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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2018-秋-」講演レポート・動画 >  特別講演 [C-5] 理念浸透による組織開発~「仕組み先行型」から「共感ベース型」へ~

理念浸透による組織開発~「仕組み先行型」から「共感ベース型」へ~

  • 鬼本 昌樹氏(戦略人財コンサルタント 代表/リ・カレント株式会社 プロフェッショナルパートナー)
  • 堀井 悠氏(リ・カレント株式会社 人材組織開発プロデュース部 リーダー)
東京特別講演 [C-5]2018.12.25 掲載
リ・カレント株式会社講演写真

変化に対応し勝ち続ける企業になるためには、経営理念の浸透が不可欠だが、ポイントとなるのは「浸透のさせ方」だ。理念共有・理念共感を軸とする人材組織開発コンサルティング、企業研修を提供しているリ・カレント株式会社の堀井悠氏、同社のプロフェッショナルパートナーであり、戦略人財コンサルタント 代表である鬼本昌樹氏が登壇。理念の浸透で重要となる「共感ベース」型組織開発の手法と効果について、企業の成功事例を取り上げながら語った。

プロフィール
鬼本 昌樹氏( 戦略人財コンサルタント 代表/リ・カレント株式会社 プロフェッショナルパートナー)
鬼本 昌樹 プロフィール写真

(きもと まさき)京都大学理学部宇宙物理学科、米国カリフォルニア州立大学ロングビーチ校基礎物理学卒業。米国TDC、日本オラクル、GEキャピタル、米国ニューバランスなどで人材開発、経営企画、人事執行役員を歴任。独立後、戦略的に“人材(材料)”を“人財(財産)”へと価値を高めるコンサルティングに取り組む。


堀井 悠氏( リ・カレント株式会社 人材組織開発プロデュース部 リーダー)
堀井 悠 プロフィール写真

(ほりい ひさし)慶應義塾大学卒業後、大手学習塾に入社。講師職にて高校・大学受験講義、また、講師人事にて採用、育成、評価に従事。その後、(株)リクルートライフスタイルにて広告営業、営業育成、新規事業の営業展開に従事。現在はリ・カレントにて、若年層の早期戦略化をテーマにマインド・スキル両面で変革を実践。


経営理念の浸透に欠かせない「共感」

主にアメリカ外資系企業の人事役員を歴任し、組織改革のチェンジリーダー育成や組織開発コンサルティングに従事している鬼本氏は、まず、経団連による企業行動憲章に関するアンケート結果を紹介した。

「『企業が持続可能な経済成長を実現するためには何が必要か』という質問に対して、最も多くの人があげたのが『行動規範・指針』。そして、ほぼ同率で二位になったのが『経営理念』です。これは3位以下に並ぶ『中長期経営計画』『経営戦略』『短期経営計画』にも影響します。実際にこのアンケートの報告には、『企業が継続的に成長を実現するためには経営理念が重要で、その経営理念を経営戦略と経営目標と計画に落とし込む必要がある』というコメントもありました。企業が持続可能な経済成長を実現するための組織を作ることが『組織開発』ですから、いかに『経営理念』が『組織開発』に重要かということが示されたアンケートだと思います」

組織開発のためには、「共感」を用いて経営理念を浸透させるというソフト的アプローチが大きな力を発揮する。鬼本氏は「共感」の重要性が顕著に分かる、三社の事例を紹介した。

講演写真

「一社目は日本の専門商社です。この商社では、縦割り、官僚的組織、コミュニケーション不足が課題となっていました。そこで、経営理念にそれを改善する文言を盛り込み、会社のホームページにも掲載。社長が毎年経営理念を伝えることで、改善を目指していました。

経営理念浸透を測るために、第三者機関による抜き打ち電話で経営理念を質問するアセスメントを実施したところ、結果は100点でした。しかし、その理由は人事が事前に1200名の従業員全員に対して名刺サイズに印刷した経営理念を配布したり、『こんなふうに答えてくださいね』と人事がアンチョコを配っていたりしたから。アセスメントの結果だけを見れば、理念の共有を実現できていたように見えますが、実際には浸透していなかったのです。その後も状況は改善されず、営業成績は次第に悪化していきました」

この商社に鬼本氏がコンサルティングに入ったところ、『経営理念の言葉は立派だが抽象的で理解できない』『経営理念には誰も興味を示していない』『経営理念の意味も必要性もわからない』といった社員たちの声が明らかになった。

「二社目はJALです。経営破綻後に稲盛和夫さんがリーダーシップを取りました。彼は経営理念を軸に、マネジメントではなくリーダーの育成を開始。全社員が年間を通して何度も経営理念を共有・共感する場を設けました。その後、JALは計画より早く再上場を果たします」

JALの組織が次々と改革されていく中で、鬼本氏は従業員たちから『破綻の原因は財務的な問題だと思っていたが違っていた』『会社が目指しているものが何かが理解できた』『経営理念の拠り所が腑に落ちた』といった声を聞いた。

「三社目はGEキャピタル。私が関わったのは売却される以前のことですが、非常に理念経営を非常に大切にする会社でした。同社では、理念を日々のマネジメントや、お客さまへの対応の中でも体現することを推奨し、表彰制度や事例集を通じて共有していました。研修では、正解よりも共感のあるリーダーシップ、WhatよりもWhyを大切にした問題意識を求めていました。また、採用の時点からパフォーマンスよりも価値観を重視して、GEキャピタルの価値観に合う人を選んでいたんです」

これら三つの事例から、「共感」を生むための「組織開発の原則」が見えた、と鬼本氏は言う。経営理念を元に、会社がより成長・発展・拡大していくコンテンツが作られる。それが、使命・役割・ビジョンに結びつけられ、経営戦略や具体的なアクションプランにひもづけられていく。それを実現するための人材像を明確に定義した上で、採用・育成・配置する人事戦略が考えられる。すなわち、経営理念には一貫性や整合性が求められる。これが「共感」に結びつき、やがて企業文化を形成していくという原則だ。

「専門商社の事例に戻ると、経営者の視点で作った経営理念が従業員の視点に落とされていない点に問題があります。JALの稲盛さんは経営理念を、経営者の視点から従業員の視点に翻訳し直しました。抽象的な表現から明快な表現に変えて一貫性や整合性を持たせたのです。人事の役割にも同じことがいえます。組織開発を現場に任せきってはいけません。経営戦略を現場に落とし込んでいくには、人事が経営の戦略的パートナーになる意識が不可欠。経営と現場を橋渡しして、「共感」を生むために経営理念を軸に据えて改革に取り組む姿勢が大切なのです」

「共感」ベースによる成功ケースの研究

次にリ・カレントの堀井氏が、ある高精度機器メーカーが行った「共感」による組織開発の事例を語った。この会社の創業者はカリスマ技術者で、世界唯一の技術を開発し急成長をけん引した。経営理念には「新しく役に立つものを創造・提案」することを掲げている。

「ところが、この会社で『人材流出』という危機が起きました。企業のトップ交代に伴い、大手企業が成功した制度を導入し、営業部マネジャーに大手企業出身者を起用。いわゆる拡大路線、合理化路線に舵を切ったことから、翌年営業部の半数以上が辞職。その翌年には大手企業出身の営業マネジャーも辞職。営業部以外の部署でも離職が相次ぎ、経営会議の議題となるほど、社内の雰囲気が悪くなってしまいました」

社長交代前に経営理念が浸透していた頃は、営業は顧客の要望に柔軟に対応していた。しかし、社長交代後は顧客を無視し、合理化による販売管理を重視するようになった。技術製造部門では、元々は営業から伝えられる顧客の要望に応じていたが、セクショナリズムが起きてあつれきが生じるようになった。「顧客の要望に答えることが新商品を生み、信頼を増す」という考えのもとで高められていた従業員のモチベーションも、ノルマへの疲弊や責任のなすりつけあいによって低下した。

講演写真

「ご相談を受け、私たちは徹底的に現状把握を行いました。すると、改善策は三点に収束されることが分かりました。一つ目は、社長と古参役員との関係性の改善。二つ目は、相次ぐ中堅社員の離職の防止。三つ目は、中堅社員のモチベーションの救済。これに向けて、次の三つのステップを実践しました。まずは現状の見える化。経営理念の形骸化が感じられたため、同じ言葉で現状を把握し認識することにしました。次のステップは腹割り対話。重要なのは当事者全員を集めて行うことです。言えない、聞けない、という人がいない状態にします。安心安全を作りながら腹割りを行うことは、弊社が得意とする施策の一つです。最後のステップは経営理念の腹落ち。個人の挑戦をみんなで支援し合います。これら三つのステップに共通して大事なことは、共感です。理屈だけではうまくいきません」

具体的には、最初の「見える化」のステップで、組織内と組織間の関係性が悪いことをテーマとした。以前はものづくりに熱いプライドを持っていたが、社長交代後には対話がなくなり「やって当たり前」「やるだけ損」という風潮に変わっていたことが可視化された。次のステップでは、課題の多い中堅社員に研修を実施。複数回のセッションを通じ、腹の内にある思いを全員で共有した。

「そこで話題に上がったのが、『ボーナスが低く、やる気が出ない』ことでした。しかし、ディスカッションを進めた結果、最終的に中堅社員たちが望んだボーナスの上積みは0円。『会社からありがとうの一言が欲しい。ボーナスはこのままで問題ない』という話に行き着いたのです。中堅社員たち自身がディスカッションを重ねて導き出された結論は、非常に意義深いものです。社長はこの言葉を聞いて、大いに反省したそうです」

このセッションの後、社内には変化が起きた。『経営理念の自分事化』が起こったのだ。中堅社員たちは、額縁に飾ってあるような理念を自分の視点で考え始めた。

「例えば、仕事の中で喜びを感じた瞬間を思い返し、その中で経営理念と通じるポイントを見つけます。すなわち、自分のモチベーションの原点と経営理念がマッチしたことを発見し、自分なりの言葉で経営理念を理解して腹落ちさせたのです」

会社としてもこの動きをサポートしようと、チャレンジの過程や習慣を評価する仕組みを設けた。経営理念の浸透が加速し、業績は回復。新工場が複数新設された。テレビや雑誌でも「成長力のある企業」「技術の高い企業」として取り上げられ、知名度アップという効果も得られたと堀井氏は振り返った。

社内で実践して成果の出た「共感」手法

最後に、リ・カレント代表取締役の石橋氏が、実際に自社内で実践している組織開発の事例を紹介した。

「弊社は創業11年目、社員40人、社外パートナー約200名。関連会社という組織を生かして、弊社内で常に制度や仕組みの実験を行い、成果と自信があるものをお客さまに提案するという姿勢を大切にしています。働くことを心から楽しむ社会に作り変えたいという意味を込めて、経営理念を『働楽社会の実現に貢献』に変更しましたが、これを浸透させるために六つの行動規範を作成しています。この行動規範も、社員とディスカッションしながら決めました」

行動規範の浸透、実践の検証、実践者の称賛のため、いくつかの仕組みを実施した。例えば、毎週始めに経営理念や行動規範を唱和。ユニークで口にしやすい言葉に変換して唱和し、全員が心理的に一致しやすくなる手法を取っている。また、実践できたこと、頑張ったことを一人数分ずつ話し、共感し合う場を設けているほか、互いに実践者や行動を推薦し合い、社員相互に評価してインセンティブ化する制度も導入。また、年に一度、楽しく働いた自分の流儀を一人10分ずつプレゼンテーションする機会や、既製のルールにとらわれない斬新な改善案についてディスカッションし、新商品やサービス開発につなげる機会なども設けているという。

「経営理念を軸におき、『共感』をベースとしたさまざまな制度や仕組みを社員から提案してもらい、トライアンドエラーを繰り返すうちに次第に経営理念が浸透していきました。おかげさまで、前年15~20%の売上の伸びを達成し続けています。弊社が実践し、実験実証して結果が出せているものをお客さまに提供することで、少しでも組織開発を進めている企業のお力になりたいと考えています」

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