なる立場の4人が、これからの働き方と人事の役割について議論を展開した。

プロフィール
尾原 和啓氏( IT批評家)
尾原 和啓 プロフィール写真

(おばら かずひろ)1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座を修了。これまでにマッキンゼー・アンド・カンパニー、NTTドコモのiモード事業の立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)において事業企画、投資、新規事業などの職を歴任。インドネシア・バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。著作に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(共にNHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)などがある。


堀 達也氏( 経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室 室長補佐)
堀 達也 プロフィール写真

(ほり たつや)2011年、東京大学経済学部を卒業し、経済産業省に入省。中小企業金融担当(中小企業庁)、国内景気動向の分析担当(内閣府)、原子力政策等の担当(資源エネルギー庁)を経て、2017年6月より現職。働き方改革など政府の人材政策を推進、特に生産性向上・競争力強化の観点から雇用・労働分野の政策立案を担当。独立行政法人経済産業研究所コンサルティングフェローを兼任。


谷本 美穂氏( グーグル合同会社 人事部長)
谷本 美穂 プロフィール写真

(たにもと みほ)慶應義塾大学卒業後、人材サービス会社を経て2000年GEに入社。HRリーダーシッププログラム、GE金融部門の担当人事、日本GEの採用リーダーや組織開発マネージャーなどを歴任し、18年間に渡りグローバルリーダーシップと組織開発に携わる。2011年より米国GEグローバル本社の人事部門に異動、世界50か国から選抜された次世代グローバルリーダー開発を担当。2016年よりGEジャパン株式会社執行役員人事部長、デジタルカルチャーへの変革を推進する。2018年より現職、グーグル合同会社人事部長。


安田 洋祐氏( 大阪大学大学院 経済学研究科 准教授)
安田 洋祐 プロフィール写真

(やすだ ようすけ)1980年東京都生まれ。2002年東京大学経済学部卒業。2007年プリンストン大学よりPh.D.取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門は戦略的な状況を分析するゲーム理論。主な研究テーマは、現実の市場や制度を設計するマーケットデザイン。学術研究の傍らマスメディアを通した一般向けの情報発信や、政府での委員活動にも積極的に取り組んでいる。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」、関西テレビ「報道ランナー」にコメンテーターとして出演中。財務省「理論研修」講師、金融庁「金融審議会」専門委員などを務める。著書論文多数。


安田氏によるイントロダクション:
「空気を読まない人材」を採用してブラック均衡を打破すべき

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はじめに安田氏が本セッションの課題認識として、「働き方」について語った。

「本セッションのタイトルにある『これからの働き方』を見て、日本でも珍しくなくなってきた副業(複業)や兼業、リモートワークなどを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。実際、本日は登壇者の一人が遠隔地から参加しています。これも新しい働き方ですね。ところで、最近話題になっている『わたし、定時で帰ります。』というドラマをご存じでしょうか。私は、原作の小説を読みましたが、生産性を高めて残業をなくそうとする主人公の女性が社長に直談判して『制度だけを整えてもダメなんじゃないでしょうか?』と言うんですね。社長が『なぜ、ダメなんだろう?』と問うと、主人公は『孤独だから、じゃないでしょうか』と答えるんですね。なるほど、と思いました」

なぜ社員が孤独だと、働き方改革が進まないのか。安田氏は、自身が専門とするゲーム理論から、全員が残業する「ブラック均衡」では全員の満足度が低く、全員が定時に帰る「ホワイト均衡」では全員の満足度が高い、と説明した。ベンチャーならトップの鶴の一声で均衡を変えられるかもしれないが、大きな組織だと、自分だけ行動を変えても人事で不利益を被るかもしれないという恐れから孤独な社員たちは動けない。自由な働き方を制度として認めるだけでなく、中にいる社員一人ひとりが働き方改革につながる行動を取ったときに、不利益を被らないようにしなければならない。

「ブラック均衡を打破するためには、あえて『空気を読まない人材』を採用してプレイヤーを変え、ゲームチャンジを起こすことが必要です。その上で経営陣や上司がコミットすることが欠かせないでしょう」

尾原氏によるプレゼンテーション:テクノロジーが人間らしさを引き出し、自己実現を加速させてくれる時代

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続いて、尾原氏がインドネシア・バリ島からのインターネット中継の形式で、自己紹介を含めて「新しい働き方」について語った。

「私自身は転職や兼業・副業、リモートワークなど、新しい働き方の総合商社のようにしてキャリアを積んできました。シンガポール、バリ島をベースとして、いろいろな場所を転々としながら働いています。これまで在籍した企業は13社、兼業として42のプロジェクトに関わってきました。ここまでできるのは、私が今は当たり前となった『プラットフォーム』の立ち上げの専門家だからです。陸上競技で言うなら、マラソン選手ではなくショートスプリンター。いろいろな会社のプロジェクトの立ち上げに関わり、短期間で成果を残して移っていきます。日本では『就職』ではなく『就社』して、終身雇用制度に頼ることを前提とした働き方をする人が多いけれど、私のように『プラットフォームや新規事業の専門家』と言い切ることで職に就くという働き方もできるのです」

そもそも尾原氏は、なぜリモートで働いているのだろうか。例えばバリだと、東京と比べて家賃がとても安い。さらに今はLCCがあるので、急に東京へ行く必要が出てきたときに安く移動できるからだという。

「これまでは住まいが『働く』『学ぶ』に縛られていました。しかし今は、テクノロジーの力で、この壁が取り払われてきています。私の娘はフリースクールに通っていますが、インターネットによって自由に学んでいます。バリ島は観光に立脚しているけれど、観光によって自然破壊も起きる。そんな社会課題にリアルに触れながら、学びを深められる環境にいるわけです。現在はテクノロジーが人間らしさを引き出し、自己実現を加速させてくれる時代です。新しい働き方は、そのうち当たり前のこととして認識されると思います」

堀氏によるプレゼンテーション:
成長を続けていた時代の「心地よいモデル」には安住できない

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2017年から経済産業省の産業人材政策室で、政府全体の人材に関する政策に、企業にとって最も近い立場で関わっている堀氏。行政としての「働き方」に対する考えを提示した。

「今の日本は『課題先進国』と言われます。グローバル化やデジタル化、少子高齢化が進む中で、企業人事のあり方も個人の働き方も変革を求められています。昨年度は、そうした背景をふまえて、人材マネジメントに関する研究会を開催しました。変革の時代においては、求められる人材や就業ニーズ、働き方は多様化しています。そんな中、人材に関する課題を真に経営課題としてとらえている企業はどれくらいあるでしょうか。これからは人材が持続的な企業価値の向上につながっていきます。そうした中で、経営トップには変化に対応する覚悟が問われています。これまでは企業も個人も政府も、成長を続けていた時代の『心地よいモデル』に安住していたフシがありました。私たちは、それを変えていくために、先日研究会で取りまとめた提言を基に行動に移していきたいと考えています」

谷本氏によるプレゼンテーション:思い込みが最大の妨げ

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次に、グーグル合同会社 人事部長である谷本氏が、実務の観点から、これからの働き方に関する思いを話した。

「私はGEの日本とアメリカで人事を経験し、特にリーダーシップ開発と組織開発に力を入れてきました。2018年からはGoogleで働いています。この2社での経験を通じて、グローバル企業では『会社と、自律した個人の関係を作っていく人材マネジメント』が重視される、と感じました。第一に、戦略が明確であり、ビジネスリーダーが成果にコミットしています。次に人事制度もキャリアの機会もグローバルで統一されています。それが人材の流動化を促し、多様性を生みます。また、ジョブ型の組織であることも重要です。従来の日本企業に多いメンバーシップ型ではなく、『自分が何をやれば評価されるか』を社員が理解している組織です。そうしてパフォーマンスを重視することで組織は成長します」

Googleでは人事に人事権がない、という。良いチームを作るのはマネジャーの役割であり、責任。会社が命じる人事異動は一切なく、社員が自分のキャリアを作っていく。そんなGoogleの人事におけるミッションは、「世界で最もイノベーティブな組織を作る」ことだ。

「毎週金曜日には全社員が参加する、リーダーが考えている戦略を聞く時間があるのですが、『皆さんの意見で会社が作られます。反対意見も積極的にどうぞ』とリーダーが呼びかけ、実際に厳しい意見も寄せられます。心理的安全性が確保されていて、リスクを恐れずに反対意見を出せる組織なんですね。またGoogleでは、さまざまなことがデジタルで進みます。例えば名刺は全員自分で発注し、会議では参加者がGoogle ドキュメントを活用し、議事録を共有しながら編集するので議事録係はいません。そのほうが効率的だし、早いからです。誰かがわざわざ単純作業を中継する必要はありません。『8割でいいから早くやる』という文化もあります。『それはGoogleだからできるんでしょ?』と言われることもあります。でも実際に働いている中には外国籍の人もいますが、私たちと変わらない日本人も多数います。日本企業から転職してくる方もいます。そして皆グーグルらしい自律した働き方をしている。『○○だからできる』『○○ではないからできない』という思い込みは、働き方を見直していく上で、最大の妨げになるかもしれません」

ディスカッション:
ジョブ型組織へ移行することで、会社も個人もマインドセットが変わる

安田:皆さん、ありがとうございました。ここからは、事前にご来場の皆さまからいただいている質問をもとに議論したいと思います。まず、尾原さんにうかがいたいのですが、尾原さんのようにリモートで働く人が増えてくるとしたら、経営陣や社員にはどんなマインドセットが必要でしょうか。

尾原:先ほどの谷本さんのプレゼンの中にヒントがあると思います。前提として、私たちは変化の時代に働いています。これからは「問題を定義する」ことが大事で、問題をいろいろな角度から見るためには多様性があったほうがいいわけです。だから、会社は多様性を重視するべき。働く個人の観点では「アカウンタビリティー」(説明責任)も重要だと思っています。自分は何ができる人間なのか、何がやりたいのか。それをアウトプットできる人間が選ばれるようになるのではないでしょうか。

安田:まさに、谷本さんがおっしゃったようにメンバーシップ型ではなくジョブ型の組織で働くようになると、個人のマインドセットも変わっていくのでしょう。次は堀さんにお聞きしたいのですが、働き方改革ではわかりやすい目標として「時短」が掲げられやすい側面があります。一方、今日取り上げているような新しい働き方は、働く時間を増やす可能性もあります。どう両立していくべきなのでしょうか。

堀:時短だけではインプットが減るわけですから、そのままではアウトプットも減ります。だから生産性向上が必要なのですが、そうは言ってもなかなか難しいのは確かです。とはいえ、労働時間そのものが個人の成果・評価として捉えられていた実態があり、政府としてそうした働き方からの転換に向けたメッセージを出す必要がありました。例えば、余暇の時間があれば、個人がこれまでやりたくてもできなかったことを見つめられる。そうした余白の時間の使い方の中に、副業も含まれるのではないかと考えています。

安田:ゴールとしての時短ではなく、働き方を変えていくきっかけとして時短があるわけですね。確かに「終わりの時間を定めない」ことは、日本人の長年の悪い癖のように思います。この点について、Googleで参考になる取り組みはありますか。

谷本:労働時間は基本的に、社員自身が決めています。ただ、偶発的な出会いによって新しいアイデアが生まれることを期待して、オフィスを楽しい場所にすることで出社を促しています。ちなみにGoogleでは、「会議の時間は30分」がデフォルトです。30分経つと次の会議室予約者にドアをノックされる。ノックされると絶対に場所を譲らなければなりません。これがあることで、確実にスピードアップしていると感じます。

働く側と雇う側の意識には、20年くらいの時差がある

安田:もうひとつ谷本さんにうかがいたいのが、先ほどのプレゼンの中にあった「Googleの人事は人事権がない」ことです。働き方改革の波の中で、人事はどうやってプレゼンスを高めればいいのでしょうか。

谷本:人事権がないということは、ビジネスの戦略に寄り添っていることを意味します。私の成果は、Googleジャパンのビジネスをどれだけ成長させられるか、次世代リーダーをどれだけ育成できるか、そして社員のエンゲージメントをいかに高められるか。これらを人事権がない状態で行うのは大変です。日々取り組んでいるのは、できるだけビジネスの現場に入っていくことです。その中で議論の様子を見つめ、何が人と組織を強くするのかを考え、マネジャーやリーダーのコーチングをしています。このようにして、Googleでは人事業務の自動化を進めつつ、人が関わるべき意思決定を大切にしながら人事をデザインしています。

安田:尾原さんにもうかがいたいのですが、今のお話は腹落ちする一方で、やはり「外資だからできるんじゃない?」「優秀な人がそろっているからじゃない?」と感じてしまう人もいるのではないかと思います。伝統的な日本企業はどうすべきだと思いますか。

尾原:そもそも働く側の人間の意識と、雇う側の人間の意識に世代差があります。20年くらいの時差があるのではないでしょうか。そうなるとまずは、働く側の人間に寄り添う必要があります。働く人が、今の会社が大好きで、貢献したいと思っていても、働く人が本当に求めるのは何よりも「自分の人生に良い影響をもたらしてくれる場所」です。例えばリクルートやサイバーエージェントといった会社は、今いる人たちはもちろん、卒業していった人たちも魅力的だから、「自分もここで働きたい」と考える人が多いのでしょう。

新しい働き方は社内人事だけでなく、日本と世界の変化につながっている

安田:最後に参加者の皆さまにメッセージをお願いします。

尾原:今日のセッションに参加して、「時間にとらわれた働き方」からどう抜けるかを考えなければならないと感じました。時間に縛られ、会社の中で不自由な働き方をしている現状から抜け出して、社員が自由になるために孤独をなくすことが大事だと思います。

堀:個人と企業の関係が変わってきていることを考え直す必要があります。かつては圧倒的な情報格差を背景に、企業と個人には大きな交渉力の差がありましたが、企業の成長スピードが緩やかになり、個人はインターネットで情報を得られるようになるにつれて、企業と個人の関係は対等に近づいています。これからは、企業と個人がお互いに自律的な関係を築いていくことが重要だと考えています。

谷本:変化は小さくてもいいから自分から起こすしかないと思っています。当たり前を当たり前と思わず、そして自分で考えてどこかに違和感を覚えるなら、それについて忌憚なく語り合って解決策を考えていくことが大事だと思います。

安田:私は、皆さんのお話を聞いて、自分が専門とする領域である「インセンティブの設計」に関して発見がありました。Googleでは、人事が経営に寄り添う仕組みができあがっている。皆さんの会社でも同じように人事権がなくなったとき、人事としてどうやって自社や社会に貢献するのか。それを思考実験として考えてみるのも、面白いかもしれません。

新しい働き方は、単に働き方だけの問題にとどまらないインパクトを持っています。グローバリゼーションの本質は、物理的・地理的な条件から自由になること。最初にこれが起きたのはモノの世界で、物流コストの低下によって貿易が急拡大しました。次にアイデアやノウハウの伝達がしやすくなり、生産拠点が国境を超えるようになりました。それでもまだ、人は物理的・地理的な条件から離れられなかった。それがいよいよ変わろうとしています。尾原さんが実践されているように、移動しなくても遠隔でサービスができるようになってきました。今後は国境を超えて仕事を取ってくることが当たり前になるでしょう。社内の人事の話だけでなく、新しい働き方が日本を、世界を変えるのです。

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