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HRカンファレンストップ > イベントレポート一覧 > 日本の人事部「HRカンファレンス2016-秋-」  > 特別セッション [SS-2] 人事パーソン同士で考える、「私」のキャリアパス

人事パーソン同士で考える、「私」のキャリアパス

  • 岡田 絢美氏(株式会社LIXIL HR Organization & Staffing本部 組織開発部 グループリーダー)
  • 山本 悠介氏(千葉銀行 ダイバーシティ推進部 調査役)
  • 石橋 達也氏(東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部 都心開発部 課長補佐)
  • 竹内 規彦氏(早稲田大学 大学院経営管理研究科 准教授)
2017.01.17 掲載
講演写真

人事として、「専門性」を追求すべきか、「総合型」を目指すべきか。また、人事として他社への転職の機会をうかがうべきか、ほかの職種や業界に目を向けるべきか――。雇用の流動化が進み、キャリアのあり方が多様化している中、人事パーソンは、自社の社員のキャリアだけでなく、自分自身のキャリアについてもいろいろと思いを巡らせるケースが少なくない。本セッションでは、人事の仕事にさまざまな形で関わり、キャリアを歩んでいるパネリスト3人と、キャリアの専門家である早稲田大学大学院経営管理研究科准教授の竹内氏のプレゼンテーションを題材に、会場の参加者との質疑応答を交えながら、人事パーソンの「キャリアパス」について考えを深めていった。

プロフィール
岡田 絢美氏( 株式会社LIXIL HR Organization & Staffing本部 組織開発部 グループリーダー)
岡田 絢美 プロフィール写真

(おかだ あやみ)日系金融機関(信託銀行)、日系メーカー、外資系経営コンサルティングファーム(人事職)を経て、2013年1月に株式会社LIXILへ入社。2000年 上智大学外国語学部卒業。2014年 早稲田大学大学院商学研究科(現、経営管理研究科)首席修了(人材・組織マネジメントモジュール)。2015年秋に長女を出産。


山本 悠介氏( 千葉銀行 ダイバーシティ推進部 調査役)
山本 悠介 プロフィール写真

(やまもと ゆうすけ)1999年、千葉銀行入行。営業店での営業を7年経験し、2006年、日本経済団体連合会(経団連)に出向。経団連では、メーカーやサービス業など、さまざまな企業からの出向者が多く、そこでの交流を通じて視野が広がる。2年後に千葉銀行に戻り人事部へ。女性活躍推進の担当者にもなる。2011年10月に同行の女性活躍サポートチームができ、その立ち上げの企画から担当。 2014年10月にはダイバーシティ推進部に。双子の父親として、積極的に子育てにも参加。


石橋 達也氏( 東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部 都心開発部 課長補佐)
石橋 達也 プロフィール写真

(いしばし たつや)2003年、東京急行電鉄株式会社入社。駅務研修を経て人事政策担当へ配属。人事考課、昇進昇格、要員計画等の人事制度運用に携わった後、総合職の新卒、経験者採用を担当。入社7年目であった2010年、人事ローテーションにより都市開発部門へ異動となり、以降、都心部および東急線沿線における新規不動産開発業務に従事。プロジェクトマネジャーとして、事業計画・商品企画の立案、行政や社外折衝、設計・施工の推進等に携わり今日に至る。社内制度を活用し、2016年、早稲田大学大学院商学研究科(現、経営管理研究科)を修了。


竹内 規彦氏( 早稲田大学 大学院経営管理研究科 准教授)
竹内 規彦 プロフィール写真

(たけうち のりひこ)2003年名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了。博士(学術)学位取得。専門は組織行動論及び人材マネジメント論。東京理科大学准教授、青山学院大学大学院准教授等を経て、2012 年より現職。米国Association of Japanese Business Studies会長、欧州Evidence-based HRM誌編集顧問、産業・組織心理学会理事、組織学会評議員等を歴任。組織診断用サーベイツールの開発及び企業での講演・研修等多数。2015年度早稲田大学リサーチアワード(国際発信力)受賞。


【イントロダクション】「キャリア」とは何か(竹内規彦氏)

最初に、ファシリテーターを務める竹内氏から、本セッションのテーマに関する説明があった。

「自社の従業員のキャリアを考えるのは、人事の重要な仕事の一つです。しかし、自分自身のキャリアを考える機会もまた大事です。今日は人事に深く携わっている(もしくは携わった)3人の経験や考え方についての話を聞き、ディスカッションを行うことで、人事パーソンのキャリアを考えるヒントや気づきを得てもらいたいと思います」

講演写真

竹内氏によると、「キャリア」の語源は「車輪のついた乗り物(carrus)」「馬車道(carraia)」「競馬場・コース(carriere、carriera)」などと言われている。人生とはまさにトラックであり、それをどのように歩むかが、人のキャリアということだ。そして、今日における代表的な定義では、「個人が長年にわたって積み重ねた働く体験の連続」「個人が生涯の中で経験する『何を選び、何を選ばないか』によって創造されるダイナミックなもの」とされている。

「特に最近は、自分自身がキャリアを選択すること、キャリアのオーナーであることの重要性が叫ばれ、働く人自身がいかにキャリアデザイン、キャリア開発を行っていくかが問われるようになっています。このような流れの中、いかに人事パーソンとして自分自身のキャリアを考えていくかが、本日のテーマです」

ここで、竹内氏も監修者として関わった『日本の人事部 人事白書2016』の調査結果の一部が紹介された。「人事パーソンのキャリア」について考えを聞く質問の中で「自分自身の今後のキャリア」の回答結果を見ると、「人事内で今の領域を深めていきたい」(40.4%)が最も多く、「人事内で今とは異なる領域を経験したい」(18.9%)と合わせ、約6割が「人事スペシャリスト志向」を持っていることがわかった。一方で、「転職を考えたことはあるか」について聞いた結果では、「ある」(22.8%)「たまにある」(35.7%)と、合わせて約6割が転職意向を持っている。人事分野での専門性を生かして、ほかの企業でチャレンジしたいという人事パーソンが多いことがうかがえる。

このような人事パーソンのキャリアパスに対する傾向が認められる中、本日の3人のパネリストは、以下のような異なるキャリアを持つ人が人選された。三者三様のキャリアだ。

(1)株式会社LIXIL:岡田絢美氏
3人の中で最も人事の経験が長く、人事プロフェッショナルになるためにMBAで学んだ「人事スペシャリスト型」

(2)千葉銀行:山本悠介氏
現場や出向を経験してから、人事の仕事を担当している「人事イン型」

(3)東京急行電鉄株式会社:石橋達也氏
入社後の初期キャリアを人事部で過ごし、その後現場に出た「人事アウト型」(その後、人事に復帰)

【プレゼンテーション】パネリスト3人のキャリアパス

次に、パネリスト3人が、自己紹介を兼ねながら自分自身のキャリアパスを紹介した。

(1)株式会社LIXIL 岡田絢美氏

●学歴・職歴

学歴ですが、大学ではスペイン語を専攻し、3年生のときに1年間、アルゼンチンにあるコルドバ・カトリック大学へ交換留学をしました。世の中には多種多様な人がいること、私の「ものの見方」は偏っていること、を痛感しました。2012年~2014年、早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻(MBA)へ通学しました。MBAでは平日の夜と土曜日、週3~4日通学し、また、「組織マネジメント」と「モチベーションとキャリアマネジメント」を、今回のファシリテーターである竹内先生より学びました。修士論文のテーマは「人の働きがい」です。

職歴としては、新卒で日系金融機関(信託銀行)へ入社し、融資調査を担当しました。3年後に日系メーカーへ転職し、渉外業務を担当しました。翌年に経営コンサルティングファームの人事職に転職して以来、人事一筋のキャリアです。同社では採用・海外派遣・スタッフィング(人材配置)を主に担当し、LIXILに転職してからは国内外の人材開発、企業理念浸透、組織開発、各種グローバル制度構築と実行、などを担当しています。2015年秋に長女を出産し、2016年4月より復職しています。

●キャリアのライフラインチャート(日系金融機関・日系メーカー)

本日プレゼンをするにあたり、自身のキャリアの節目となる出来事と、その時のモチベーションの状況をグラフにしてみました。モチベーションに関しては、プラスとマイナスを行き来しながらも全体的にはプラスの方向に向かっていると言えます。

新卒で入社した金融機関ですが、社会人としての基礎を叩き込んでいただいたものの、この会社で自分が長期にわたって活躍するイメージがなかなかつかめず、もがいていました。約3年で会社を辞めるのは勇気が必要でしたが、キャリアを自分で変えたい、「人生は一度きりだ」と思い切ったことで、気持ちは前向きになりました。この頃から、自分のキャリアは自分で決めることの重要性を強く意識するようになりました。ソニーでは渉外業務を担当し、エグゼクティブの仕事ぶりを目の当たりにする得難い経験ができました。

●キャリアのライフラインチャート(人事スペシャリスト:外資系経営コンサルティングファーム・LIXIL)

講演写真

1年後、ある経営コンサルティングファームが未経験者可の採用スタッフを募集しているという新聞広告を目にし、これが自分のやりたい仕事だと思い、再び転職しました。この時、27歳。まだ若いにもかかわらず次々と仕事を任せてもらえたことが嬉しく、業務を通じてロジカルシンキング、スライドライティング、プレゼンテーションなどのスキルが飛躍的に向上し、充実した日々を送っていました。

そして31歳で採用グループのリーダーとなり、管理職となりました。チームをマネジメントする立場になったものの、最初はメンバーとの接し方がわからず、人生で初めて強い“孤独”を味わいました。「何とかしなくてはいけない」といろいろな本を読みあさりましたが、そこから得た知見をうまく現場で活用することができませんでした。これまで一人のチームメンバーとしては大抵のことが出来ていたのに、マネジメントになった途端、失敗の連続。先が見えない、成長できていない、とひどく落ち込んだものです。

しかし、当時の上司や他部署の管理職の先輩方から積極的にアドバイスをいただくようになる中で、今まで失敗をするのがカッコ悪いと思っていた私がようやく「失敗から学ぼう」と腹をくくりました。また、メンバーに対するマネジメントも、ステレオタイプにやるのではなく、それぞれの人に合わせてより良い方法でやればいい、と思うようになりました。その結果、チームとしての歯車がかみ合うようになり、メンバーの成長とともに私自身のモチベーションが上がっていきました。

そんなときに、働きながらMBAに通う決断をしました。アカデミックな理論を活用して、ここまでに得た経験を自分の中で整理したいと考えたのがきっかけです。また、企業戦略を遂行する上での人事の役割について集中的に学び、自ら考えたことが、その後の人事のキャリアを歩んでいくのに非常に役立っています。

MBAに通いながら、LIXILに転職しました。LIXILでは企画から実行まで一気通貫で携わりながら、大企業の人事業務の面白さと難しさに向き合っているところです。2015年に出産して2016年4月に復職。当初は「元のペースで働けるのだろうか」と心身ともに非常に不安でしたが、上司・同僚・家族からのサポートのもと、徐々に働くペースをつかんでいき、現在に至っています。

●参加者との質疑応答

質問者A:最初のキャリアは人事ではなかったとのことですが、人事への職種変更の狙いを聞かせてください。

岡田:とても単純ですが、人が好きだったからです。幼少の頃から転校が多く、どうしたら周囲とうまくやっていけるかを考えるにあたり、常に人の行動を観察していました。そうした経験から、人への関心が強くなり、ずっと「人に関わる仕事がしたい」と思っていました。ただ、就職した当時はそうした機会がなく、キャリアを積んでいく中で人事の仕事に就くことを考え、転職してチャンスをつかもうと行動しました。

質問者B:MBAに通う際、どのように時間を捻出されたのですか。また、大学院に通いながら、どのようにして転職活動をされたのでしょうか。

岡田:授業がない日曜日と平日夜に、予習・復習・グループワークをこなしていました。課題が多くなってくると、通勤時間や昼休みを使うこともありました。タイムマネジメントがうまくなったと思います。MBAに通う中でさまざまな情報が入り、ネットワークが広がるため、転職を考える機会はより多くなる傾向にあると思います。実際に、ゼミの同期をはじめ多くの仲間が在学中に転職しています。

(2)千葉銀行 山本悠介氏

●現場からスタート

千葉銀行という地方銀行に就職したいと考えたのは、私の出身が千葉県であり、自分の育った地域の中で暮らしたい、その地域を活性化したいという思いがあったからです。1999年4月に入行し、蘇我支店、柏西口支店を経て、2006年から2年間、日本経済団体連合会(経団連)に出向しました。その後、本社に戻ってからは、人事部、経営管理部、人材育成部、ダイバーシティ推進部と部署の名前は変わっていますが、人事関連の仕事を8年半担当しています。

最初に配属された蘇我支店では、1~2年目は出納、窓口、融資係などを担当し、銀行業務の基本を習得しました。3年目には個人営業担当になり、初めて外回りを経験しました。仕事内容としては、住宅ローン、投資型金融商品の販売です。 次の柏西口支店でも融資係を担当した後、個人営業担当になりました。5年目には部下を従えて仕事をすることになりましたが、これはとてもいい経験でした。6年目には念願だった法人営業を担当し、営業店の業績貢献に注力しました。とにかく、ここまではずっと現場での仕事です。

●出向を経て人事へ

そして、2006年から2年間、経団連に出向。経団連では、労働政策本部で春季労使交渉や書籍出版、セミナー運営などを担当しました。その他、労働政策審議会の雇用均等分科会に出席し、法律(パートタイム労働法)がどのように改正されていくのか、事務局担当としてその現場を目の当たりにしました。経団連ではさまざまな企業の人事部からの出向者が多く、そうした人たちとの交流が、視野を広げることにつながりました。またこの頃から、女性活躍についての興味・関心が高まっていきました。

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経団連への出向を終え、2008年から人事部に異動。労働時間管理、賞与、海外給与体系、非正規雇用、モラールサーベイ実施・分析、労務対策、人事諸制度などの人事企画・運用を、幅広く担当しました。2010年からは女性活躍推進担当となり、翌年、その中で女性活躍チームをスタート。また、2014年には内閣府が事務局を務める「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」に頭取の佐久間が行動宣言の策定メンバーとして参加した際、その発足のお手伝いをさせていただき、その後、女性活躍チームがダイバーシティ推進部へと昇格したタイミングで、人事部から異動することになります。

ここでは、行内のダイバーシティを推進するために、女性活躍や両立支援制度の改定・拡充などを担当しています。キャリアとして、特にダイナミックな動きがあったわけではありませんが、現場を経験した後、人事部内のさまざまな仕事を担当することになりました。結果として、人事のスペシャリストとしての貴重な知見を得ることができたと思っています。

●質疑応答

質問者C:人事の仕事をしているのは、人が好きだからですか。

山本:当初は、人事の仕事を希望していたわけではなく、営業の仕事がしたかった。それはいろいろな人と関わりたかったからです。銀行は、さまざまな業種や立場の人と直接会って、仕事を進めていきます。そうした経験が、自分の仕事の幅を広げていくように思いました。その意味で、人が好きということは当てはまります。また人事に移ってからは、従業員本人だけではなく、その後ろにいる家族のことまで考えて、仕事をするように心掛けています。

質問者D:男性が中心の日本企業では、ダイバーシティ推進に対してまだまだ抵抗がありますが、その抵抗をどのようにクリアしていったのでしょうか。

山本:ダイバーシティの推進では、女性活躍推進がまず第一歩だと思います。女性には出産・育児などのライフイベントが発生しますが、そのときに、家事も育児も全て女性が担うのはおかしいと思っています。当然、男性も担うべきであり、そういう意識を全社に植え付けていくことが必要です。その際、当行では頭取が自身の経験をもとに非常に強い意志を持って、いろいろな場面で男性も家事・育児をするべきだというメッセージを発信しています。このようなトップダウンがダイバーシティ推進には効果的です。

(3)東京急行電鉄株式会社:石橋達也氏

●事業モデルと人材ローテーション

当社は鉄道事業を基盤としてまちづくりに取り組んでいる会社です。単体の従業員は4,300人ほどであり、その内の半分以上は鉄道事業に従事しています。平均年齢は40.3歳、平均勤続年数は18年7ヵ月と、比較的長く在籍している社員が中心の会社です。事業内容としては、交通事業と不動産事業、そして生活サービス事業(リテール事業など)が3本柱となっており、人材ローテーションは画一的ではありませんが、出向を含め同一事業領域内が割合としては多いと言えます。

●人事部門から事業部門へのキャリアチェンジ

私は、不動産開発の仕事を志して入社したので、当初から配属希望は不動産開発でした。ところが、駅勤務を経て配属されたのが人事部。人事部での最初の2年間は、人事考課・昇進昇格の制度運用などを担当しました。その後、3年目に採用担当になり、新卒総合職採用や経験者採用を担当し、合計6年半ほど人事業務に携わりました。

希望して人事に配属されたわけではないので、正直なところ、配属当初は仕事に対するモチベーションが高かったわけではありません。ただ、配属先の職場環境が非常に良好で、面倒見の良い上司や先輩に恵まれたこともあり、職務に対するモチベーションは次第に上がっていきました。特に採用を担当していたときは、自分で計画し実行する、仕事を動かしている実感があり、高い自己効力感を味わうことができました。

そして7年目の終わりに、不動産開発を行うビル事業部(当時)に異動しました。担当業務は、自社で保有する土地や外部コンペなどにおける事業計画や事業収支の策定、オフィス・商業・ホテルといった異なる用途の建築プランの検討、共同事業者やテナントなど社外関係者との協議・折衝で、まさに入社当時携わりたかった業務でした。ただ、当時は採用の仕事に対する自負もあり、また、それまでの経験によって多少キャリアへの意識が変化していたこともあり、喜びも戸惑いもあったと思います。

異動後すぐに「何もできない自分」という現実を突き付けられました。人事と不動産開発の仕事では利害関係者、所属する従業員の専門分野やバックグランド、利益創出という業務上の主題などが全く異なります。設計図面を見ることができない、事業の構造や商慣習などの事業上のポイントがわからない、事業評価の基準や仕組みなど会社のルールがわからないなど、まさに、わからないことづくし。とにかく基礎知識が欠如し、日常のやりとり(会話)すら理解できず、職務を遂行する上でのよりどころがない状態が長く続きました。この頃は自己効力感も感じることができず、モチベーションを高めるのが困難な時期が続きました。

●大学院に進学、役割と関心の変化

事業部門で数年の経験を積み重ねて、徐々に自分のスタイルを確立しました。それとともに、もっと世の中のビジネスの仕組みを理解する必要性、会社という組織の仕組みを理解する必要性、そして知識に基づいた自信を深める必要性があるのではという新たな問題意識を持つようになりました。そうしたときにタイミング良く社内制度を活用し、大学院に進学するチャンスを得ることができました。

大学院に進学したのは、ビジネスパーソンとして必要な経営知識を習得するため。さらに、自分のバックグラウンドにあった人事、特に採用・選抜・ローテーションといった人材マネジメント(組織・制度・仕組み)を深掘りしたいと考えたからです。ところが、大学院に通い始めてから程なくして仕事上での立場が変わり、部下を持つようになったことで私の中の志向が変わりました。組織において仕組みは大事だけれど、それよりも社員一人ひとりの行動に強い関心を持つようになったのです。結局、どんなに良い仕組みを作っても、仕組みを活用する社員本人がやる気になって行動しなければ成果にはつながりません。では、人を動かすためにはどうすればいいのか、そういった点に関心が移っていったのです。そして、研究を通じて若手社員にとっては職場環境が何よりも重要であるとの気づきを得ることができました。

修了後、その学びを組織に還元していこうと思った矢先でしたが、この10月に再び人事に異動となりました。現在は人材戦略室人事開発部にて、社員のキャリア施策などに関わっています。

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●人事にとって、事業部門の経験は必要か

事業部門を経験したことで、利益創出による会社への貢献を実感したり、社外との多くの接点の中で改めて自社への理解が深まったりすることを通じて自身の成長や課題を実感するなど、事業部門特有のやりがいを体感することができました。入社7年目で大きなキャリアチェンジを迎えたわけですが、職務内容の大幅な変化による専門知識・スキルの習得など、その点でハードルは高かったように思います。また、組織の観点からすれば、人材活用という点で有益なキャリアチェンジであったかは現時点で私にはわかりません。ただ、私個人のことだけで言えば、事業への理解や利益貢献という意識が醸成される、人事上の情報と実務の実態との違いに気づくといった点から見ると、事業部門を経験する意義は大きいと思っています。

●将来展望と今の思い

部下を持つことによって、社員の動機づけに非常に大きな関心を持つようになりました。これからは、特に若手・中堅社員の体系的な育成、中長期的で自発的なキャリア支援を行えるような働きかけをしていきたいと考えています。また、組織には多様な人材が必要だということを改めて実感したので、一人ひとりが能力を最大限発揮できるよう、さまざまなキャリアモデルを提供していくことが仕組み上必要だと考えています。

いずれにしても、社内施策は“受け手次第”だということが、事業部門を経験して非常に強く感じたことです。というのも、社内制度の多くは、提供する側が想像している以上に受け手には理解されていないからです。また、制度上の評価や間接的な評判と、実際の能力や成果は同じとは限りません。どのような施策を講じるにせよ、最終的には会社の持続的成長に資するものでなければならないと考えます。

●人事専門性の活用

一方で、人事部門を経験したことで、社内に広く有しているネットワークを駆使すればスムーズに協力関係を築くことができると感じていました。あるいは、社内外の利害関係者の中で適切な(効果的な)行動を選択する際に、相手の特徴や特性を人的な視点で見極めることは、円滑に職務を遂行していく上で貴重な能力と言えます。事業部門においても、さまざまな観点で人に携わる人事の経験を生かすことは、十分に可能ではないでしょうか。

質問者E:異動についてですが、バックオフィスの人間をフロントに出すときに苦労します。その際、どのような支援を行えばいいとお考えですか。

石橋:経験のない社員が初めて事業部に異動する場合、その社員にとっては想像もつかない業務に移るわけですから、まずは受け入れる側が、期待を持ちながらも受容的であることが必要です。異動先で、本人が過度に職場に合わせる(馴染む)ことばかりに捉われず、自分の個性を生かして何とかやれそうだという意識を持てるかどうかがポイントです。そこでうまくスタートが切れれば、その後は比較的スムーズに行くのではないでしょうか。

【まとめ】キャリアにおける「ライフ・ステージ」という考え方(竹内規彦氏)

3人のパネリストによるプレゼンテーションの後、人事のキャリアパスに関して、竹内氏によるまとめと補足があった。竹内氏は、人のキャリアを理解する枠組みの一つとして、「ライフ・ステージ」(ドナルド・E・スーパー)という考え方(理論)を紹介した。

「自分が将来何になりたいか、職業に対するイメージはかなり早い段階で形成されます。それが15歳~18歳くらいになると、暫定的なものに固まる。ただし、この時期は職業経験がないので、身近な人がモデルになります。あるいは、メディアなどを通じて形成されます。そのため、非常に変わりやすいのが特徴です。

それが18歳以降、大学生になると移行期になり、多くの人はアルバイトやインターンシップなど、疑似的な職業体験をします。そして就職活動を行う中で、自分の志向や価値観などから、かなり具体的なイメージが形成されます。その後、就職するわけですが、ここからがキャリアの実践試行期です。ライフ・ステージ上の位置づけで言うと、探索段階のトライアルの時期であり、先ほどの岡田さんの場合、ここで何度か転職されています。自分にとって、よりフィットするものが何かを積極的に探されていたのだと考えられます。

20代後半になると、自身のキャリアの確立を目指す段階に移ります(確立段階)。仕事を通じた『自分らしさ』とは何か、今の会社・部署で『自分らしく』いられるかなどを、深く考察するようになります。その結果、異動を希望したり、転職したりすることもあります。個人差はありますが、30代を過ぎた頃から徐々に安定期に移行し、次第に自分なりのキャリアが確立してきます。ここで自分の錨(いかり)、いわゆる『キャリア・アンカー』(自分にとって最も大切で、これだけはどうしても犠牲にできないという価値観や欲求、動機、能力などを踏まえて選択するキャリアの軸足)をおろしていいのか、あるいは自分にとって本当に大切な『キャリア・アンカー』は何なのか、改めて考える人もいるでしょう。ステージ半ばの自己決定を前にして、悩む人も多いのです。そして、40代の半ばを過ぎるとキャリアの維持段階に移り、60代以降、下降段階(減速・引退期)となります」

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このようなキャリアパスを考えていく上で、「組織コミットメント」(会社への愛着や同一視の程度)が大きな目安になると竹内氏は言う。「組織行動学の分野では『組織コミットメント』は勤続年数や年齢とともに変化しますが、その変化は『J字カーブ』を描くという明らかな特徴があります。具体的には、『入社時ないしは20代前半』から『入社5~6年、20代後半』にかけて、コミットメントは一度大きく落ち込み、さらに『入社10~11年、30代半ば』に再度落ち込みがあった後、大きく上昇し安定します。つまり、先のライフ・ステージに照らし合わせると、自身のキャリアを確立する過程で、仕事や会社に対する複雑な心理を経験しつつ、キャリアの方向性を定めていくのです。この過程は、その後(中年期以降)の自身のキャリアに充実感を与える上で、とても重要でしょう」

この後、竹内氏から、「人事パーソンとしてのキャリアを考える」と題して、人事は「専門職」志向(特に人事の特定領域)が顕著であるという前提の下、以下のような視点から、参加者同士のディスカッションが行われた。

・人事「専門職」の強みは何か? どのようなキャリアの機会に恵まれるか?
・人事以外の持ち場を経験するメリットは何か? どのような強みや「自分らしさ」を形成できるか?
・一方で、それぞれのリスクは何か?
・フロアの皆さんの経験は?

そして、休憩をはさんで3人のパネリストとの質疑応答が活発に行われ、人事のキャリアパスを考える「特別セッション」は盛況の下、終了した。

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