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中外製薬流! 個人×組織の成長を加速させる変革型次世代マネジャー育成4つの成功要因

  • 犬飼 浩文氏(中外製薬株式会社 営業人財マネジメント部 人事戦略グループ 副部長)
  • 住永 信之氏(株式会社いとわくす 代表取締役)
東京特別講演 [E-5]2018.06.25 掲載
リ・カレント株式会社講演写真

優秀なマネジャーを登用したい。そしてマネジャーの降格者を出したくない――。中外製薬は営業本部のマネジャー登用候補者向け研修の改革に挑戦。研修担当の犬飼氏はリ・カレント社をベンダーに選定し、新たな研修を企画、成功へと導いた。「課題の仮説・検証」「コンセプト設定」「三位一体体制の確立」「研修データ活用」の流れの中でどのような見直しが行われたのか、苦心した点とは何か。三者によるディスカッションが行われた。

プロフィール
犬飼 浩文氏( 中外製薬株式会社 営業人財マネジメント部 人事戦略グループ 副部長)
犬飼 浩文 プロフィール写真

(いぬかい ひろふみ)17年間の営業現場経験を経て、本社人事部へ異動。営業時代の顧客対応手腕を活かし、採用マネジャーとして1000人以上の採用~育成に従事。07年より育成部マネジャー。今回の事例となる次世代リーダー育成施策においても、マネジメント階層の企画~ファシリテーターまでを一貫して担当する。


住永 信之氏( 株式会社いとわくす 代表取締役)
住永 信之 プロフィール写真

(すみなが のぶゆき)富士写真フイルム株式会社(当時)にて同社の経営改革の本質を学んだ後、ドイツ、イギリス支部にて管理職を歴任。株式会社キュービック、株式会社スコラ・コンサルト代表(組織風土改革)を経て、09年 株式会社いとわくすを創業。役職や部署、あらゆる層の「本音」を引き出し、個と組織を機能させることを強みとする。


犬飼氏によるプレゼンテーション:
部下の目線から見えてきた「マネジャー降格者と継続者の違い」

中外製薬はバイオ・抗体医薬品を扱う製薬会社であり、2002年に世界トップクラスの製薬企業であるロシュ社と戦略的アライアンスを締結。グローバルに事業を展開している。同社営業本部はリ・カレントをベンダーにして2017年の次期マネジャー育成研修を実施し、大きな成果をあげたという。

犬飼氏はまず、研修を成功へと導いた、次期マネジャー候補者育成の四つのポイントをあげた。一つ目は「マネジャー登用における本部課題の仮説・検証」。最初に何が問題になっているかをひも解く。二つ目は「研修企画のコンセプト設定とプログラムアレンジ」。どんな研修が効果的かを考える。三つ目は「外部講師・アセッサー(評価者)との“三位一体”体制」。ベンダーと組んで実効性のあるものにする。四つ目は「評価・育成両面でのアセスメントデータ活用」。アウトプットを価値あるものにする。そもそも今回の研修企画の始まりは、犬飼氏のマネジャー登用にむけた課題の考察だった。

「約10年間、全社のマネジャー研修を担当した経験から、優秀なマネジャーとともにマネジャー降格者も見てきました。経営陣や社員から『マネジャーとしての適性をよくみてほしい』『部下に信頼されるマネジャーをつくってほしい』という声を耳にすることもよくありました。最近ではマネジャーになりたくないという人が現れるなど、マネジャー育成に大きな課題感を持っていました」

そこで犬飼氏は、これまでの経験から、仮説として降格を招く要素と思われる点を抽出した。マインド・姿勢では「一匹狼的なプレーヤー志向が強い」「利己的」「メンバーに関心を持てない」。コンセプチュアルスキルでは、「ビジョンがない」「経営方針・本部方針などを自分の言葉で翻訳できない」「論理的思考力が弱い」。ヒューマンスキルでは「傾聴できない」「自分の考えを押し付ける」「メンバーから信頼されない」「チームビルディングができない」。コンプライアンスでは「ハラスメントを起こす」だ。

「営業本部長に報告すると大変関心を持ってくれて、仮説を検証するように言われました。そこである年の組織改正のタイミングで、マネジャーを降格した人と、継続して就任している人を、マネジャー360度診断結果をもとに比較・分析しました。診断項目はリーダーシップバリュー(Vision・Passion・Innovation)、資質系コンピテンシー(倫理観・信頼性・達成志向・人財育成志向)、思考系コンピテンシー(論理思考・戦略思考)、実行系コンピテンシー(決断力・関係構築力・組織構築力・業務管理力)の四つで、全体で32の設問、5段階で評価しました」

講演写真

降格者と継続者でポイントを比較すると、1ポイント以上差のある項目が八つあった。例えば、「部下の状況を判断し、成果につながるようにやる気を引き出している」「部下一人ひとりのキャリアや志望を元に、中長期的なキャリア目標の実現につながる指導・育成をしている」「問題の本質を見極めたうえで対応策を打っている」といった項目だ。これらは特に降格者の評価が低くなっており、一つのソリューションとしてこれらのポイント強化を意識した研修を作ろうと考えた。

次は研修企画のコンセプト設定とプログラムアレンジだ。同社の営業本部が目指すマネジャー像は「明確なビジョンを持ち、最適な戦略を立案し、論理的にわかりやすく伝えることができる」「戦略を自組織の上司・同僚や他部門・組織を巻き込んで推進し、成果を出すことができる」。この像から必要な能力を抽出すると「ビジョニング(俯瞰力)、リーダーシップ(巻き込み力)、論理思考(伝わる力)、マネジメント(管理力)、マーケティング(戦略立案力)」の五つがあげられる。

「先ほどの八項目と比較すると、ビジョニングやリーダーシップ、論理思考などが降格者に共通点があることがわかりました。そこでこれらを重点的に盛り込み、登用前の1年・就任1年目・2年目とトータル3年間にわたり実施する、ハイパフォーマーなマネジャー育成を目的としたマネジャー育成パッケージ構想を打ち出しました」

犬飼氏によるプレゼンテーション:
勝因は「中外製薬・ベンダー・講師」の三位⼀体体制

このマネジャー登用候補者向けの研修は「CHAMPアカデミー(Chugai Attractive Management Program)」と命名された。研修の目的はまさに人財の評価と育成だ。

「評価では、アカデミーを通じて得られた個人の所見や成果物を登用に向けた判断材料の一つとしました。育成ではマネジャー登用候補者に対して、登用前にマネジャーとして必要な能力を強化することを重視しました」

研修は2017年7月~翌年2月の8ヵ月にわたり行われた。7営業日を4クールに分けて集合セッションを行い、その間に並行して職場に戻ってのアクションラーニングを実施。「自分が組織の長だったら」という視点から、職場の変革課題を見つけ改善案を考えるものだ。集合セッション後には毎回上司による面談を行い、加えて全体の中で2回、住永氏が講師となる個人面談形式のフィードバックを行った。

「毎回、上司との面談を行うことで上司を巻き込むことができました。また、住永講師によるフィードバックは意図的に厳しく行ったので、あらためて自分を見つめ直す機会になったと思います」

また、研修のアセスメントはリ・カレント社がアセッサーとなり、以下の2軸を中心に行われた。一つ目の軸はコンピテンシー。12のコンピテンシーを設定し5段階で評価した。3以上がマネジャー登用レベルだ。二つ目の軸はバリュー。マネジャーに求められる意識や視座として5つのバリュー、「ポテンシャルの高さ、自己認識の高さ、設定課題の的確さ、意欲の高さ、視座の高さ」を設定し、4段階で評価した。

「バリュー×コンピテンシーでマトリックスを作り、高低で四つのカテゴリーに分けて分析しました。両方が高い人は自分が変わらなければ組織は変わらないと考えており、いつでもマネジャー登用が可能な人です。両方が低い人は変化を非常に恐れていることが原因とわかりましたが、そもそもマネジャーよりはプレーヤー向きなのでしょう。この結果は早速、新任マネジャー登用のよい判断材料になりました」

講演写真

犬飼氏は今回の研修が成功した理由に、中外製薬・外部講師・アセッサーの“三位⼀体”体制が有効だったと語る。ベンダーをリ・カレントに決めたポイントは以下の5点から判断したという。「登用判断(アセスメントの質)」「講師力(受講者インパクト・指導力)」「協働力(中外事務局とのチームワーク)」「育成・能力開発(プログラムの質)」「費用(ROI)」だ。

「研修は上出来で、受講者の反応もよく、個々の成長が実現し、会社としても貴重なプログラムをつくれたと思います。最初に何を目的に行うのかを決め、それをベストなパートナーとプログラムにし、効果のある研修が生まれ、そこで得られたデータは次回に活かされていく。そんな成功のサイクルがつくれました」

ディスカッション:「研修の厳しさがもたらすものとは」

次に中外製薬の犬飼氏、リ・カレントの石橋氏、講師を担当した、いとわくす社の住永氏によるディスカッションが行われた。

石橋:まず、住永さんにお聞きします。この研修の一つのポイントは、プロセスの中で2回行われた個人面談形式のフィードバックだったと思います。そこで厳しい言葉をかけられたと聞いていますが、それによって受講者の意識・行動・態度が変わり成功につながった面があったかと思います。今回講師として意識されたポイントは何だったのでしょうか。

住永:この変革の研修のポイントは、どれだけ受講者が危機感を持てるかです。企業トップが研修の場に来られて「このままではいけない」と話していたこともあって、うまく危機感は醸成されたと思います。私も面談の中で「あなたが変わらなければ会社も変わらない」とかなり強烈に訴えました。中外製薬でマネジャー候補になる人ですから、基本的な能力、ポテンシャルはある人ばかりです。誰もがここでいい仕事をしたいし、仕事を通じて成長したいと思っている。でも話をしてみると、自分の仕事のやり方でうまくいかない点を自覚しながら、きちんとそれに向き合っていない人もいました。その点については、受講者の上司にも「きちんと仕事に向き合わせることが大事」だと伝えました。

講演写真

石橋:次に犬飼さんにお聞きします。厳しい研修を行うと受け手がめげてしまうリスクもあったと思いますが、あえて実施された理由は何だったのでしょうか。

犬飼:ベンダー選びで講師力を重視したのは厳しさを求めたからです。これまでの研修では和を貴ぶ講師が多かったのですが、現時点でそのようにすると、平和に終わって何も残らないのでは、という危機感がありました。営業のトップにも「今回は厳しい研修を行いたい」と相談したら賛同してくれました。いざ研修に入ると、最初は反発する受講者もいましたが、講師が真剣に取り組む姿を見て、周りで成長を感じる受講者が現れてくると、「この人の話を聞いてみよう」と雰囲気が変わっていきました。実施してよかったと思います。

石橋:もう一つ、犬飼さんにお聞きします。営業本部長はどのように説得されたのですか。

犬飼:先ほどの仮説の話をしたら、本部長が日々感じていた課題にも合致したようです。だったら検証してみようと。企画を進めるうちに、本気さがどんどん伝わっていったように思います。研修開講後も結果が出始めると「もっと本気でやろう、やらなきゃマズいぞ」という雰囲気が受講者に広がっていったと思います。

講演写真

石橋:お話を聞いて、研修の場はクローズにせずに、オープンに話し合っていくことがリーダー育成では必要だと感じました。住永さんにお聞きしますが、最初から順調だったわけではないですよね。フィードバックを進める上で苦労した点を教えてください。

住永:もともと反発があって当然だと思っていましたから、それでうまくいかないとは思いませんでした。ただゴールだけは変えず、営業人財マネジメント部の皆さんと相談しながら進めていきました。シートの書き直しを何人かにお願いしましたが、いやがらずに書き直してくれました。大事なことは「こちらもあなたのために真剣にやっているんですよ」という姿勢を見せること。わかれば受講者の皆さんも変わってきます。

石橋:住永さんは、研修で大事だと思うポイントはどんな言い方で伝えるのですか。

住永:「なぜうまくいかないのかちゃんと考えようよ」と言います。「自分で見た事実をきちんと押さえよう」と。自分が行動したときに何が起きたのかを見る。そのことが捉えられる人は原因が考えられます。差が出るのはそこの力量です。事実をきちんと捉えることが大事だと思います。

石橋:本日は各々の立場からの話で、皆さんも参考になったのではないでしょうか。ありがとうございました。

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