人・組織の課題解決策を体系的に学ぶ、日本最大のHRイベント 日本の人事部「HRカンファレンス」ロゴ

イベントレポート イベントレポート

人材不足時代の人材戦略

  • 守島 基博氏(学習院大学 経済学部経営学科 教授)
東京基調講演 [C]2018.12.30 掲載
株式会社アイ・キュー講演写真

これまで20年ほど、人事には企業の戦略や経営、ビジネスに即した人材戦略に取り組むことが求められてきた。しかし、昨今の人材不足時代においては、それだけでは不十分といえる。今後も続くと考えられる人材不足という環境の中で、人事が考えるべきこととは何か。人材不足解消のために打つべき手とは。学習院大学教授・守島基博氏が、人材不足の背景にある変化や現象をふまえた上で、人材戦略のポイントの中から大きな二つのテーマを掲げ、考え方や手法を述べた。

プロフィール
守島 基博氏( 学習院大学 経済学部経営学科 教授)
守島 基博 プロフィール写真

(もりしま もとひろ)人材論・人材マネジメント論専攻。1980年慶應義塾大学文学部卒業、同大学院社会研究科社会学専攻修士課程修了。86年米国イリノイ大学産業 労使関係研究所博士課程修了。組織行動論・人的資源論でPh.D.を取得後、カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年4月より現職。主な著書に『人材マネジメント入門』『人材の複雑方程式』『21世紀の“戦略型”人事部』『人事と法の対話』などがある。


人「材」不足と人「手」不足は違う

人材不足という声が盛んに聞かれるが、現状はどうなのか。守島氏はいくつかのデータを取り上げた。2018年1月に実施された国内1万社の調査によると、51.1%は正社員が不足していると回答。また、2015年前半時点の海外の比較調査によると、人材不足を感じている企業の割合は、世界42ヵ国の平均は34%だが、日本企業では83%にものぼっている。

「労働人口の減少自体は、すでに50年も前から予測できていた現象ですから驚くことはありません。注目すべきは、日本の企業の戦い方が変わってきたことです。たとえば、M&A、グローバル化、AIやIoTの応用、イノベーションや付加価値の重視などといった戦略は、今までとは異なる新しいタイプといえます。戦略が変わってくると、必要な人材像も必然的に変わります。人材のスペックが変われば、その人材を活用する方法も変わるのは明らかです」

ここで守島氏は、人「材」不足と人「手」不足は違うということをしっかり理解しておくべきであると注意を促した。人手不足とは、単に人が足りないこと。人材不足とは、「こんな事業を担ってほしい」「こんな戦略を達成してほしい」「こんなイノベーションを起こしてほしい」という人が足りないことを意味する。従って、「人はいるが、人材不足だ」という状況も考えられるのだ。つまり、単に人を増やすだけでは人材不足は解消されない。今いる人材を何らかの形で変えていかなければ、対処できないといえる。

「もう一つ、人材不足が起こる背景には、働く人の意識、価値観の変化が挙げられます。ワーク・ライフ・バランスの浸透により、ライフの側面を重視する人が増えてきました。今後もこの志向は続くでしょうから、今までのような24時間仕事に向き合うような人材の確保は難しくなります。また、高齢化社会が進めば、子育てだけでなく、介護や病気などの制約を抱えながら働く人材がどんどん増えてくるでしょう」

「雇用の崩壊」というトレンドも念頭に入れておくべきだ、と守島氏は話を続ける。特に、戦略を推進していくフロントラインの人材、グローバルに対応できる人材、テクノロジーに精通した人材は、雇用されることを好まない傾向が見られる。例えば、東京大学のある学部のトップクラスは、企業就職を望まずに起業が目標になっているという話もあるという。この雇用を拒む現象も、人材確保を難しくする要因となる。雇用人材のリテンションだけではなく、これからは非雇用人材のリテンションに取り組まなければならない。

「アメリカのフリーランス協会によるデータでは、独立自営業や副業を含めると、働く人の約5分の1がアメリカではフリーランスです。これは、確実に日本でも起こる流れだと思います。そうなると、今までの採用というコンセプトは通用しなくなるだけでなく、評価も大きく変えなければなりません。長期的評価には関心がなくなり、短期的成果の評価が重要になってくると考えられます」

講演写真

適所適材でタレント・マネジメントを拡大させる

そのような状況下で、人事が考えるべきポイントは三つある。それは、「タレント・マネジメントという考え方の拡大」「働く人の幸せを考えた人視点の人事」「働く人たちが成果を出せる組織をつくるという、戦略ベースの組織開発」だ。今回、守島氏は最初の二つについて語った。

「タレント・マネジメントの対象は優秀層、という認識が一般的だと思いますが、できるだけ多くの人たちに対して、この手法を適用していくようにすべきだと考えています。人材を配置転換するときに、上層部の10~20%は情報を元に丁寧に次のポストを考えますが、他はいわゆる玉突き人事となっている企業が多いのではないでしょうか。これをやめて、できるだけ多くの人材のポストへのマッチングを行わなければ、人材不足時代には対応できません。全ての人を戦力にしていくことを考えるのです。

タレント・マネジメントを行う際に、最初に考えなければいけないのは適材適所ではなく、適所適材。ポストが先です。できるだけ多くの人にミッションを与えることになるので、モチベーションを考えても大きな意義があります。配置転換のときには『これに取り組んでほしい』『これが、あなたが配置される意味だ』ときちんと伝え、考えてもらうようにしてください」

適所適材のためにも、働く人をしっかり把握しておくことは欠かせない。ところが、適所を見据えたレベル感や質感に関して人の情報を集めることは難しい。例えば、「この人はどれだけリーダーシップをとれるか」「どれだけ成長意欲があるのか」「どれだけポテンシャルがあるのか」といった情報は容易には得られない。数や言葉では表し難い情報を、何らかのシステマティックな考えに立って把握する必要がある。

「あるグローバル企業では、10人ほどキャリアアドバイザーを設けています。世界中のビジネスミーティングに参加し、レベル感や質感に関する情報を丁寧に集めて、本社でデータベース化している。それに基づいてグローバルな人材マネジメントを行っているのです。多くの人材のアナログ的な情報を把握し、それを元に適所適材で配置できれば、人材不足解消につながることは言うまでもありません。

もちろん、人材情報は把握するだけなく本社でデータベース化すべきです。そのためにテクノロジーを活用し、上手に管理する方向にもっていった方がいいと思います。人事にとってテクノロジーは二つの意味で重要です。一つは、大量の情報を本社でマネージできること。もう一つは、証拠に基づいて動けること。例えば、ある人に配置換えがあったことで『どんな成果が生まれたか』『どんな結果につながったか』が把握でき、人材育成プログラムの効果も照合できるなど、エビデンスに基づいた人事管理が行えます」

さらに、「人材育成の時間軸の縮小」も意識したい点だと守島氏はいう。例えば、新入社員を3年間で一人前に育てるという従来のプランがあった場合、期間をもっと短くできないか、と考えてみるべきだ。そういった視点を持たなければ、今後の時代の変化のスピードについていけなくなる可能性が高い。つまり、人事の時間軸を経営の時間軸に合わせて行動を考える、という切り替えも求められる。

「『キャリア採用の革新』も、意識したいことの一つです。日本の多くの企業は、新入社員に比べてキャリア採用にかける時間や資源があまりにも少なすぎます。キャリア人材に関しては、採用も、採用後の配置、適応の検証も現場任せになっている企業が多いと感じています。キャリア採用こそ、これからの人材不足を担う重要な方法論ですから、短期的ニーズに寄りすぎることなく戦略的に行わなければなりません。キャリア採用した人たちが3年後にはどんな仕事についているのか、どんなパフォーマンスを出しているのか、といったことを本社の人事はしっかり把握し、フォローして行くことを忘れてはなりません。

ある企業では、キャリア採用後に3年経過したところで面談を行い、本人の状況を把握するようにしています。それだけではなく、キャリア採用した際の面接の記録も全て残しているそうです。それらの情報を付き合わせて次の採用や人事管理に生かしているのです」

講演写真

働く人の視点で一人ひとりに向き合い、働きがいを与える

人材不足の状況下で、次に考えるべきポイントが「働く人の幸せを考えた人視点の人事」だ。これは、人材不足を「質的側面」から捉えたものになる。ワクワクして、モチベーションが高く、頑張って働くことができている人と、つまらない気持ちで、なんとなく働いている人とでは大きな差がある。前者の人材価値は非常に高い。

「ある調査では、日本には熱意あふれる社員の割合が6%しかいないという数字が示されています。日本の企業のエンゲージメントのレベルは低いと言われますが、フルコミット、フルエンゲージしていない人が多いのではないでしょうか。10人雇っていても一人ひとりがエンゲージして働いていなければ、トータルな力は減ってしまいますから、人材不足につながる要因になります。ですから、これからの人材マネジメントにおいては、働く人の視点に寄り添って、モチベーションを高める、エンゲージメントを高めることを考えていかなければいけません。

近年、人視点が、人材管理の中で非常に重要になってきました。一人ひとりの思い、モチベーション、エンゲージメントを、従来よりも人事は気にしなければならならない。ところが、働き方改革においても、そのような動きが少ないのが現状ではないでしょうか。労働時間や同一労働同一賃金という話で終わってしまうことなく、働く人たちがハッピーになっているか、意欲的になっているか、といった視点をもっと持たなければなりません」

働く人のモチベーションに関して、守島氏は「ハーズバーグの2要因理論」を紹介した。「仕事のやりがい要因」には、達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進などの要素があり、「働きやすさ要因」には、会社の方針と管理、監督者との関係、労働条件、給与、同僚との関係などの要素がある。「仕事のやりがい要因」の要素が減ると働く人のモチベーションが下がるが、「働きやすさ要因」の要素が上がってもモチベーションは上がらないという理論だ。つまり、働き方改革の中では「仕事のやりがい要因」をいかに高めていくかが大きなポイントになるという。

「そのためには、一人ひとりの評価をきちんと行うことが大切で、まさにノーレイティングがそうです。レイティングとは、働く人をA・B・Cと格付けすることですが、そうではなくて、一人ひとりに対して『今までと比べてこんなによくなった』『前に比べて少しここが落ちている』と個別にフィードバックをするというのがノーレイティングの考え方です。ノーレイティングをやらないにしても、『その人が本当に成長しているのか』『達成感を持って働いているのか』といったことを人事がいかに提供していくのかを、考えて欲しいと思います。働きがいを与えるのは、人事管理の基本中の基本。評価の制度や仕組みを、働く人たちのモチベーションを高めていける方向へと舵取りしていくことが、人材不足の時代には欠かせないと言えます」

講演写真

タレント・マネジメントをできるだけ多くの人材を対象にして運用すること、ミッションを与えたポジションに配置して人材をきちんと活用していくこと、働く人たちのマインドを高めていくこと。これらに注力すれば人材不足は解消できると、守島氏はまとめた。そのためには、クラウドやビッグデータ、AIなど、テクノロジーを上手に取り入れることは大きな力になるが、それでもやはり、人事が一人ひとりをしっかりと見て考えることが不可欠になる、と最後に強調して講演は締め括られた。

  • この記事をシェア
日本の人事部「HRカンファレンス2018-秋-」レポート
講演写真

[A-5]学生とのエンゲージメント構築~年間5000人と話して分かった売り手市場攻略~

講演写真

[A]これからの「働き方」と人事の役割について考える

講演写真

[B-4]競争が激化するグローバル市場で勝ち抜く人材とは

講演写真

[B-5]「企業競争力」かつ「会社の魅力度」を高める「働き方改革」への意識変革とアプローチ

講演写真

[B]従業員がポジティブに働ける組織をつくる

講演写真

[C-5]理念浸透による組織開発~「仕組み先行型」から「共感ベース型」へ~

講演写真

[C]人材不足時代の人材戦略

講演写真

[D-5]戦略を描ける次世代経営リーダーの創り方 『絶対に押さえるべき4つのステップ』

講演写真

[D]「日本的組織」の本質を考える

講演写真

[E]人事もPDCAを回す時代へ データ活用の問題点と解決策を明らかにし、戦略的人事を実現する

講演写真

[AW-2]「HRアワード2018」受賞者 事例発表会

講演写真

[F]働き方改革、多様性、AI+IoTの時代に求められる「社内コミュニケーション」とは

講演写真

[G]ビジネスで勝つための戦略人事 いま人事パーソンに求められるリーダーシップとは

講演写真

[LM-1]成長企業に聞く! 若手社員にチャンスを与え、成長を促す方法とは

講演写真

[H]パナソニックの事業・マネジメント変革に向けた1on1導入と現状

講演写真

[I-5]障がい者が働く喜びを感じる就農モデル 『(株)九電工』とのトークセッションにて紐解く

講演写真

[I]企業における最先端の「キャリア開発支援」 組織にとらわれず自分で育てるプロティアンキャリアとは

講演写真

[J-5]仕事と介護の両立支援のいま~介護離職0に向けて、企業ができる事前対策とは~

講演写真

[J]先進企業から学ぶ、社内でイノベーションを生み出すための「人材育成」のあり方とは?

講演写真

[K-6]『第二人事部』構想で人事部門に変革を! ~コストセンターからバリューアップ部門へ~

講演写真

[K]ホワイト企業だけが生き残る ~働き方改革のここだけでしか聞けない本音~

講演写真

[SS-1]脳科学を働き方改革に活かす二つの視点  ~「健康経営」と「効率化」を実現するための自分目線の改革~

講演写真

[L]新たなリーダーを育てる組織とは

講演写真

[OSA-3]【不人気業界で母集団を10倍!】インターンシップの設計とSNSを使った新採用戦略

講演写真

[OA]激変の時代に「組織」と「人材」はどうあるべきなのか

講演写真

[OB]人事リーダーが「変革型リーダー」になるために

講演写真

[OC]スポーツビジネスの事例に学ぶ働き方改革

講演写真

[OD]いまなぜ「HRテクノロジー」なのか? 人事データの活用が戦略人事を実現する

講演写真

[TB]HRテクノロジーとは何か? どのように活用できるのか?~これからの人事に求められる役割とは~

講演写真

[TD]ちょっと待って HRテクノロジーを導入する前に ~リクルートと考える採用の3つの基本原則~

講演写真

[TF]HRテクノロジーとデータ分析で変革する採用活動~より成果を出すために考えるべきこと~


このページの先頭へ