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激変の時代に「組織」と「人材」はどうあるべきなのか

<協賛:コーナーストーンオンデマンドジャパン株式会社>
  • 石倉 洋子氏(一橋大学 名誉教授)
大阪基調講演 [OA]2018.12.25 掲載
コーナーストーンオンデマンドジャパン株式会社講演写真

国と国の力関係が刻々と変わっていく激動の時代。第4次産業革命と呼ばれるテクノロジーの進化も加わり、世界はますます先を見通せなくなっている。企業がこのような時代を生き伸びるために、「組織」と「人材」はどうあるべきか。リーダーは何をすべきなのか。経営戦略、競争力、グローバル人材に詳しい一橋大学名誉教授の石倉氏が、激動の時代に人事が担うべき役割について語った。

プロフィール
石倉 洋子氏( 一橋大学 名誉教授)
石倉 洋子 プロフィール写真

(いしくら ようこ)バージニア大学大学院経営学修士(MBA)、ハーバード大学大学院経営学博士(DBA)修了。1985年からマッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルティングに従事した後、1992年 青山学院大学国際政治経済学部教授、2000年 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授、2011年 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。日清食品ホールディングス、資生堂社外取締役、世界経済フォーラムのNetwork of Experts のメンバー。「グローバル・アジェンダ・ゼミナール」「SINCA-Sharing Innovative & Creative Action-」など、世界の課題を英語で議論する「場」の実験を継続中。専門は、経営戦略、競争力、グローバル人材。主な著書に、『戦略シフト』(東洋経済新報社)、『世界で活躍する人が大切にしている小さな心がけ』(日経BP社)、『グローバルキャリア』(東洋経済新報社)、『世界級キャリアのつくり方』(共著、東洋経済新報社)がある。


2018年の世界は「日々情勢が変わり、見通せない世界」

激変の時代、2018年の世界はどうなっていたのか。石倉氏は日々情勢が変わり、見通せないことに特徴があると語る。

「米国、中国、ロシア、EU、北朝鮮と、その力関係は刻々と変わっています。そしてEUを始め、世界は全体的に不確定要素が大きくなっている。どこかで選挙があるとすぐに状況が変わるような状態になっています。そこに世界各地で頻発する自然災害も加わり、まさに激変という状態です」

混沌とする世界の中で、民間企業、政府、国際機関はどのように動くべきか。そこで人は何を考え、どのように行動すべきなのか。

「私は民間企業がもっとも力を持っていて、資産もあり、グローバルでも活動していますから、その役割は重要だと思います。それに加えて、これからは個人の時代になります。自分のキャリアは自分で面倒をみるという意識を持たないと、これからは難しくなる。企業もそのような人をどう育てていくかを考えないといけません」

日本人には、誰かの指示に従ってきたという人も多い。しかし、これからは1社にずっと所属し続けるということもあり得ない。自分はどんなキャリアを積みたいのか。本当にこの会社にいていいのか、を考えることが重要になる。

「人事は企業の立場で、社員にいろいろな経験をしてもらえるような仕組みを考えなければいけません。そのため、社員と企業の関係もかなり変わっていくと思います」

では、企業を巡る環境には今、どういう変化があるのか。近年は第4次産業革命と言われ、産業革命と言われるほどの大きな変化が進行している。これまでと何が違うのか。

「スピード感が全く違います。物事の広がり方、スコープも違う。また、システム全体が大きな影響を受ける点もこれまでにないものです。例えば、テクノロジーは生活全般、社会全般に大きな影響を与えています。例えば、自動車業界は事業の枠そのものが大きく変わりました。今までの製品、サービスに捉われずに考えることが求められています」

また、企業を巡る環境の変化の一つにSDGsがあげられる。これは「Sustainable Development Goals」の略であり、持続可能な開発目標と呼ばれる国際社会共通の目標だ。「貧困をなくす」「健康と福祉をすべての人に届ける」「働きがいと経済成長を推進する」など、世界を変えるための17の目標が設定されている。

「皆さんの企業が行うビジネスも、SDGsのどこかに当てはまるのではないでしょうか。以前はCSRがよく使われましたが、最近はSDGsが世界共通ということで使われるようになりました。企業もお金もうけばかりを考えるのではなく、自分たちが行う事業が何らかの形で世界の課題解決に貢献できているか、自分たちにその力があるのかを意識することが大事になります。SDGsでは今までのやり方ではなく、イノベーティブに考える必要が出てきます」

しかし、不安要素もある。最近はテクノロジーが大きな力を持つようになったが、そこには光と影がある。例えば、データは誰のものなのか。

「フェイスブック、アマゾン、アップル、グーグルは圧倒的に大きなデータを持っています。あまりにこの4社が強いために、スタートアップが起こりにくくなっているとも言われています。データに関する領域は今まさに試行錯誤している状態。また、一つの国が大きなデータを持つことの怖さも指摘されています」

日本では、政府が提唱するSOCIETY 5.0が推進されている。これはサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、新たな未来社会(Society)を指す。

「SOCIETY 5.0のカギは、人を中心にテクノロジーを使おうと考えている点です。他の国では技術や業界が中心になっています。これをどのように実現していくのか、民間企業のがんばりが期待されます」

今、企業に求められるのは「柔軟な働き方への移行」

石倉氏は企業の役割は新しい価値をつくることと語る。そこにはイノベーションが求められる。

「政府はあくまでも環境をつくるだけで、主役は民間企業。ただ、企業にがんばってほしいといっても、1社では無理です。他社と協働して行うことが必要。ただ難しいのは、企業同士では徐々に利害が合わなくなる点にあります」

ここで石倉氏は、WEF の世界競争力報告(GCR: Global Competitiveness Report) 2018 年版のデータを紹介した。日本は140ヵ国中5位。前回は8位だったが指標が変わり、ランクが上がった。

「国内の競争に最も適している国のランキングでは日本は2位。しかし、海外に対する開放度のランキングでは11位。外との交流が少ないことがわかります」

講演写真

では日本の人材は、今どのような状況にあるのか。人材の量は海外から人を入れようとするほどに足りていない。質にも問題がある。

「生産性は海外と比べると低い。これは主にホワイトカラーの生産性ですが、なかなか上がってきません。そのほかにも、単身世帯と介護離職の増加という問題があります。今までの制度は、家族を基準にしてきました。単身であることは、健康面でもよくありません。そして介護離職が増えていること。この問題は他の国ではあまりありません。50代になると、介護をする人がぐっと増えます。一番働いてほしい年代が介護のために離職している。この点は企業にとっても問題です」

次に石倉氏は、これから人材に必要になるスキルを示す。2022 Skills Outlookには、2022年に今よりも、より必要となるスキルが示されている。それは「分析的思考とイノベーション」「アクティブラーニングと学習戦略」「クリエイティビティーとオリジナリティと先導性」「技術設計とプログラム」「クリティカルシンキングと分析」「複雑な問題解決」「EQ」「リーダーシップと社会的影響力」などだ。

「日本人は、基礎学力は優れていると思います。ただその上のクリエイティビティーが足りない。それをどうすれば伸ばせるのかを考えるべきです。そして、実践からの学びも足りない。社員がより多くの実践経験ができるように仕事面で配慮することが、人事に求められているのではないでしょうか」

そして、最近盛んに言われるのは新しい働き方だ。人の価値観も変わってきている。企業は社員に対し、どのように柔軟な働き方を用意すべきなのか。

「この点は仕事をどう定義するか、ということにも関わってきます。いろんなオプションが選べることが大事です。そのため、柔軟な雇用への移行が必要となります。制度として社内で選べるようにしないといけない。この点は人事の皆さんの腕の見せ所だと思います」

加えて、世界に最適な人材を求め、日本に連れてきて働いてもらうことを考えることも必要だ。その点は試行錯誤をしながら、ノウハウを蓄積することが大事になる。

「これからはスキルベースでの採用、昇進、評価システムも整備しなければなりません。簡単ではありませんが、手を付ける必要があると思います。また、個人はテクノロジーへの理解も必要。まったくわからないようでは、これからは働くことが難しくなります」

そして、これからは一生を通じた学びも必要だ。いかにして常に学び続ける環境をつくるか。石倉氏は「キャリアは自分で考えるものとするなら、人事は社員が自ら考える機会を提供すべき」という。

「この会社はいったい何のためにあるのか」に即座に答えられるか

ここで、石倉氏はこれからのリーダーに必要な要素について語った。一つ目は世界の今を理解することだ。

「今の時代はどういうコンテクスト(文脈)なのかと考える。情報も昨年、10年前といった過去の情報は使えません。今どうなっているかが大事。今をよく知って、必要な情報を得よう、情報に触れようとする努力が問われる。世界は刻々と変わっていますから『この前はこうだったから』という言い訳は通用しません」

二つ目は柔軟な形に組織をデザインしていくことだ。日本の人事や人材開発はとかく固定的になりがち。「みんなで一斉に、たとえばある時期に採用を行う」ことは、企業の側からすれば効率がいいが、それでは通用しない。これからはもっと柔軟なデザイン、柔軟な仕組みの組織にしないと、本当によい人材が採れなくなる。

「これからは企業トップも人事も、『この会社はいったい何のためにあるのか』といった質問に即座に答えられなければなりません。『うちの会社が寄って立つところはこの点であり、うちの会社があることで社会はこのようによくなる』と語れないと、本当によい人材は採れなくなります。今の若い人はこのような点に非常に敏感です」

講演写真

そして、三つ目はスピード感のある意思決定だ。石倉氏は、日本の会社にはスピード感がないという。

「今の時代はすぐに状況が変わりますから、どんどん決めて、方向を修正していかないと対応できません。『もう少しわかってから』では遅いのです」

石倉氏は、人生100年時代において人が成長を続けるうえで、今のうちから持っておくべき、見えない資産が三つあると語る。

「一つ目は『Productivity =生産性』です。新しい知識・スキルを常に学ぶこと。そのために仲間もいたほうがいい。二つ目は『Vitality=活力』です。健康、体力、そして友人も必要。三つ目は『Transformational=多様な経験』です。この点が日本人にもっとも欠けている点ではないでしょうか。一つの環境にずっといるとよくありません。違う分野の人、違う世代の人との交流を増やすことです」

今はダイバーシティの時代と言われるが、だからこそ自身の生活もダイバーシティを目指すべきと石倉氏は語る。そのために毎日何か新しいことに取り組むことが大事だ。

「一つ前の駅で降りて歩くことでもいいのです。そうすれば景色が必ず変わります」

石倉氏はこれからのリーダーが持つべき姿勢について、二人の言葉を紹介した。一人目はハーバード・ビジネス・スクール、経営管理学の教授であるRosabeth Moss Kanter氏の六つのUPだ。

Show Up:その場に行くこと
Speak Up:発言すること
Look Up:高い志を持つこと
Team Up:チームで取り組むこと
Don’t Give Up:あきらめないこと
Bring Others Up:皆をもりたてること

二人目はIDEO 社のTim Brown氏の言葉だ。

Explorer with Curiosity:好奇心を持って常に探検する
Gardener with Humility:庭を育てていくような心を持つ
Coach to help make a decision:コーチとしてチームが意思決定できるように支援する

そして最後に石倉氏から、日本のリーダーたちに贈る言葉で講演は締め括られた。

「What if?(=もしこういうことが起きたらどうするかと考える)。So What?(=だからどうなのか、要するにどういうことなのかと考える)。What else can we do?(=他にどんなやり方があるのかと考える)。リーダーはこれらのことを、常に自身に問い続けることが必要です」

本講演企業

コーナーストーンは、日立製作所や日産自動車、アサヒグループホールディングスをはじめ、クラウド上でタレントマネジメントを192カ国、3,360社以上の企業に43言語で提供しています。人財育成を中心に業績評価やキャリアプランへの連携等社員の能力を可視化、さらにクラウド上の約3,670万以上のユーザデータを分析活用し、経営目標を支える人事戦略を支援します。

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