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AI+IoTの時代に求められる「職場の観察力」とは
チームや従業員の行動から何をつかみ、どう活かすのか

  • 田中 研之輔氏(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
  • 源田 泰之氏(ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長)
東京ランチミーティング [LM-1]2018.07.20 掲載
アイ・キュー講演写真

「組織エスノグラフィー」という手法をご存じだろうか。エスノグラフィーの源流は人類学。研究者が異国の村や集落に入り込んで生活し、その集団の実態や特性を言語化して描き出すフィールドワーク手法として発展してきた。人事領域では、これを企業内の部署やチームなどの分析に活用しようとする動きが進んでいる。AI+IoTの進展で業務効率化が進む中で「人間だからこそできること」への注力が求められている人事に向け、第一人者である法政大学教授の田中氏とソフトバンクの採用・人材開発責任者である源田氏が、組織エスノグラフィーの方法論による「職場の観察力」向上について語った。

プロフィール
田中 研之輔氏( 法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
田中 研之輔 プロフィール写真

(たなか けんのすけ)社会学博士。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。2008年に帰国し、現在、法政大学キャリアデザイン学部教授。専門は社会学。<経営と社会>に関する組織エスノグラフィーに取り組んでいる。著書に『ルポ 不法移民』『先生は教えてくれない大学のトリセツ』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』『覚醒する身体』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。株式会社ゲイト社外顧問他、社外顧問を歴任。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。近著に『先生は教えてくれない就活のトリセツ』


源田 泰之氏( ソフトバンク株式会社 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長)
源田 泰之 プロフィール写真

(げんだ やすゆき)1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。新卒および中途採用全体の責任者。グループ社員向けの研修機関であるソフトバンクユニバーシティおよび後継者育成機関のソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(SBイノベンチャー)の責任者。ソフトバンクグループ株式会社・人事部アカデミア推進グループ、SBイノベンチャー・取締役を務める。孫正義が私財を投じ設立した、公益財団法人孫正義育英財団の事務局長。育英財団では、高い志と異能を持つ若者が才能を開花できる環境を提供、未来を創る人材を支援。教育機関でのキャリア講義や人材育成の講演実績など多数。


田中氏によるプレゼンテーション:「組織エスノグラフィー」から「企業エスノグラフィー」へ

「テクノロジーの発展によって、人の行動やアウトプットを『量』で測れるようになりました。これが正統性を帯び、量的観測が絶対であるかのような空気も生まれつつあります。しかし一方では、こうした観測によって従業員が息苦しさや窮屈さを感じ、生産性が下がってしまうという問題も起きています。そんなときに大切なのが『観察力』なのだと考えています」

ランチミーティングの冒頭、和やかな雰囲気の中で田中氏はそう切り出した。AI(人工知能)やIoTによって、HRテクノロジー分野では画期的なサービスが続々と誕生している。とはいえ、それだけで人事の課題のすべてを解決できるわけではないことは言うまでもない。人類学、社会学、経営学と方法論的に発展してきた「組織エスノグラフィー」や、職場の観察力と組織エスノグラフィーを組み合わせた「企業エスノグラフィー」と呼ばれる手法が日本企業において注目を集め始めているのにはそうした背景がある。本ミーティングは、これらの手法を体系的に学び、考えを深める場であると田中氏は話す。

講演写真

「こうした話をアカデミックな内容に終わらせず、現場に活かせるようにしたいと思います。そもそも、エスノグラフィーとは何でしょうか? 私が以前に上梓した『走らないトヨタ』という本では、人口減少が続く高知県で販売台数を増やし続けるトヨタ販売会社のネッツ南国へ入り込んで調査した共同研究の分析結果をまとめました。他には、全国へチェーン展開する丼家さんのトップ店舗で5年間実際にアルバイトとして働き、調査したこともあります」

徹底的に組織へ入り込み、同化して観察と研究を行う田中氏の手法に会場からは驚嘆の声が漏れた。

組織エスノグラフィーは人類学から出発し社会学でより身近な社会集団を対象とすることを可能にした、「人々が関わる組織を理解するための方法論」だ。最初は異国の村の人間関係を理解するためのフィールドワークとして用いられ、移民が増え続けた時代のアメリカ・シカゴでは都市の人間関係を明らかにするために応用された。1980年代に入ると組織に着目したエスノグラフィーの考え方が生まれ、社会学や経営学、組織行動学の分野で発展してきた。

最近ではビジネスにおける行動観察が注目され、そのための手法としてエスノグラフィーが注目されている。こうして活用される「企業エスノグラフィー」では、人事が職場の観察者としての役割を果たすことが求められているのだという。田中氏はこの役割と能力を持つ人を「エスノグラファー」と呼ぶ。

では、人事が「エスノグラファー」として活躍するためには何が必要なのだろうか。田中氏は「現場で起きている『あたりまえのこと』にも疑問を持つことが重要」だと言う。この部署はなぜ成績が良いのか、あるいは悪いのか……。日々接する情報を流すことなく、どれだけ疑いを持てるかが大切だ。

講演写真

「企業エスノグラフィー先進国と言えるアメリカでは研究が進み、人材育成も盛んです。しかし日本にはエスノグラファーを育てている研究機関がありません。昨今重要視されるデータサイエンティストと同様に、エスノグラファーも増えていくべきなのです。企業エスノグラフィーは決して研究者の専売特許ではありません。優秀な企業エスノグラファーになれる可能性があるのは、すでに現場にいる企業人。人事の現場で活躍する皆さんは、まさにエスノグラファー候補と言えます」

実際の企業において活用されているエスノグラフィーの例も紹介された。現在は、新入社員研修のエスノグラフィーの分析に取り組んでいるという。これらの事例も踏まえ、田中氏は「職場の観察者には3分類がある」と解説する。量的分析をする「データサイエンティスト」、市場・顧客分析をする「コンサルタント」、そして組織分析をする「エスノグラファー」だ。

あわせて企業エスノグラフィーを実行するためのプロセスも示された。

1.現場で問いを発見する
2.ディティールにこだわってプレ観察をする
3.インタビューなどを通じて文脈の中で理解する
4.フィールドワークや内部参与によって複雑な要因を分析する
5.問題解決のための橋渡しをする

セッションでは、このプロセスを実行して人事による企業エスノグラフィーを設計するためのワークショップも実施された。人事に関わる業務分野ごとに問題点(現象)を書き、問題の因子(関係性)と、その解決策を明らかにしていく。その模様はレポート後半で紹介したい。

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源田氏によるプレゼンテーション:「そばにいる人事」が事業部門の右腕に

イノベーションを生み出し続ける組織では、どのような「観察」が行われているのだろうか。源田氏のプレゼンテーションではそのヒントが示された。

「ソフトバンクグループで最近特に話題になっているのは、『ソフトバンク・ビジョン・ファンド』という10兆円規模のファンドです。『情報革命で人々を幸せに』という経営理念にもとづき、世界中の最新のテクノロジーや優れたビジネスモデルを持つ会社に出資しています。こうした中でトップの孫正義からは『群戦略』というメッセージが出されています。各エリアでナンバーワンの会社と同志的結合を組んでいくという考え方です」

ソフトバンクは現在、IoTやAI、ロボットといった領域へシフトしている。国内の通信事業は成熟期にあり、通信事業にどのような付加価値を提供できるかが重要だという。『ソフトバンク・ビジョン・ファンド』の投資先である革新的な技術を持つ企業と、ジョイントベンチャーを設立する動きもその戦略の一環だ。こうしたグループ全体の事業戦略を強く意識しながら、人事戦略を立てている。

「多くの企業と同じように、ソフトバンクでも働き方改革を進めています。クリエイティブなこと、イノベーティブなことに挑戦できる環境への個人のニーズは高まっているので、働き方改革を進めることは採用でもプラスになっています。昨年11月には、二重就業を解禁しました。『知り合いのプログラミングを手伝う』『本を出版する』『外部で講演する』など、さまざまな活動を許容していますが、現在のところ、マイナス面への影響はほとんどありません」

そんなソフトバンクでは、どのようにして「職場の観察力」を担保しているのだろうか。一つは、「HRBP」(HRビジネスパートナー)機能を持つ組織人事体制を整え、事業部門ごとに人事担当者を配置していることだ。

「『そばにいる人事』として事業部門にも席を置き、ある程度の時間はそこにいます。全社員との面談を実施し、気軽に相談できる状況を作っています。また『MCC』(マンスリー・コンディション・チェック)によって社員のモチベーションや業務進捗を把握し、より速く、正確に情報を集め、事業部門の右腕として課題解決を支援しています」

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人事が従業員に寄り添いすぎると、成果が見えづらくなる。一方で寄り添う姿勢なくして事業部門に入り込むことはできない。HRBPはこうした難しい立ち位置に置かれながらも、エンジニア向けの特別な人事施策を事業部門と協働して検討するなど、「部分的に専門性を発揮する」ことで事業部に入っていく工夫をしているそうだ。

この他にも組織と人を観察する施策として、管理職サーベイやESサーベイなども行っている。これらは直接評価に組み入れるのではなく、あくまでも課題解決に使うために活用しているという。

一方では「個」を活かす取り組みも進められている。従業員が当事者意識を持って自分のキャリアを切り開いていけるよう、「手を挙げた人に機会を提供する」というメッセージを強く発信している。

「社内の集合研修やeラーニングなどへの参加もすべて、本人の『手挙げ』がベース。新入社員研修や新任課長研修などの必須研修以外は、自主的に判断して参加してもらっています。異動の仕組みにも『手挙げ』を活用し、主体的なキャリア形成をうながしています」

参加者によるディスカッション:数字やデータでは見えない機微や事実を発見するには

セッション後半では、人事による企業エスノグラフィーを設計するためのワークショップが行われた。

ワークショップで使われるシートは、縦軸に人事の業務分野が整理されている。「採用」「処遇」「企画・立案・活性化」「教育・研修・育成」「評価・配置・異動」「労務・管理・厚生」の各分野だ。

横軸には、「問題点(現象)」「問題の因子(関係性)」「解決策」の3項目。まずは個人ワークでシートを完成させ、グループごとに共有していく。その内容は全体にも共有された。

あるグループからは「人に関わることは、採用にしても教育にしても費用対効果ばかりが求められる」という声が上がった。観察や調査に長期間を要するエスノグラフィーを運用し続けていくためにはどうすればいいのか。議論に立ち会った源田氏からは、「『小さく回す』『うまく社内にプロモーションする』といったテクニックを活用しつつ、人事が信念を崩さずに続けていくことが大切」というアドバイスもあった。

別のグループでは「人事の思いが伝わっていない場面も多々ある」という声も。自分の仕事を放っておいても従業員と話している人事がいる。これもエスノグラフィーだと思うが、周囲からは「あの人は本来の業務を放り出して何をやっているんだろう」と見られてしまう……。「人事一人でエスノグラフィーを実践していくのは厳しい。その役割を理解し、人事以外の周辺でも有効に活用するための議論をしていくことが大切なのでは」と議論が進んでいた。

人類学におけるエスノグラファーは、都市や村の問題点を見つけるために内部へ入り込み、長い時間を費やす。人事が担うべき企業エスノグラファーに求められるアクションも同様だ。「例えばソフトバンクさんは、人事が社内のさまざまな場所でジョイントし、活動しています。源田さん自身は新規事業周りにも顔を出している。そんなふうに『開いた人事』であることが大事なのだと思います」と田中氏は言う。

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源田氏は、ワークショップを受けて「6〜7割の仮説を立て、思い切って回していくべきなのでは」と語った。「人事の顧客」はどこか。従業員、経営者、会社の顧客。そのすべてがあてはまだろう。施策を実行し、特定の顧客にしかメリットがないような状態になってしまったなら、そのタイミングで見直す。そうして「まずはやってみる」という勢いを持つことも大切なのだという。

セッションの結びに、田中氏から人事への期待の言葉が贈られた。

「エスノグラファーとして、私自身が大切にしていることがあります。数字やデータには浮かび上がらない事実や機微があると信じ、働く現場の声なき声を浮かび上がらせていくことです。そうすれば必ず組織の問題点に気づけるはずです。現在の日本の人事には、エスノグラファーの視点で活動している人はほとんどいません。組織エスノグラフィーや人事エスノグラフィーは、これからの領域です。だからこそ、今日この場に集まったみなさんにまず、始めてみてほしいと思います」

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