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「HRアワード2018」受賞者 事例発表会

東京HRアワード [AW-2]2019.01.15 掲載
株式会社アイ・キュー講演写真

HR領域において積極的な活動・挑戦を続けている企業人事部や人材ビジネス、人事担当者にとって有益な書籍やサービスなどを表彰している「HRアワード」。前年に引き続き、「HRカンファレンス」のセッションの一つとして、受賞者の中から6名の方に、それぞれの取り組みについて発表していただいた。

(1)企業人事部門 最優秀賞
ソニー株式会社 人事センターEC人事部 統括部長 大塚康氏
(2)プロフェッショナル人材採用・雇用部門 最優秀賞
株式会社リクルートキャリア エージェント事業本部 事業企画統括部 事業推進部 HRテクノロジー推進グループ マネジャー 南雲亮氏
(3)プロフェッショナル人材開発・育成部門 最優秀賞
株式会社FCEトレーニング・カンパニー 取締役副社長 藤原覚也氏
(4)プロフェッショナル組織変革・開発部門 最優秀賞
株式会社Emotion Tech マーケティング部長 兼 HR事業責任者 須藤勇人氏
(5)プロフェッショナル人事労務管理部門 最優秀賞
株式会社エクサウィザーズ HR Tech 事業部長 前川知也氏
(6)企業人事部門 優秀賞
伊藤忠商事株式会社 人事・総務部 企画統轄室長 西川大輔氏
(1)企業人事部門 最優秀賞
ソニー株式会社 人生100年時代に向けたベテラン・シニア社員のキャリア支援施策「キャリア・カンバス・プログラム」 ソニー株式会社 人事センターEC人事部 統括部長 大塚康氏
講演写真

ソニーは、創業以来の人事面でのDNA「自分のキャリアは自分で築く」をベースに、ベテラン社員がいきいきと働きながら、将来のライフ・キャリアプランを主体的に考え、実行に移していくための支援策「キャリア・カンバス・プログラム」を2017年5月に導入した。会社と社員がもたれあうのではなく、いい意味での緊張感を持ち、お互いに高めあう関係を構築していこうとするものだ。

●「新しい分野への挑戦」と「キャリア形成/自律支援」

「ソニーの社員の平均年齢は43歳くらい。バブル期に(大量に)採用された年代の多くが50歳代に達しています。この層に元気になってもらうことは、組織の活性化という観点からも非常に重要です」

「キャリア・カンバス・プログラム」は、人生80年、100年という時代の中で、ベテラン社員が自分の人生を真っ白いカンバスのようにもう一度リセットして考える、という意味で名づけられている。

施策のポイントは、大きく三つある。第一は「ベテラン社員の活躍支援」。環境変化が加速する中で活躍し続けてもらうためには、これまでの延長線上だけでなく、常に専門性やスキルをアップデートしてもらうことが重要だ。第二は、それをマネジメント主導で行うのではなく、「社員のキャリア自律」をベースに主体的に取り組んでもらう風土・文化をめざすこと。これはソニーの企業文化に基づくスタンスだ。第三は「情報公開」で、プログラムの目的や内容を全社員に正しく理解してもらうこと。施策を実りあるものにするためには不可欠だ。

続いて大塚氏は「キャリア・カンバス・プログラム」のコア施策といえる「新しい分野への挑戦(職域拡大)」と「キャリア形成/自律支援」について説明した。

まず「新しい分野への挑戦」では、もともとあった「社内FA制度」「社内募集」といった公募制度に加え、ベテラン社員が活用しやすい制度を追加・拡充した。

「『キャリアプラス』は兼務/プロジェクト型の公募制度です。これまでの職務を継続しながら、工数の2~3割程度、新しい分野を兼務してもらいます。エンジニアなら、例えばプラスして品質管理や調達などを経験してもらうことで、人材としての市場価値を高めることができます。これまでは、年齢が高くなるにつれ新たな部署への異動がしづらくなるという傾向があることは否めませんでしたが、兼務による異動という仕組みを整備したことにより、年齢ではなく、一人ひとりの専門性や経験にフォーカスすることができ、新しいチャレンジの可能性が広がりました。

もう一つはキャリア登録制度『キャリアリンク』。希望する社員のレジュメをグループ内のマネジメントが共有し、新しいチャレンジをサポートします。社内公募の場合、求人ありきでスタートしますが、この制度はその人のキャリア、スキルを活かすことから出発できるメリットがあります」

次は「キャリア形成/自律支援」のための制度だ。

「学び直しのきっかけと行動の後押しとなる『“Re-Creation”ファンド』を立ち上げました。50歳以上の社員の学びに対して、10万円を上限に支援を行います。ベテランもきちんと学んで自己成長してほしい、という会社からのメッセージです」

この制度のポイントは何を学ぶか、何に対して支援するかのアイテムを会社が指定・限定せず、社員自身で考えてもらうことだ。これまでの支援実績を見ると、業務に直結することを学ぶ人もいれば、あまり関係ない分野を選ぶ人もいる。たとえば「歴史」を勉強したいという人は、独立してインバウンドの仕事をしたいという理由だった。この内容でも申請はちゃんと通ったそうだ。

また、『キャリア・カンバス・ワークショップ』というキャリア研修も新設した。「エクスプローラー」「ネクスト・ステージ」「再雇用スタート研修」はいずれも50代社員が対象。それぞれ「キャリア探索行動を行う意欲を喚起」「再雇用か社外転進するか意思決定を促す」「再雇用者の役割・立場にマインドをリセットする」を目的としている。研修後に、受講者全員にキャリアメンターをつけて、最低でも2~3回のフォローアップ面談も行う点が大きな特徴だ。

「プログラムがスタートして約1年半が経過しました。これまで、ベテラン社員にとって新しい働き方や定年後といったテーマは、ネガティブな要素が先に立ってしまう、という
傾向がありましたが、『キャリア・カンバス・プログラム』導入後は、ベテラン社員が今後のキャリアについてポジティブに捉え、社内でもオープンに話しあえるような雰囲気に変わってきていると感じています。今後もベテラン社員は増えていくので、息長く取り組み、より充実した仕組みに育てていきたいと考えています」

(2)プロフェッショナル人材採用・雇用部門 最優秀賞
株式会社リクルートキャリア 独自の人工知能(AI)を活用し、「応募が来ない」を解消する採用支援サービス「リクナビ HR Tech 転職スカウト」 株式会社リクルートキャリア エージェント事業本部 事業企画統括部 事業推進部 HRテクノロジー推進グループ マネジャー 南雲亮氏
講演写真

「リクナビHRTech 転職スカウト」は、独自開発の人工知能を活用し、テクノロジーと人的サポートの両輪で中途採用を支援するサービスだ。提供開始から約2年半で、累計導入社数は2万1000社を突破。知名度がなく、公募でも人材紹介でも候補者が集まりにくい中小企業と優秀な人材との出会いを、数多く創出することに成功している。

●ダイレクトリクルーティングと人材紹介のハイブリッドサービス

「リクナビHRTech 転職スカウト」がリリースされたのは、2016年1月。「テクノロジーで人事業務をもっと自由に、クリエイティブに」というコンセプトで展開する「リクナビHRTech」シリーズのうちの一つという位置づけとなる。

南雲氏はまず「転職スカウト」開発の背景について語った。主に中小企業の人事から「必要な人材を確保するのに十分な応募がなく、求人を出した後は自ら打てる打ち手もない」という悩みを多く聞いたことがきっかけだったという。そこで考えたのが、リクルートキャリアの膨大な人材データベースに人事が直接アクセスできたらどうだろう、ということだった。しかし、データベースは巨大であり、その中からどういう軸で人材を探せばいいのかという検索の難しさに直面した。

「そこで、独自のレコメンドシステムを開発することにより、検索しなくても適切な候補者に自動的に出会える仕組みを作ったわけです」

リクルートキャリアでは、候補者の応募データ、企業の選考データ、内定から入社までの決定プロセスデータなどを過去10年以上にわたって蓄積している。それらを機械学習させることで、この画期的なサービスが実現した。

「ポイントは、レコメンドする候補者を選定する際の目安として、『候補者候補者と企業の需給バランス』という概念を導入したことです。一般的なEコマースでは、購入希望者の意思のみを考慮すればよいのですが、採用の場合は候補者と企業の双方の意思があります。そこで、過去の選考のビッグデータを機械学習させ、合格可能性が高く、なおかつ応募する可能性も高い候補者をレコメンドするというアルゴリズムを実現しました」

候補者から応募があった後の進捗管理の工数も、もともと採用のためのマンパワーが不足している中小企業にとっては大きな問題である。

「そこで強みとなるのが、『リクナビHRTech 転職スカウト』がダイレクトリクルーティングと人材紹介のハイブリッドサービスであることです。リクルートエージェントのキャリアアドバイザー、リクルーティングアドバイザーが、決定まで進捗をすべて管理します。スカウトの文面を考える必要もありません。その結果、企業の担当者は、あがってきたレコメンドや検索した候補者に対して『〇』『△』『×』を選ぶだけという、非常に手軽なサービスになりました」

それまで年間1名しか採用できなかった企業が、『リクナビHRTech 転職スカウト』経由で11名採用できた事例もあるという。また、手軽に使えるサービスであるため、経営者自らがレコメンドのすべてに目を通し、自分で対応することで結果を出している企業もあるという。

「私たちがめざすのは、企業規模や知名度にかかわらず採用を成功に導くこと、候補者と企業の思わぬ出会いを創出していくことです。そこに向けて今後もサービスのブラッシュアップを続けていきます」

「リクナビHRTech」シリーズでは、他に「採用管理」「勤怠管理」も展開し、高評価を受けているという。今後もシリーズを拡大し、あらゆる人事業務を支援していく。

(3)プロフェッショナル人材開発・育成部門 最優秀賞
株式会社FCEトレーニング・カンパニー 採用したメンバーを早期離職させず、才能発揮への道を作る 日本初オンボーディングサポートサービス「Smart Boarding」 株式会社FCEトレーニング・カンパニー 取締役副社長 藤原覚也氏
講演写真

転職市場の活性化に伴い、「新人のスムーズな合流・戦力化=オンボーディング」が企業の急務となっている。「Smart Boarding」は、そのプロセスにおいて必要とされる、教育・研修の「構築」「コンテンツ」「運用」のすべてを一元管理。教育の生産性向上を実現するサービスだ。きちんと学べる環境をつくることで、早期離職の改善にも抜群の効果を発揮している。

●新人戦力化のための教育・研修はその「80%」がシステム化可能

「私たち自身も、中途採用した新人の戦力化、定着には非常に苦労していました。研修やトレーニングが専門の会社にもかかわらず、いちばん悪い時には1年以内の離職率が50%を超えた時があったほどです」

すでに200社以上の企業に導入され、新入社員の「戦力化・定着」に大きな成果をあげている「Smart Boarding」。そのサービスは、ベンダーであるFCEトレーニング・カンパニー自身がその悩みを解決するために開発したものだ。現在同社では、入社1年以内の離職率0%を実現している。

「私たちがヒントを求めたのはアメリカでした。行ってみると、ベンチャー企業の多いアメリカでは『オンボーディング・サポート・システム』と言われるものが当然のようにありました。今日はその基礎編をお話ししたいと思います」

藤原氏は、企業が新入社員に教えなくてはいけない要素は三段階に分けられるという。第一段階は、職場の環境。用具がどこにあるかといった基礎的なことだ。第二段階は、仕事の進め方。ごく一般的な仕事でもそれぞれの会社によって約束事があるのが普通だという。第三段階になってはじめて、仕事で成果を出すための具体的なやり方を教えることになる。

「中途採用の場合、第一・第二の段階を猛スピードでやってしまう会社が多い。初日に一回だけやっておしまい、といったように。しかし、キャリアのある人ほど基礎的なことは再び聞きにくいものです。基本的なことがきちんとわかってなければ、成果は出ません。だからこそ、しっかりやろうというのがアメリカの考え方なのです」

そのために進んでいるのが「教育のシステム化」だ。

「アメリカでは教育の80%は、ビデオ、音声、テキストといった形をとり、フェース・トゥー・フェースで教えるのは非効率と考えられています。残りの20%に相当する『理解度の確認』だけを人がやる。こうすることで、教える人によるバラつきもなくなり、また教育効率も圧倒的に改善します。ハイパフォーマーを教育担当に振り向ける時間を減らすことで、会社の業績向上にも寄与します」

教育内容をシステム化することで、人が教える時間は4分の1に削減され、逆に新人が戦力化するまでの期間は3分の1に短縮されることが実証されているという。

「ただ、レベルの異なる中途採用の新人の場合、教育内容もケース・バイ・ケースではないかという疑問が出るかもしれません。現場に聞くと必ずそういった反応が返ってきます。しかし、私どもが200社以上に『Smart Boarding』を導入していただいて感じているのは、必ず核となる要素はある、ということ。しっかりヒアリングしていけば必ずシステム化できます」

同社では、まず教育内容を「構築」するコンサルテーションから始め、その中身をeラーニングなどの「コンテンツ」に落とし込む段階、さらにその後の「運用」までしっかりサポートしている。それらがすべてパッケージ化されたサービスが「Smart Boarding」なのだ。

「導入いただいた企業の新入社員の方々からは、『先輩の帰りを待たなくてもいろいろ学べるので、すごく楽だ』という声をよくいただきます。自分のタイミングで学べ、繰り返し見ることもできる。新しいチャレンジが楽しくなるから、離職もなくなるのです」

時間を有効に使い、日本の働き方を改善することにもつながるサービスだという藤原氏の言葉が印象的だった。

(4)プロフェッショナル組織変革・開発部門 最優秀賞
株式会社Emotion Tech 従業員エンゲージメントを統計解析し、改善効果が最も大きい従業員体験を特定するサーベイ「EmployeeTech」 株式会社Emotion Tech マーケティング部長 兼 HR事業責任者 須藤勇人氏
講演写真

離職が多い、職場のモチベーションが上がらない、といった課題の解決には、従業員エンゲージメントの向上がカギとなることが多い。Emotion Techが提供する「EmployeeTech」は、そのファースト・ステップとなる従業員エンゲージメントの計測(サーベイ)に、「eNPS」という最新指標を採用。AIと統計学を用いた分析により、簡単かつ正確に改善ポイントを発見することができるサービスだ。

●職場への満足度ではなく親しい人への推奨意向・eNPSを計測

「EmployeeTech」の最大の特徴は、従業員エンゲージメントの計測に「eNPS」という指標を用いるところにある。須藤氏が最初に説明したのは、従来型の職場への満足度をたずねるタイプのサーベイとの違いだった。

「『eNPS』(エンプロイー・ネット・プロモーター・スコア)は、アメリカで開発された指標です。日本ではまだこれからですが、アメリカではすでに多くの大企業で採用されており、従業員エンゲージメント計測の究極の指標と言われています。本人の職場への満足度を聞くのではなく、『今の職場を親しい人にどの程度おすすめしたいか』という推奨意向を、0~10の11段階に点数化してもらうところに特色があります」

この「eNPS」から導き出された数値は、従業員エンゲージメントと密接な関係があることが日米での研究により実証されている。また、推奨意向の強い社員ほど個人業績がよい、という関係性もわかっているという。

「EmployeeTech」は、職場をすすめたいと思った理由、すすめたくないと思った理由についても聞いていく。「会社の理念・ビジョン」「会社の業績」「上司との関係」など、それぞれの項目がどの程度、判断に影響したのかを回答してもらい、その結果を統計解析することで、従業員エンゲージメントを向上させるための改善ポイントを割り出すことが可能になっている。

「こうした分析は、従来型の満足度を聞く調査ではできません。満足度調査により不満を発見しても、不満の解決がエンゲージメント向上・モチベーション改善につながらないことはよくあります。しかし、『eNPS』でエンゲージメントの高い社員と低い社員の違いを分析するとエンゲージメントを向上させるためのポイントが明確になるのです」

ここで須藤氏は、ある企業の実例を示しながら解説した。

「この企業では、上司との関係という項目で、エンゲージメントの高い社員と低い社員に大きな開きがあることがわかります。つまり、この分析結果を見れば、エンゲージメントを底上げするには、まず何から手をつけていけばいいか、改善効果が最も大きい従業員体験は何なのかが一目でわかるのです」

「EmployeeTech」は、こうしたサーベイをシステムにより簡単に行うことができるのも特色だ。一回目の調査で上司との関係が課題だとわかれば、二回目は質問を工夫して、上司とのどんな関係が問題なのかを回答してもらうなど、どんどん深掘りしていくこともできる。

「このような調査は、年一回、数年に一回といった頻度では改善効果をリアルタイムに検証することができません。必要な時にフットワークよく計測し、マネージャークラスの人たちが自分で現状を確認しながら、組織のために次にどういう手を打つべきなのかを考えることが重要なのです」

従業員エンゲージメントのサーベイはどう使うべきなのかという点にも大きな示唆のある、プレゼンテーションだった。

(5)プロフェッショナル人事労務管理部門 最優秀賞
株式会社エクサウィザーズ 企業が保有するデータをAIが分析&予測。採用、評価、配置、育成における人事課題をトータルにサポートする「HR君」 株式会社エクサウィザーズ HR Tech 事業部長 前川知也氏
講演写真

エクサウィザーズの「HR君」は、「AIで社会問題を解決する」という目的のもとに開発されたHR領域に特化したサービスだ。「採用から退職まで人事バリューチェーンの一貫した予測・分析」「誰でも使いこなせるシンプルな操作性」「各社の人事課題に応じたデータ分析」「分析手法のテンプレートも提供」といった高度な機能と特徴を備えている。

●過去に採用された人材データからもっとも会社にフィットする人材を発見

エクサウィザーズは、人材サービス会社ではなく、AIサービスやコンサルティングを提供する企業だ。とりわけ超高齢社会で課題となるさまざまなテーマに対して、AIやロボットを使ったソリューションを開発、提供している。「HR君」も、労働人口が減少していく時代にどう対処していくべきかという問題意識から開発されたサービスだ。

「HR君」の特色は、これまでのデータさえあれば、最適なモデルを自動的に見つけ出してくれることだという。

「現在のロボット開発は、一つ一つのモーターの動きを細かくプログラミングしたりはしません。人間の手と同じ動きをさせたいときには、AIに人間の動きを直接読み取らせて、最適な動きを考えさせるようになっています。人事の分野でも同じことが進行しています。採用であれば、かつては人間が採用基準を決める必要がありました。しかし、『HR君』を使えば、今までに採用された人のデータをもとに、もっとも会社にフィットする人材を自動的に割り出してくれます。まだ完璧という段階ではありませんが、近い将来には完全に任せられるように、開発が進んでいます」

この機能を使えば、内定辞退率を改善することも容易になる。

「ある企業は、内定した人材の約50%に辞退されるという課題を抱えていました。そこで、私たちは『HR君』に、この企業の採用データを学習させました。大企業の場合、こうしたデータが豊富なので合格可能性、辞退可能性、それぞれの人材パターンなどがすべて算出できます。その結果、合格ライン以上の優秀な人材で、なおかつ辞退可能性の高い人材を特定することができるようになりました。企業はかなり初期の段階からその人材を手厚くフォローすることで、辞退率を大幅に改善することができたのです」

この企業では「HR君」を高く評価し、現在では採用だけでなく入社後の活躍可能性分析にも活用し、配置や教育にも成果をあげているという。

「『HR君』はテキスト解析もできます。別の企業では人事評価と現場評価に大きなズレが出ていました。そこで『HR君』に評価コメントを分析させ、フェアな形で個人評価を確定させることができた事例もあります。また、『HR君』に部門ごとの活躍人材のデータを学習させると、異動候補者のプールの中からもっとも活躍可能性の高い人選を行うことも可能です」

これまで人事や現場マネージャーが経験と感覚で行っていた配置を、定量分析にもとづき、効率的に行えるようになる。HR領域でのAI活用が秘める大きな可能性が具体的に感じられるプレゼンテーションだった。

(6)企業人事部門 優秀賞
伊藤忠商事株式会社 『がんに負けるな』全社で支え合う伊藤忠商事の「がんとの両立支援施策」 伊藤忠商事株式会社 人事・総務部 企画統轄室長 西川大輔氏
講演写真

近年、がんの治療と仕事と両立させるケースが注目されはじめている。また、企業においては健康経営が重要な企業戦略の一つと位置づけられるようになってきた。こうした流れを受け、伊藤忠商事では全社でがんと仕事の両立を支援していく体制をつくりあげようとしている。施策のスタートは2017年8月。「予防・治療・共生」という三方面からがんと向き合っていこうという取り組みだ。

●周囲ががんを理解し、支えあっていくことで、組織も強くなる

西川氏がまず示したのが、日経新聞に掲載された見開き全面広告だった。見出しは「がんになっても私の居場所はここだ」。がんになっても仕事と両立して働き続けられる。それを周りが支える。そういう環境をつくっていこうという伊藤忠商事の宣言だった。

「がんとの両立支援施策」がスタートしたきっかけは、がんに罹患する社員から社長宛に送られた一通のメールだったという。その社員は職場への復帰を願い闘病していたが、残念ながらメールを送って程なくして亡くなられてしまった。同社では、在職中に病気で亡くなる人の90%ががんによるものだ。当時 社長であった岡藤現会長がその出来事を契機に、社員ががんなどの大きな病気に負けることなく、安心して思う存分に働き続けられる環境と支援する体制を整えていくことを決めた。社内イントラネットにも「がんに負けるな」というタイトルで全社員向けの社長メッセージを出し、施策開始の目的を語った。

「がんとの両立支援を行うことで、何がもたらされるのでしょうか。まず、本人にとっては、自分の居場所があるという安心感が生まれます。がんになったとき、ほとんどの人が孤独と不安を感じます。それを少しでも軽減するための支援を行うということです。また、組織全体でサポートすることで、助け合う文化、組織風土が生まれます。周囲ががんを理解し、仕事との両立を支えていくことで、組織もまた成長し、強くなると考えています」

続いて西川氏は、具体的な施策について語った。支援策は「予防」「治療」「共生」という三つのフェーズから成り立っているという。

「予防に関しては、国立がん研究センターとの提携を開始しました。全社員が定期的に専門医による特別がん検診を受け、早期発見・早期治療につなげます。また、本人の了解を得て、健康データを同センターに提供し、がん研究に役立てることで、がんそのものの撲滅や治療法開発に寄与することも目的としています」

治療については、国立がん研究センターとの提携の他、がん先進医療に関して会社が包括的に保険に加入し、本人の経済的負担を軽減する制度を新設した。

「共生の観点からは、がんになった人が出た場合、すぐに両立支援チームを立ち上げます。チームは、あらかじめ選任されている両立支援コーディネーターが中心となり、上司や産業医、キャリアカウンセリングの資格のある社員で編成します。このチームで治療状況と業務内容をすりあわせ、具体的にどんなサポートが必要かといった支援策を個別につくり、必要があれば定期的に見なおしも行います」

また、2018年からは仕事で発揮している能力を闘病/両立にも活かしていくことが、社員個人にとっても、会社にとっても最善の結果をもたらすものとして、「がんと仕事との両立」を上司と相談の上で個人業績目標の一つに設定し、賞与に反映していく仕組みも導入された。また、残念ながら本人が亡くなった場合の子女の大学院までの教育費負担、子女及び配偶者の就職支援など、遺族へのケアも整備され、罹患する社員の安心感につながるように配慮されている。

「今後は介護などさまざまな条件を持ちながら働く人も増えていきます。がんに限らず、組織が支えあう風土になることはとても良いことだと考えています」

まだ施策が本格的にスタートして1年と少し。現在は全社への周知や健康リテラシーを高める取り組みを行いつつ、がんであることを開示しやすい環境づくりを進めているという。

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