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いまなぜ「HRテクノロジー」なのか?
人事データの活用が戦略人事を実現する

<協賛:株式会社アイ・シー・ティー>
  • 大久保 幸夫氏(株式会社リクルート 専門役員 兼 リクルートワークス研究所 所長)
  • 藤間 美樹氏(参天製薬株式会社 人材組織開発本部 副本部長)
大阪パネルセッション [OD]2018.12.25 掲載
株式会社アイ・シー・ティー講演写真

最近、HRテクノロジーに関するサービスが多く出ているが、どのように導入すればいいのか、迷う人事は多い。リクルートワークス研究所所長・大久保氏は、「活用するぞ」と構えて導入するのではなく、先に悩みありきで解決の一環として導入すべきと語る。HRテクノロジーを活用して成果をあげている参天製薬・藤間氏と大久保氏が、テクノロジーを戦略人事に有効に活用する手法について語り合った。

プロフィール
大久保 幸夫氏( 株式会社リクルート 専門役員 兼 リクルートワークス研究所 所長)
大久保 幸夫 プロフィール写真

(おおくぼ ゆきお)1983年、株式会社リクルートに入社。人材総合サービス事業部企画室長の時に「リクナビ」「タウンワーク」などの立ち上げに関わる。地域活性事業部長などを経て1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010年~2012年、内閣府参与を兼任。2011年、専門役員就任。現在、厚生労働省労働政策審議会人材開発分科会委員、文部科学省中央教育審議会生涯学習分科会委員、一般社団法人産業ソーシャルワーカー協会理事、一般社団法人人材サービス産業協議会理事も務める。著書に『キャリアデザイン入門(Ⅰ)・(Ⅱ)』、『働き方改革 個を活かすマネジメント』(日本経済新聞出版社)など多数。


藤間 美樹氏( 参天製薬株式会社 人材組織開発本部 副本部長)
藤間 美樹 プロフィール写真

(ふじま みき)1985年神戸大学卒業。同年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社、営業、労働組合、人事、事業企画を経験。人事部では米国駐在を含め主に海外人事を担当。2005年にバイエルメディカルに人事総務部長として入社。2007年に武田薬品工業に入社し、本社部門の戦略的人事ビジネスパートナーをグローバルに統括するグローバルHRBPコーポレートヘッドなどを歴任。2018年7月より参天製薬に人材組織開発本部副本部長として入社し、グローバル化を推進。M&Aは米国と欧州の海外案件を中心に10件以上経験し、米国駐在は3回、計6年となる。グローバル化の流れを日米欧の3大拠点で経験し、グローバルに通用する経営に資する戦略人事を探究。人と組織の活性化研究会「APO研」メンバー。


リクルート 大久保氏によるプレゼンテーション:HRテクノロジーがなぜ一気に使われるようになったのか

最初に大久保氏が登壇。HRテクノロジーが近年、なぜ一気に使われるようになったのか、その背景について語った。

「HRテクノロジーは、もともと採用オペレーションと人事管理システムから出てきたものです。すでに1980年代から続いている取り組みであり、決して新しいものではありません。ではなぜ近年、一気にブレイクしたのか。今は44年ぶりの求人難といわれますが、この人材不足が拍車をかけていることは間違いありません。すでに国際的に多くのソーシングの専門家が活躍しています。自社に応募してくる人のみから人を採るという時代はもう終わりました。今のHRテクノロジーの導入動機は、攻めの採用、効率のよい採用を行うため、という理由がもっとも多いのではないでしょうか」

ソーシングの専門家は必要な人をSNS上で探して採りにいく。彼らがHRテクノロジーを求めており、それを使いこなして採用を強化しているのだ。最近では離職しそうな人をAIで探し出し、いち早く手を付けるといった手法も普通に行われている。加えて、HRテクノロジーは領域が広がっており、ピープル・アナリティクスと呼ばれる新しい動きも出ている。

「従業員の行動データを収集し、どうしたら生産性が上がるかを考えるのがピープル・アナリティクスです。また、他で進化した領域としては健康管理と学習支援があります。製造業で最近テクノロジーが導入されているのはOJTです。人を介した技能伝承ではなく、作業中の画面の指示によって学習するといった仕組みが使われ、注目を集めています」

人事は、適性検査、人事異動の希望、査定評価、異動履歴、健康診断、ストレスチェックなど、HRテクノロジーにつながるデータを数多く持っている。しかし、これだけのデータがありながら活かせていないのが現状だ。テクノロジーの利用が拡大する背景にはデータの利用促進があると大久保氏は語る。そうなると、人事には新しいスキルが求められる。人事の専門家であるD.ウルリッチ教授は「統計学は人事部員の必修科目になる」と語っている。ここで大久保氏は、最近のHRテクノロジーの活用を示す四つの事例を紹介した。一つ目は、リクルートワークス研究所×ディー・エヌ・エーによるコミュニケーション可視化プロジェクトだ。

「Humanyze社のソシオメトリック・バッジを、参加者54 人に着用してもらい、音声、体の動き、位置情報などのデータを収集します。マネジャーの皆さんにマネジメント行動を振り返ってもらって、それとデータを照らし合わせてマネジメントの改善を図ろうというものです。実践すると発見がありました。マネジャーはメンバーとそれなりにコミュニケーションを取っていると思い込んでいますが、データでは一部の人としか話していなかった。プレイイングマネジャーで管理できる人数は、本当は相当少ないのではないかと思います」

講演写真

二つ目の事例は、NTT東日本×マイクロソフトによる、IoT活用での物流倉庫の労働力不足の解消プロジェクトだ。今、物流倉庫は深刻な人材難となっている。そこでバイタルデータを取得して作業員の健康を管理し、異常を検知。また、熟練作業者のムダのない動きを可視化し、それをまねして取り入れる活動を行う。他にも顔認証による勤怠管理の自動化や、外国人作業者への多言語での指示の実現などを行っている。

三つ目の事例は、採用や昇進のプロセスからバイアスを排除 するBlendoor(ブレンドア)だ。これはダイバーシティ経営の実現を後押しするもので、2018年9月の米国HR Tech Conferenceで優勝したサービスだ。

「採用時、昇進時、人事異動時などに、応募者の履歴書上の名前、大学名、生年月日、前職の社名などを隠すシステムです。長期的に採用、昇進のプロセスや結果を追跡して分析します。さらに、マイノリティーを差別するようなマネジャーを特定する仕組みもあります。最近は、ダイバーシティ経営と結びついたテクノロジーが続々と出ています」

四つ目は、WOLI(ウォリ)/株式会社インクルージョンオフィスによる、従業員のワークライフに関する困り事をクラウド上で解決するプロジェクトだ。これは、従業員が困り事を匿名でメールすると、産業ソーシャルワーカーが中心となり、医師、弁護士、ファイナンシャルプランナー、社労士等の専門家と連携して、48時間以内に回答するもの。最終的にコーディネーターが取りまとめて一つの回答として返信する。これにより多くの問題を的確に処理できるようになる。運用を続ければディープラーニングでより精度を上げることも可能だ。

「HRテクノロジーは、まず採用で利用するケースが多いと思います。採用で技術が進化すれば、ほとんどのことが自動化できます。米国企業の例ですが、最初に募集条件を決めると、求人サイトに自動的に掲載手続きされ、情報の閲覧者から質問が来ればAIが自動回答。応募のエントリーがくると自動的に受け付け、相手に質問を送付。応募者はその回答を動画に撮って送り返し、AIは今の社内で活躍する人との一致度を見て選考。採用の基準を超えていれば面接をセッティング。人はこの最終面接までほぼ何もしなくていい。これほどの進化が実現するのです」

参天製薬 藤間氏によるプレゼンテーション:HRテクノロジーが業務の「置き換え」「スピード化」「進化」をもたらす

次に藤間氏が登壇。参天製薬が活用するHRテクノロジーの現状について解説した。藤間氏は経営が人事に求めているミッションが二つあると語る。

「一つ目は、経営に資する戦略人事であること。人事戦略で事業に貢献することです。二つ目は、人と組織の活性化。人と組織がいかにいきいきとできるかを考える。そして、戦略人事とは、私は勝つ組織をつくることだと考えています」

経営が人事に期待していることとは何か。藤間氏は「正確な情報に基づいた正確な判断」「迅速な対応/Agility」「情報の見える化」「情報のモビリティ/世界中どこでも」「経営を支えるビジネスパートナー」をあげる。ではHRテクノロジーによって人事業務にどのように変わるのか。藤間氏は三種類の影響をあげる。

「一つ目は『業務が置き換わるもの』、二つ目は『業務のスピード化ができるもの』、三つ目は『業務の進化ができるもの』です。これまで経験・勘・度胸でやっていたことや、暗黙知で行っていた人材管理が、合理的・科学的根拠によって高度で個別最適な人事となり、また、データの可視化・予測も可能になります。戦略人事として今後は業務量が増やせ、質も上げることができます」

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具体的にHRテクノロジーで何ができるようになるのか。藤間氏は四つの変化をあげる。「自動化(採用プロセス、コールセンター、福利厚生対応)」「いつでもどこでもできる(チャット、双方向e-learning、Microlearning、リアルなweb会議)」「見える化(ピープル・アナリティクス、行動・感情・健康状態・人的ネットワーク)」「モデル化(統計モデル、候補者選定など)」だ。これらが戦略人事では「組織強化・最適配置」「人材開発・組織開発」「AIによるキャリア相談」において活用される。

「これまで勘で行っていた最適配置に、AIが活用されます。職務内容や個人のスキル・知識・能力や考え方、周囲(上司や同僚)の考え方、組織内の人的ネットワークを総合的に判断し、最適な人員配置から組織強化が可能になります。また、人材データの見える化・蓄積、エンゲージメントの測定も可能になります」

ただし、HRテクノロジー活用にも留意すべき点がある。藤間氏は四つの注意点をあげる。

「一つ目は、『HRテクノロジーやAIをただ入れよう』では失敗する、ということ。ビジネスを理解し、どのように活用するのか。仮説を立てたうえで、データ分析を行うことが重要です。二つ目は、HRテクノロジーの可能性は無限だが、すぐに使える“万能の道具”ではないこと。AIの活用にはディープラーニングが必要ですし、そのために適切な形の⼗分なデータが必要になります。三つ目は、情報管理。人のデータですから適切な管理が求められます。最後は当然ですが、人事としての哲学・倫理も大事です」

ディスカッション:導入時に気を付けるべき「順序」とは

大久保:HRテクノロジーによる業務への影響では、置き換わるもの、スピード化できるもの、進化できるものがあるとおっしゃっていました。具体的な業務例を教えてください。

藤間:スピード化できるのはエントリーシートの判断などの採用業務、社内の人事異動のマッチングなどです。また、HRテクノロジーで得られるデータは、経営幹部の説得材料として活用できます。データによる裏付けは経営に対する信頼度も高めます。他では、その会社におけるシニアリーダー像はどんなものかというときに、人によってイメージが違うことがあります。データによってモデル化することが考えられます。

大久保:毎年大量の中途採用をしている会社が、中途採用者からの問い合わせに自動で答えるシステムを採用した例があります。導入してみると一人当たりの利用件数が大変多かった。実は中途の人はわからないことだらけだった、ということが判明したわけです。また最近は、企業の中期経営計画の会議のメンバーに人事も入るようになっていますね。そのような場では「今後5年間の企業運営のシミュレーションを、数字を入れて持ってきてほしい」などと言われることがあるようです。

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藤間:HRテクノロジーをうまく導入するためには、何かコツがあるのでしょうか。

大久保:テクノロジーのことを一度忘れることではないかと思います。「HRテクノロジーを活用するぞ」といった取り組み方ではうまくいかない。それよりも人事が今抱えている課題があって、その解決のシナリオの一部にテクノロジーを使おう、といった発想の仕方をしているところはうまくいっています。テクノロジーから入ると煮詰まってしまう。この順序はすごく大事ですね。例えば、皆さんが今年手を付けようと思う仕事の領域以外で、テクノロジーを入れようとすると仕事が増えただけで終わってしまう可能性が高い。本当に切迫しているところに使うことが、うまく導入するコツだと思います。

藤間:やはり、現場でどのようになるかを想像しながら導入することが重要なのでしょうか。

大久保:テクノロジーを使うと、何でもパッとやれるようになると思いがちですが、現実はそうではありません。本当にAIを活用しようと思えば、元のデータがしっかりしていないければいけませんし、実は周辺の手間がすごくかかるのです。また、どの企業もそうだと思いますが、中間管理職は大変忙しいですね。新しいことに取り組むことには抵抗感があります。よほど成果が見えないと受け入れてくれません。

最後に大久保氏から次のようなメッセージがあり、セッションは終了となった。

「人事はこれまで経験や主観で仕事をしてきましたが、人事に分析という視点が加わるとPDCAが可能になります。これはHRテクノロジーによって科学的な人材マネジメントが可能になるということです。ぜひうまく導入してください」

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アイ・シー・ティーの強みは、労務・人事を熟知したスタッフがシステム開発から運用サポートまで手がけられることです。 当社が提供するHRソリューション【タレントマネージメント、勤怠システム】は 企業におけるさまざまな業務課題を解決するシステム・サービスです。 それぞれの企業独自の組織・体制に合わせたカスタマイズや、システムに 精通した開発部隊による手厚いサポートが好評をいただいています。

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