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社内に眠る人事データの活用で、組織にイノベーションを起こせるのか

<協賛:株式会社SmartHR>
  • 宮田 昇始氏(株式会社SmartHR 代表取締役)
  • 伊藤 羊一氏(ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミア学長/株式会社ウェイウェイ 代表取締役)
  • 鹿内 学氏(株式会社シンギュレイト 代表取締役)
  • 向坂 真弓氏(株式会社サイバーエージェント 人材科学センター)
東京パネルセッション [B]2019.08.20 掲載
株式会社SmartHR講演写真

働き方改革の中で実行する施策は、本質的な生産性向上にリンクしているのか。また、組織と人の力を最大限に引き出せているのか。手応えがなかったり、見切り発車的にスタートさせていたり、といったケースは少なくない。ここに一つの道筋を与えてくれるのが人事データだ。人事データを管理・活用できるクラウドサービスを提供するSmartHRの宮田氏が進行役を務め、鹿内氏、向坂氏、伊藤氏の3氏とともにデータの活用法や事例について語った。

プロフィール
宮田 昇始氏( 株式会社SmartHR 代表取締役)
宮田 昇始 プロフィール写真

(みやた しょうじ)株式会社SmartHRの代表取締役CEO。2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に自身の闘病経験をもとにしたクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を公開。利用企業数は公開後3年で20,000社を突破。2019年1月には、保険業界における非合理の解消を目指す「SmartHR Insurance」を設立した。


伊藤 羊一氏( ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミア学長/株式会社ウェイウェイ 代表取締役)
伊藤 羊一 プロフィール写真

(いとう よういち)日本興業銀行からプラス株式会社に転じ、ジョインテックスカンパニーにて物流・マーケティング・事業再編などを担当。2012年より執行役員ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。2015年ヤフー株式会社に転じ、Yahoo!アカデミア学長として、次世代リーダー育成を行う。グロービス 経営大学院客員教授、株式会社ウェイウェイ代表取締役として、ヤフー外でも幅広くリーダー開発、インキュベーションサポートに活動する。


鹿内 学氏( 株式会社シンギュレイト 代表取締役)
鹿内 学 プロフィール写真

(しかうち まなぶ)奈良先端科学技術大学院大学博士(理学)。京都大学など研究機関で認知神経科学の基礎研究に10年間ほど従事。2015年よりビジネスに軸足をうつし、シンギュレイトでは次世代ピープルアナリティクスの事業を行う。群衆の知恵、集団的知性の研究開発を推進し、「1人の天才に集団は勝てるのか?」「組織化する意義とは?」を問う。ミイダス株式会社Scientific Director、株式会社LIFULL AI戦略室データサイエンスパートナー。


向坂 真弓氏( 株式会社サイバーエージェント 人材科学センター)
向坂 真弓 プロフィール写真

(こうざか まゆみ)一橋大学社会学部卒業後、2003年にサイバーエージェントに新卒で入社。 インターネット広告代理事業の営業、マーケティング、SEMコンサルを経験。
現在は人事部門内組織である人材科学センターにて、人事データの収集や分析を行っている。


人事におけるサイエンスは『みえる→わかる→できる→かわる』

講演写真

データサイエンスの視点から専門的に人事に取り組む鹿内氏は、サイエンスの基本は「見ることだ」と述べる。見えるようになると、自ずと議論をしたくなるため、そこから始めればいいという。

講演写真
講演写真

「見ることが基本になります。人事はデータを見て理解をして、それをもとにできるところから働き方の改善案を考え施策を通して変わるといったことを行っていると思います。つまり、『みえる→わかる→できる→かわる』というサイクルがある。機械が行う領域の『できる』『かわる』がHRテクノロジーであり、人事が行う領域の『みえる』『わかる』の部分がピープルアナリティクスです。『みえる』では、誰を見るのか、『わかる』では、誰が理解するのか、といった『誰』という対象者・主体者をしっかり定めることが必要です。HRテクノロジーも重要ですが、ピープルアナリティクスという人事におけるサイエンスも非常に重要です。データを見てみるだけでも人事のクオリティーを上げるためのヒントが得られます。さらに、データをうまく可視化できればメッセージも伝えられる。アンケートを実施する場合も、結果を文字と数字だけの「表」で見せるよりも、棒グラフや折れ線グラフを使ったり、回答数の多い項目順に並べたりするべきです。データが誤解される可能性が減るだけでなく、意思決定も速まります。データをコミュニケーションツールとして、意図を持った可視化が大事です」

ツールを導入するだけのHRテクノロジーは競争優位ではなく、競争劣位を防ぐものだと鹿内氏は説明した。『みえる』『わかる』の部分で人事が、自社のデータを用いて、自社に合わせた働きかけをするピープルアナリスティクスこそが、競争優位をつくるものだと主張した。

アンケートの見方や切り口を工夫することで「違和感」が見つかる

講演写真

向坂氏が所属する人材科学センターが立ち上げられた目的は「経験や勘で物事を決定することが圧倒的に多い人事に、少しでもデータを持ち込み、人事全体がファクトで語れるような組織にしていくことだ」という。

「具体的な業務としては『1.データ回収』『2.見える化』『3.分析』。ところが、分析を行おうとするほどに、見える化とデータ回収の重要性がどんどん高まってきました。現在も日常業務の9割の時間がデータ回収と見える化に割かれています。分析のために大事なのは、目的に即した設計。当社では社員の適材適所を目的に、これに即したデータを集めていきました」

具体的には、毎月1回1分程度で回答できる社内アンケートを実施。自分の成果、チームのコンディション、それ以外に毎月異なる質問を1~2問ほど投げかける。そして、「快晴」から「大雨」まで5段階の天気マークで感覚的に回答してもらう。社内アンケートは6年間継続中で、回答率は98%以上にのぼるという。

「本来は『1.データ回収』『2.見える化』と順に進むべきですが、順番ばかりにこだわっていては先に進めないため、『2.見える化』を並行して始めました。BI(ビジネスインテリジェンス)ツールも使って、人事担当者がExcelなどで操作をしなくともデータがすぐ確認でき、ダウンロードして使えるような環境構築も進めています」

分析までに至らなくとも、データの見方や切り口を変えたり、掛け合わせたりした段階だけでも、さまざまなことが見えてくる。例えば、毎月のアンケートの回答から社員の時系列の変化を見て、数値が急変している人や、長期間で下降している人の状況を確認。また、本人の回答とファクトデータを掛け合わせ、違和感を見つけ出しているという。

「仕事量や負担についての本人の実感値の回答データと、該当月の勤怠データをクロス集計してみると、労働時間は平均的でも『自分はすごく働いている』と回答する人がいます。面談をすると、業務量に問題があるのではなく、責任が大きすぎて心理的負担がある状態だと判明することもあります。少し高度な分析としては、アンケートから『こういう回答傾向がある人は優先的に対応した方が良さそう』といったクラスタ分類もしています」

最終的には、ダッシュボードのような形で人事全員がデータを扱えて、自由に分析し把握できることを目指している。そのために、データを正しく解釈し、判断できるリテラシーを人事全体で底上げしたいと向坂氏は考えている。

人事三大疾病「ばらばら病、ぐちゃぐちゃ病、まちまち病」を整備

講演写真

2年前にピープルアナリティクスの部署を立ち上げた際に伊藤氏は、勤怠、評価、カルテ、研修、従業員満足度、メール情報、健康診断、位置情報といった人事のデータを掛け合わせれば、それらを採用、働き方、評価、配置、育成、コンディションなどに活用できると考えた。そして最初に、採用の面談内容と3年後の評価の関係分析にチャレンジしたという。

「面接時の情報、書類情報、テストの情報などと、3年後の人事評価を見比べて分析すれば面接もしやすくなると考えました。しかし、相関関係は6割程度で全部をカバーするのは難しいことがわかりました。この際、さまざまなデータを分析したのですが、その手前の段階で非常に苦労しました。これを私は、HRデータに関する『不都合な真実』と呼んでいます。データ分析に取り組む方は誰もが苦しんでいることだと思います」

不都合な真実とは、「ばらばら病」「ぐちゃぐちゃ病」「まちまち病」だ。これらの総称として、伊藤氏は「人事データ三大疾病」と呼んだ。一つ目の「ばらばら病」とは、採用や評価などのデータが縦割りで保管されるため、データがさまざまな場所に散らばっていること。二つ目の「ぐちゃぐちゃ病」とは、面接評価の指標がABになっていたり、数字になっていたりという統一性のなさ。また、半角・全角の入力間違いなどにより、データがぐちゃぐちゃになっていること。三つ目の「まちまち病」とは、評価の方法が変わるとデータの連続性が失われてしまい、連続して使えるデータがまちまちになっていることを指す。

「こうした『不都合な真実』に対処するため、データ分析をいったん中止しました。データが整備されていなければ何も始まらないため、中止後1年間はデータ整備に集中。そして、一つのデータベースに集約させ、誰でも分析可能な環境をつくりました。併せて、BIツールも整え、活用術を学ぶ研修も進めています。最終的には人事以外も使えるよう、マネジャー層にもオープンにする予定です。すると現場からは『使えない』『このデータがおかしい』などの反応が出てくるでしょうから、データ分析が活性化されると予測しています」

将来は人事データを業務軸で切るのではなく、一人ひとりの社員軸として、「揺りかごから墓場まで」一気通貫となるデータを蓄積し、マネジメントに生かせるようにしたいと伊藤氏はビジョンを掲げている。

ディスカッション:
課題解決のポイントをいかに可視化するか

講演写真

宮田氏は、人事データの分析方法として四つの段階を紹介した。

「『何が起こっているのか』『なぜ起こったのか』『何がこれから起こりるのか』『どうしたらいいのか』の四つの段階があります。人事データを退職予測に活用したいと考える企業が多いのですが、雇用形態や年代別の離職率が把握できていないケースが多いと感じています。退職予測に対しては、最初の二つに対するアクションを考えると良いでしょう。この場合にネックになるのは、データがバラバラになっていたり、最新のデータが把握できていないという点です。必要に応じてデータを毎回集計していては手遅れになります」

従って、雇用形態や年代別の離職率、雇用形態別の平均年齢や平均給与、部署や店舗別の人件費や残業時間などのデータを、すぐに把握できるよう事前に整頓しておけば、課題に対して行うべき施策は見えやすくなる。例えば、ある店舗で離職率が高いというデータが出た場合、雇用形態と店舗別の平均残業時間を掛け合わせたデータを出力。この店舗だけ正社員の残業が多いといった事実が見つかれば次に何をすべきかが見えやすくなる、と宮田氏は説明する。

「これまで分散していたデータを集約・整備できれば、それを活用して、人事の日常業務を効率化できます。さらに、さまざまな課題の原因を明確化できるため、的確な施策を実施しやすくなります」

パネルディスカションでは、宮田氏が三氏に質問する形で進められた。

宮田:まずは、データ解析において大変だったことを教えてください。

向坂:紙に苦しめられたことです。人事からデータを集めようとしたら、採用時の評価情報の半分以上が紙で保管されていたことを知って驚きました。それを入力するところから始めなければなりませんでした。

伊藤:分析に至る前に力尽きてしまうほど、調べる労力ばかりがかかってしまったことです。また、例えば従業員向けの朝食サービスを新たに始めたのですが、その効果を調べるためのデータ管理が不十分で、効果が測定できていない現状もあります。効果があるだろうという曖昧な意思決定のもとで、コストをかけて続けているのです。

鹿内:そのような例は少なくありません。「みえる→わかる→できる→かわる」のサイクルの中の「できる」から、とりあえず施策を行っていて、きちんと「みえる」ことができていない。これはしっかり認識すべき点だと思います。

講演写真

宮田:人事データを退職予測に活用したいと考える企業が多いのですが、退職率はどれぐらいが適正なのでしょうか。

鹿内:企業のフェーズやビジネスモデル、利益率、人材の流動性でも変わりますので、一概には言えません。ただ、ほかのデータと合わせて重要な指標は継続的にウォッチしておくといいと思います。

伊藤:その通りです。施策、従業員満足度、退職率というように、しっかりリンクさせてウォッチすることが大事です。

向坂:適正な退職率は社内的に想定していませんが、時系列で部門別、職種別、年次別などでウォッチしています。いろいろなデータを掛け合わせてみると、退職傾向が見えてきます。

宮田:蓄積したデータを今後はどのレベルまでに公開し、活用していくお考えですか。

伊藤:結局、従業員をマネジメントするのは人事ではなくマネジャーです。そこで当社では、マネジャーにデータを渡すことにしました。これにより、メンバーの成長に一層役立てられるようになるのではと思っています。

鹿内:現場にデータを公開すれば、そこから意見が出るようになります。その結果、人事にも新しい仕事が生まれて、可能性も広がるのではないでしょうか。

向坂:経営企画に協力してもらって業績データも合わせて見ています。すると、業績の鈍化はチームのタスク配分に問題があるのではといった議論も進められます。

最後に「まずはデータを集めること」「会社を超えたデータに関する情報交換を意識すること」といったポイントが三氏から挙げられた。黎明期ともいえるデータ活用、人事のサイエンスを盛り上げていこう、と登壇者全員からエールが送られ、パネルセッションは終了した。

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