人材の価値を最大限に引き出し、企業の持続的な成長を実現する

日本の人事部 人的資本経営

【ヨミ】ジンザイカイハツ 人材開発

企業における人材開発とは、自社にとって重要な資産である人材を、いかに経営に貢献できるよう育てていくのか、その人材育成管理のプロセス全体を指します。近年は、経営を取り巻く環境変化が激しくなっており、経営に貢献する人材を育成するにしても、その対応やアプローチは多様化しています。

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1.人材開発とは

人材開発の考え方

人材開発は、企業経営の根幹に関わる重要なテーマです。組織に関わる人材の能力開発を行い、その人たちの成長によって経営理念の実現、事業計画の推進、企業業績の向上を目指していくことが人材開発の目的です。また、従業員は自らの能力やスキルが高まることによって成長を強く実感し、昇格・昇進や報酬のアップに結び付くことを期待します。このように人材開発は、企業と従業員の双方がWin-Winの関係を築くものとして行われます。

問題は、いま行われている研修や施策が従業員の能力開発を促し、企業経営に対する貢献へとつながっているかどうか、ということ。しかし、自社の人材開発について十分検証できている企業、課題に対して具体的な対策を講じている企業は、少ないのが実情ではないでしょうか。

いま求められる人材開発とは

そうした中、人材開発のアプローチにも変化が求められています。人事部は、企業と従業員の人材開発に関するニーズの変化に対応して、いち早く経営戦略や部門目標の実現に向けた対策を提示しなければなりません。それと同時に、労働力不足が叫ばれる中、内定者や新入社員をはじめとした若手社員の定着(モチベーション向上)や教育・育成の問題、中堅社員・管理職がいかに効果的なリーダーシップを発揮していくかなど、今日的な人材教育に関する問題への対応も求められています。そのため、会社と従業員双方にとってより効果的な手法を企画・考案し、人材開発を進めていく必要があります。

厳しい経営環境が続く中、いかに効率よく人材に投資し、経営に貢献する人材を育てていくのかが、今後の日本企業の生き残りに大きく関わっているのは間違いありません。また、持続的な成長戦略を描き、それを実現していくには、自社の人材開発の目指す方向性(求める人材像)を明確にし、それを実現するプランを早急に構築しなくてはなりません。ポイントは、経営計画と連動した人材開発プランを構築する際、重要度、緊急度を考えながら、事業ニーズに応えていく施策や研修の内容(プログラム・カリキュラム・メニュー)へと具体的に落とし込んでいくこと。また、それらが従業員にとっても大きな動機づけとなり、成長を実感できる魅力的なものとしていくことです。

2.近年の人材開発の動向

対象(階層別、職種別)

ここからは、近年の人材開発の動向を見ていきます。まず、人材開発の対象として、どのような階層・職種がターゲットとなっているのでしょうか。

【階層別】
  • 内定者:「超売り手市場」が続く新卒採用の下、内定者に対するビジネス知識の事前インプットや内定辞退防止、入社後のミスマッチ解消などを目的に行われている
  • 新入社員:仕事を進めていく上で必要となる知識や技術、企業の業務内容や企業風土・企業理念、就業規則など、企業組織内で過ごすために必要な事項や社会人として必要なコミュニケーション能力、最低限の礼儀・マナーなど、社会人として働くために不可欠な内容を幅広く教えるプログラムとなっている
  • 中堅社員:ポジションにふさわしい役割の再確認、総合的な実務スキルや幅広い判断力、問題解決力の向上など、次に目指すリーダー層に向けてマネジメントの基礎を学ばせている
  • 管理職:新任からベテランまでを対象に行われるため、取り上げるテーマは「仕事」「人・組織」「経営資源」「コンプライアンス」など、幅広い。そのため、「管理職研修の体系図」を的確に描くことが重要となっている
  • 経営幹部:ビジネス環境が目まぐるしく変わる中、リーダーとなる人材を早期に育成していく必要がある。ただカリキュラムは長い期間をかけて実施されることが多く、この期間内に一貫性のある育成方針(体系図)の下、定期的な集合研修が行われ、さまざまな課題が与えられている
【職種別】
  • 営業職:営業現場で求められる必須の知識・スキルと共に、営業職としてのモチベーションを高く持ってもらうための自覚・スタンスを促すプログラムが行われている
  • 管理スタッフ職:社内におけるビジネス対応・スタンスやヒューマンエラー防止と合わせ、人事・労務・法務など、それぞれの専門分野に求められる知識・スキルを学ぶケースが多くなっている
  • 技術職:専門的な知識・スキルと合わせ、プロジェクトで動くことの多い技術職のためのコミュニケーション力向上、プレゼンテーション向上、リーダーシップなどを学ばせている
  • 研究開発職:研究開発職としての基本スキルの習得とともに、社内外の人材・異業種交流や新規事業創出や研究開発成果につなげるためのプロジェクトマネジメントを学ぶケースがよく見られる

形態

人材開発は、具体的に以下のような形態の下で行われています。

  • OJT:On the Job Trainingの略。職場の上司や先輩従業員などから、日々の仕事を通じて行われる能力・スキル開発のこと
  • off-JT:off the Job Trainingの略。仕事を進めていく上で必要な知識やスキル、技能を修得するために職場を離れて行う研修のこと
  • 自己啓発・通信教育:自己啓発とは、職務遂行上、必要となる知識・スキルを自ら機会・手段を選択し、行うものである。その際に通信教育は、自分に都合のよい時間に合わせてできるので、企業で働く忙しい人には最適な方法の一つである
  • ワークショップ:参加者が、自発的に作業や発言のできる場で行われる「体験型講座」や「セミナー」のこと

テーマ

扱われるテーマは、企業の置かれた状況でさまざまですが、近年注目されている人材開発のテーマには、以下のようなものがあります。

  • 社会人基礎力:社会人基礎力は、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な力」として経済産業省が2006年から提唱したもの。「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の三つの能力(12の能力要素)から構成されている
  • ビジネスマナー:仕事をする上で必要とされるマナーの総称。近年、若い世代を中心にビジネスマナーが欠如しているケースが多く見られ、仕事をする上でのコミュニケーション齟齬(そご)、トラブルが増えていることから、ビジネスマナーに対する教育ニーズが高まっている
  • リーダーシップ:リーダーシップとは、チーム・組織をまとめながら目指すゴール(目的)に向かって導いていく行動(態度)のことである。特に管理職において、部下に動機づけを与え、指示をする上で、リーダーシップは不可欠のものとなっている
  • リベラルアーツ:リベラルアーツは、幅広い知識・教養を身に付け、異なる考えやアプローチ方法が理解できる総合的な力を言う。特に、グローバル化が進展する今後、語学力(英語)とともに、ビジネスパーソンに欠かせない能力の一つとなっている

3.人材開発の技法・手法、制度

OJT

日常的な業務を遂行する中で、仕事経験の浅い従業員は仕事のやり方や進め方がよく分からないため、職場の上司や先輩などから、さまざまな指示や指導を受けます。OJTとは、このような日々の仕事を通じて職場で行われる能力開発のことで、次のような特徴があります。

【OJTの特徴】
  • 仕事に直接的に必要となる教育を、コストをかけずに効率よく実施できる
  • 個別対応の教育なので、効果を上げやすい
  • 職場において、継続的に実施することができる

OJTは日常の仕事を通して人材を指導していくので、部下の育成には最適な教育方法です。ただし、デメリットとして、体系的・理論的な内容を教えるのにはあまり適してはいません。

off-JT(集合研修)

off-JTとは、仕事を進めていく上で必要な知識やスキル、技能などを修得するために、職場を離れて行う集合研修のことで、次のような特徴があります。

【off-JTの特徴】
  • 職場を離れ、階層・部門に共通する必要な事項を学ぶことができる
  • 日常の仕事の中では習得することが難しい知識・技術を、専門家から学ぶことができる
  • 組織運営や経営マネジメントに関して、体系的な知識を学ぶことができる

職場では、日常的な仕事や課題に対応することに追われてしまいがちです。off-JTとして、職場から離れた場を設けてマネジメントの理論などを体系的に学習すれば、仕事を全社的な観点から見直すことができます。また、自分の職務の持つ意味や位置づけを客観的に理解することもできます。

自己啓発・通信教育支援

自己啓発とは、従業員が通信教育や本・雑誌などを通して自発的に行う能力開発のこと。自己啓発は従業員の個人的な行動ですが、それを通して実現される資格取得、能力や知識・スキルの向上、さらにモチベーションの向上などは、会社にとってもメリットが大きいといえます。そのため、通信教育の受講料の一定額(あるいは全額)を負担したり、資格取得に対して報奨金を支給したりするなど、従業員の自己啓発に対して支援を行う企業が多く存在します。特に近年はeラーニングが行きわたったことで、タブレットを用いて自己啓発に取り組むケースが増えています。

知識習得の技法・手法

人材開発を進めていくうえで、今日はさまざまな技法や手法があります。それらを活用していくに際しては、人材開発の目標達成に適合した手法・技法を選択することが重要です。つまり、教育・研修の具体的な場面で、どのような点で有効なのかをよく確認した上で、取り入れることが重要なのです。一般的に、知識習得に適した技法・手法としては、「講義法」が挙げられます。

講義法は、多数の受講者を対象とした技法・手法であり、基礎知識や専門知識の取得に最適なものです。専門の講師が板書をしながら話を進め、質疑応答にも対応します。また、討議や実習などと組み合わせることができ、時間や内容の調整も容易であることから、知識習得の場面で広く行われています。ただ、受講者が受け身になりやすい、講師の良し悪しで学習効果に差が出る、などの問題点もあります。

技能(スキル)習得の技法・手法

技能(スキル)を習得するためには「講義法」も必要ですが、実践的な意味合いを持つ「実習法」が効果的だと言われています。

実習法は、現場で実際に仕事をさせながら教育していく技法・手法で、OJTはその代表的なものです。実習法は、個別の受講者の能力・スキルに合わせた教育・指導ができ、教育の効果がすぐ仕事に役立つため、受講者に教育を受けるモチベーションを持たせやすいというメリットがあります。ただし、多人数に対して同時に教育ができない、また手間暇・時間がかかる、といった問題点もあります。

態度習得の技法・手法

態度習得の技法・手法には、「討議法」の他、「ロールプレイング(役割演技法)」「センシビティ・トレーニング(感受性訓練)」「マネジアル・グリッド法」などがあります。

【討議法】
討議法とは、受講者がディスカッションを行いながら、知識や考え方の理解を深めていく技法・手法。基本的な知識をベースに、仕事への考え方や態度の異なる者が議論を交わしてく中で、徐々に価値観や行動などを調和し、一致させていくことができます。
【ロールプレイング(役割演技法)】
ロールプレイングは、役割演技法とも呼ばれる技法・手法。二人以上の者に対して状況が与えられ、その中でお互いが「役割」を演じていくことによって、求められる技能や態度の改善、向上を図ります。学習者に現実的な興味を持たせることができるので、参画度、満足度が高くなります。営業・販売研修、ビジネスマナー研修、管理職の対人関係能力を養成する研修などで活用されます。
【センシビティ・トレーニング(感受性訓練)】
センシビティ・トレーニングは、感受性訓練とも呼ばれる技法・手法。受講者を心理的・社会的に孤立した遠隔地の合宿所などに送り込むことで、集団への参加欲求についての激しいフラストレーションを引き起こさせます。そこから「対人共感性」を目覚めさせ、集団形成の仕組みや集団機能のあり方などを洞察させるのです。このような深い経験を経ることによって、個人の態度変容に効果があると言われています。
【マネジリアル・グリッド法】
マネジリアル・グリッド法は、管理職層(リーダー)の態度変容を目的とした技法・手法。まず受講者に、リーダーの五つのスタイル(放任型、人情型、権力型、理想型、妥協型)を学習させます。次に各人はどのスタイルにあてはまるかについて、自己評価・相互評価させることで、理想的な管理者像へと変容させようとするものです。なお、五つの管理者のスタイルについては、ブレークとムートンによる「マネジリアル・グリッド理論」がベースとなっています。

問題解決能力習得の技法・手法

問題解決能力習得の技法・手法には、「インシデント・プロセス(事例研究法)」をはじめ、「プロジェクト法」「イン・バスケット法」「ビジネスゲーム」「ケプナー・トリゴー法」などがあります。

【インシデント・プロセス(事例研究法)】
インシデント・プロセスは、事例研究法と言われる技法・手法の一つ。現場で起きた出来事を「例題」として受講者に指示し、その背景や事情などを伏せた上で討議に入ります。ファシリテーターとの質疑応答を通じて情報を収集し、問題の分析と解決策の立案を行っていきます。例題に対する討議を行うことで、問題の捉え方や見方が養成され視野が拡大する、事実に基づく科学的アプローチや判断力を要請できる、問題解決のプロセスを具体的に習得きる、などのメリットがあります。
【プロジェクト法】
プロジェクト法は、日常業務に密着した課題を与え、問題解決のための教育を行う技法・手法。実際の職場の問題として一定期間、実際に取り組みを行い、そこでの行動や討議を通じて実践的な解決策を導いていきます。管理職層や職場リーダーに対して行われることが多い手法です。
【イン・バスケット法】
イン・バスケット法は、管理者の業務処理能力や問題解決能力の向上を目的として行われる技法・手法。未決箱(イン・バスケット)に入った書類に意思決定を下し、それを既決箱(アウト・バスケット)に入れていくという、管理者の日常的な状況をそのまま実施します。短時間の間に多くの書類を処理していくことによって正解の探し方を習得し、管理者としての判断力や決断力を高めていくことを目的としています。
【ビジネスゲーム】
ビジネスゲームは、受講者を経営幹部に設定し、経営に関する意思決定を行わせ、成績を競わせる模擬体験型の技法・手法。ビジネスの実務をシミュレートし、大局的に経営の全体像を把握すると同時に、部門間の有機的な相互関係の重要性を理解させます。自己PRしつつ、常に現実の経営との関係を意識させながら体験させていくことがポイントです。
【ケプナー・トリゴー法】
ケプナー・トリゴー法は、社会心理学者ケプナーとトリゴーによって開発された、技法・手法。管理者の問題解決や意思決定能力を養成するために行います。優れた経営者に共通している基本的な四つの思考パターンを形式化し、さまざまな問題解決に利用していくもので、実際的なケースに当てはめ、具体的な問題解決能力の養成を目指します。

創造性開発の技法・手法

創造性開発の技法・手法では、「ブレーンストーミング」が最も効果の期待できる発想法です。

ブレーンストーミングは、メンバーに具体的なテーマ・課題を与え、集団的にアイデアを創出させていくための技法・手法。テーマ・課題は、あらかじめ知らせておく場合と、先入観を与えないないようその場で資料を配布する場合があります。「自由な発想の下、アイデアを出す」「出されたアイデアに対しては否定しない、批判しない」「アイデアについては質より量、数多く出す」「他の人のアイデアを活用し、改善や結合をし、さらに発展させる」などの原則の下、創発的な話し合いが行われます。

メンター制度(ブラザー・シスター制度)

メンターとは、「心の師」という意味。新入社員を中心に部下や後輩・同僚などに対して、ビジネススキルだけでなく仕事観や生き方までサポートするリーダーを指します。まだ基礎が十分にできていない新入社員が持つ不安・悩み事をメンターがフォローし、離職率の低下、人材の定着、早期戦力化を目的として、「メンター制度」を取り入れる企業が多いようです。「ブラザー・シスター制度」も名前こそ違いますが、同様の意味を持つ制度です。なお、メンターから教えを受ける人のことを「メンティー」と呼びます。

メンターには、上司のようにメンバーに対して直接仕事を与えたり指示したりするのではなく、仕事をすることの意味を考えさせたり、問題解決の糸口に気づかせたりすることが求められます。重要なのは、日々の話し合いの中からコーチング的なアプローチの下、メンティー個人の中長期的なキャリア目標を引き出し、その達成のために育成計画書を作成して、職場での活躍の機会を設けながら進めていくこと。ときには、まだ経験の浅いメンティーを育てていくために、お手本(ロールモデル)を見せたり、よく分からない課題や問題点について言葉を交えながら、一緒に考えたりするなど、いろいろと心配りをしながら対応します。また、メンティーが自信を失わないよう、「自分も新人の頃は同じように思っていたこともあった」と自身の経験を語りながら共感するなどして、メンティーに接します。マニュアルだけでは取得できない、きめ細かな対応がメンターには求められます。

企業内大学

企業内大学とは、企業が社内に設置している教育研修制度の一種で、コーポレート・ユニバーシティとも呼ばれます。企業内大学は、企業によってその体系はさまざまですが、通常業務に必要なビジネススキル向上のための研修などとは、その目的が異なります。大学の講義のように、必修講座と選択講座があり、従業員が自分の目標や都合に合わせて、プランを組み立てられるようなケースが多いのが特徴です。また、従業員レベルの底上げと、自発的な学習意欲を高める狙いから、最近は受講対象が全社員へと広がり、公募制を採用するケースも増えています。また、企業内大学を設置することによって、向学心の高い求職者(転職者)に対して、求人面でアピールすることができるメリットも期待されています。実際の企業での例を挙げると、博報堂の「HAKUHODO UNIV.」、資生堂の「エコール資生堂」、ユニクロの「FRMIC(エフアールミック:ファーストリテーリング マネジメントイノベーションセンター)などがあります。このような企業内大学での成果を受け、近年は社会人大学・大学院に通って論文を作成したり、学会で発表したりするなど、ビジネスパーソンとしての学びの場も広がってきています。

このほかにも近年は、従業員が一定期間海外で働く「留職」や、どこでも短時間でも学べる「マイクロラーニング」などを企業が実施。従業員側でも「越境学習」「朝活」「副業・複業」などを通じて、社外でも自主的に学ぼうとするなど、企業・従業員の双方で人材開発・教育に対する意欲が高まっています。

4.人材開発の理論

人材開発のカギを握る理論・考え方

人材開発を進めるに当たって、人事担当者が知っておくべき「理論・考え方」には、以下のようなものがあります。

【マズローの要求段階説】
アメリカの心理学者マズローによって導き出された理論で、人間の欲求は、それぞれの境遇や考え方により、次の5段階に分かれると示しました。後年のモチベーション理論をはじめ、組織における人材開発のアプローチに、大きな影響を与えています。
  1. 生理的欲求
    人間の最も根源的な欲求。これが満たされなければ生きていけないというもの
  2. 安全の欲求
    安全な生活を送りたい、危険を回避したいという欲求
  3. 社会的欲求
    友情や愛情に満たされた集団・家族等の中で生活していきたいという欲求
  4. 尊敬の欲求
    自分の仕事や行動を、他人に認めてもらいたいという欲求
  5. 自己実現の欲求
    他人から認められることよりも、自分自らが納得できることをしたいという欲求
【マクレガーのX理論・Y理論】
アメリカの心理学・経営学者マクレガーが提唱した理論。マズローの「欲求段階説」をベースにしながら、「人間は生来怠け者であり、強制されたり命令されたりしなければ仕事をしない」とするX理論に対し、「人間は生まれながらに仕事が嫌いということはなく、条件次第で責任を受け入れ、自ら進んで責任を取ろうとする」Y理論が大切であると説きました。
【ハーズバーグの動機付け要因・衛生要因】
アメリカの臨床心理学者ハーズバーグが提唱した理論。人間の仕事における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると下がるということではなく、満足に関わる「動機付け要因」と、不満足に関わる「衛生要因」は別のものとする考え方。
【マクレランドの欲求理論】
アメリカの倫理学者マクレランドが提唱したモチベーション理論。作業場における従業員には、「達成動機」「権力動機」「親和動機」の三つの動機(欲求)が存在するという考え方。
【ロックの目標設定理論】
アメリカの心理学者ロックが提唱した理論。「モチベーションの違いは、目標設定の違いによってもたらされる」という考え方。本人が納得している目標については曖昧な目標よりは明確な目標、また難易度の低い目標よりは高い目標の方が、結果として業績が高いことが確認されています。
【ブルームの期待理論】
カナダ生まれの経営・心理学者ブルームによって提唱されたモチベーション理論。動機付けの「過程」に注目し、「どこまでやればよいのか限界値が明確で、どうすればよいのかの戦略が明確で、達成した目標の成果が魅力的であれば、人はその目標に向かって動機付けられる」という考え方を示しました。

5.人材開発の見通し・課題

教育効果の測定

経営において、教育(人材開発)とは投資であり、その効果を測ることは、経営からすれば当然のことです。それを放置し、要請に応えないことは、人事・教育担当者として、重要な役割を放棄したことになります。具体的な教育効果の測定において、その対象となるのは個人と組織に分けた場合、以下のような項目が考えられます。これらの項目を、研修の前後、あるいは定期的にアンケートなどを利用してチェックし、どのような効果があったのかを測定します。

【個人の測定項目(例)】
  • 知識・スキルの向上:どれだけ知識量、理解力が増えたのか
  • 能力(コンピテンシー)の向上:問題への解決技法・対処方法がどれだけ身に付いたのか
  • 態度・行動の変容:仕事に対する姿勢と行動がどう変わったか
【組織の測定項目(例)】
  • 組織の行動レベルの変化:実際の行動にどう変化が出たか、規律が守られるようになったか
  • 組織風土の変化:職場の雰囲気が良くなったか、活気が出てきたか

また、研修の効果(コスト対効果)を測る手法・アプローチには、以下のようなものがあります。このような方法を活用することで、研修が受講者にどのように捉えられたのかを把握できますが、それをどう活かし、成果を上げていくかについては、なかなか把握しきれません。そのため、研修後に追跡調査を行い、一定期間をあけた後に実施状況報告書などを作成して、具体的な問題点を把握。同時に、最終的に目指す目標(ゴール)について、どの程度の効果が得られたのかを見ていくことが重要です。

【定量的な把握】
アンケート、テスト、実行計画の達成度チェック
【文書類】
レポート、感想文、論文、日誌
【人を介しての評価】
上司への報告、面談(面談シート)、発表会、懇談会

いずれにしても、教育効果の何を、いつ、どのように測るのか。対象とする内容や目的、領域を明確にしておくことが重要です。それには、教育関連の施策・研修の目的に応じた柔軟な対応、かつ具体的な成果指標(数値)を設け、見える化しておくことが欠かせません。

人事と教育の連動

言うまでもなく、事業活動は経営戦略に則ったものでなくてはなりません。それは、人材開発においても同様です。つまり、経営からの要望に応じた人材開発のあり方(体系)を描くことが、人事部(人材開発部)の重要な役割なのです。そのためにも、定期的にトップと人材開発について話し合う機会を持つことを怠ってはなりません。

経営は3~5年からなる「中期経営計画」を立て、その実現に向けて全社をけん引していきます。一方、現場は毎年の事業戦略を立て、その目標達成に向けてまい進します。しかし、人材が育つにはどうしても時間がかかります。新卒で採用してから、教育・研修、人事異動、キャリア形成支援などのさまざまなプロセスを経て、次世代を担う人材へと育て上げていくには、相当の年月が必要です。だからこそ、その時々の経営環境や短期の戦略に過度に影響されず、長期的視点に立った「人材開発戦略」が求められるのです。

「人材開発戦略」を作成するに当たっては、現場のニーズを的確にとらえることがポイントです。現場のマネジャーやメンバーの意見・ニーズをヒアリングしながら、経営の求める方向にベクトルを収れんさせていくこと、また、5年、10年といった長いスパンで人材開発を進めていくことが重要です。

研修の内製化

人材開発における研修は、将来に向けた投資であるという見方がある一方、コストであるとの認識の下、費用対効果を求める声も多く聞かれます。そうした中で、社員に対する研修を「内製化」する動きが活発化しています。自社にフィットした教育を行うために、社内でプログラムやカリキュラムを企画し、社員が講師を務めるなど、これまで社外の教育ベンダーやコンサルティング会社に委託していた研修を、自社内で内製化しようとする「研修内製化」という潮流です。。

特にリーマンショック以降、コスト削減のために、自社内で講義内容やコンテンツを企画し、社員を講師とする研修を行う企業が増えました。また、コスト削減だけではなく、「自社の状況・ニーズに合った教育が実施できる」「社内講師となる人材の育成につながる」「互いに学び合い、教え合う職場風土が醸成される」など、さまざまなメリットも期待されています。

研修を内製化していく際のポイントとして、まず「何を内製化するか」を明確にする必要があります。一概に、どのような内容の研修が内製化に向くとは言えませんが、企業独自の価値観・風土、独自技術、企業内だけで通用する特殊スキル・技能に関するものは、内製化することで、より付加価値を高めることができます。なぜなら、どの企業にも社内でしか教えられないものがあるからです。次が、「経営トップのコミットメント」。研修の内製化に関しては、経営課題からブレークダウンさせた緊急課題として位置付ける必要があります。そのためには、経営トップが趣旨と内容を理解し、その実践を強くコミットメントしていくことが欠かせません。そして、「社内講師(トレーナー)の選定とフォロー」。社内講師は内製化研修成功のカギを握るキーパーソンと考えられるので、その選定はとても重要です。講師デビューに向けてのトレーニングなどの支援体制と、デビュー後のモチベーション維持をしっかりと行うことが重要です。

研修の内製化の成功事例としては、ソフトバンクがよく知られています。同社は、「ソフトバンクユニバーシティ」という企業内大学を立ち上げていますが、その講師となる人材を自社で育成しています(ソフトバンクユニバーシティ認定講師制度)。ソフトバンクらしいリーダーシップを体現できている人材に、現場の話を交えて話をしてもらう方がより実践的で、効果的があるとの認識によるものです。

自社にふさわしい人材教育体系・研修計画の策定

人材開発において人事部が考えるべき最重要事項は、経営目標・ビジョンを達成するために必要な人材像を描くこと。つまり、自社(組織・仕事)を動かしていくには、どういう要件を持った人材が必要なのかを明確にすることです。そのためには、社内の全部署にヒアリング(アンケート)を行って人材の基本要件を記していき、能力、知識、技術・スキル、態度、価値観・志向といった側面から、自社の階層や職種別に求められる要件を明らかにしていくことが重要です。

その次に重要なのは、そういった人材が自社にいるのか、適正に育っているのかを検証することです。その上で自己評価、あるいは上司や同僚による評価を行い、ギャップが生じている部分をどうするのかを考え、「要員計画」をたてます。その上で、人材の採用、育成、異動などのロードマップを描いていく――。このようにして、人材育成に関する具体的なアプローチと具現化する方法論を落とし込んだものが「人材教育体制・研修計画」です。このように自社なりの一連のプロセスをしっかりと踏まえた上で、人材育成に対する基本的な方針とフレームワークを持つことが、人材開発を実のあるものとするためには必要不可欠です。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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