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「組織変革を成功させる原理原則」~組織の活性のために人事部門が今すべき事とは~

  • 松井 義治氏(HPOクリエーション株式会社 代表取締役)
東京特別講演 [H-1]2018.06.25 掲載
HPOクリエーション株式会社講演写真

企業を取り巻く社会の変化、社内の指針や戦略の変化などに対応していくために、組織改革は欠かせない。組織変革の7割は失敗するという高い数字が語られているが、成功させるための原理原則が存在することも確かである。人材育成と組織変革のプロフェショナル集団として、グローバルで通用する個別能力の強化から経営や組織の改革まで幅広くサポートするHPOクリエーションの代表取締役・松井義治氏が、数々の経験と実績に基づいた組織変革成功のためのノウハウを体系的に紹介した。

プロフィール
松井 義治氏( HPOクリエーション株式会社 代表取締役)
松井 義治 プロフィール写真

(まつい よしはる)業績強化、グローバルリーダー育成、組織文化の強化などにより高業績組織創りを支援する変革ファシリテーター。米系大学にてリーダー開発・組織開発を教授。前職ではP&Gなど大手外資系企業4社において前半はマーケティング部門でビジネス構築、後半は人事や北東アジア組織&人材開発の責任者として組織力強化に貢献。


五つの役割領域で四つの視点を持つ

HPOクリエーションの「HPO」は、ハイ・パフォーマンス・オーガニゼーションの頭文字を意味する。大手欧米企業の間で進められたHPOの開発・研究・導入を、アジア地区で推進してきたのが同社である。外資系企業やグローバル展開する企業で、組織変革、経営革新、人事制度変革、リーダー育成、グローバルビジネススキル育成などに携わってきた数々の実績を持ち、即効力と持続力のある変革手法を特徴としている。

組織変革にはさまざまな手法があるが、成功させるためにはまず、原理原則を把握することが近道になるという。松井氏が骨子を一つひとつ解説した。

「人事部門には五つの役割領域があります。採用、人材開発、業績管理、給与/トータル・リウォード、エンゲージメントです。例えば、イノベーションという組織戦略があれば、人事戦略としてもイノベーションができる人材、組織づくりへと舵を切ることになります。すると、五つの役割領域ではそれぞれ、イノベーションを起こす人材採用、イノベーションが進む人材育成、イノベーションを促し伸ばすための施策、イノベーションを動機付ける報酬システム、イノベーションを加速させる方針、といったテーマにフォーカスをするわけです」

自分の組織の現状を見たとき、五つの領域の中で特に注力すべきはどこなのか。優先順位をつけて取り組んでいくことが重要だと松井氏は言う。

「人事部には四つの視点があると言えます。『アドミニストレーション・エキスパート』は、どうすれば制度・プログラム・ポリシーをきちんと社員が使えるかを考えるという、制度運用のプロ視点です。『エンプロイー・アドボケート』は、いかに従業員をしっかりと理解して守るかを考えるという、擁護者の視点です。『チェンジ・エージェント』は、どう施策を推進するのかを考えるという、変革推進者の視点です。『ビジネス・パートナー』は、どれくらい経営陣や各事業部に対して戦略実行の支援ができるかを考えるという、戦略的同胞の視点です」

人事部門の五つの役割領域それぞれにおいて、四つの視点を持って人材開発と組織変革を考えることは欠かせない。変化を持続させるためには、一つの視点に偏らないような活動のバランスが必要とされるからである。例えば各種制度を担当している場合、従業員の利用のしやすさだけではなく、組織としての戦略遂行のために制度面からどんな工夫ができるのかを考えると、よりスムーズに制度運用も進んでいく。

講演写真

組織変革の度合いを高める要素・要因

過去の変革を振り返り「失敗した原因は何か」と阻害要因を分析しておくことは、次の変革に向けての課題にもなる。阻害要因には主に、「経営陣の支援不足」「社員の抵抗」「チェンジマネジメントのリソース不足」「変革チームの能力不足」「中間管理職の抵抗」が挙げられる。逆に、変革のために必要な要因は何か。松井氏は一つの公式、「C=M×V×P×A」を示す。

「Cはチェンジ、変革の度合いのことです。Mはモチベーション、気持ちがないと何も始まりません。変革したい気持ちをどれだけ早く醸成するかに成功はかかっています。Vはビジョン、何を達成したいのか、なぜそれが重要なのか。変革に携わる人に明確に伝えなければ推進は難しい。Pはプロセス、どんな流れで進んでいくのか。変革について理解ができても、方法が分からなければ不安になり、なかなか前に踏み出せません。Aはアビリティ、個々の変革に関わる能力です。

M、V、P、Aにそれぞれ五段階評価をつけてみてください。すると、『早めにモチベーションを高めておこう』『ビジョンのすり合わせを進めよう』『一番確実に進むプロセスを組んでみよう』『能力を強化させるワークショップを変革と同時に取り入れよう』といった注力すべき点も見えてきます」

昨今話題になっている労働生産性を組織変革によって高めることは、一つの重要なポイントともなる。労働生産性はエンゲージメントに比例するという相関関係が、ギャラップ社の調査結果によって明らかになり、エンゲージメントを高めるための重要な要素もまとめられていると、松井氏は紹介した。

「要素は四つです。まずは『メンバーの関係性』。会社の中に本音を話せる人がいるか、目配り気配りするケアがあるかを意味します。二つ目は『自らの成長』。成長実感があるかどうか。三つ目は『自律性』。自分で発案、決定、実行、達成していく流れができているか、ということです。最後は『意義』。自分の仕事に意義を感じるか。つまり、こんな役に立っていると思えるような仕事ができているかどうかを指します。この四つの要素が高いほどエンゲージメントは高まり、労働生産性も高くなります。人事部の施策が正しく回っていれば、これらの要素は確実に満たされますし、組織変革の推進にもプラスに作用します」

講演写真

続いて、業績を強化させるための基本要因に着目した「組織変革を進めるアプローチ」が紹介された。人間は組織文化によって考え方や見方が変わるものだが、業績は組織文化の影響を受けるため、組織文化を変えれば業績は上げられる。組織文化は基本要因と相関性があると松井氏は言う。

「組織文化を変えるためには、まずは『戦略』が起点になります。戦略は、『ミッション、ビジョン、バリュー』に基づきますが、これらには経営陣の『リーダーシップ』が影響し、『メンバーのマインド・能力』にも波及します。それらが実践できるような『職場内のしくみと環境』は不可欠。基本要因の間には、このような関係性があります。そこで、最終的に組織文化を変えるための課題が、『戦略』『ミッション、ビジョン、バリュー』『リーダーシップ』『メンバーのマインド・能力』『職場内のしくみと環境』といった基本要因のどこにあるのか、どこが弱いのかを考えて、着手すべきポイントを探ると組織変革が進めやすくなります」

成功率を高める五つの原則と五つの流れ

組織変革の理論はさまざまだが、どれにも共通する成功のための基本原則が五つあると松井氏は言う。

「一つ目は、ありたい姿に焦点を当てる。最終的に目指す姿を明確にします。同時に、企業戦略のどの部分を担うために人事部門の改革を行うのかを理解しておくことも必要です。二つ目は、リーダーの率先垂範。リーダーが自ら、新たな組織文化と一貫性のある考え方と言動を取るようにしなければ変革は広がりません。三つ目は、メンバーの巻き込み。『制度ができたから実行しよう』ではなく、気持ちが入った上で実行できるように促すことが大事です。四つ目は、包括的なしくみの強化・構築。全部のしくみを一気に変えることは困難ですから、きちんと優先順位をつけて着手すると良いと思います。五つ目は、データに基づく進捗管理。意識や行動が伴って継続していくためには、進捗状況が把握できるような指標は欠かせません」

五つの基本原則に則り組織変革をするにあたって、五つの基本的な流れをふまえると、確実性も増すという。

(1)事前の組織診断。社員意識調査等により、組織の現状をしっかり把握する。できれば毎年実施する。(2)ありたい組織像とリーダーのコミットメントの確立。どんな組織を目指したのか、どんな言葉や行動が出てくるような組織にしたいのかを明確にし、それをリーダーから始める。(3)改革計画の作成」。達成するための戦略・主要計画を作る。(4)計画の実行としくみの構築。実行を始めても元の状態に戻らないような歯止めとなる制度やプロセスを作り込む。(5)振り返りと計画の強化」。実行できていない部分を確認し、そこを強化するための施策を考え、再び実行する。この流れは、フェーズに分けて図式化しチェックすると成功確率がより高まると、松井氏は補足する。

「以上のような基本を押さえた上で、それぞれの企業の状況に応じたコンテンツを提供し、これまで数多くの企業で変革のお手伝いをしてきました。例えば、営業部門が買収された企業における信頼関係の構築と今後の方針や主要計画とプロセスの合意・実行を目的としたプログラム。また、社員のモチベーションが下がっていた企業でのエンゲージメント向上を目的としたプログラム。同じく、社員のモチベーションが低下した企業における中間管理職に着目し、リーダーシップ改善によるエンゲージメント向上を目的としたプログラムなど。いずれも、数値化されたデータによりプログラム前後を比較すると、明らかな成果が得られています」

最後に松井氏は、人事部門において組織変革を推進し成功するための六つのヒントを提示した。

「一つ目は、現状分析。組織診断をしっかり読み解くことです。二つ目は、早期巻き込み。原則は経営陣からですが、それが困難な場合は意識の高い階層から始めてください。三つ目は、周到な準備。急な変革は難しいため、綿密な計画を立てましょう。四つ目は、十二分なコミュニケーション。一方通行ではなくて双方向に行い、腹落ちするまで何回も議論を重ねることです。五つ目は、能力としくみの強化。ここは意外と忘れられがちなポイントで、制度の変革だけでは中身が伴わずに機能しませんから注意が必要です。六つ目は、定期的な振り返り。必ず数字ベースに落とし込んで定期的に行ってください」

今回のセッションの中で重要と感じた発見は何か、まずやりたいと思ったことは何か。それを書き出し、1週間以内に実行すること。これが組織変革の第一歩として重要だとアドバイスして、松井氏は講演を締めくくった。

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