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人事リーダーが「変革型リーダー」になるために

  • 金井 壽宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
大阪基調講演 [OB]2019.01.21 掲載
株式会社アイ・キュー講演写真

リーダーの役割として、もっとも期待されるべきものは「チェンジ、変革」の実現だ。中でも人事リーダーは、企業そのものの変革の風土をリードしていくべき立場にある。神戸大学大学院の金井教授は、人事の役割は「デリバラブル=どんな価値を届けられているか」で考えるべきと語る。金井氏が人事に期待される変革型リーダー像について語った。

プロフィール
金井 壽宏氏( 神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
金井 壽宏 プロフィール写真

(かない としひろ)1954年神戸市生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程を修了。89年MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)を取得。92年神戸大学で博士(経営学)を取得。変革型のリーダーシップ、創造性となじむマネジメント、働くひとのキャリア発達、次期経営幹部の育成、これからの人事部の役割、研究とつながる教育・研修のあり方(リサーチ・ベースト・エデュケーション)を主たるテーマとしている。これらにかかわる論文や著作が多数。『変革型ミドルの探求』(白桃書房、1991年)、『リーダーシップ入門』(日経文庫、2005年)、『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版、2006年)、『「人勢塾」ポジティブ心理学が人と組織を変える』(小学館、2010年)、『組織エスノグラフィー』(有斐閣、共著、2010年)など、著書は50冊以上。


人々に関わることは「最高」「最悪」のどちらと考えるのか

本講演のテーマは「人事リーダーが変革型リーダーになるために」だが、そもそもリーダーの役割でもっとも重要なのは「チェンジ、変革」の実現だと金井氏は語る。

「私は長い間リーダーシップの研究をしてきましたが、そのほとんどの本で書かれていて、キーワードとなっているのは『チェンジ』です。何かを変えることがリーダーの役割なんですね。ただし、リーダーは人間を相手にしますから、そこには配慮が必要になる。そのためリーダーシップの話の中身は、半分がタスク寄りの話、半分が感情や人間関係にまつわる話になるのです」

金井氏は「リーダーシップはわかっていることがもっとも少ない分野」だと、先達による多くの書籍にも書かれていると語る。リーダーシップを考えるときに仕事やタスクの軸と、人への関心の軸ばかりが言われるが、金井氏はそこに新たな軸を増やそうと考えた。

「私がリーダーシップの研究を行ううえで、大事にしたいと思ったことがありました。それはリーダーシップに関わる軸をもう少し増やしたい、ということです。そこで、11次元の尺度をつくりました。尺度の次元の中には珍しいものもあります。たとえば、上の人たちに向けた影響力です。リーダーシップの測定をしている人は、上向きの影響力はあまり入れたくないんですね。しかし、部長に対して影響力のない課長はいかがなものか、と思いませんか。部下に対してだけでなく、上位者に対してもモノが言えないと変革型のリーダーにはなれません」

金井氏は企業のどの部門でも、またどのレベルでも、リーダーには変革を行う役割があるが、中でも人事で活躍する人がリーダーシップを持つことは、より一層高度なことだという。なぜなら、そこに微妙なバランス感覚が含まれるからだ。

「人事の制度を変え過ぎて、企業がめちゃくちゃになることがありますよね。人事は本当に自信のあることは貫いたほうがいいけれど、現状にあわなくなったら、人事の制度、仕組みを変えなくてはいけない。そのときは、人事のリーダーとして決断し、良い形の変革をもたらさないといけないのが常です。イノベーションがより起こりやすくなるとか、より変革が生まれるようなサポートを社員に対してできる人事部をつくろうと思ったとき、人事のリーダーに良き変革型リーダーがいるということは、大変に迫力があることだと思います」

「デリバラブル=どんな価値を届けられているか」で人事の役割を考える

金井氏は、人事の組織に対する役割には二つの側面があると語る。一つ目は人事管理の研究者であるミシガン大学のデイビッド・ウルリック教授が提唱した、デリバラブル(Deliverable)とドゥアブル(Doable)だ。

「デリバラブルとは『相手に提供される価値』、ドゥアブルは『実際に行為としてできること』を指します。人事のリーダーは行為だけでなく、相手にどんな価値を届けられているのかを考えないといけません。いいものを『デリバラブルDeliverable=提供できる』ものとして持っているかどうか。真剣に議論すれば『人事は何をする人か』という問いは大変難しい。組織が本当に困ったときに、人事がいることでどんないい届け物ができるのか。そのことを考えることが大変大事だと思うのです」

講演写真

もう一つの側面は、米国のロバート・グリーンリーフ氏が提唱したサーバント・リーダーシップ(Servant Leadership)だ。サーバントとは「奉仕者」や「使用人」という意味。サーバント・リーダーシップとはリーダーがまず相手に奉仕し、そのことを基盤に相手を導くという哲学に基づいたリーダーシップ像だ。

「奉仕型リーダーのよさは、相手を見ながら奉仕してくれる点にあります。相手をみてから後押ししてくれる。人事にはこの発想がもともとあるのではないでしょうか。リーダーが示す目標に向かってフォロワーが動き始めたとき、その動きが効果的でうまくいくようにリーダーの側がフォロワーに奉仕する。まさにこれが人事の仕事ではないかと思います」

そこで、先に触れたデリバラブルとドゥアブルの観点から人事部を整理すると、次のようになる。「ドゥアブル=行動項目」という側面からは、「人事部が何をやっているか」「採用、評価、選抜、給与など、やろうと思ったらできる、あるいは実際にやっていること」で考える。これに対して、「デリバラブル=提供価値」という視点では「人事部が何をもたらしているか」「人事部があるおかげで、いったいどのような『良きもの』がもたらされているのか」という問いかけに注目する。ここで金井氏は参加者に「人事部はどんな提供価値を会社で働く人たちにもたらしているかについて、周囲の人と話し合ってみてください」と声をかけ、参加者同士で数分間の話し合いが行われた。

「話してみることで『人事が何をやっているか』ではなく、『人事として何をお届けできているか』と考えるほうが、はるかにその役割が明確になることに気付かれたのではないでしょうか。もともと人事部の人たちは真剣ですから、いつも新しいことを考え、みんなに喜んでもらえるように一生懸命活動されていると思うのですが、その作業の最中は割と現場の声を聞けていないのではないかと思います。『人事部があるおかげで大事なことに気付かされた』『人事部があることで、他ではもらえないものをもらえた』といったリアルな言葉にしっかりと耳を傾けることも大事です」

それでも人事は「戦略パートナー」であり「変革エージェント」

人事部の最初の成り立ちを見直してみると、その役割が漠然と見えてくると、金井氏はいう。

「会社の歴史で、従業員が何名のときに人事部をつくったのかを調べてみてください。会社の規模が大きくなると、人事というポジションがなければ回っていきません。ある規模を超えたときに人事部ができる。するとセクションができて、その社員は何をやっているのかを中心に見るようになる。これはドゥアブルの視点です。やろうと思ったらできることがそれです。他方でもっと大事なことは、研修を行うのであれば『研修を行うこと』というドゥアブルそのものが重要なのではなく、研修の結果、社員や職場にどんなものがお届けできたか、つまりデリバリーできたものは何か、ということです。変革型リーダーシップの研修を実施したのであれば、『本当にイノベーションが起こるようになった』となれば提供価値がありますよね。それをデリバラブルと呼んでいるのです」

デイビッド・ウルリック教授が著書『MBAの人材戦略』で示した人事の枠組みは、四つのデリバラブルで示されている。一つ目は「戦略パートナー」だ。人事がビジネスのパートナーになるということであり、企業戦略に基づき、人事戦略を構築する。二つ目は「変革エージェント」。企業の人材像を構築し、企業の風土、文化、価値観を人材像に反映させる。三つ目は「管理エキスパート」。人事戦略を実行し、制度の管理・運営を行う。四つ目は「従業員チャンピオン」。従業員に対しカウンセリングやキャリア開発支援などの支援を行う。

加えて、P&G社ではこれだけでは足りないと、五つ目として「文化ガーディアン=文化の擁護者」を加えたという。

「元P&Gファーイースト人事本部長の会田秀和さんが提唱されたものです。皆さんも企業に守りたい文化があるとき、それを守る役割はたぶん人事になると思いませんか。皆さんの中にこれら五つの役割に加えて、他にも人事に役割があるという方はいらっしゃいますか。もしいらっしゃるのなら、それは素晴らしいことだと思います」

講演写真

企業の中で人事はどれくらい役に立っているのか。そのことを自問するための質問を金井氏は紹介した。

「本社の人はいったん置いておいて、現場、ラインの方々で、『わが社には、人事部があるので助かるよ』と言ってくれる人は、何割くらいいますか。たとえば、『わが社に人事部があるおかげで開発がはかどる、より創造的になれる』と言ってくれる研究開発部門の方はどれぐらいいるでしょうか。人事のリーダーはぜひ、この質問を自分に問いかけてみてください」

最後に金井氏は人事部に対する期待を述べて、講演を締め括った。

「人事はころころと姿勢を変えずに貫くことが、公平さを示すためには大切かもしれません。しかし、『普段あまり変わらない人事部が、おもしろい展開を持っていたな』と思われるよう、人事のリーダー自身が変革型リーダーとして振る舞うことも、時代の節目、会社の歴史の中での節目のときには、大事だと思います。このような方向性も加味しながら、今後皆さまがますますご活躍されることを祈っています」

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