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HRテクノロジーとは何か? どのように活用できるのか?~これからの人事に求められる役割とは~

  • 杉原 章郎氏(楽天株式会社 常務執行役員 人事・総務担当役員)
  • 有沢 正人氏(カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(人事最高責任者))
  • 野田 稔氏(明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
TECH DAYパネルセッション [TB]2019.02.01 掲載
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今やHRテクノロジーは、さまざま場面でその必要性が叫ばれている。そもそもHRテクノロジーとはどういうものなのか。なぜ今注目されていて、人事としてどのように活用していけば良いのか――。それらの疑問に応えるために、楽天・杉原氏、カゴメ・有沢氏の両人事責任者と明治大学専門職大学院の野田氏が論じ合った。

プロフィール
杉原 章郎氏( 楽天株式会社 常務執行役員 人事・総務担当役員)
杉原 章郎 プロフィール写真

(すぎはら あきお)1969年生まれ。96年に慶応義塾大学大学院・政策メディア研究科修士課程修了時にITベンチャー会社設立。 97年に楽天の創業メンバーとして参画し、「楽天市場」の出店営業部門を担当。その後、楽天市場以外の事業を複数立ち上げる。取締役新規事業開発部長、楽天オークション部長、楽天ブックス社長、システム開発部門担当役員などを経て、現在は、人事・総務部門担当役員。


有沢 正人氏( カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(人事最高責任者))
有沢 正人 プロフィール写真

(ありさわ まさと)1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。 銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入などを通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2012年10月より現職となり、国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者となる。


野田 稔氏( 明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
野田 稔 プロフィール写真

(のだ みのる)一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。専門は組織論、組織開発論、人事・人材育成論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。大学で学生の指導に当たる一方、企業に向けて組織・人事領域を中心に、幅広いテーマで実践的なコンサルティング活動も行う。ニュース番組のキャスターやコメンテーターなど、メディア出演も多数。


野田氏によるイントロダクション:HRテクノロジーは誰を幸せにするのか?

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最初に野田氏が、「HRテクノロジーは誰を幸せにするのか?」をテーマに語った。

「HRテクノロジーを使って、我々は一体誰を幸せにしようとしているのか。このことをまず考えないと、大変危険です。私は、従業員を幸せにすべきであると思います。従業員は決して会社の所有物ではありません。会社と従業員は対等であり、データも従業員に帰属すべきです。当然ながらデータの分析結果は、まず従業員に開示される必要があります」

ここで野田氏は、一例として適材適所を挙げた。通常は会社が社員本人の能力を把握して、どのポジションが良いのかを検討するが、「そのやり方は良くない」と否定する。

「データは個人に開示され、能力や志向性・可能性を自己認知して、会社と本人がエビデンスを持って話し合うなかでキャリアを決めていく。そのなかでAIやビッグデータを使うのはすばらしいことです。繰り返しますが、従業員がデータの所持者であるべきです。個人と会社においても、個人情報保護の観点は必要。私は、HRテクノロジーが従業員、会社の順番で幸せになるよう使われるべきだと考えています」

杉原氏によるプレゼンテーション:楽天のHRテクノロジー推進

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次に杉原氏が、楽天がHRテクノロジーをどう推進しているかを説明した。現在楽天は、海外を含めて約100社で一つのグループを構成している。当然、地域や国によって、商習慣も法律も異なるため、それぞれに基づいた仕組みが導入されている。そこに、2年間かけて採用・タレントマネジメントに関する統合的な仕組みを導入してきたという。

「第一段階として、グローバルな採用に対応できるようにしました。具体的には、2018年夏、グローバルなHRIS(人事管理システム)を導入するまで進めてきました。ただ、ベネフィットやタイム&アテンダンス、ペイロールは、地域でまとめるかローカルなシステムにしたままです」

統合的なシステムが導入されたことで、海外法人の従業員データをいつでも閲覧することが可能になった。そのため、適材適所に思いを巡らすこともできる。

「ただし、道のりはこれからです。プラットフォームはできましたが、活用しないと意味がありません。最終的に我々が目指しているのは、一人ひとりの従業員が自分のためにこのツールを使って、自分のデータを最も良い状態に保つこと。最終的には、AIを活用して離職リスクに早期に対処できるとか、この仕組みを使ってそういうコンディションに陥る人がなくなるようにしたいと考えています」

併せて、杉原氏は今後に向けた課題も提示した。具体的には、ポジション管理、マネジャーの位置付けの違いによる既存システムとの差異、採用システムとの連携の未熟さ、候補ポジションに求められる能力スペックの定義の煩雑さなどだ。

「いずれもプロジェクトを重ねていけば、改善していけると考えています」

ディスカッション(1):杉原氏のプレゼンを受けて

野田:どのくらいの時間をかけて、どのように仕組みを導入したのですか。

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杉原:実質的には丸2年。本腰を入れてからは約1年でした。相当現場にはしわ寄せが来ており、もめ事が絶えませんでした。

野田:これが実現できるとデータの重複がなく、グローバルでの人事異動も可能になります。かけがえのない資産だと思います。

杉原:導入して終わりでなく、導入したところがスタートライン。そこから一歩ずつ変えていくつもりです。

野田:HRシステムでは、従業員自らが積極的に関与することが重要です。人任せでなく、自分事としてデータを入力し、見る、分析する、活用することが欠かせません。従業員一人ひとりの反応はいかがですか。

杉原:日本の従業員はこれまで、不十分なシステムに管理されていたことがわかりました。一方、米国子会社は、システムが自分たちにとっていかにメリットがあるかを体現してくれています。

野田:米国では、システムを活用して自分をアピールしたり、ラーニングのディレクションを考えたりする人が多いのではないでしょうか。

杉原:世界同時に導入したので、違いが明確に出ています。日本は今までいかに人事が手取り足取りやっていたかがうかがえます。

野田:自由を得る半面、自己責任が日本の従業員には欠けています。

杉原:「このシステムを使うと自分のためになる」という啓蒙活動をプロジェクトと並行してやらなくてはいけないと考えています。

野田:適材適所は今後、どんな方針で進めていくのですか。

杉原:グローバルで一つの仕組みに載せたので、グローバルなプロジェクトにアサインされるべき人を投じていく考えです。

野田:能力やスペックの定義は現場がやるしかありませんね。

杉原:本当にそうだと思います。ジョブディスクリプションをしっかりと整え、特に採用が活発なポジションに関してはどんどん良くしていく、本当の状態に近づけていくことが大事です。

有沢:グローバル化を進めるにあたって、障害はありませんでしたか。どういったところに工夫されましたか。

杉原:プロジェクト担当者が現地に入り込んで、膝を突き合わせ、すごく苦労しながらやった成果です。

野田:パフォーマンスマネジメントは国によって難しいのではないでしょうか。

杉原:もともと能動的に入力していないと評価されない仕組みだったので、それほど問題はありませんでした。

野田:逆に、このなかで抵抗が最も強かったのは何ですか。

杉原:コンペンセーション(報酬)・マネジメントです。感覚が違うので、すり合わせるのが大変でした。

有沢氏によるプレゼンテーション:カゴメのHRテクノロジーについて

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次に、有沢氏がカゴメのHRテクノロジーに関する取り組みを語った。

「HRテクノロジーの目的は、会社視点で見た場合に適材適所の配置の実現もありますが、カゴメでは抜てき人事の推進も大きなポイントです。ただ、権利は従業員にあると考えているので、会社視点以上に個人視点を重視しています。HRテクノロジーを自律的なキャリア形成のサポートツールと位置づけ、自分の成長を自分で可視化し、上司とも共有できる仕組みにしました」

HRテクノロジーでカバーしている範囲は三つある。一つ目は、人材情報の一元管理・見える化。二つ目が、人材配置。これは最重要課題と位置付けており、重点的にサポートできるテクノロジーを設計している。三つ目が給与システムだ。

「HRテクノロジーの基本設計とその狙いについて言えば、異動希望を入力してもらい、テクノロジーによるコミュニケーションとフェーストゥーフェースのコミュニケーションの両方を行うことでマッチング率を高めています。また、従業員が自ら長期キャリアプランを設計するようにしています」

有沢氏は、カゴメでのHRテクノロジーの活用イメージについて触れた。HRテクノロジーを使うことで個々の従業員の特性を生かした適材適所をサポートし、最適配置を実践できるようにしているという。具体的には、人材情報の一覧化、職務・人材要件の可視化、最適人材の検索・比較・選抜が可能となっている。

「カゴメ同様、典型的日本企業でもやろうと思えば、ここまではできるはずです」

ディスカッション(2):有沢氏のプレゼンを受けて

野田:従業員はシステムにきちんと入力してくれますか。

有沢:「使う権利は経営と同等に従業員にある。実際、こんなにメリットがある」と示すと、あまり抵抗はありませんでした。三人のビジネスパートナーも伝道師になってくれました。

野田:従業員の方々はキャリアを自律的に形成する意識が強いのですね。

有沢:「キャリアは自律的につくるもの」という考え方が徹底されているからです。このシステムでもキャリア自律を前提に、使い勝手の良さを追求しました。ただし、カゴメはITやAIがすごく進んでいるわけではありません。やはり、最終的にはアナログです。

野田:採用はテクノロジーの領域とされています。今後テクノロジーで適材を選択するといった構想をお持ちですか。

杉原:データが集まってこないと、相関性が現れてきません。入社を希望する方に会社との相性に関して提供できるデータが増えてくれば良いと考えています。

有沢:カゴメの採用選考はすべて人海戦術です。ただ、もう限界にきているので、AIは導入したいと思っています。そのときには、カゴメのなかでどれだけ活躍できるのか、というポテンシャルを見たいですね。ただ、すべてをAIに置き換えるつもりはありません。

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野田:最近、バイタルデータの収集・活用が叫ばれています。実施する可能性はありますか。

杉原:ないとはいえません。ただ、データは会社が独占すべきではないので、あくまでも個人がより良く働くために活用することを徹底する必要があります。

野田:私も同感です。個人にアラームが出るべきです。従業員主体のバイタルデータの活用であれば良いのかもしれません。

有沢:カゴメは健康経営を掲げているので、従業員にも健康でいてほしい。それだけに、可能性はあります。メンタルだと、どうしても対症療法になりがちです。そうではなく、事前に警告を出せないかと考えています。

野田:集中度を測ると良いと言われています。特に睡眠の質です。

有沢:カゴメではミツバチ運動を推進しています。8時間会社にいて、8時間自分の時間を確保して、8時間睡眠を取るという運動です。

野田:今後、HRテクノロジーをどんな方向で活用していきたいとお考えですか。まずは、私の見解から述べたいと思います。誰のためにHR テクノロジーがあるのかを認識すること。データは会社と従業員が共有主体であること。最大限のエンゲージメントを引き出す環境を作っていけば、会社のパフォーマンスも上がっていきます。このように、ヒューマンリソースの生態系が進化していけると良いと思っています。

杉原:すべての従業員に、このツールを活用してほしいと思います。プロセスなく瞬時にデータがアップデートされ、個人それぞれが起こすべき行動が会社の考えと一致する仕組みになっていることが一番大切です。

有沢:人材の適材適所配置に向けて整備を進めてきたつもりですが、最終的には従業員がきちんと使えるサポートツールがないと運用できません。そのためにも、タレントマネジメントシステムは必要です。

野田:私が野村総合研究所に在籍していたころ、従業員の定性データがまとまった冊子がありました。そういったピアツーピア的なものもあって良いのではないでしょうか。

有沢:今後は社内にキャリアコンサルタントを入れなくてはいけない、という法律があります。彼らが仕事をやりやすくするには、やはりタレントマネジメントの仕組みが必要です。

杉原:30人以下の組織であれば大それた仕組みを入れる必要はありませんが、1000人規模になるとシステムが必要になってきます。

質疑応答

三者によるディスカッションが終了した後、参加者との質疑応答が行われた。

参加者:質問が二つあります。一つは、データの一元化の項目をどこまで見ればよいのか、ということ。もう一つは、コンピテンシーはデータ化と並行しても大丈夫なのか、ということです。

杉原:最初に設定する前に、システムに柔軟性を持たせておくべきです。

有沢:目的を明確にすることです。また、何を導入するべきなのかは、それぞれの会社によって違います。採用におけるコンピテンシーはデータ化できると思います。その際に、会社としてどういう人材を採りたいかを明確にしておくべきです。

野田:HRテクノロジーは今後、さまざまな方向に展開していくと思います。まだ固まっているわけではありません。少しずつ改善していくのが良いでしょう。ただし、人に大きな影響を与えるものなので、ある程度の慎重さは欠かせません。誰を幸せにするのかという基軸さえ間違えなければ、大きな失敗はないはずです。

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