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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2018-秋-」講演レポート・動画 >  特別講演 [I-5] 障がい者が働く喜びを感じる就農モデル 『(株)九電工』とのトーク…

障がい者が働く喜びを感じる就農モデル
『(株)九電工』とのトークセッションにて紐解く

  • 安川 仁氏(株式会社九電工 理事 人事労務部長)
  • 今村 考志氏(株式会社九電工 東京本社 総務部 労務副長(給与・人事・採用))
  • 和田 一紀氏(株式会社エスプールプラス 社長 執行役員)
東京特別講演 [I-5]2019.01.21 掲載
株式会社エスプールプラス講演写真

「法定雇用率が達成できない」「業務の切り出しができない」「人が定着しない」など、企業の障がい者雇用に関する悩みは尽きない。エスプールプラスは、これらの悩みを一気に解決できる、企業向け貸し農園の運営・管理を行っている。これまでに民間企業219社、障がい者1232名の就職を支援してきた。本セッションでは、その仕組みや障がい者雇用に関する市場の動向を、同社社長・和田氏が解説。九電工・安川氏、今村氏とともに、導入事例を紹介した。

プロフィール
安川 仁氏( 株式会社九電工 理事 人事労務部長)
安川 仁 プロフィール写真

(やすかわ ひとし)1985年、九州電気工事株式会社(現株式会社九電工)へ入社。入社以来、人事・労務・給与・福利厚生等、“人”に携わる人事労務業務全般を広く経験し、諸制度の導入や改定業務の中心的役割を担う。2013年より人事労務部長に就任し、現在に至る。


今村 考志氏( 株式会社九電工 東京本社 総務部 労務副長(給与・人事・採用))
今村 考志 プロフィール写真

(いまむら こうじ)2004年、株式会社九電工へ入社。福岡本社、宮崎支店にて総務、人事業務を経験し2014年より福岡本社人事労務部にて人事業務を担当。2017年より東京本社勤務。就任間もなく、全社的な障害者雇用の問題を解消する為、「わーくはぴねす柏ファーム」を活用した障がい者雇用促進を進める。現在も、東京本社労務副長と農園管理を兼務している。


和田 一紀氏( 株式会社エスプールプラス 社長 執行役員)
和田 一紀 プロフィール写真

(わだ かずのり)1996年(株)リクルート入社。新規事業立ち上げを経験。営業部門にて表彰を多数受賞。2006年米国のフリーペーパー企業へ副社長として経営参画(ハワイ在住)。業界No.1に押し上げ、ノーマライゼーションの精神を学ぶ。その後、当社会長と出会い『障がい者雇用×農業』に社会的意義を感じ、2011年創業期より参画。


採れた野菜を通じた交流で働きがいを生み、人材の定着につなげる

エスプールプラスは親会社であるエスプールとともに、就業機会の少ない人々に働く場を提供している企業だ。同社は障がい者雇用のコンサルティング、 企業向け貸し農園「わーくはぴねす農園」の運営を行い、農園の貸し出しだけでなく、障がい者の採用活動、管理者の紹介、就労後の定着サポートなどトータルな支援を行っている。農園は千葉県11ヵ所、愛知県2ヵ所の計13ヵ所にあり、愛知県豊明市など行政との連携も実施している。来年は、新たに3ヵ所の農園がオープン予定だ。

講演写真

「事業の流れは次のようになります。まず、私たちが農園を企業へお貸しします。そこで働きたい障がい者を募集し、農作業の実習を行います。次に障がい者を企業に紹介し、企業は社員として直接雇用。障がい者の職場は農園となります。企業が障がい者を直接雇用し、農園運営を開始します。」

同社の企業理念は「一人でも多くの障がい者雇用を創出し、社会に貢献する」というもの。これまで民間企業への就職を支援した障がい者数は1232名、紹介企業数は219社にのぼる。受け入れる企業の業種はさまざまで、農業と関係のない企業がほとんどだ。社長の和田氏は「最近は障がい者の採用が厳しくなっており、企業が一般市場で採用するのは難しい」と語る。では、なぜ同社ではこれほどの数の障がい者の就職を支援できたのだろうか。

和田氏は、これまで幸福な就職を実現させ、人材を定着させてきた信用が、次なる紹介につながったと語る。

「私たちは、『一人でも多くの障がい者の納税者を生む』ことに力を入れて活動してきました。一般に福祉作業所などで働く場合、給与は月1万5000円程度です。当社の事業では一般の企業で社員として雇用してもらうので、仕事は1日6時間・週5日勤務、給与は月10万円程度。これに年金を加えると、自立して生活ができる金額になります」

同社が企業から受ける、障がい者雇用についての悩みには次のようなものがある。採用面では「雇用率は達成したいが、社内業務ができる障がい者の採用が困難だ」「どのような観点で面接を実施したらいいかわからない」などというもの。運営面では「障がい者の職場定着率が低く、すぐに辞めてしまう」「社内での業務の切り出しが困難で、障がい者雇用に関わっている従業員や障がい者たちが幸せではない」など。また、将来的な懸念として、「雇用する障がい者が定年退職する見込みがある」「新卒・中途採用で従業員が増えていることで、今後の雇用率の達成継続に不安がある」といった悩みを抱える企業もある。

「平成30年4月に、民間企業における障がい者の法定雇用率は2.0%から2.2%に上がりました。また、平成33年4月までにはさらに0.1%上がり、2.3%となります。法定雇用率の達成に悩む企業も多いでしょう」

現在、全国には860万人の障がい者がいると言われているが、そのうち民間企業に雇用されている人は38万人ほどで、全体の約4.4%。障がい者が自立して生活していくには、厳しい状況だ。しかし、同社が創業からこれまで企業に紹介した障がい者の定着率は8年間を通して92%にのぼる。就業中の障がい者の内訳は、知的障がい者71%、精神障がい者22%、身体障がい者7%となっている。

「農作業をする上では、もちろん大変なこともあります。しかし、ここで働く障がい者は、社会とつながることができ、給与を稼ぐ喜びも得ている。働くうちに、その顔もだんだん社会人らしくなっていくんです」

仕事が農業と聞くと危険な作業もあるように思えるが、そこにも配慮がある。

「当社は土を使わず、軽石を使った農法を行っています。土だと鍬やトラクターが必要になり、危険度が増すからです。軽石だと土を耕す作業が無いので、鍬やトラクターが不要です。安全で作業汚れも少なく、清潔さも保てます。この手法は、障がい者のご家族の方々にも、安心だと評価していただいています」

また、貸農園であるため、雇用元の企業が送迎バス、休憩所、管理棟、冷蔵庫などを用意する必要もない。施設への利用料を払えばいいので、先行投資を抑えられ、参入しやすい点がメリットだという。

「企業側が配置する農場長には、会社のOBやOG、再雇用者を配置されるケースもありますが、私たちがシルバー人材を紹介することも可能です。実は、障がい者の方以外にも、現在400名ほどのシルバー人材の雇用も生んでいます」

ここで和田氏は、参加企業に勘違いしてほしくないことがあると語る。それは、参加企業が本気で農業に取り組まないと、農園は成り立たないという事実だ。
「私たちは農業指導、農園管理、障がい者の定着アドバイスについて、側面からフォローします。しかし、農園運営の当事者は企業になりますから、企業の担当者は定期的に訪問して、管理していただく必要があるのです」

採れた野菜は各企業で社員に配布され、社員からは感謝のメッセージや野菜を使った料理写真などが送られてくる。これが障がい者の定着率向上につながっているという。

「野菜の売上から盲導犬募金や発展途上国の子どもの食事代への寄付を行ったり、野菜を近所のこども食堂へ寄付したりと、社会貢献にも役立てられています。また、農園で社員研修を行う企業も現われるなど、利用方法はますます広がっています」

九電工の取組み事例:「新しい発想での障がい者雇用が必要だった」

次に、九州を拠点に電気設備工事を行う九電工の今村氏が登壇。今村氏は同社が抱えていた、障がい者雇用における三つの課題を述べた。

講演写真

「一つ目は、障がい者への仕事の切り出しが困難という点です。仕事は危険を伴う現場作業や専門知識が必要なデスクワークで、障がい者には任せにくいものでした。二つ目は、各支店の状況が見えなかったこと。各支店で障がい者の採用、フォローを行っており、全体の状況が見えづらくなっていました。三つ目は、特例子会社の規模の拡大が困難になっていたことです。人員を増やすには、売上の増加も伴う必要がありました。これらの理由から、従来の方法で雇用を増やすことには限界があり、新しい発想での障がい者雇用が必要になったのです」

エスプールプラスのサービスを知ったのは、たまたま流れていたNHKの朝のニュース番組の特集だった。2017年5月に同社のセミナーを受講し、7月に千葉県柏市の農園を訪問。その2週間後には導入を決定した。農園のスタートは2017年10月。導入当初から1チーム4名×8チーム、計32名の人員を配置した。これまで雇用がしづらかった知的障がい者や精神障がい者の雇用にも成功した。今村氏は週1回農園に通い、フォローを行っている。

「東京本社から、毎週車で通っています。収穫した野菜は福利厚生の一環として、無料で社員に配っています。社内でも大変好評で、農園の写真が社内に掲示され、社員たちからも農園のスタッフ宛にメッセージカードが送られています。こうした社員の声は、障がい者の方々のやりがいとなっています」

トークセッション:「スタート時の人数を大幅に増やした理由とは」

次に、九電工の理事 人事労務部長である安川氏が登壇し、三人によるトークセッションが行われた。

和田:以前は、障がい者雇用でどのような課題を感じていましたか。

安川:近年、社員が増える中で、法定雇用率を遵守できなくなっていました。これまで在籍していた障がい者も高齢で退社し、人数も減っていたのです。建設業なので仕事を切り出すことも難しく、困っていました。

和田:最近、メーカーなどでも、製造現場を海外に移したことで国内での障がい者雇用ができなくなった、という声を聞きます。

安川:障がい者雇用の課題を、多くの企業が感じていると思います。弊社でも、今回32名を採用でき、非常に助かりました。

和田:貴社は当初、小人数のスタッフでの導入開始を予定されていたそうですね。なぜ、開始時の4名から32名まで増やそうと思われたのでしょうか。

講演写真

安川:当社の本拠地は福岡です。農園は千葉でしたから、最初は1チーム・4名からスタートしなければフォローができないだろう、と考えていました。しかし、現地を見学すると運営体制がしっかりしていて、人数を増やしても大丈夫だと思えたのです。そこで、急きょ8チーム・32名を採用することにし、弊社のトップにも2週間で承諾してもらいました。

和田:私たちは基本的に、企業の拠点から担当者の方が通える距離に農園を設置しています。理由は企業に障がい者の方たちをフォローしていただくためです。担当の方には「週1回は行ってください」とお願いしています。先日、貴社の障がい者の皆さんと話をしましたが、毎週今村さんが来られ、声がけされていることに、みんなが感謝されていました。ところで、中には特別支援学校を出たばかりの社会人1年生も何人かいらっしゃいますが、苦労はありませんでしたか。

今村:社会人経験がない方の場合、最初に覚えないといけないことも多いのですが、農園長が非常によくフォローしてくれ、問題はありませんでした。精神障がいのある方も、よく仕事を頑張ってくれています。

和田:精神障がい者の方の場合、途中で企業を離職する人も多いといわれます。しかし、農園は人ではなく野菜と向き合うので、人ともほどよい距離感が保て、精神的な負担が少ない。そのため、離職も起こりにくいんです。ちなみに、採れた野菜に対する社内の皆さんの評価はいかがですか。

安川:大きくて立派な野菜が採れているので、みんな感心しています。

和田:農園では、一般の農家ほどの数量の野菜は育てていません。でもそのおかげで野菜一つひとつに目が行き届き、非常によい状態で育てられています。

最後に、和田氏は参加者に向けて思いを語り、講演を締めくくった。

「これからも企業の皆さまには農園の運営を頑張っていただき、我々はよきパートナーとして側面から精一杯フォローしていければと思っております。本日は誠にありがとうございました」

講演写真
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