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戦略人事の展開:新たなる戦略連動を目指して

  • 守島 基博氏(学習院大学 経済学部経営学科 教授)
東京特別セッション [SS-1]2019.07.02 掲載
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経営戦略と人材戦略の連動、それこそが「戦略人事」の中核である。その連動を確立できた企業だけがこれからの時代を勝ち残っていくといわれている。ただ、経営環境とともに企業戦略が大きく変化し、働く人びとの意識や価値観が多様化するなか、この連動を常に確立していくことは、決して容易ではない。これから人事は、どのような視点で戦略人事に取り組んでいけばいいのだろうか。学習院大学教授の守島基博氏を講師に迎え、参加者との意見交換も交えながら、「戦略人事の新たな展開」について考えた。

プロフィール
守島 基博氏( 学習院大学 経済学部経営学科 教授)
守島 基博 プロフィール写真

(もりしま もとひろ)人材論・人材マネジメント論専攻。1980年慶應義塾大学文学部卒業、同大学院社会研究科社会学専攻修士課程修了。86年米国イリノイ大学産業 労使関係研究所博士課程修了。組織行動論・人的資源論でPh.D.を取得後、カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年4月より現職。18年より副学長。主な著書に『人材マネジメント入門』『人材の複雑方程式』『21世紀の“戦略型”人事部』『人事と法の対話』などがある。


そもそも「戦略人事」とは何なのか

まず守島氏は、この日のテーマである「戦略人事」に向き合うとき、人事にはどんな意識が求められるのかと参加者に問いかけた。

「人事の皆さんに特に意識してほしいのは、これからは『人材不足の時代』になる、ということです。人手は足りているのに、事業戦略上行いたいことをやってくれる人材がいない。そんな状況が起こりうることを、しっかりと認識してほしい。そのとき、人事は何を考えなければならないのか。それが今日の本題です」

ここで改めて「戦略人事とは何か」が整理された。

「一言でいえば、経営や事業の戦略を達成するための人材を確保すること。戦略という言葉は使っていますが、もう少し広く捉えて企業のビジョン、経営目標などを含めてもいいでしょう。要は、企業がめざす目的を達成するための人材をいかにそろえられるか、ということです。難しいのは、企業の戦略自体がどんどん変化していくものであること。今やメーカーは品質の良いものを作っていればいい時代ではなく、その製品が使われるシーンをつくることが仕事になっています。また、グローバル化があたりまえになり、M&Aもどんどん増えています。しかし、変化する企業戦略をハンドリングできる人材を常にそろえておくことは、決して簡単ではありません」

ここで守島氏は、富士フイルムの事例を取り上げた。現在は化粧品や医薬品が売上の過半を占める同社だが、かつては言うまでもなく写真用フィルムのトップメーカーだった。その主力製品の売上がピークを記録したのは2000年。その後、徐々に売上は減少していく。経営環境の変化は当然、その後の企業戦略にも大きな影響をもたらす。

「皆さんが2003年頃の富士フイルムの人事だったら、どんな新卒採用を行いますか。あるいは、どんなリーダー人材育成プログラムを組みますか」

守島氏の質問に対して、参加者からは「オタク採用というか、変わった人を採用します」「多様性を重視した採用を行います」などの意見が述べられた。

「まさに戦略人事とは、そういうことなんです。経営環境や事業戦略が変化していくときに、人事としてどう対応していくのか。自分の職務の範囲内で何ができるのか。それを考えていくことなのです」

実際に守島氏は、富士フイルムが事業構造の転換を迫られていた頃に、人事部長から「多様性のある人材を意識的に採用している」と聞いたという。

「主力製品がしだいに先細りになる傾向は見えていても、次に何が来るのかはその段階ではまだはっきりしていません。そこで従来行ってきた大学の研究室から直接採用する枠を少なくし、自由応募を増やしました。それが戦略人事の一つの方向性になったわけです。結果的に同社は経営学の歴史に残るような大転換をやってのけ、まったく違う企業へと生まれ変わりました」

働く人が大きく変化。2025年にはミレニアル世代がマジョリティに

環境の変化だけでなく、同時に「働く人の変化」にも注意を払わなければ、戦略人事を実現することはできない。ここで守島氏は「人材とは何か」について今一度考えたい、と参加者に投げかけた。

「人材というとスキルや能力、人数などの面から理解されることが多いと思います。しかし、ここで絶対に欠かしてはならないのが『マインド』という要素です。マインドセット、モチベーション、あるいはエンゲージメント。そこまで含んではじめて、人材といえます。単に雇用しただけでは意味がありません。その人のマインド、心を仕事に向けること。それができてはじめて、人材採用といえるわけです」

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日本企業は世界的に見て従業員のエンゲージメントが低いというデータがある。日本企業は従業員の心を十分につかめていないといえるかもしれない。この問題をクリアするには、「人側で起きている変化」を理解することが欠かせないと守島氏はいう。

「まず、価値観が変化しています。1980年代以降に生まれたミレニアル世代は、仕事よりも個人の暮らしを重視したいと考える傾向が強い。2025年には、日本の労働人口の過半数を占めるようになります」

ダイバーシティも一段と進み、職場は多様な人々が混在する環境になっていく。

「性別、年齢、国籍といったダイバーシティも重要ですが、人事が考えておくべきなのは『深層のダイバーシティ』です。これは価値観や考え方の多様性という意味で、表面的に見えるダイバーシティよりもずっと手ごわい。性別、年齢などのダイバーシティなら事前にわかるし準備もできますが、深層のダイバーシティは外形的には同じなのに考えていることが全く違う、という難しさがあります」

守島氏は、日本企業においてもこの深層のダイバーシティがかなり進んでいると見ている。

「たとえば、部下の若い社員と話がかみ合わない、と感じることがありませんか。メールに宛名も自分の名前も書かず、LINEのような感覚で『今日は休みます』とだけ書いて送ってくる。スマートホンのフリック入力は速いが、パソコンのキーボードは使えない。仕事を与えられると「何の意味があるのか」をやたらに知りたがる……。深層のダイバーシティが大きくなってくると、従来型の日本企業の人事管理は変更を迫られることになります」

もう一つ意識しておかなくてはならないのは「働き方改革の浸透」だ。ミレニアル世代が報酬以外のどんな基準で企業を選ぶかを調査した『デロイトのミレニアル調査』(2016年)によると、1位はワーク・ライフ・バランスだった。昇進やリーダーになることよりも個人の暮らしを重視したい、と考えているのだ。

「複数の内定をもらった学生から、どこに入社するのがいいかと相談されることがあります。その際によく聞かれるのが『どこに行けば転職に有利ですか』ということ。つまり、長く働く前提がなく、会社選びをしているわけです。数年働いてみて、自分にあう企業かどうか見きわめたいと思っている。それが良いとか悪いとかいうことではありません。そういう考え方をする世代なのです。これからの戦略的な人事管理は、そういうことも織り込みながら行っていかなければなりません」

<ディスカッション>

ここで、これまでの内容を踏まえて参加者とのディスカッションが行われた。

参加者(1):職場の多様化と同時に「二極化」も強く感じています。ワーク・ライフ・バランスもワーク重視の人とライフ重視の人に二極化していますし、モチベーションも自分でドライブしていける人とただ流されるだけの人に二極化しています。

守島:ワーク志向の人をうまくのせていくことは、皆さんも慣れているでしょう。多くの日本企業の課題は、もう一方のライフ寄りの人をどう戦力化するか、ということです。今は人材不足、人手不足の時代ですから、一人も無駄にはできません。ライフ志向の人には、少なくとも就業時間内は頑張ってもらう必要があります。これからの人事管理の大きなポイントです。

参加者(1):ライフ志向の人に仕事にコミットしてもらうためには、どうすればいいのでしょうか。

守島:私見ですが「職務主義的人事管理」を徹底していくことは、一つの回答になると思います。「あなたに任されている仕事は、きちんとやってね」というコミュニケーションをしっかりととること。それしかないでしょう。ミレニアル世代の人たちが職場の多数派になり、働き方改革が進んでいるわけですから、それを前提にしてどう戦力化するのかを考えなければなりません。またトップクラスの人材も、そういうミレニアル的な価値観を持っていることを意識しておいた方がいいでしょう。トップクラスの人材は、転職市場でもバリューがあるので、それを背景にして『勝手にやらしてほしい』という考えが強い。それをどうマネジメントしていくかも、今後の課題ですね。

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いま注目すべきは、働く人たちの考え方に寄り添う「西海岸型人事」

ミレニアル世代が多数派となっていく時代に有効な人事管理手法として「職務主義的人事管理」をあげた守島氏だが、もう一つ、注目している動きがあるという。アメリカの西海岸を本拠地とするIT企業などに代表される「西海岸型人事」だ。

「アメリカの人事管理には、大きく二つの流れがあります。その一つが『西海岸型』。簡単にいえば、働く人の個性や価値観を企業として徹底的に大切にするやり方です。マイクロソフトやグーグルのようなIT企業をイメージしてもらうとわかりやすいでしょう。こういう企業に行くと、広大な敷地の中に快適なオフィスがあり、すべて無料の社員食堂やスポーツジムがあります。働きやすい環境を提供しているのです。比較的高度なスキルを持った人材に対しては、そういった人事管理でないとうまくいきません」

それに対して、自社の求める人材を計画的に育成していく伝統的な人事管理スタイルは「東海岸型」といわれる。

「しかし現在は、『東海岸型』の代表とされてきたIBMやGEのような企業も、徐々に西海岸型の人事管理を取り入れはじめています。そうしなければイノベーションは生まれない、と考えるようになってきたからです。特に、ますます重要になるAIなどを開発して活用できる人材は、自由な環境で働きたいという考え方が強い。そういう人たちを採用して戦力化していくには、働く人の考え方にどこまで寄り添えるかが重要です。

また、働き方改革も同じ文脈で考えるべきです。戦略人事的な働き方改革とは、基本的に『働き手一人ひとりが自分の思うような働き方ができる環境』を実現することです。企業ですから限界はあるかもしれませんが、どこまで近づけることができるか。重要なのは、そうした働き手に寄り添う改革が『企業の競争力向上』に直結するものだという認識を持つことでしょう」

<ディスカッション>

セッションの終盤は、参加者から出された課題や質問を題材に、守島氏の司会で参加者全員が討論した。

参加者(2):フレックスタイムやテレワークの導入など、働きやすい環境づくりを進めていますが、自由を増やすと、頑張れる人と手を抜く人に二分化してしまいます。そこで、それぞれを別のルールで管理しようとすると、今度は双方から不満が出てくる状況です。

守島:それはどこの企業でも起こりうる問題ですね。頑張る人は放っておけばいいわけではありません。ちゃんと対応してあげないと、モチベーションは維持できませんから。もちろん頑張らない人への対応も不可欠です。このあたりをうまくやっている企業はありますか。

参加者(3):うまくできているかどうかはわかりませんが、弊社はテレワークの導入で一定の成果をあげています。そこで感じるのは「頑張る」の概念が変わってきていること。与えられた業務をやり切ることで「頑張った」と感じるタイプもいれば、より上をめざしたいタイプもいます。後者の人は残業禁止などが煩わしいと思っているでしょうから、どう納得してもらうかは課題です。

守島:私はこの場合も、職務主義的人事管理が一つの解決方法になると思います。「あなたの仕事はこれだからしっかりやってね」ときちんと伝えていくことが重要です。多くの日本企業は、一人ひとりのミッションを明確に伝える人事管理を行っていません。そのため「どこまでやればいいのか」の理解が個人によって異なってしまい、そういった問題が発生するわけです。

参加者(3):職務主義的人事管理は、現場のマネジャーに任せていいことなのでしょうか。それとも、会社の人事制度としてつくった方がいいのでしょうか。

守島:人事制度としてある方がいいでしょうね。これまでも現場のマネジャーが部下の職務管理をきちんと行ってきた会社ならいいのですが、そうではなければ、マネジャーに全部任せるのは酷だと思います。

個人の役割をもっともわかっているのは現場のマネジャー

参加者(4):一定以上の規模の企業で、全社的に職務主義的人事管理を制度化するのは難しいと思います。

守島:具体的な進め方は規模によって異なりますし、難しい面もあるでしょう。それでも、職務主義的人事制度を導入している大企業は存在します。人事が考えなくてはならないのは、「現場のマネジャーが運用できるだろうか」ということ。マネジャーがメンバーに対して「あなたの仕事はこれだ」ときちんと伝えられるかどうかにかかっています。最終的に「この人の仕事はこれだ」ということがわかるのは現場ですから。究極の人事とは現場のマネジャーが行うことであり、人事部はそれを支援することが求められています。

参加者(5):職務主義的人事管理の意義はわかりますが、それを徹底することと事業環境の変化に対応していくことは矛盾するように思います。会社としてはむしろ範囲外の仕事、伝えていないことまで自ら見つけてやってほしい、という場合もあるのではないでしょうか。

守島:まさにその通りです。職務主義的人事管理は変化への対応という観点からは「遅い」システムです。それをクリアするには、純粋なジョブベースのやり方よりも、もう少し柔軟な「役割」や「ミッション」といったレベルでやっていく方がいい。先ほど議論したように、やる人とやらない人が二分化してしまう問題を解決するには、はっきりと「これをやってね」と言わなくてはいけません。しかし、いわゆる変化や変革を意識する際は「役割」のようなソフトなものを考えるべきでしょう。具体的にいうと、皆さんの会社では「目標管理(MBO)」をどこまでやれているでしょうか。日本企業ではあまり機能していないMBOがアメリカで非常にうまく機能しているのは、職務主義とセットになっているからです。日本ではベースとなる職務が明確でないまま目標を設定しているので、うまくいかない面があるのだと思います。

参加者(6):最近は企業のマネジャー層が劣化しているという見方もあります。昔と比べて、マネジメントしづらい時代になっているからではないでしょうか。人事の役割はマネジャー層を育成することでもあるので、何とかしなければいけないと考えています。

守島:昔の職場は大卒の男性社員がほとんどで、一緒に残業して一緒に飲みに行く。そういう中で一定の価値観が共有されていましたから、シンプルなマネジメントで問題はありませんでした。しかし、今は多様化の進んだ職場を管理し、さらにはコンプライアンスなど、昔はなかった仕事もマネジャーの職務範囲になっています。何でもマネジャー層に任せる風潮がありますが、考え直す時期かもしれません。プレイングマネジャーも多すぎるように感じます。経営陣がまずやるべきなのはマネジャーの仕事の範囲と優先順位を明確にすること。マネジャーのもっとも大事な仕事である「部下のマネジメント」がしっかりできる時間を持たせるべきです。

いろいろと話してきましたが、人事は『企業戦略をどこまで実現できたか』で成果を問われます。個に寄り添わなくてはいけないこともあるし、現場をサポートしながら人材開発や組織開発を行っていくことも求められます。ただし、それらはあくまでも手段。最終的には、戦略を達成できたかどうかが重要です。今日、皆さんにいちばん考えてほしかったのは『働く人が変化している』ということです。そのことを意識しながら、戦略人事に取り組んでいただきたいと思います。

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