学生とのエンゲージメント構築~年間5000人と話して分かった売り手市場攻略~
- 金 聡氏(株式会社フリークアウト・ホールディングス People Development Div. 新卒採用責任者)
- 中島 悠揮氏(株式会社Roots 代表取締役)
自社にとって最適な人材を採用するためには、「学生とのエンゲージメント構築」が成功のカギになるといわれている。最近の学生の動向に即した採用管理システムを開発・提供している株式会社Rootsの代表取締役・中島悠揮氏が、現場に即したエンゲージメント構築のためのノウハウを解説。同社のシステム「採用一括かんりくん」を導入して新卒採用に成功した株式会社フリークアウト・ホールディングスの新卒採用責任者・金聡氏が、実際にどのような採用を行なったのか、直近の事例を紹介した。
(きん さとる)1987年生まれ。大学卒業後、組織開発に特化した人材系コンサルティング企業に入社。その後、株式会社ドリコムにてデジタル広告の営業および組織開発、採用業務に従事。2016年株式会社フリークアウト(現株式会社フリークアウト・ホールディングス)入社。人事組織のマネジャーを経て現在は新卒採用責任者を務める。
(なかしま ゆうき)学情、楽天にて勤務し、学情では新人賞を、楽天では全従業員9,300人の中でMVPを獲得する。“ただ学生を企業に入社させるだけ”になりがちな現在の新卒市場のあり方に疑問を感じ、そうした市場を変えるべくRootsを設立。現在まで2万人以上の学生の就職活動と、約350社の企業の新卒採用を支援。
採用におけるエンゲージメントを高めるポイント
株式会社Roots代表・中島氏は約10年間、新卒採用に関わってきた経験を持つ。大手企業と中小企業での応募者の数や人材の違い、減少しない離職率の状況などをつぶさに見てきた。そんな状況を改善させたいと考え、2014年に立ち上げたのが同社である。事業の柱はHRテクノロジーと人材紹介。年間約5000人の学生が同社を訪れる。
「エンゲージメントという言葉は、マーケティング領域でよく使われていましたが、最近は社内におけるエンゲージメント、そして採用におけるエンゲージメントと、HR領域でも聞かれるようになりました。エンゲージメントが高まると、顧客満足度向上、売り上げ増加、離職率低下など、さまざまな効果が期待できることがデータからも証明されています。また、採用面では内定辞退の防止や、入社後の成長の高まりといった効果があります」
採用におけるエンゲージメントを高めるポイントは三つ。「他者への推奨」「勤労意欲の刺激」「コミュニティーの帰属意識」だ。
「他者への推奨は後輩への声がけです。例えば自分の大学の後輩に交流するグループ、いわゆる母集団形成を任せて、そこで自社について語ってもらうのです。自社による直接発信ではなく他者の言葉を通じたプレゼンテーションだと、受け止められ方が違います。勤労意欲の刺激では、インターンシップで働いてもらったり、内定者同士で競わせたりという場を作ります。コミュニティーの帰属意識では、SNSで社員とのグループをつくったり、懇親会などを開いたりします。当社でもSNSでの内定者フォローサービスを提供していますが、社員と学生がコミュニティーを形成した結果、内定辞退率を13.7%まで減少させることができました」
コミュニケーションの要(1):学生が求める「内容」
エンゲージメントを高める三つのポイントからも分かるように、行動機会の創出と密なコミュニケーションは欠かせない。ただし、学生が求めていない情報を伝えると、逆効果になる。そこで、コミュニケーションに関して重要な点を中島氏は二つ示した。
「内容、そして、対応スピードです。内容に関しては、学生が求めている情報をしっかり伝えること。自社の強みは伝えられても、弱みは伝えきれていない企業は少なくありません。ここに盲点があります。自社の情報が伝えきれていなければ、学生の志望度は上がりません」
中島氏は、学生が何を知りたいのかしっかり把握するために有効な質問として、以下の九つを紹介した。
- 「理想の人生において大切にしたい生き方は何ですか」
- 「会社を選ぶ基準三つとその理由は何ですか」
- 「他社の選考状況と志望度はいかがですか」
- 「弊社の魅力に感じるポイントは何ですか」
- 「学生生活のエピソードを教えてください」
- 「弊社に入社して何を実現させたいですか」
- 「弊社で働くにあたっての不安や懸念点は何ですか」
- 「就職活動について親御さんはどうお考えですか」
- 「弊社への入社意欲度は何点ですか」
「学生の答えに整合性が取れていない場合は、学生が本当に求めているものが何なのかを、一緒になって考えて導くように心がけてください。4・5では、本人にできるだけ語らせるよう心がけます。6では、ワクワク感を盛り上げるように耳を傾けてください。7では、出てきた不安を一つ一つ丁寧にフォローすれば大丈夫です。9は、答えが例えば80点であれば、残りの20点に必要なのは何かを引き出すように問いかけます」
売り手市場においては、学生の志望度をいかに戦略的に上げていくかという観点の有無で差がつく。そのためには、この九つの質問を通じて一人ひとりに合わせた戦略づくりが求められると中島氏は強調した。
コミュニケーションの要(2):学生に応じたスピード
二つ目のコミュニケーションの要はスピードだ。
「学生への連絡が遅れてしまうのは致命的です。学生にアンケートを取ったところ、入社意欲が下がる要因として『説明会の話が一方的』『9時以降の連絡』『上から目線で話をしてくる』『前の選考と同じ質問をされる』などさまざまな項目があげられましたが、最も多かったのは『連絡が遅い』でした。この結果からも分かるように、スピーディーな連絡を徹底すべきだと思います」
中島氏は、連絡手法ごとの開封率に関するデータも紹介した。郵送は65.2%、eメールは49.4%、就職情報サイトは21.6%。いずれも学生にうまく伝達されないという現状が示された。代わりに注目すべきなのが、最近の学生のコミュニケーションの中心となっているLINEだ。
「企業もこれを実感しているのか、90%以上がLINE導入を検討しています。おそらくこの数年でスタンダードになるのではないでしょうか。ただし、逆にLINEを嫌がる学生もいるため、LINEかeメールか、学生に選択させるようにした方がいいと思います。また、学生とコミュニケーションする際のハードルをできるだけ低くしてあげることも重要です。例えば、採用サイトのマイページにログインしなければメッセージを見られない状態などは、できるだけ避けたほうがいいでしょう」
以上のようなエンゲージメントを高めるポイントを満たすシステムが、同社が開発した「採用一括かんりくん」だ。応募者の状況から選考、結果分析など、採用活動に関する情報をすべて管理できるという採用管理システムで、現在400社ほどの企業が活用している。
「もちろん、ログインの必要はなく、LINEも活用できます。学生がスマートフォンで回答できるアンケート機能も付いているため、学生が求める情報をリアルタイムで知ることができ、情報発信に活かせます。過去のアクションは自動で保存されるので、学生に対して間違った対応をする心配もありません。選考フローは自由に設計できますし、どの選考フローにどんな学生が何人いるのか一目で把握できます。それぞれの学生に対するアクションはワンクリックで完了です」
LINEと連携しているため、送信はスピーディー。メールもクリック一つで送れる。学生にとってもLINE上で説明会が予約できるなど、便利な機能が充実している。
知名度の低さを乗り越え、採用に成功
次に、2012年に新卒採用をスタートした当時の知名度がほぼゼロだったという、フリークアウト・ホールディングスの金氏が登壇。最優秀層の採用に成功したという、同社の採用手法が語られた。
「弊社は2010年に創業し、広告テクノロジーを事業としています。本社は六本木にあり、大阪、福岡のほか、海外でも展開しています。知名度がなく歴史も浅いため、優秀な学生を採用するには工夫が必要でした」
まずは、「圧倒的なインパクト」を方針に掲げて採用活動を実施し、クチコミでの認知度アップを試みたと金氏は明かす。例えば、当時はまだ珍しかった、サマージョブ、インターンジョブといったジョブプログラムを実施し、印象に残るようなハードな体験の場を設けた。また、採用ターゲットの学生がフォローする著名人がシェアしてくれるようなコンテンツを配信。東大生や京大生が選考を受けたい企業の30位にランクインすることができた。
学生とのコミュニケーションの面では、当初はエクセルとスプレッドシートが中心だったが、新卒採用に特化した採用管理システムを導入。今年度からはRoots社のシステム「採用一括かんりくん」を使い、年間5000人のエントリー者に採用担当者2.5人で対応している。
「テクノロジーの進化によって、返事が届くまでに我慢できる時間が短くなってきました。生まれて初めて持つ機種がスマホという世代にとって、待つことは大きなストレス。eメールはもはや古いツールで、ログイン行為すら面倒がる感覚を持っています。そこで弊社の採用ページではログインを排除し、エントリーした人はすぐにマイページに移行できるようにしました」
「採用一括かんりくん」では、LINEエントリーか通常エントリーかを選べる。フリークアウト・ホールディングスでは、LINE上でのスタンプの使用もよしとした。これも、学生のハードルを下げ、コミュニケーションを促すためだ。現在、同社の全エントリー中LINE比率は25%。自主応募のLINE比率は60%にのぼる。エントリーから説明会参加までの歩留まりは、25%も改善されたという。
「採用担当者が学生とのコミュニケーションという重要な仕事にフォーカスするためには、システムを有効に活用することが大切です。システムを選ぶポイントは、機能改善だと思います。基本機能に大きな違いがなければ、システムの開発体制を重視すべきです。『採用一括かんりくん』もこの点から選定しました。10件以上のオーダーにもすぐに対応していただいたので、弊社にとってより使いやすいものになりました。採用の大きな力になったことは言うまでもありません」
学生との的確でスピーディーなコミュニケーションが実現されれば、エンゲージメントが高まる。システムを活用することで、少人数の採用体制であっても、大勢の学生と向き合うことが可能になるだろう。やり取りの手間が減る分、対面でのコミュニケーションにもより時間を割けるようになる。このような流れができれば、学生と企業の素晴らしい良い出会いが増えるに違いない、と語り中島氏はセッションを締めくくった。
[A-5]学生とのエンゲージメント構築~年間5000人と話して分かった売り手市場攻略~
[A]これからの「働き方」と人事の役割について考える
[B-4]競争が激化するグローバル市場で勝ち抜く人材とは
[B-5]「企業競争力」かつ「会社の魅力度」を高める「働き方改革」への意識変革とアプローチ
[B]従業員がポジティブに働ける組織をつくる
[C-5]理念浸透による組織開発~「仕組み先行型」から「共感ベース型」へ~
[C]人材不足時代の人材戦略
[D-5]戦略を描ける次世代経営リーダーの創り方 『絶対に押さえるべき4つのステップ』
[D]「日本的組織」の本質を考える
[E]人事もPDCAを回す時代へ データ活用の問題点と解決策を明らかにし、戦略的人事を実現する
[AW-2]「HRアワード2018」受賞者 事例発表会
[F]働き方改革、多様性、AI+IoTの時代に求められる「社内コミュニケーション」とは
[G]ビジネスで勝つための戦略人事 いま人事パーソンに求められるリーダーシップとは
[LM-1]成長企業に聞く! 若手社員にチャンスを与え、成長を促す方法とは
[H]パナソニックの事業・マネジメント変革に向けた1on1導入と現状
[I-5]障がい者が働く喜びを感じる就農モデル 『(株)九電工』とのトークセッションにて紐解く
[I]企業における最先端の「キャリア開発支援」 組織にとらわれず自分で育てるプロティアンキャリアとは
[J-5]仕事と介護の両立支援のいま~介護離職0に向けて、企業ができる事前対策とは~
[J]先進企業から学ぶ、社内でイノベーションを生み出すための「人材育成」のあり方とは?
[K-6]『第二人事部』構想で人事部門に変革を! ~コストセンターからバリューアップ部門へ~
[K]ホワイト企業だけが生き残る ~働き方改革のここだけでしか聞けない本音~
[SS-1]脳科学を働き方改革に活かす二つの視点 ~「健康経営」と「効率化」を実現するための自分目線の改革~
[L]新たなリーダーを育てる組織とは
[OSA-3]【不人気業界で母集団を10倍!】インターンシップの設計とSNSを使った新採用戦略
[OA]激変の時代に「組織」と「人材」はどうあるべきなのか
[OB]人事リーダーが「変革型リーダー」になるために
[OC]スポーツビジネスの事例に学ぶ働き方改革
[OD]いまなぜ「HRテクノロジー」なのか? 人事データの活用が戦略人事を実現する
[TB]HRテクノロジーとは何か? どのように活用できるのか?~これからの人事に求められる役割とは~
[TD]ちょっと待って HRテクノロジーを導入する前に ~リクルートと考える採用の3つの基本原則~
[TF]HRテクノロジーとデータ分析で変革する採用活動~より成果を出すために考えるべきこと~