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人事が解決すべき「日本企業の問題点」――人事が考え、行動すべきこと

<協賛:ワークデイ株式会社>
  • 八木 洋介氏(株式会社people first 代表取締役/株式会社ICMG 取締役)
  • 米倉 誠一郎氏(法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授/一橋大学イノベーション研究センター 特任教授)
東京パネルセッション [C]2018.06.25 掲載
ワークデイ株式会社講演写真

日本企業は、ビジネスモデルや生産性、IT分野など、さまざまな領域で海外から後れを取っている。各国がGDPを伸ばしていく中、日本はこの20年成長が停滞しているが、人事にはその責任があると、八木氏と米倉氏は言う。いま人事は何を考え、どう行動すべきなのか。国内外のさまざまな事例を交えながら、日本企業の問題点をあぶりだし、変化のために必要な考え方を議論した。

プロフィール
八木 洋介氏( 株式会社people first 代表取締役/株式会社ICMG 取締役)
八木 洋介 プロフィール写真

(やぎ ようすけ)1955年京都府生まれ。1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。主に人事などを担当した後、National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、Healthcare Asia、Money Asia、GE Japanにおいて人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長 兼 株式会社LIXIL 取締役副社長 執行役員に就任。CHRO(最高人事責任者)を務め、同社の変革を実践。グローバル化、リーダーの育成、ダイバーシティの促進など、戦略的人事を推進した。2017年に独立し、現職。著書に『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』(光文社新書、共著)がある。


米倉 誠一郎氏( 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授/一橋大学イノベーション研究センター 特任教授)
米倉 誠一郎 プロフィール写真

(よねくら せいいちろう)1981年、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了後、ハーバード大学にてPh.D.(歴史学)を取得。1997 年〜2017年一橋大学イノベーション研究センター教授。1999年~2001年、2008年~2012年3月同センター長。2012年3月よりプレトリア大学ビジネススクール (GIBS) 日本研究センター所長を兼務。2017年4月より法政大学教授。現在、法政大学の他に、Japan-Somaliland Open University 学長も務め、2001年より『一橋ビジネスレビュー』編集委員長を兼任している。イノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセス、組織の史的研究を専門とし、多くの経営者から熱い支持を受けている。著書は、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)、『脱カリスマ時代のリーダー論』(NTT出版)、『経営革命の構造』(岩波新書)、『2枚目の名刺 未来を変える働き方』(講談社)『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)など多数。


八木氏によるプレゼンテーション:800万人の従順な“おっさん”だけではもう勝てない

「皆さん、働き方改革を推進しなければと、残業時間を取り締まったりテレワークを導入したりしていませんか?」そんな問いかけから、八木氏のプレゼンテーションは始まった。八木氏は、20時にPCを強制シャットダウンするような施策は全く本質ではない、と言う。

「働き方改革の本質は生産性の向上です。日本とアメリカの労働時間と一人あたりのGDPを比べてみると、働いている時間はほとんど同じなのに、アウトプットはアメリカの方が4割以上多い。ドイツは年間の労働時間が日本より45日分短いのに、アウトプットは2割多い。日本はアメリカやドイツより明らかに生産性が低い、ということです」

八木氏はその原因をいくつか挙げた。まずは、出来の悪い上司と真面目な部下の組み合わせ。采配が悪いのに部下が頑張ってしまうことで、生産性の悪さを加速させるという。また、グローバルにおける権限の少なさも問題点の一つ。海外での商談では、そこにいる人の多くが権限を持っていて、その場でいろいろなことを決められる。しかし日本企業は「本社の了解を取る」と言って、持ち帰ってしまう。そして、八木氏がもっとも危惧しているのが人事だ。人事がルールや制度に縛られすぎていることで、イノベーションや変革を阻んでいる。顧客や社員の声を聞くことがこれまでは良しとされてきたが、顧客がイノベーティブな商品を知っているわけではなく、社員は既得権を失う変革には反対する。社員の声を聞かない人事が必要になるシーンもあるのだ。

「日本が元気だった大量生産の時代は、フォロワーの時代。フォロワーが規律正しく統制がとれていることに価値がありました。しかし、現在は社会がどんどん変化しています。それなのに、依然としてこの価値観は根強く残ったままです。良いリーダーが育っていないから、『日本人は部下にしかなれない』と揶揄されてしまう」

デザイン思考がさまざまな分野で注目されているが、人事にもデザイン思考を取り入れていき、変化に対するハードルを積極的に下げ、ダイバーシティを推進していかなければならないと八木氏は言う。

「現在の日本の労働者は約6400万人。そのうち42歳~54歳くらいまでの“おっさん”が約800万人。日本の社会を支えていると思われている“おっさん”は、実はたったの8分の1なんです。このたった800万人だけで、果たして世界に立ち向かえるでしょうか。私は無理だと思います。女性を活用しようにも、日本のジェンダーギャップ指数は144ヵ国中114位。男性も女性も関係なく、一番良いリーダーを上に据えることを自然に行っていかなければなりません」

ダイバーシティは世界の当たり前で、迷うことのない経営課題なのに、日本では相変わらず女性登用は世界最低レベルなのだ。

講演写真

続いて八木氏は、人事にありがちで不思議な習慣を提示した。定期異動に定期昇給、春闘に年功序列……。これらの文化が根付いてしまっていて、パラダイムシフトが起こっているのに過去の延長線上で継続性の人事を行い、戦えない組織を生み出している。実力主義や職能資格制度ではなく、ポジションで人事を決めていく「職務主義」を導入していくべきだと八木氏は語った。

「同じ能力があるのだから、課長に上げてあげなければかわいそうだ。これが職能資格制度の背景にある考え方です。しかし、皆さんの会社では、かわいそうだからといって社長を二人作ったりはしませんよね。ポジションにふさわしい人間をきちんと選んでいるはず。これだけで日本の人事はずいぶん良くなるのではないかと考えています」

これまでは、協調や滅私奉公、報連相の時代だった。しかしこれからは、任せて、信じて、自分から動かしていく時代。そして、優秀な人材だけではなく、考え抜かれた人事・組織がますます重要になる。「人と組織で最高のパフォーマンスを出す」。そんな人事を目指していきたいという言葉で、八木氏のプレゼンテーションは締めくくられた。

米倉氏によるプレゼンテーション:日本にはリスクを厭わないリーダーが必要

1995年に一人当たりの名目GDPが世界3位だった日本は、今や25位にまで下落。主要国と比較しても、この20年間全く成長していないのは日本だけ。人を投入して成果を出すことが仕事であるはずの人事部の責任は重い、と米倉氏は警鐘を鳴らす。

「今、勢いのあるソニー。昨年の営業利益は1998年以来の最高益で、7127億円でした。7000億なんて大したもんだと思いましたが、ちょっと隣に目を向けてみると、サムソンは5兆4200億円、アップルは6兆,4000億円です。売上ではなく、利益ですよ。国内有数の成長企業でも、世界規模で見るとかすんでしまうのが日本の現状なんです」

成果が上がらないのであれば、方法を変えなければならない。ここで米倉氏はGEの例を挙げた。前CEOのジェフリー・イメルト氏には、米倉氏をうならせた言葉があるという。

「顧客から『GEのエンジンは高い』と文句を言われると、GEは『どうぞ他に行ってください』と言います。『私たちはエンジンを売っているのではなく、顧客の利益最大化を売っているので』と言うんですね。また、スペースXのロケットが爆発したとき、僕が『やはり新興企業にインフラ事業は難しかったですかね』とイメルト氏にたずねると、『何を言っているんだ。大事なのは、早く始めたこと。誰より早く失敗し、誰より早く学んで、誰より早く成長する。それがテーゼなのだから』と言われました。これにはしびれましたね」

講演写真

シリコンバレーでは、誰もが「Fail early, fail often.(早く、何度も失敗しろ)」というマインドを持っているという。最も大切なのは、課題を見つけること。課題さえ見つかれば、解決法はある。クライアント自身も気付いていない課題を、一緒に探して定義付ける。そして、定義付けたらすぐに行動する。このサイクルをスピーディーに回すことができ、リスクを厭わないリーダーが今の日本にも必要だという。

「破壊的なイノベーションを起こすザッカーバーグのような人物は、一見何食わぬ顔でやってくる。でも、スピードや大胆さがすごい。彼らに勝つには、答えは一つ。僕たちにはリソースがあるのだから、早くスタートし、早く失敗し、早く学び、早く成長することです」

ディスカッション:変革は実は簡単。変な制度をやめるだけ

米倉:初任給40万円と聞くと、日本では高い印象を受けますが、中国のIT企業では当然の金額です。新しいことに挑戦しようとするとき、日本の給与水準では戦えない。価値を生み出す人間がいても、平等主義の名のもとに低賃金を強いていることは問題だと思います。

八木:変わるときに、いきなり100点を目指してしまうから動けないんだと思います。以前私はLIXILにいましたが、競合のTOTOは素晴らしい企業でした。国内5社を統合し、グローバルに打って出ようとしていたLIXILは0点からのスタートだった。私はTOTO を含め、ほとんどの会社は10点程度だとという感覚でいました。そこで「100点はとれないけれど10点以上をとれば業界大手に勝てるぞ」と、1点1点、加点方式でやっていきました。また、皆さんの会社には、ややこしい制度がたくさんあると思います。制度を作るのは難しい。でも、それをやめてしまうのは簡単なことです。だから、新しいものを作る必要はなく、今ある変なものをやめてしまえばいいのです。これが変革のファーストステップで、実は簡単なことなのです。

米倉:それなら私の周りにもありますね。教授会で「トイレの防犯カメラをどうするか」という議論はやめた方がいい。そういうことを教授会のオーソリティのもとで決定しなければいけないと思っている人がいることに、ため息が出ます。

講演写真

八木:小さな「変」はそこら中にありますよね。ポジションが空いてから誰を選ぶか議論をすればいいのに、「次はこの同期の中から誰を管理職にするか」で議論を始めるから、ポジションが氾濫してしまう。

米倉:以前、ある企業の方がこんなことをおっしゃっていました。「業績では昇進させない。その代わり給料できちんとまかなう」と。稼げても人格が悪い人を管理職にしてしまっては、部下が苦しむ。変な平等主義のもとに犠牲者が出てしまわないために、勇気を持って役職は与えないという話を聞きました。

八木:先ほど初任給の話がありましたが、この春に大学院を卒業して米国Googleに入社した日本人AI技術者の年俸は3000万円だそうです。日本の初任給は400万円以下。勝てるわけがありませんね。

米倉:それはすごいですね。初任給もわざわざ横並びにせず、自由につけたらおもしろいと思いますね。

八木:勉強をものすごく熱心にやってきた学生とそうではない学生、世界大会レベルのスポーツ経験者と草野球チームでは、市場的な価値が違うはず。それなのに、新卒入社というだけで同じ金額を払うのは、逆に平等ではないと思います。いろいろな人がいて、ダイバーシティの中で新しいものを生んでいきたいのであれば、協調性ばかりを重視している場合ではありません。

米倉:ある小学校の運動会の徒競走で、ゴールするときに皆で手をつないで全員を1位にしていたことがありましたね。全員を1位にするのなら、国語や算数のテストだって全員100点にしなければおかしい。歌がうまいとか、掃除が丁寧、足が速いというのは、それぞれ大切な個性のはずです。日本の就職の価値観が画一的なのは、尺度が「偏差値」だけになっているからだと思います。

八木:今は明らかにパラダイムシフトを起こしていて、変化とイノベーションの時代。それを邪魔するような制度や仕組みはどんどん壊していかなければいけない。新しいものを無理して作ろうとする必要はありません。年長者が上に立つのではなく、年長者も若手も、男性も女性も、日本人もそうでない人も、いろいろな人を競わせて一番戦力になる人が一番いいポジションに就くのが健全です。

米倉:人事はただ人を選ぶのではなく、裁量権をラインに落とし込んでいき、本当の平等が行きわたった風土作りをサポートすること。それが人事の役割として大事ですね。

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