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企業における最先端の「キャリア開発支援」
組織にとらわれず自分で育てるプロティアンキャリアとは

  • 島田 由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
  • 中根 弓佳氏(サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長)
  • 田中 研之輔氏(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
東京パネルセッション [I]2019.01.17 掲載
アイ・キュー講演写真

働き方が多様化する現代において、個人が自らキャリア開発を行う「キャリア自律」が注目を集めている。このような状況下、企業は社員のキャリア開発をどのように支援していけばいいのか。本セッションでは、法政大学・田中氏が自律的にキャリアをつくる「プロティアン・キャリア」の理論を紹介。ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス・島田氏、サイボウズ・中根氏がそれぞれの事例を紹介した上で、これからの日本企業に必要なキャリア開発支援のあり方について語り合った。

プロフィール
島田 由香氏( ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
島田 由香 プロフィール写真

(しまだ ゆか)1996年慶應義塾大学卒業後、日系人材ベンチャーに入社。2000年コロンビア大学大学院留学。2002年組織心理学修士取得、米系大手複合企業入社。 2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。中学3年生の息子を持つ一児の母親。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLPⓇトレーナー。


中根 弓佳氏( サイボウズ株式会社 執行役員 事業支援本部長)
中根 弓佳 プロフィール写真

(なかね ゆみか)1999年、慶応義塾大学(法学部法律学科)卒業後、関西の大手エネルギー会社に入社。2001年、サイボウズ株式会社に入社。知財法務部門にて著作権訴訟対応、契約、経営、M&A法務を行った後、人事においても制度策定や採用を中心とした業務に従事。法務部長、事業支援本部副本部長を歴任し、財務経理などを含め、これら全般を担当する事業支援本部長に就任。2014年 8月より執行役員 事業支援本部長に就任(現任)。


田中 研之輔氏( 法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
田中 研之輔 プロフィール写真

(たなか けんのすけ)博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。2008年に帰国し、現在、法政大学キャリアデザイン学部教授。専門は社会学。<経営と社会>に関する組織エスノグラフィーに取り組んでいる。著書に『ルポ不法移民』『先生は教えてくれない大学のトリセツ』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』『覚醒する身体』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。株式会社ゲイト社外顧問他、社外顧問を歴任。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。最新刊に『先生は教えてくれない就活のトリセツ』。


法政大学教授 田中氏によるプレゼンテーション:
いま企業が注目すべき「プロティアン・キャリア」とは

まず田中氏がキャリアに関して、いま注目すべき理論について語った。

「ボストン大学マネジメント・スクールのダグラス・ホール教授が1976年に発表した、プロティアン・キャリアです。環境の変化に応じて自分自身も変化させていく、柔軟なキャリア形成のことで、2000年以降に注目されるようになりました。変幻自在に姿を変える神、プロテウスが語源です。1990年ごろは『組織に捉われない』という意味のバウンダリーレス・キャリアが注目されましたが、近年は組織と個人の関係において、プロティアン・キャリアのほうがより個人ベースになっています」

プロティアンには、二つのポイントがある。一つ目は「組織に囚われるのではなく、個人によって作り出されるキャリアであること」。二つ目は「外的に決められる成功の基準ではなく、心理的成功感を得たいという内的なものであること」だ。これは特定組織の中での長期的なキャリア形成を期待しない働き方だと田中氏は語る。

また、プロティアン・キャリアは次のような特質を持つ。「キャリアは組織ではなく個人によって管理される」「キャリア年齢は重要であるが、年代順の年齢は重要ではない」「キャリア開発は継続的な学習であり、自己方向性、関係性が大切である」「仕事への挑戦によって発奮し、決まりきったプログラムではない」の4点だ。

講演写真

田中氏は、プロティアン・キャリアの重要な二つのメタ・コンピテンシーとして、「アイデンティティー」と「アダプタビリティー」をあげた。

「アイデンティティーとは、自己の欲求や動機、価値観、興味、能力など、明確な自己イメージや自己認識があることです。アダプタビリティーとは、変化する環境に対して反応学習、探索と統合力、そしてその状況に適用させようとする意欲のこと。これからのキャリアの追究にはこの二つが必要です」

自己で変革するプロティアン・キャリアは、組織の時間や空間にしばられないキャリア概念といえる。これは今の日本の雇用状況にマッチする理論であると田中氏は語る。

「今日お二人からうかがう事例も、まさにこれに当てはまるものだと考えています。ただ一点、私がまだ不安に思うのは、プロティアン・キャリアを組織はどのように評価するのか、ということです。私は今後、現状から未来を捉えてキャリアを分析し、キャリアを資産とするキャリア・キャピタルという考え方に近づくのはないかと考えています」

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 島田氏によるプレゼンテーション:
ユニリーバの人材開発-PEOPLE WITH PURPOSE-

まず島田氏は、ユニリーバにおけるキーワードを紹介した。それは「PEOPLE WITH PURPOSE(=すべての人がPURPOSEと共に)」だ。

「PURPOSEとは、生きている目的、人生の大いなる目的といった意味です。社員一人ひとりがPURPOSEを持っている会社にしていきたいと考えています」

ユニリーバでは、人のあり方、生き方を大事なカギと考えている。スキルを教えることや知識を得ることに時間をかけるのではなく、「その人がその人である」ということに対して会社がサポートを行う。キャリアはその人のものであり、そのキャリアを自身で深めていく場を提供しようというのだ。その支援の一つといえるのが、2年前から全世界で全社員が受けているPURPOSEワークショップだ。

「ワークショップを通じて自分のPURPOSEは何なのかを発見し、またそれに磨きをかけることで、キャリア自律へとつなげていきます。それを皆で共有し、個々が持つPURPOSEを体現していくことで、組織や日本でのマーケットへのインパクトにつなげようという目的もあります」

講演写真

ユニリーバでは、すべてのブランドにPURPOSEを持たせている。データも取っており、「パーパスのあるブランドはより早く成長する」「パーパスのある会社は市場での価値が高い 」「パーパスのある人々は仕事への満足度が高い」といった結果が出ているという。それほど大事なPURPOSEを、個人はどのように見つければいいのか。

「ワークショップでは、PURPOSEを見つけるために四つの質問を行います。『私が幼かった頃』『私を形づくった試練・チャレンジ』『私の成功ストーリー』『私のキラキラな興味』です。ここで互いに必要になるのは信頼です。プライベートな話ができるのも、信頼感があるから。このようなコミュニティーに組織がなれるかどうかが、今後の企業の命運を分けるのではないかと思います」

島田氏は、これからの経営・人事には「理論」に加えて「感情」、「DOING/やり方」に加えて「BEING/あり方」が必要だとも語った。

「これからは『~すべき』も大事ですが『~したい』がより大事になると思います。組織は今後、より感覚的な部分が重視されていくのではないでしょうか」

サイボウズ 中根氏によるプレゼンテーション:
サイボウズが目指した理想のチームワークと制度・ツール・風⼟の改⾰

サイボウズはこれまで、働き方の多様化に向けた数々の施策を実践している。中根氏はその根底にあったのは、「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」という考え方だという。

「個性が違うことを前提にして、それぞれが望む働き方や報酬が実現されればよい、とする考え方です。公平性よりも個性を重んじ、一人ひとりの幸福を追求します。そのため、人事制度は変えるものではなく、増やすものだと考えています」

サイボウズは個人のキャリア支援として、個々のチャレンジを応援している。個人それぞれが望む働き方や報酬、キャリアの実現に向け、多様な機会を選べるように支援している。

講演写真

「企業が個人に望む貢献と個人が望むキャリアの方向性が合えば、その人はより幸福になれます。仕事とはチームの理想といった『やるべきこと』に個人が共感し、個人として『できること』を実行すること。そこに個人の『やりたいこと』が重なることを、私たちは『モチベーションのハッピーセット』と呼んでいます」

そこで同社は、個人に「やりたいこと」を宣言する「Myキャリアプリ」を作成。全社員に「やりたいこと」を宣言してもらっている。内容は「1年後に○○をしてみたい」といった未来への宣言でもいいし、「この仕事を続けたい」という継続への意志でもいい。

「それに加えて、個人の職務経歴書として『できること』を登録するシステムと、『やくわリスト』という、サイボウズの部署ごとにどのような仕事があるのかを伝えるリストをつくっています。この三つのリストは公開されており、人事だけでなく社員全員でマッチングが行えます」

しかし、中にはやりたいことが見つからない人もいる。そのようなときに大事なのは、個人に必要なインプットがきちんとあることだ。そこで同社は2年前から、社員が希望した職場の仕事を体験できる「大人の体験入部」を開始した。

「上司の承認は必要ですが、希望があればほぼ実現しています。期間は1日から数ヵ月までとさまざまで、入社4年、5年目のメンバーが多く登録しています。体験したいと言われた部署は喜んでいますね。キャリア選択で重視すべきなのは個人の幸福度とチームの生産性ですが、これらを両立できるような仕組みをつくっていきたいと考えています」

ディスカッション:
「変わること」に抵抗を示す人にどう対処するか

田中:プロティアン・キャリアで難しいと思うのは、大人が一定の年齢になってからでも本質的な自己を変えられるのか、という点です。こういったキャリア支援には抵抗もあると思います。PURPOSEワークショップはいかがですか。

島田:そういう考え方を疑問に思う人はいますね。「人生について会社から言われるのはどうか」などと。また、上司との関係がよくない人の中には「そんなことを話す気になれない」という人もいます。やはり大切なのは、チーム内によい人間関係が醸成されているかどうか。人は無意識でも、新しいものに対して危険だと思う反応がある分、心理的安全性にも影響を受けやすいのだと思います。私がいま気を付けているのは、チームのリーダーのあり方です。リーダーがどのような世界観を持っているのか、何を大切にして、何を基準に物事を決めているのか。組織ではリーダーの中にあるものが、全部出てしまいます。そのため、一つの事象だけで組織のことは語れません。例えば「社長と呼ばれるリーダーがPURPOSEを体現しているのか」などと考え始めると、難しいことになります。

中根:昨日のマネジャーミーティングでも話したのですが、リーダーの一番大事な仕事はやはり、チームの風土をつくることですし、問題が起きたときにどのような反応をするのか、どんな問いかけをするのかが大事なのだと思います。また、キャリアについて話す際のことですが、「これからどんな仕事をしたいか」という質問に答えられない人はいても、「今までやった仕事で楽しかったことは何か」と聞くと、ほとんどの人は答えてくれます。そこから深掘りするとPURPOSEにつながるのではないか、と思いますね。また、「楽しくなかった仕事、手が進まなかった仕事は何か」という質問にも答えてくれて、その理由も教えてくれます。

講演写真

田中:ここでお二人にお聞きしたいのですが、中には保守的で変わろうとしない企業や部署もありますね。そのようなときは、どのように風穴をあければいいのでしょうか。

島田:まずは、変わろうとする自分の思いが本気なのかと自分に問いかけることです。本気なら思いを言葉にして周囲に発信し、その思いをシェアしていく。それしか方法はないと思います。人事にとっては、そのような人を支援していくことも大事なのではないでしょうか。

中根:もし人事の提案を聞かない社員がいたら、一度人事という視点から離れて、一人の人間として理由を聞いてみるといいでしょう。納得できる理由を聞くことが結構多いと思いますね。「嫌だ」などと、わがままを言われたときは、人事としてやり方を見直すチャンスだと思って、付き合ってみるといいのではないでしょうか。

田中氏:「HRカンファレンス」でプロティアン・キャリアというテーマを取り上げるのは今回が初めてですが、今後も人事の皆さんとも一緒に考えていきたいテーマです。今日はお二人から貴重なお話が聞けましたので、私たち大学サイドでも現場にフィードバックできる形で展開したいと考えています。本日はありがとうございました。

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