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HRテクノロジーとは何か? なぜ今求められるのか?

<協賛:ワークデイ株式会社>
  • 大久保 幸夫氏(株式会社リクルート 専門役員 兼 リクルートワークス研究所 所長)
  • 野田 稔氏(明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
TECH DAYパネルセッション [TA]2018.06.25 掲載
ワークデイ株式会社講演写真

現在、その必要性が盛んに叫ばれている「HRテクノロジー」とは、そもそもどういうものなのか。なぜ今求められているのか。企業の人事部が抱えるさまざまな課題を、HRテクノロジーはどのように解決できるのか。人と組織に関する研究機関であるリクルートワークス研究所の所長・大久保幸夫氏と、組織論・経営戦略論などを専門とする明治大学専門職大学院の教授・野田稔氏が、いま注目されるHRテクノロジーの現状とその未来について語り合った。

プロフィール
大久保 幸夫氏( 株式会社リクルート 専門役員 兼 リクルートワークス研究所 所長)
大久保 幸夫 プロフィール写真

(おおくぼ ゆきお)1983年、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。人材総合サービス事業部企画室長の時に「リクナビ」「タウンワーク」などの立ち上げに関わる。地域活性事業部長などを経て1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010年~2012年 内閣府参与を兼任。2011年 専門役員就任。現在、厚生労働省労働政策審議会人材開発分科会委員、文部科学省中央教育審議会生涯学習分科会委員、一般社団法人産業ソーシャルワーカー協会理事、一般社団法人人材サービス産業協議会理事も務める。著書に『働き方改革 個を活かすマネジメント』(日本経済新聞出版社)など多数。


野田 稔氏( 明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
野田 稔 プロフィール写真

(のだ みのる)一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。大学院において学生の指導に当る一方、大手企業の経営コンサルティング実務にも注力。2013年に社会人材学舎を設立、ビジネスパーソンの能力発揮支援に取り組む。専門は組織論、組織開発論、人事・人材育成論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。


■オープニング・プレゼンテーション
「HRテクノロジーとは何か? なぜ今求められるのか?」

まず大久保氏がHRテクノロジーの歴史と現状を概観するプレゼンテーションを行った。

「『HRテクノロジー』という言葉がよく使われるようになったのは2000年ごろからですが、その歴史はもっと以前にさかのぼります。狭義のHRテクノロジーを大別すると、一つは採用実務に関するもの。もう一つは給与計算などに代表される、人事管理システムとして発達してきたものです」

人事の分野でシステム化(自動化)が盛んになったのは1980年代からだ。まず「雑務の山」といわれる採用オペレーションを効率化するシステムが生まれた。インターネットのない時代である。大量に届く資料請求ハガキに記入された情報を入力し、志望者をデータベース化していく。これが採用におけるもっとも初期のHRテクノロジーだ。その後、この分野は飛躍的な発展をとげ、今では最終面接までほとんど人が介在しなくてもすむほどの多彩なサービスが開発、提供されている。世界でリリースされている採用系のHRテクノロジーは昨年、およそ14万本にも達した。

もう一つが人事システム、いわゆる定型業務を効率化するためのテクノロジーだ。給与計算をはじめ勤怠管理、入退社管理、社会保険といった業務が次々とシステム化され、やがて意思決定やシミュレーションのような戦略人事システムへと発展していった。同時に、クライアントサーバー型からクラウド型までサービスの提供形態も非常に多岐にわたっている。

こうした「狭義のHRテクノロジー」は、いわば人事のためのテクノロジーといえる。しかし、現在は人事のみならず現場の従業員一人ひとりが使う「広義のHRテクノロジー」へと進化しつつあるのがポイントだという。

講演写真

「たとえば生産性、パフォーマンス向上のためのタスクマネジメントシステム。バイタルデータを収集して個人の心身を見守る健康管理システム。さらにAR、VRなどを駆使してOJTを効率的に行う学習支援、ラーニングマネジメントシステム。これらが代表的なものでしょう」

さらに広義に捉えると、HRテクノロジーは従業員の行動などのビッグデータを分析する「ピープルアナリティクス(職場の人間科学)」の領域へと拡大していく。人事とも密接に関係するが、もっと広く人や組織の課題を解決するテクノロジーへと進化しつつあるのだ。

しかし、こうした最新のHRテクノロジーも決して万能というわけではない。

「HRテクノロジーを使うことで生産性が上がるのかどうか、意見が分かれています。AIを導入した企業の生産性が低下した事例もあります。テクノロジーは導入までの問題共有と目標設定がしっかりしていないと、うまく機能しないのです」

本場といえる米国のHRテクノロジーに関するフォーラムでも、「テクノロジーを主語にしてものを考えるのは危険だ」と言われているという。新しいテクノロジーを知ると、多くの企業は「これで何ができるだろう」と問題を探す発想になってしまう。たしかにそのテクノロジーで解決できる問題は社内にある。しかし、それはコストをかけてまで解決しなければならない問題だろうか。

ここで大久保氏が紹介した二つの具体例は非常に興味深いものだった。一つは「おもしろそうなテクノロジーがあるから」と社内実験を行い、さまざまなデータを得ることができたが、結局そこで終わってしまったケース。もう一つは、きわめて切実な課題があり、それを解決するための手段として必要なテクノロジーを導入したケースだ。

「まず解決しなければいけない課題をしっかりと見極め、解決までのストーリーを組み立てる。その中でテクノロジーをどう活用していくかを考えることが重要です。同時にテクノロジー以外の施策とセットにしていくことも大切です」

講演写真

その上で今後は、人事にもテクノロジーに強くなることが間違いなく求められる。とりわけビッグデータを分析して施策に生かしていく統計学などの知識は、人事のコンピテンシーとしても重要になりつつある。

「今後、さらに求められるのは『HRインテリジェンス』の発想です。つまり、組織が戦略目標を達成するために、テクノロジーを駆使して人・組織に関するさまざまなデータを収集・分析し、それによって科学的な人材マネジメントを効率的に行う。その体系的なプロセスこそが人事の新しい役割になっていく、ということです」

従来の人事は主観や経験に頼り、「科学的」という要素が薄かった。そこを補完することがHRインテリジェンスの考え方なのだという。

「今後は人事のステークホルダーも広がっていきます。これまでは従業員と経営者のことを考えていればよかったけれど、今後はその先にいる家族や株主など、広範囲なステークホルダーに対して説明責任を果たさなければなりません。そこにもHRテクノロジーは使えるはずです」

健康的で生産性の高い働き方を実現する。個人の強みが最大限に発揮され、信頼感のある組織をつくる。そうした「温かさのある賢い人事」になるために、HRテクノロジーをどう活用していくのかが問われているのだ。

■ディスカッション

続いて、大久保氏と野田氏によるディスカッションが行われた。

1. HRテクノロジーが収集するデータにまつわる問題

講演写真

野田:今、大久保さんからHRテクノロジーは確かな目的を持ち、選択的に、体系的なプロセスを考えながら使われていくべきだというお話がありました。非常によくわかる内容でしたが、それでも人事としては、HRテクノロジーを導入する際にひっかかる部分もあると思います。まず取り上げたいのは、HRテクノロジーで収集する情報の問題。これだけ個人情報にセンシティブになっている時代に、ピープルアナリティクスの領域では従業員の位置情報から誰と何分会話したとか、どれだけ休憩していたとか、詳細なデータをとることになります。就業時間内のことだとしても、そこまでやるのは人権侵害ではないのか、という懸念もあります。

大久保:従業員としては一種の気持ち悪さを感じるでしょうね。ただ、そうしたデータを活用するのは人事ではなく現場、最終的には個人になっていくのが今の流れです。働いている従業員が「自分の生産性を上げたいから」という目的意識を持ってテクノロジーを活用するところまでもっていけるかどうか。解決したい課題があって、そのためにデータが必要なんだ、というストーリーがあれば納得できるのではないでしょうか。

野田:行動データを分析して個人のPDCAサイクルを回し、自分がより生産的になっていく。そういう自覚がないと単なる監視社会になってしまいますね。同じような倫理的問題として、バイタルデータ、健康に関するデータにも注意が必要でしょう。誰でも自分の身体や心のことをあまり他人に知られたくない。でも、個人に抱え込ませることでうつを発症するなどのリスクも現実にあります。

大久保:最終的には、個人が判断するために使うものにしていくべきだと思います。今日の自分の調子はどうなのか、まだできるのか、もう切り上げるべきなのか。逆にいうと、人事がこういったデータをすべて吸い上げる必要はない。人事は全体としての統計的な傾向さえわかればいい。

野田:HRテクノロジーというと人事が使うものと考えがちですが、現場が使う「人にまつわるテクノロジー」、ヒューマン・テクノロジー・サイエンスといった捉え方をしたほうがいい、ということですね。


2. 教育・トレーニング分野でのHRテクノロジーの活用

野田:今後、HRテクノロジーの活用が注目される分野の一つに、教育・トレーニングを挙げられていました。どのような事例がありますか。

大久保:アーンスト・アンド・ヤングが導入した、新入社員向けのテクノロジーはおもしろいと思いました。具体的には、入社したてで右も左もわからない新入社員の疑問に何でも答えてくれる「BOT」です。それに会社の主要な知識を全部入れて使わせました。最初の1ヵ月で、64万件もの質問に回答したそうです。先輩が忙しそうで聞きづらいときに、何でも答えてくれる。実際、BOTの導入で新入社員の多くが短期間で会社に適応できたようです。

野田:興味深いですね。一般的に新人の早期退職の大きな原因が「何も教えてくれない、助けてくれない」というもの。実際にはそうでなくても、本人がそう感じてしまうと退職要因になってしまいます。質問のハードルを下げることは、非常に大切ですね。これに似た実験結果は米国の大学でもありました。新入生の問い合わせ窓口をAIで代替できるかどうか試したところ、人間が回答するのとほとんど変わらなかった。むしろAIのほうが余計なことを言わないので、評判が良かったようです。

大久保:HRテクノロジーの応用は、OJTも非常に有望な分野です。今、働き方改革の影響で企業はOJTに割く時間を減らしています。現場におけるOJT支援ツールは、これからいろいろなものが出てくるでしょう。

講演写真

野田:私も、ある大手メーカーが開発したトレーニングアシスタントシステムを体験したことがあります。ヘッドアップディスプレイのような装置で、メガネになった部分に組み立て作業の手順が出る。それに沿って作業を進めると、熟練してない人でも無理なくできてしまう。もし変なところに手を伸ばしたりすると「Caution!」というサインまで出ます。おそらく、外国人労働者を意識しているのでしょうね。

大久保:外国人や高齢者、障がい者などに現場で働いてもらうダイバーシティ・インクルージョンの観点からも、テクノロジーは有効ですね。外国人なら言語、高齢者や障がい者なら体力など、さまざまなハードルがありますが、テクノロジーによってそれらを補完することは可能です。これから「インクルージョンツール」としてもっと発展していくと思います。

野田:人の名前がとっさに思い出せない時にサジェスチョンしてくれるテクノロジーがあればいいという話をしていたら、もう米国では開発されているそうです。メガネに仕込んだ小型カメラと顔認識技術、データベースを組み合わせたもの。まさに人間の能力をエンハンス(拡張)するテクノロジーです。


3. エンジニアの採用難

野田:AI技術者やデータサイエンティストの給与が高騰しています。社長よりも高年俸が必要だという話も。HRテクノロジー導入時のコストの問題をどう考えますか。

大久保:そもそも一般企業でそこまでハイエンドな人材が必要なのか、ということでしょうね。「科学者」のような人よりも、むしろ「優れたユーザー」のほうが求められているかもしれません。

野田:外部の専門企業をパートナーとしてうまく利用することも考えたほうがいいでしょうね。すべてを自社でやる必要はない。

大久保:そう思います。本来テクノロジーは使いやすくなければいけないもの。ニーズがあるとわかれば、あっという間に使いやすい製品やサービスが生まれます。HRテクノロジーは現場の個人が使う方向に進んでいますから、人事に所属するエンジニアの仕事は、専門知識のない人でも使いこなせるインフラとしてのテクノロジーを整備していくことが中心になると思います。


4. HRテクノロジーはイノベーションを起こせるか

大久保:現状でテクノロジーでの解決が難しいと考えられているのが「イノベーション」です。イノベーションはそれを起こすためのストーリーを描くこと自体が難しい。そのため、テクノロジーをどう使っていけばいいのかも見えにくい。

野田:イノベーションは人が起こすものです。その可能性を持ったタレントはどういう行動特性で、社内のどこにいるのか。それを知ることはテクノロジーで可能かもしれませんね。いわゆるタレントマネジメントです。

大久保:あるいはイノベーティブな仕事を進めるにはどういう顔ぶれをそろえるのがいいのか。これは組織論。そこであればテクノロジーを使える可能性は十分あります。

野田:昔は人事の中に、全社員をバックグラウンドまですべて把握しているデータベースのような人がいたものです。しかし、今はグローバル化でほぼ不可能になってしまいました。その結果、従業員を成果など一面的な価値だけでランクづけしたりしている。人材を再びホリスティック(全体的)に見るためには、テクノロジーに期待するしかないように思います。

大久保:今では、自社の候補になった人材のSNSを継続的に追跡するツールもあります。一見ストーカーのようですが、長期間にわたるSNSデータの解析ほど人間をホリスティックに見られるものはないでしょう。個人にとっても、本当に見せたい自分を見てもらえることになります。テクノロジーを使うとは、本来こういう「温かい人事」を実現するためのものだと思いますね。

野田:いろいろ話してきましたが、今日最も強調したかったのは「テクノロジーありき」でやるとうまくはいかない、ということです。また、テクノロジーだけで何とかするのではなく、人・制度・文化・組織開発など、さまざまなソリューションを組み合わせていくことの重要性。それらをトータルにコーディネートする存在が、これからますます大切になっていくのではないでしょうか。

大久保:その全体をプロデュースするのがまさにこれからの人事の仕事だと思います。

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本講演企業

未来にあるべき企業人事の姿を見据え、クラウド化による恩恵をユーザー企業が最大限享受できるよう開発されたクラウド型人事ソリューションWorkdayHCM(ヒューマン キャピタルマネジメント)」を提供しています。日産自動車や日立製作所、東京エレクトロンなど日本を代表するグローバル企業への導入も進んでいます。

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