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大手200社も導入した障がい者雇用の新しいカタチ 行政誘致も実現した就農モデル

  • 和田 一紀氏(株式会社エスプールプラス 社長 執行役員)
  • 大峯 礼子氏(株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント 総務・経理部 人事チーム マネージャー)
  • 渡海 努氏(株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント 人事チーム シニアHRスペシャリスト)
東京特別講演 [F-5]2018.06.25 掲載
株式会社エスプールプラス 講演写真

平成30年に精神障がい者の雇用が義務化され、民間企業の障がい者の法定雇用率は2.0%から2.2%へ。その3年以内には2.3%に引き上げられるため、採用増は急務だ。エスプールプラスは貸農園形式で仕事を生み、障がい者採用と農園運営の支援を行う。参画企業は200社を超え、行政誘致も実現。野菜販売は福利厚生やコミュニケーション活性化に一役買っている。就農による障がい者雇用の実態について、同社社長の和田氏が解説した。

プロフィール
和田 一紀氏( 株式会社エスプールプラス 社長 執行役員)
和田 一紀 プロフィール写真

(わだ かずのり)1996年(株)リクルート入社。新規事業立ち上げを経験。営業部門にて表彰を多数受賞。2006年米国のフリーペーパー企業へ副社長として経営参画(ハワイ在住)。業界No.1に押し上げ、ノーマライゼーションの精神を学ぶ。その後、当社会長と出会い『障がい者雇用×農業』に社会的意義を感じ、2011年創業期より参画。


大峯 礼子氏( 株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント 総務・経理部 人事チーム マネージャー)
大峯 礼子 プロフィール写真

(おおみね れいこ)英会話、パソコン販売業、住宅メーカーにて、人事制度及び研修の企画を中心に、人事業務全般を担う。2016年ジェイエイシーリクルートメントに入社。社員の健康増進に力を入れ、2018年2月ホワイト500の認定を得る。農園事業である「わくはぴチーム」マネージャー兼任。現在に至る。


渡海 努氏( 株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント 人事チーム シニアHRスペシャリスト)
渡海 努 プロフィール写真

(とかい つとむ)専門商社(法人営業)、機械メーカー(人事)を経て、2003年ジェイエイシーリクルートメントに入社。評価制度を中心とした人事諸制度の設計・運営、組織人事の管理・統計分析・施策立案等をメインに担当。2013年10月より障がい者雇用促進の一環である農園管理を兼務。現在に至る。


「日本人の5人に1人は障がい者本人か親」。しかし、働き方の選択肢は未だ少ない。

エスプールプラスは障がい者雇用のコンサルティング、 企業向け貸し農園「わーくはぴねす農園」の運営を行う。同社の親会社であるエスプールは雇用機会に恵まれない人たちの雇用創出をもとに事業展開しており、同社の事業もその延長線上といえる。和田氏が事業内容の詳細について語った。

「企業向けの貸農園を運営していると考えると、わかりやすいと思います。そのうえで障がい者の採用、定着支援までトータルにサポートしています。農園は千葉県に9ヵ所、愛知県に1ヵ所で、計10ヵ所。今年は3農園をオープンさせる予定です。また、行政との連携も行っており、2016年には愛知県豊明市からの誘致で、90名の障がい者雇用が生まれました。現在20の行政からお話しをいただいています」

同社の企業理念は「1人でも多くの障がい者雇用を創出し、社会に貢献する」。それもただの雇用ではなく、1人でも多くの「納税者」を創出することが目標だ。福祉作業所の給与は月1万5000円程度だが、同社の農園は納税義務がある月10万円を目指している。これに障がい者年金が加われば計16万円ほどになり、自立して生活することも可能だ。

「現在の障がい者数は身体障がい者が約394万人、精神障がい者が約392万人、知的障がい者が約74万人で計860万人。単純にその両親までを含めて計算すると2580万人になります。日本の人口の5人に1人は障がい者かその親であり、それほどに身近な問題ということです。しかし、民間企業に雇用されている障がい者は38万人で、全体の4.4%。急いで増やさなければいけません」

障がい者雇用に関する法律の改正では、平成30年に精神障がい者の雇用が義務化され、民間企業の法定雇用率は2.0%から2.2%へ、その3年以内には2.3%に引き上げられる。雇用を増やさなければならないが、実はこのところ障がい者雇用は難易度が増している。

「身体障がい者の7割は65歳以上です。寝たきりの方などを考慮し、就業中の人を除くと、採用活動対象者は全国で10万人ほどと推測されます。それに対して雇用義務企業は9万1000社ありますから、人の取り合いになってしまいます。では精神障がい者はどうかというと、離職率が高く、なかなかフルタイムで働けません。知的障がい者の場合、軽度の方は人気で採用が困難。重度の方は適職を創出するのが困難。簡単に採用を増やせない状況にあるのです」

講演写真

同社が提唱する雇用支援のスタイルは、企業へ農園を貸し出し、企業が障がい者雇用を生み出す就農モデルだ。作業の危険度が考慮され、農園では土ではなく軽石が代わりに使われている。

「知的障がい者が7割ほど働いており、土では作業の危険度が増すため、耕運機や鍬が不要な軽石を使います。共同農園なのでハード面はすでに用意されており、企業は施設の賃料を払う感覚で使え、費用も安く抑えられます。企業の担当者は週に1回程度農園に顔を出して、障がい者のフォローを行っています」

これまで農園運営には200社が参画し、1025名の雇用が実現した。就業者の内訳は知的障がい者が71%、精神障がい者が22%、身体障がい者が7%。定着率はこの7年間の実績で95%と驚異的な数字だ。そのうえ、つくられた作物が社内のコミュニケーションの活性化にもつながっている。

「農園でできる野菜は40種ほど。きれいに梱包され、多くは福利厚生として社員への販売、配布が行われています。野菜を受け取った社員は感謝のメッセージを送ったり、買った野菜を使った料理写真を届けたり。これが障がい者のモチベーションアップにつながり、定着率の向上につながっています」

運営事例 ジェイエイシーリクルートメント:
仕事を休まず、楽しく働ける環境をつくる

続いて、実際に農園を運営するジェイエイシーリクルートメントの大峯氏が登壇。そのきっかけや苦心点について語った。同社は人材紹介業を行い、国内9拠点、海外17拠点で社員数は現在900名。農園を「JACわくはぴファーム」と名付け、2013年に市原第1で運営をスタート。2016年に市原第2、2018年に柏第2も加わり、現在3農園を運営する。

「障がい者雇用では、就業機会と職場環境を提供することを第一に考えています。単純な作業ではなく、仕事を通じて自己実現を図ってほしい。ただ、営業職での採用は難しいため、これまではバックオフィスで事務職を中心に採用していました。そのため、自社のオフィス環境でも受け入れられる身体障がい者、精神障がい者が中心でした」

しかし、これまでの障がい者雇用には多くの課題があった。人はなかなか定着せず、入れ替わりは激しい。社員数が増えると、法定雇用率の充足が難しい。そして、教える側の負担の大きさも問題だった。

「働いたことがない人には、企業の常識から教えなければいけません。どこまで強く言っていいのか、現場で悩みました。障がい者からも相談があるのですが、こちらも初めてでなかなか対応できないこともありました」

そこで、まとまった人数を採用でき、いきいきと働くことができる農園を運営することになったわけだが、どのような体制で運営しているのか。

「総務・経理部の中に『わくはぴチーム』をつくり、人事チームも兼務して管理を行っています。日常の運営は農場長が行い、トラブル時は本社で対応。始業時と終業時にはメール報告してもらっています。運営は、至れり尽くせりにしないことを心がけています。自由もあるが規律も設けます。その中で、毎日楽しく仕事を続けられるようにするのです。休まないようにすることが一番大事だと思います。そして成果は問わない。働いて給与を得る喜びを感じてもらうことに、価値を置いています」

講演写真

収穫した野菜は社員全員にメールで知らせ、即売会を開いて一つ50円で販売。行列ができるほどの人気ですぐに完売するという。売り上げは備品購入に充てている。わくはぴファームの活動はコーポレートサイトや社内イントラ上で写真付きで紹介している。

「社員の声は、スタッフが直接障がい者にフィードバックしています。みんながその反響を喜んでいて、仕事のやりがいになっているようです」

トークセッション:「農園導入の決め手は何だったのか」

和田:農園を導入される前は、障がい者雇用でどんな課題があったのでしょうか。

大峯:身体障がい者の方を事務職で採用するときは、オフィス環境が問題になりました。ドアが引き戸ではなく、セキュリティカードを読み取る位置が車いすの方には高かった。そのため、内部疾患や免疫不全の方の採用が多くなっていました。

和田:賃貸のビルでは、対応が難しい面がありますね。農園導入の決め手になったポイントは何ですか。

大峯:以前は人の入れ替わりが激しかったこともあり、事務職として楽しく働いてもらえているのかが常に不安でした。農園を見て、まとまった人数が採用できる上に、障がい者の皆さんがいきいきと働いている姿に大変魅力を感じました。当社の理念とエスプールプラスさんの理念で呼応する点もあり、導入を決めました。

和田:現在3農園を運営されていますが、運営状況はいかがですか。

大峯:2名の社員で担当を分けて運営しています。市原は4年半経って農場長も慣れてきているので、新しい社員で管理できますが、柏は今年始めたばかりでまだ不慣れなので、コミュニケーションを取るところから始めています。本社でも、支援している状況です。

和田:農園運営を始めた際には、どのような苦労がありましたか。

渡海:市原での立ち上げのときは、私も初めてでエスプールプラスさんにいろいろ教えていただきました。普段気を付けるのは、障がい者のケアよりもむしろ農場長のケアです。普段ケアしてくれるのが農場長なので、日々の始業と終業の連絡時と農園を訪問した際に、何か問題がないかを聞いています。

講演写真

和田:このスキームは世の中に私たちしかないので、始めた当初は正直、私たちにもノウハウがありませんでした。クライアントさんと一緒につくりあげてきた結果が今の形になったと思います。今日の話から「農園運営は簡単そう」と思われた方もあるかもしれませんが、現場のケアはとても重要です。農園の管理者にはシルバーの方を中心に雇用を進めたのですが、シルバーの方同士のトラブルも発生しています。本社のほうでフォローしてもらうこともありますね。他に苦労されたことはありましたか。

渡海:共同農園なので、いろいろな会社の方が働いています。そこでは相性が合わないといった問題も生まれます。そんなときは障がい者のご両親や出身の福祉機関、エスプールさんと相談しながら対応しています。

和田:私たちも定着支援として、出身の福祉機関と連絡をとり、企業との間に入ってフォローするようにしています。続いて、野菜販売の反響について教えてください。

渡海:収穫した野菜は翌日に本社や支店に届けてもらい、社内で即売会を開いています。その新鮮さや、一袋50円という安さもあり、大好評であっという間に完売します。社員の家族の方からは「次にキャベツはつくらないの?」などと要望が来ることもあるなど、社員同士でのコミュニケーションも活性化。社内の風通しのよさにも一役買っています。

和田:コミュニケーションの活性化は、どの利用企業からもうかがいます。暑い日も寒い日も頑張って世話した野菜が手元に届くので、その頑張りを社員も実感できますね。実際に体験するとわかりますが、大変ハートフルな雰囲気が社内に生まれているのは、大変誇れることだと思っています。ところで、障がい者の方からはどんな感想が聞かれますか。

渡海:なるべく社内の反響や声をリアルタイムにフィードバックするようにしているのですが、大変喜んでくれますね。この3月に入社した方の言葉で、印象に残っているものがあります。「朝起きて農園に行くのが楽しくてしようがない。みんなと一緒に働けることがうれしい」と。それを聞いて、仲間たちも大変喜んでいました。

和田:本日は参考となるお話をありがとうございました。

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