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脳科学を働き方改革に活かす二つの視点 
~「健康経営」と「効率化」を実現するための自分目線の改革~

  • 枝川 義邦氏(早稲田大学 研究戦略センター 教授)
東京特別セッション [SS-1]2019.01.11 掲載
株式会社アイ・キュー講演写真

働き方改革は、人事にとって最重要課題の一つ。多くの企業がワークスタイルや制度など、「仕組み」の改革によって対応しようとしているが、本セッションではもう一つの視点として「脳科学」をとりあげた。キーワードは「健康経営」と「効率化」。良い睡眠が脳にどのような影響を与えるのか。また、脳の働きをどのように高めて仕事の効率化につなげるのか。脳科学をビジネスとの関わりの中で研究している早稲田大学・枝川義邦教授を招き、メンタル・フィジカルの両面から、ワークやディスカッションも交えて、脳科学を働き方改革に活かす方法について考えた。

プロフィール
枝川 義邦氏( 早稲田大学 研究戦略センター 教授)
枝川 義邦 プロフィール写真

(えだがわ よしくに)東京大学大学院薬学系研究科博士課程を修了して薬学の博士号、早稲田大学ビジネススクールを修了してMBAを取得。早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)の初代認定を受ける。研究分野は、脳神経科学、人材・組織マネジメント、研究マネジメント。早稲田大学ビジネススクールでは、経営学と脳科学とのクロストークの視点から『経営と脳科学』を開講。一般向けの主な著書には、『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(アスカビジネス)、『記憶のスイッチ、はいってますか~気ままな脳の生存戦略』(技術評論社)、『「覚えられる」が習慣になる! 記憶力ドリル』(総合法令出版)など。


主体的アプローチが可能な「働き方改革」とは

現在、政府が主導している働き方改革には三本の柱がある。「労働生産性の向上」「非正規雇用の格差改善」「長時間労働の是正」だ。この中には、経営者の努力や国による制度づくり以外にも、働き手が自分たちで取り組めるものがあると枝川氏は言う。

「たとえば、労働生産性は仕事を効率化することでも改善できます。脳の働きを時間の観点で調べた研究からは、活発に働くのは起きてから12~13時間だとされています。それ以上になると、お酒を飲んだときと同じ程度にまで働きが低下してしまうのです。従って、限られた時間内に集中して、仕事の質で勝負することが重要です。また、健康経営の推進は長時間労働の是正にもつながるでしょう。健康経営には経営側の取り組みだけでなく、自分の健康状態を常にモニターして、そのときの状態に即した対処を、ある程度自分で判断できるセルフメディケーションもポイントになってきます。今日は健康管理だけでなく、脳のパフォーマンスに対してもきわめて重要な睡眠の話を取り上げたいと思います」

最初にアイスブレイクとして、参加者全員が簡単なワークに取り組み、テーブルごとに情報共有が行われた。これまでの自分の過去を可視化し、さらに理想の将来像を思い描く、というものだ。私生活やキャリア、健康面でぶつかるであろう「壁」をあらかじめ予測することで、ストレスマネジメントに役立てる試みだという。ワークの作業とディスカッションで参加者の思考も大いに活性化したところで、いよいよセッションの本題に突入していくこととなった。

講演写真

労働生産性を高めるために欠かせない「集中」をいかに生むか

セッションの前半は「現代の労働環境と脳の働かせ方」が主題となった。まず、枝川氏が説明したのは、デジタル化された現代社会が脳にとっていかに忙しい社会なのか、ということだ。

「仕事をしているときも、ゲームで遊んでいるときも、脳はずっと働き続けています。人が忙しいというよりも『脳が忙しい』のが現代社会なのです。特にパソコン、スマホ、テレビなど、いろいろなデジタル機器を使ったマルチタスクは脳に大きな負担がかかります。一見効率的に思えますが、実はそのとき、脳の作業効率は低下しているのです」

脳の働きは一つの作業に集中するシングルタスクが基本なので、二つ以上のことを同時にやろうとするとタスクを切り替えなくてはならない。たとえば、「歩きスマホ」の状態では、スマホの操作も歩く速度も両方とも遅くなっていることに気づいた経験は誰にでもあるだろう。より効率を求めるなら、立ち止まってスマホを操作し、その後さっさと歩いた方がよい。

「二つ以上のタスクを切り替える際、脳はそのつどストレスを感じます。そのときに分泌されるストレスホルモンが脳内に長く蓄積されると、脳機能は低下します。特に、記憶を司る海馬、意思決定や価値判断を行う前頭前野などは、長期のストレスにさらされると機能低下が著しく、場合によっては神経細胞が死滅してしまいます。その結果、認知症に似た状態になることもあるくらいです」

ちなみに家事などのように昔から人間がやっていたような作業を同時並行で行っても、そこまで負担はかからない。現在の人類が生まれて4万年。その間、脳はそう大きく変わっていない。現代の社会や技術の進歩に脳が適応しきれていないのが昨今の状況なのだ。

では、そういった忙しい現代において効率化を図るためには何が必要なのか。枝川氏は「職場環境の整備」「考え方の癖の改善」「ワーキングメモリーの性質に対処」という三つのアプローチが有効だという。その中から、脳科学の分野に関係する「ワーキングメモリーの性質に対処」について説明があった。

「ここでいうメモリーは長期の記憶ではなく、脳がそのことに対して働くときだけの記憶です。いわば机の上の作業スペースのようなものだとイメージしてください。外部から入ってきた情報も、作業のために引っ張り出してきた過去の記憶も、この作業スペースの上に置かれます。このスペースは大きさが限られていて、いっぱいになると他の情報処理ができにくくなります。何か大きな心配事があると他の細かいことは覚えていられなくなるのは、そのためです」

ワーキングメモリーのスペースの性質や仕組みを理解していれば、集中するための工夫も可能になってくると枝川氏は言う。

「ワーキングメモリーを有効に使わないと効率が上がらないばかりか、ヒューマンエラーにもつながります。ワーキングメモリーは記憶の一種ですから、記憶だけに頼らず、記録することを活用するのもよいでしょう」

講演写真

究極の集中状態「フロー」を生み出す

次に枝川氏が語ったのは、人間がもっとも集中した状態「フロー」についてだ。この集中状態を人為的に作り出すことができれば、仕事も一気にはかどるに違いない。

「心理学では極度の集中を『フロー』と言います。アスリートだとゾーンに入ったという言い方をしますが、まさにそれですね。体系化したのはアメリカの心理学者・チクセントミハイです」

フロー状態では、人は自分が誰で何をやっているのかも忘れ、目の前のことだけに集中する。そのため、あっという間に時間が経過し、失敗を恐れる気持ちからも解放される。経験そのものが目的となり、結果を出すことではなく、やっていることそのものが楽しい状態になる。

「フロー状態になりやすいのは、課題の難しさと自分の能力のバランスが取れているときです。課題が難しすぎても不安になりますし、簡単すぎると退屈です。チクセントミハイはフロー状態を誘発する条件や、逆に入りにくくする要因もまとめています」

ここで枝川氏は、参加者に「フロー状態に入ったことがあるか」と問いかけ、テーブルごとに話しあいによる共有が行われた。多くの参加者が「スポーツで集中していたとき」「読書に没頭したとき」「仕事で締め切り間際に追い詰められたとき」など、自らの体験を語り合っていた。

「ここでフロー状態の脳内の様子を調べた実験結果をご紹介しましょう。その結果からは、フローのような極度の集中状態には脳内物資ドーパミンが大きく関係していることがわかります」

この現象が観察されたのは、脳内の報酬に関わる神経系だ。ドーパミンはこの報酬系で情報を伝える役割を持つ物質である。

「このことは、集中の度合いが高いときは、何かしたときに脳がそれを報酬と感じているということです。このときモチベーションも高まっているので、逆にいえば、モチベーションを高く維持するには、フロー状態を活用するのも効果的といえます」

集中のための適切な目標管理などの重要性にも触れながら、脳科学を活用した効率化の一端が見えてきたセッション前半だった。

講演写真

充実した睡眠のために理解しておきたい「サーカディアンリズム」

セッション後半は、健康経営にも関係の深い「睡眠」がテーマとなった。

「きちんと寝ているはずなのに睡眠が足りておらず、それによってさまざまな支障につながるとされているのが睡眠負債です。この睡眠負債を考える上で重要になってくるのが、一日24時間のリズム『サーカディアンリズム』です」

サーカディアンはラテン語で「およそ一日」という意味だ。このリズムが大きく崩れた現象の典型が、いわゆる「時差ボケ」だ。リズムを崩したままでいると、睡眠障害、うつ病、がん、メタボリックシンドロームなどになるリスクが高まる。

「起床時に朝日を浴びると、リズムを正しく刻み直すことができます。人間のリズムに影響を与えるものには、他にも食事や運動などいろいろありますが、やはり太陽光がいちばん大きな影響力を持っているのです」

正しいリズムの基本は、朝起きてすぐに太陽光を浴びることにあるようだ。

「サーカディアンリズムの他にも、人間にはさまざまな周期があります。例えば、眠気など脳の機能が低下するタイミングは半日ごと。ですから、午後に眠くなるのは自然なことなのです」

ところで、私たちは何時間眠るのが最適なのだろうか。枝川氏は、米国睡眠医学会が推奨している年齢別の睡眠時間を示しながら説明した。

「適切な睡眠時間は、年齢でおおよそ決まると考えられていて、大人の場合は7~9時間とされます。とりわけ6.5~7.4時間睡眠だった場合が、もっとも死亡率が低いというデータもあります」

睡眠時や前後の脳の状態を知れば、快適な眠りのためのテクニックを身につけることもできる。眠気を催すとき、脳内では眠気ホルモンであるメラトニンが出ている。メラトニンがよく出る条件をつくってやれば自然な眠気がやってくる、ということだ。デジタル機器のブルーライトはメラトニンの分泌を減少させるので、就寝前には見ない方がいい。さらに「深部体温」を下げることも大きく影響する。就寝前に入浴してよくあたたまる、寒い日でも靴下を履かないといった工夫も有効だ。

「睡眠への満足度が低いと精神障害になりやすい、というデータがあります。アルコール、薬物への依存にも陥りやすくなります。睡眠負債も問題です。日本人の睡眠時間はOECD加盟国の中では最短です。わずか1時間でも不足していると、それが徐々に積み重なっていき、あるときに気づくと大きな病気になっていたりしかねません。日本人の多くの死因は、睡眠負債に関連したものだとも言われています」

睡眠負債の影響は健康面だけではない。6時間睡眠を1週間続けた人の脳の機能は、一晩徹夜した時と同程度にまで落ちているという。2週間続けると二晩徹夜した状態なのだ。「6時間も寝た」と思っていても、脳の機能は徹夜明けと同じようになっていることになる。これでは仕事の能率も上がらない。

講演写真

眠気や脳の機能低下への対処では、仮眠(昼寝)も効果的だという。仮眠は15~20分がよい。30分以上寝てしまうと、起きたあとにむしろ脳の機能が低下してしまうからだ。仮眠をとる直前にコーヒーなどカフェインをとると、短い時間でも起きやすく、起きた後の脳の働きも高まる。

「睡眠負債を防ぐには1時間でも長く眠るのがいいのは間違いありません。そのためにも24時間をデザインする視点が重要になります。朝起きて太陽光を浴びたり、日中眠くなったら、上手に昼寝をしたりすることも考えるべきでしょう。人間の身体のリズムの性質を知って、うまく睡眠と付き合っていけると良いと思います」

睡眠が健康にとって重要な要素のひとつであることが具体的に理解できるセッション後半だった。脳科学を働き方改革に活かす取り組みが、意外に身近なところから可能だということに、多くの参加者が気づいたのではないだろうか。

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