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HRカンファレンストップ > イベントレポート一覧 > 日本の人事部「HRカンファレンス2016-秋-」  > ランチミーティング [LM-3] 「リーダーシップ持論」を言語化する

「リーダーシップ持論」を言語化する

  • 金井 壽宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
2017.01.11 掲載
講演写真

今日、組織においてリーダーが求められる役割を果たすには、自分なりの「リーダーシップ持論」を持ち、それを言語化していくことが重要である。では、自分自身のリーダーシップに関する考えをまとめるには、どのようなアプローチを行えばいいのか? また人事として、ビジネスのリーダーの「持論づくり」をいかにサポートしていけばいいのか? 神戸大学大学院教授・金井壽宏氏からの問題提起と、参加者同士のグループ・ディスカッションを交えながら、「リーダーシップ持論の具体化・言語化」について考えた。

プロフィール
金井 壽宏氏( 神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
金井 壽宏 プロフィール写真

(かない としひろ)1954年神戸市生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程を修了。89年MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)を取得。92年神戸大学で博士(経営学)を取得。変革型のリーダーシップ、創造性となじむマネジメント、働くひとのキャリア発達、次期経営幹部の育成、これからの人事部の役割、研究とつながる教育・研修のあり方(リサーチ・ベースト・エデュケーション)を主たるテーマとしている。これらにかかわる論文や著作が多数。『変革型ミドルの探求』(白桃書房、1991年)、『リーダーシップ入門』(日経文庫、2005年)、 『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版、2006年)、『「人勢塾」ポジティブ心理学が人と組織を変える』(小学館、2010年)、『組織エス ノグラフィー』(有斐閣、共著、2010年)など、著書は50冊以上。


自分なりの「リーダーシップ持論」を持つことの重要性

金井氏による、自分なりの「リーダーシップ持論」を持つことの重要性に関する問題提起から、セッションは始まった。

「大学教員には、まるで歌手のディナーショーのように、教室の中を歩き回りながら生徒に歩み寄って講義を行うなど、独自の個性やスタイルを持った方が数多くいます。では、これにはどのような効果があるのでしょうか。実は、ステージ(場)を広げようという意図があるのです。広げたステージの中央に位置することによって、皆が自分の話に集中し、注意深く聴くようになる。すると、話の伝わり方(理解)も大きく違ってきます。いずれにしても自分独自のスタイル(持論)を持っている人は、周りに与える影響力が違います。実は、これと同じような効果・効用はリーダーシップを発揮する際にも期待できます」

ただし、リーダーシップの場合、時と状況や、どのような立場の人がやるかによって、その効果・効用は異なってくる。例えば、研修の講師が部屋の中を歩き回りながら、参加者とコミュニケーションを密に取りつつ話を進めていくのは効果的だろう。しかし、会社の幹部が集まった会議室で若手社員がプレゼンテーションをする場合、果たしてそうしたスタイルは適切だろうか。おそらく、反感を買うだけだ。リーダーシップの持論を持つことはとても大事だが、発揮する際の「置かれた環境(TPO)」を十分に考えなくてはならない。

その上で重要となってくるのが、持論を「言語化」することだ。職場では、「男は黙って……」は通用しない。雇用形態や就労観の多様化により、モチベーションの源泉が異なる人たちが混在している今日の職場でメンバーに機能的に動いてもらうためには、リーダーは自分の考え方ややり方を明確に示す必要がある。自分なりのリーダーシップとはどういうものなのか、どのように職場運営を行っていくのか。それらを理解してもらうには、なるべく短いセンテンスで言い切るのと同時に、その具体例について数多くの「引き出し」(事例)を持っていなければならない。また、相手のタイプによってうまく使い分けていくことも重要である。なぜなら、考え方は人によって異なるので、効果的なアプローチも、人それぞれで違うからだ。

「そのためには、まずは自分の考えを言葉にして、口に出してみること。その言葉があまり効果がないと思ったのなら、表現を変えてみることです。意固地になることはありません。柔軟に対応すればいいのです。このように自分なりの持論を持ち、自分なりの言葉でリーダーシップを具体的に語ることが、これからのリーダーには欠かせない要件と言えます」

「アップダウン」「自己調整」から「持論」を導き出す

講演写真

では、どうすれば自分なりの「持論」を持つことができるのだろうか。そのためには、自分がモチベートされた経験から、自分なりのモチベーションの源泉を考えること。自分がどのような時にやる気がアップダウンしたのか、その要因を探すことだと、金井氏は言う。そこから、リーダーシップのあり方を考えていくのだ。そして、リーダーシップを育むために、リーダーシップにまつわる自分の「一皮むけた経験」を振り返ること。このようなプロセスを経ることによって、自分なりの「持論」と、それを裏付ける「経験」がひも付いてくる。

「具体的は方法としては、ある程度長い時間軸(1~2週間)で、自分のモチベーションがアップダウンした具体的な経験・出来事を掘り起こし、内省します。なぜ、自分のモチベーションがそこで上がったか(下がったか)を確認し、自分のモチベーションを左右する要因を探し出すのです。それがはっきり見えてきたら、なぜ落ち込んだのか、あるいはワクワクしたのかが分かります。そのようにモチベーションをうまく自己調整しながら、自分なりのモチベーションの持論を導き出します。ここで重要なのは、モチベーションはダイナミックなプロセスだということ。常にアップダウンすることを忘れてはいけません。落ち込むことは、誰にでもあります。そして、やる気が落ち込んだ時には、何とか回復する必要があるわけで、だからこそ自己調整が大事なのです」

このような持論を導き出すアプローチ(アップダウン→自己調整→持論)は、リーダーシップでも同様だと金井氏は言う。

「落ち込んだ部下を自己調整させて、いかにやる気にさせていくか。そのためには、どのようにアプローチしていけばいいのか。リーダーには、確固たる持論が求められます」

どのような時に人は「やる気」がアップするのか

金井氏が参加者に対して、どのような時にやる気がアップするのかをたずねたところ、下記のような回答があった。

  • 自分の仕事、存在が認められた時
  • 仕事の見通しが立った時(営業職時代)
  • 上司から褒められた時
  • 何かに集中できる時、時間に余裕がある時

ここで金井氏は、フレデリック・ハーズバーグの「二要因理論」を紹介した。同理論における「動機づけ要因」と「衛生要因」では、モチベーションにおいて「あると、ワクワクするもの」「ないと、ガッカリするもの」に分けて整理している。

「この理論には賛否両論あるのですが、非常によく引用される理論であるのも事実です。会場の方の意見を聞いてみても、動機づけに関しては、多くの人にアピールする要因があるように感じました」

動機づけ要因(あると、ワクワクするもの) 衛生要因(ないと、ガッカリするもの)
  • 達成
  • 承認
  • 仕事そのもの
  • 責任
  • 前身(昇進)
*職務の内容そのもの
  • 会社の方針
  • 上司の知識不足
  • 上司との相性
  • 職場の人間関係
  • 作業環境
  • 福利厚生
  • 給与
*職務のコンテキスト

ワーク・モチベーションでなく、スタディ・モチベーション(勉強意欲)に置き換えれば、子どもなりの持論も明確になる。例えば、高校生くらいに成長すれば、以下のような勉強を続けるための要因があると考えられる。

  • 受験や資格のため、仕方なく
  • 学歴や地位を得ようとして
  • 親や先生にやらされている
  • 勉強ができると優越感があるから
  • 他人に負けたくないから
  • みんながやっているので、何となく
  • 先生が好きだったから
  • やらないと後で困ることになるから
  • 将来の職業に必要な知識が得られる
  • 頭の訓練として
  • 好きな勉強はそれ自体が面白いから
  • 分かる楽しさがあるから
  • 充実感が得られるから

また、東京大学大学院教授・市川伸一氏が提唱する「学習動機の二要因モデル」(市川理論)では、上記の勉強意欲に関して、以下のような六つの要因に整理している。このように見ていくと、「市川理論」の方がハーズバーグ以上に、持論アプローチに近いと金井氏は語った。

講演写真

「やる気」の自己調整をどう行うか

先日亡くなった元ラグビーの日本代表監督・平尾誠二氏は、金井氏とは旧知の仲である。平尾氏のリーダーシップ持論は非常にユニークであると同時に、神戸製鋼時代にリーダーとして、大きな成果を出したことを金井氏は称賛する。

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「平尾さんのリーダーシップ理論は『一人で背負い込まないこと』で、特にコンテンツはありません。その代わり、誰とリーダーシップをシェアするかに重点を置いていました。それはゲームリーダーのほか、イメージリーダーとチームリーダー。平尾さん自身はゲームリーダーであり、常に試合に勝つことだけを考えています。そのために、メンバーから嫌われることを厭いません。一方、チームリーダーは、この人がいるとチームがうまくまとまる、ということを考えます。さらに、イメージリーダーは、誰も思い付かないような突飛もない作戦を考え出します。例えば試合中、事前に考えた戦術がうまくいかないとき、平尾さんはイメージリーダーの考えを参考にし、それを積極的に取り入れていました。実際、それが当たることも、たびたびありました。このようなフレキシブルで効果的なリーダーシップの下では、試合における選手のモチベーションは非常に高いものになっています」

つまり、「リーダーシップのための何ヵ条」ということではなく、「リーダーシップをどうシェアするか」に平尾氏は注力したのだ。学者が作った理論以上に、ラグビーの試合という実践の場において、平尾氏の持論がうまく機能したことを、金井氏は改めて強調する。

「ところで、モチベーションをやる気・意欲と訳すことが多いのですが、モチベーションはそれ自体がダイナミックなプロセスであること(アップダウンがあること)を忘れてはなりません。落ち込んでいる時も、そのアップダウンの理由や背景を説明できれば、自己調整を行うことは可能です。また、そこから持論を持つこともできます」

自己調整(持論を持つこと)で重要なのは、アップダウンという現実がある中、ポジティブなものがネガティブなものを内包し、ネガティブなものがポジティブなものを内包するサイクルである、ということである。モチベーションはまさに生き物。だからこそ、それを導くリーダーシップが必要なのだ。

1.ズレを感知して、緊張が発生する
  ↓
2.不快
  ↓
3.回避したいという欲求
  ↓
4.逃げるだけでなく、動く先に希望を見出す
  ↓
5.接近したいという欲求
  ↓
6.希望が叶えられる
  ↓
7.満足、リラックスする
  ↓
8.活動が止まることもある
  ↓
9.より大きな希望を抱く
  ↓
10.現状と希望にズレが生まれる →1.に戻る

「人が動かすことがリーダーシップ論のエッセンスならば、リーダーシップの実践的持論は、モチベーション論を内包することです。人はなぜ動くのかの持論を内包したリーダーシップ持論が、今ほど求められている時代はありません」と語り、金井氏の問題提起は終了した。

この後、各テーブルの受講者同士が、金井氏の講義の感想とお互いの意見交換を行った。その後、金井氏との「質疑応答」があり、盛況の下「ランチミーティング」は終了した。

【主な参加者からの感想】

  • 持論を持つことの重要性を理解することができた。
  • 学者の理論は参考となるが、自分の経験から「自信を持って言えるリーダーシップのあり方」を身に付けることが大切だと思った。
  • 肩書きではなく、自然発生的に出てくるリーダーが理想だと感じた。
  • 状況によって、行動面では違いが出てくる。それでも、根底にあるリーダーシップがぶれていないことが、重要ではないか。また、そうでなければ、メンバーは付いてこないように思う。
  • リーダーは目標達成することが、何より大事であるのは間違いない。しかし、モチベーションなど、メンバーとの関係性もより大事であることが分かった。
  • 人事にとって、現場のリーダーをいかに育てていくか、その重要性と育成のヒントを知ることができた。
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