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イノベーションを起こすリーダーシップ
~「ななつ星」を成功させたJR九州のトップに聞く~

  • 唐池 恒二氏(九州旅客鉄道(JR九州)株式会社 代表取締役会長)
  • 入山 章栄氏(早稲田大学ビジネススクール/早稲田大学大学院商学研究科 准教授)
2017.01.12 掲載
講演写真

2013年の秋に誕生したJR九州の「ななつ星in九州」は、申し込みが殺到し地元にも愛される「クルーズトレイン」として好調に走り続け、JR九州は株式上場も果たした。本セッションでは、当時社長としてこの大プロジェクトを率いたJR九州会長の唐池恒二氏を迎え、早稲田大学の准教授・入山章栄氏が成功を導くリーダーシップをひも解いていった。

プロフィール
唐池 恒二氏( 九州旅客鉄道(JR九州)株式会社 代表取締役会長)
唐池 恒二 プロフィール写真

(からいけ こうじ)1953年生まれ。77年京都大学法学部卒、日本国有鉄道入社。87年国鉄分割民営化に伴い、九州旅客鉄道(JR九州)に入社。96年JR九州フードサービス社長。03年JR九州取締役。常務、専務を経て09年社長に就任。14年6月から現職。「ゆふいんの森」や「あそBOY」等の観光列車の運行をはじめ、博多~韓国・釜山間の高速船「ビートル」の就航に尽力。その後、毎年赤字を計上していた外食事業を黒字化し、「赤坂うまや」の東京進出を果たす。13年10月に運行を開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」では、その企画から運行まで自ら陣頭指揮を執った。


入山 章栄氏( 早稲田大学ビジネススクール/早稲田大学大学院商学研究科 准教授)
入山 章栄 プロフィール写真

(いりやま あきえ)1996年慶應義塾大学経済学部卒業。三菱総合研究所で主に国内外の自動車メーカーや政府機関相手の調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。Strategic Management Journalなど主要な国際的学術誌に多くの研究を発表している。2012年に刊行した『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)はビジネス書としては異例のベストセラーとなり、2015年末に刊行した3年ぶりの新刊『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)もベストセラーとなっている。


唐池氏によるプレゼンテーション:エネルギーは伝わり、変化する

唐池氏によるプレゼンテーションから、セッションはスタート。唐池氏は、全国から寝台列車が消えていく中、JR九州の鉄道事業の柱として注目されている「ななつ星in九州」が、どのようなコンセプトで誕生したのかについて語りはじめた。

「『ななつ星』には7両の客車と14の部屋があります。九州は7県。全て7の倍数です。そこから生まれた『ななつ星』という言葉は北斗七星の和名でもあります。名付け親は私です。私は“気”を信じていて、『ななつ星』の中には“気”を投入しました。“気”とは、広辞苑によると『天地間を満たし、宇宙を満たす基本と考えられるもの、万物が生ずる根源、生命の原動力となる勢い』などのことです」

講演写真

この車両に関わったのべ3000人ほどの職人に対して、「世界一の列車を作ろう」と唐池氏は唱えたという。すると、職人たちは非常に喜び、九州の地域の人たちの期待が膨らみ、応援が始まり、それは実際に走り始めても続いた。

「旅費の高い列車ですから、九州の人からどのように見られるのか心配でした。『東京のお金持ちの道楽で我々とは違う』と思われないかと。ところが、走行が始まると停車駅には何千人もの人が見物、応援に来てくれました。『よくぞ、このようなすばらしい列車を走らせてくれた。九州の誇りだ』と声を掛けてくださったり、若いお父さんが子どもの頭をなでながら『いつか、僕たちも乗ろうね』と子どもに話しかける姿を見た時、本当に感動しました」

なぜ、地域から支持を受けることができたのか。唐池氏は、その理由に「ななつ星」に一貫して込めた「気」「思い」「手間」を挙げる。

「ハードの車両には、職人さんたちが自分の持っている技の全てを投入してくれました。ソフトのサービスにも非常に手間がかかっています。例えば、初日に車中で提供する昼食は寿司ですが、福岡で有名な寿司店の大将が毎回車両に乗り込み、握りたてを乗客に一貫ずつ提供しています」

中国思想に基づく「気」という言葉は、英語に訳すと「エナジー」になると唐池氏は言う。人間を動かしているのはエナジー、エネルギーであり、それが「ななつ星」の車両に、サービスに、料理に、込められているのだ。

「『エネルギーは変化する』と中学の理科の時間に習いました。運動エネルギーは熱エネルギーや光エネルギーに変わる。このことを、私は『ななつ星』で目の当たりにしました。手間をかけ、気を込めた『ななつ星』のエネルギーは、それを見る人や乗客の感動というエネルギーに変化するのです。例えば、筑後川の鉄橋の下からななつ星を見る人も涙してくれるんです。九州を一周した最後のお別れパーティーでは、乗客はクルーと抱き合ったり握手をしたりしながら号泣します。気、エネルギーは変化することを改めて学びました」

唐池氏と入山氏による対談:異端児はイノベーションの源

唐池氏のプレゼンテーションが終了した後、プレゼンテーションの内容について具体的に入山氏が掘り下げていく対談がスタートした。

入山:「ななつ星」のアイデアを思いついたのはいつ頃ですか。

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唐池:実は30年近くアイデアを温めて続けていました。「ななつ星」の前には、「ゆふいんの森」「指宿のたまて箱」「A列車で行こう」といった、名前も中身も楽しい列車をたくさん作ってきました。そこで、気付いたことがあります。もともと列車とは移動、交通手段ですが、列車自体が「あの列車に乗りたい」と言われる観光資源になりうるということです。その集大成として「クルーズトレイン」を考え、社長就任1週間後に指示を出しました。そして、九州にクルーズトレインを走らせることが技術的、経営的、営業的に可能か、各部長が検証しました。返ってきた答えの中に否定的なものを見た瞬間、私は逆にやりたくなりました。

入山:インフラ系のような「安全・安心」がキーワードの会社では、イノベーションは起こしにくいものです。イノベーションはチャレンジでありリスクが大きいわけですからね。

唐池:中でも猛反対していたのが運輸部長でした。そこで、私は彼をこのプロジェクトのチームのトップに据えたのです。

入山:反対している方をトップに据えるとは大胆ですね。その方の気持ちが変わらないと前に進めないと思いますが、どのように気持ちを変化させたのですか。

唐池:トップに据えたらすぐに変わり、使命感に燃えていましたね。そういうものです。社長に反対できるという本人の勇気や当社の社風も大したものだと思いながら、本人を取り込もうと決めました。

入山: JR九州には、もともとそのような社風があるのですか。

唐池:そのような風土は、以前からありました。中期経営計画の中にある「異端を尊び挑戦を称える」は、私の一番好きな言葉です。

入山:「異端」というポイントは重要ですね。イノベーションの第一歩とは新しいアイデアを生み出すこと。新しいアイデアは、常に、今ある知と別の今ある知の新しい組み合わせから生まれます。これは、世界標準の経営学で、イノベーションの重要な基本原理と考えられています。同じ業界にいると、どうしても目の前の知だけを組み合わせる傾向があるわけですから、イノベーションが起きる組織には異端児が必要なのです。ところが、日本の企業は昔から全会一致方式が多い傾向にあり、反対意見は出にくい。従ってイノベーションは起こりにくいのです。反対意見を受け止める度量があるかどうかが、イノベーションのポイントです。

唐池氏と入山氏による対談:気を呼び込む「五つの法則」

入山:唐池会長は列車のネーミングからも分かるように言葉の使い方が巧みですが、社員に言葉を語り掛ける時に気を付けていることはありますか。

唐池:わかりやすく伝える、受け手の立場に立ってどのような言葉が刺さるか、胸に落ちるか、ということです。私なりの「リーダー論」として、リーダーに必要なことは、一番大事なことは夢を描いて夢を語ること、二番目は気をいかに会社の隅々、自分も含めて社員一人ひとりに満ちあふれさせるか、三番目は「言葉」で、言い換えると「伝える力」。これは、社員に対する「伝える力」と社外に対する「伝える力」で、最大の広報部長は社長だと思っています。

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入山:大事にしていらっしゃるという「気」を呼び込むためには、どうすればいいのでしょうか。

唐池:気は、人間誰しも持っていますが、差があります。気がどんどん集まって満ちあふれていく人、どんどん薄らでいく人がいるのです。例えば、旬の芸能人に街で出会うと、目が輝いていたり、顔のつやが良かったり、体が大きく見えたりします。あれが気だと思います。ところが最近売れなくなった芸能人を見かけると、気迫がなかったりショボンとしていたりします。これが、気が薄らいでいる人の姿。ですから、気を集めることに努めています。

私は、気を呼び込むための「五つの法則」があると考えています。私がJR九州フードサービスの社長を7年間務めていた際に、レストラン業を成功させるために、良い店を見て歩き、いろいろ試してみた結果、考え出したものです

一つ目は、「夢みる力」。リーダー論のところでも言いましたが、店長が「この店をどうしたい」という夢を語らないといけない。「ななつ星」の場合、「世界一の列車を作る」という夢が明確になり、そこに向かってみんなの気がみなぎってきたのです。二つ目が、「迅速できびきびした動き」。このような動きをしている社員をほめるようにすれば「素早い動きは良いことなのだ」と周囲にも伝わります。

三つ目は、「明るく元気な声」。キビキビ動けない人でも声なら出せます。四つ目は、「スキを見せない緊張感」。例えば、食材が詰まった段ボールが、客席の横に置きっ放しになっている、といったようなことが「スキ」です。スキだらけの店は、全然繁盛しないし料理もおいしくありません。「ななつ星」に乗り込んでくれる寿司職人には本当にスキがありません。私語はないし、カウンターはいつもきれいに磨かれて余計なものが置かれていない。緊張感に満ちています。五つ目は、「つねに向上しよう、成長しようというどん欲さ」を持つということ。この五つのうち三つでも実行すれば、必ず気が集まります。

唐池氏と入山氏による対談:「ななつ星」は人事の成果

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入山:「ななつ星」を進めるにあたって人事面で気を配られたことはありますか。

唐池:「ななつ星」は人事の成果、人事の産物だと思っています。反対している運輸部長をトップに据えたら周りの人間も大きく変わって、これが人事の妙だなと思いました。ほかにも、エースクラスの人材を担当スタッフに持ってきました。

ほかにも、新しい事業やプロジェクト、子会社にはエース人材を配置するようにしています。2年前に統合させた農業会社、JR九州ファームの社長には、当社の人事部長を指名しました。するとJR九州ファームに行きたい、と手を挙げる人が後に続いたんです。また昨年、当社の人事部長には初めて女性を起用しました。すると、ほかの女性社員の目の輝きが変わり、全体の空気が変わるという効果も現れました。

入山:唐池さんのお話からは、人事は戦略だということ、人事が社員へのメッセージになっていることが感じられます。

唐池:今当社では、優秀な社員ほどグループ会社、子会社への出向に手を挙げたがるといううれしい風潮があります。出向しないと自分の先が途絶えてしまうような雰囲気になってきている。子会社に出た人が戻ってきて出世もしていますから、そういうことが実績で示されてくると、人事ローテーションとして皆の理解も進みます。

入山:一度出向して外の世界を見るのは非常にいいことだと思います。戻ってきた時に知と知の組み合わせができてイノベーションにもつながると思います。

会場との質疑応答:マイナスの情報ほど笑顔で聞く

最後に、会場からいくつかの質問が出された。「失敗を恐れ、イノベーションをつぶしがちだと言われる中間管理職に対する工夫はしているか」という質問に対し、唐池氏は次のように答えた。

唐池:社員が上層部に上げてくる情報は、マイナスの情報が多くて、プラスの情報は半分以下です。私が心がけているのは、マイナスの情報を報告されたときほど笑顔で受けるということ。怒られると思うと萎縮して報告に来なくなってしまいますから。マイナスの情報を報告した社員には、最後に「ありがとう」と言っています。社員は上の背中を見ますから、中間管理職が隠さず報告すれば、部下も隠さなくなります。その元は、僕が隠さないようにすることです。

入山:大きな組織の一番の問題は、現場で問題が起きていても中間管理職のフィルターで純化されてしまい、いい情報だけしか上がらないことですから、今のお話は素晴らしいと思います。笑顔で受けるという工夫は、まさに「気」を作っているわけですね。本日はありがとうございました。

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