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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2016-秋-」講演レポート・動画 >  パネルセッション [G] 株式会社リコー 加藤直子氏、株式会社博報堂 田村寿浩氏、慶應義塾…

これからの戦略人事にどう「自律的キャリア開発」を位置づけ、活用するか

  • 加藤 直子氏(株式会社リコー コーポレート統括本部 人事統括センター 人材開発部 部長)
  • 田村 寿浩氏(株式会社博報堂 人材開発戦略室 キャリアデザイングループ グループマネージャー)
  • 花田 光世氏(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス 一般財団法人SFCフォーラム代表理事/慶應義塾大学キャリアリソースラボ/慶應義塾大学 名誉教授)
2017.01.10 掲載
講演写真

平成28年4月に職業能力開発促進法が改正され、自律的キャリア開発が法制化された。社員のキャリア権が確立した状況において、企業はいかに自律的キャリア開発を行っていくべきか。キャリア開発に詳しい、慶應義塾大学名誉教授の花田光世氏が現状を解説。キャリアの自律支援を実践するリコー・加藤直子氏、博報堂・田村寿浩氏が加わり、現場で考慮すべき点や今後の方向性について議論が行われた。

プロフィール
加藤 直子氏( 株式会社リコー コーポレート統括本部 人事統括センター 人材開発部 部長)
加藤 直子 プロフィール写真

(かとう なおこ)1985年 株式会社リコー入社。採用、マーケティング、事業戦略等を担当し、2007年4月より全社人材開発に従事。人材育成とキャリア開発支援の仕組みづくりを推進。また、国内リコーグループの統一教育体系の構築と展開責任者として、その実現に貢献。JCDA認定キャリアアドバイザー。


田村 寿浩氏( 株式会社博報堂 人材開発戦略室 キャリアデザイングループ グループマネージャー)
田村 寿浩 プロフィール写真

(たむら としひろ)1992年中央大学法学部卒業後、博報堂に入社。営業部門にて得意先企業の広告コミュニケーション業務に従事。2002年より研究開発部門に所属し、生活者心理の調査技法や、ワークショップ等の共創ナレッジの開発を担当。並行して、コンサルティング部門にて、得意先企業のヴィジョン開発やブランディング業務に携わる。2010年東洋英和女学院大学大学院にて臨床心理を学び、修士取得。同年より現部門にて、社員のキャリア自律支援施策の開発・運営に携わるとともに研修等のファシリテーションを行う。臨床心理士としても活動中。


花田 光世氏( 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス 一般財団法人SFCフォーラム代表理事/慶應義塾大学キャリアリソースラボ/慶應義塾大学 名誉教授)
花田 光世 プロフィール写真

(はなだ みつよ)南カリフォルニア大学Ph.D.-Distinction(組織社会学)。企業組織、とりわけ人事・教育・キャリア問題研究の第一人者。産業・組織心理学 会理事、人材育成学会副会長をはじめとする公的な活動に加えて、民間企業の社外取締役、報酬委員会などの活動にも従事。経済産業省、厚生労働省の人材開発・キャリアの領域の研究会などに座長・委員として幅広く従事。「人事制度における競争原理の実態」で、第一回組織学会論文賞を受賞。主な著書に『働く居場所の作り方』(日本経済新聞出版社)『新ヒューマンキャピタル経営』(日経BP社)、主な論文に「人事制度における競争原理の実態」(組織科学)、「グローバル戦略を支える人事システムの展開法(上・下)」「コア人材の機能と条件」(以上「ダイヤモンド ハーバード・ビジネス」)などがある。American Sociological Review,Administrative Science Quarterlyといった海外の学術誌や国内の学会誌、人事分野の専門誌などに300本を越す論文があり、最近は、キャリア自律の推進、キャリアアドバイザーの育成などの活動に精力的に取り組んでいる。


花田氏によるプレゼンテーション:
安易なキャリア自律への警鐘

花田氏はまず、キャリア自律の法制化による懸念について語った。「私は企業内でのキャリア支援が重要と言ってきました。しかし、今回の法制化で一つ懸念されるのは、労働者が安易にキャリア自律に進もうとするのではないか、という点です。そのようなスタンスでは、制度そのものが崩壊してしまわないか。これは実に重いテーマです」

法改正については「そこにインセンティブを設けないと、自律は進まないのではないか」という意見もあった。花田氏は「それでは、温室育ちを進めてしまうことになる」と語る。

「私は、場合によって、就業規則の中にキャリア自律を明記することが必要ではないかと考えています。明記することで、従業員は当事者意識と責任を持たなければなりません。私たちはキャリア自律の精神にのっとって、仕組みづくりを行わなければいけないはずです。しかし、法改正によって企業への負担が一方的に増えてしまった。もっと、自己責任で対応することのウェイトを強くする仕組みが必要です」

その手法として有効なのは、日常業務の中で想定外の出来事や修羅場にぶつかりながら、自分の可能性を切り開いていく仕組みを作り込むことだ。組織のインフラや風土づくりにつながる一連のプログラムとして、しっかりと作っていく。

「私たちはこれまで、組織がライフステージとキャリアステージの間を緩やかに調整してくれることに慣れてしまっていました。しかし、これからは自分たちで変化に対応し、バランスを調整しなければなりません」

講演写真

次に花田氏は、キャリア発達論とキャリアストレッチ論の違いから見たキャリア自律について述べた。

「キャリア自律の時代となって、私にはキャリア発達論がしっくりこないんですね。もしかしたら温室育ちに通じる解釈を、一人ひとりの社員に与えてしまう危険性があるのではないか」

キャリア発達論では、仕事を選択できることが前提としてある。適性やスキルをわかって、自分で自分にマッチした仕事を選べることを出発点としている。そして、私たちは自身を優位にするために、合理的な判断をし続ける。変化成長では環境が変わることに対して適応し続けていく。こういう考え方がキャリア発達論のベースにはある。

「しかし私から見れば、仕事を選べるなんてとんでもないことです。仕事は選ぶものではなく、基本的には与えられるもの。自分で選べる前提に立つと、間違えてしまいます。でも、与えられたものを自分なりに工夫する能動性は取れます。自分らしさを発揮できる努力は払えるのです。キャリア自律の中で、合理的な判断ができると思ったら大間違いです。私たちは、主体的な決断を行い続けなければならない。そうすると、決断に対して寄り添って支援するスタッフがどうしても必要になってきます。それがキャリアコンサルタントです」

花田氏は、環境に適応することよりも、環境を切り開いていく能動性こそが大事だと語る。花田氏はこれをキャリアストレッチングと呼ぶ。

「自分で自分の力を拡大する。自ら変化することが、生涯にわたり自分たちのキャリアを自律的に作り上げるうえで、非常に重要なポイントになると思います」

では、そのときのキャリアコンサルタントの支援とはどういうものなのか。カウンセリング系なら、悩みに寄り添うことは非常に重要だ。組織が求める人材像を考えながら、自分を律する状況の中で「本当はこれをやりたいができない」と思いつつ、組織の期待に積極的に応え、一生懸命に仕事をすることで自分の可能性を開いていく。その人をどう支えるのか。

「仕事への真剣な取り組みを支援することを、私は第一次ラポール(心の元気)、第二次ラポール(一歩の踏み出し)、第三次ラポール(組織の中における役割や居場所づくりを一生懸命つくることへの支援)と呼んでいます。これらを支援することが大事だと思います」

花田氏は最後に「私たちを取り巻く環境は不条理、理不尽、困難。そういった中でも自分のキャリアづくりに責任を持つこと。これは勝手し放題ということとは全く異なる世界観の中で、キャリア自律を進めなければならない、ということです。今日はこのことを問題提起したいと思います」と語り、プレゼンテーションを締めくくった。

加藤氏によるプレゼンテーション:
社員の自律的キャリア形成を支援するリコーの取り組み

次に加藤氏が、リコーのキャリア自律支援の現状について語った。

「今は、より個の視点でのキャリアの自律支援を強化している状況にあります。キャリア開発施策の導入当初はキャリア意識の醸成を目的に30歳、40歳、50歳時に必須とし、世代別のキャリアデザイン研修を行っていました。その後、マネジメントの現場でキャリア開発が回るためのキャリア面談や、キャリア相談を立ち上げるなど、段階的に施策を立ち上げてきました」

講演写真

リコーでは、近年、一律的な施策だけではうまくいかなくなると、より個の視点を強化した改善や見直しを進めているという。

「社員のキャリアをめぐる環境変化は、リアルに起こっています。弊社では、構造改革を加速させ基盤事業の収益力を強化し、新たな事業の柱を育てなくてはなりません。組織の統廃合や新設により人材が流動化し、同時に生産性向上や付加価値の創造に向けたダイバーシティを推進しています。その結果、職場でも個々の仕事環境や、業務、必要とされるスキルに変化が起きており、その中でいかに変化に対応し個人のやる気を創出できるか、ということが課題となっています」

リコーでは、キャリア自律のマインド醸成と風土醸成のために、リコーウェイや、人材育成方針、七つの人材タイプを提示し、3年前からは、組織と個人の目標のすり合わせを行う目標標統合プログラムを実施しているという。これは、従来の人事考課とキャリア面談を統合したプログラムだ。

「個人の成果を最大化するとともに、能力を向上させることが目的です。従来は各々の仕組みで行っていましたが、これを連動させるようにしました。上司と部下がコミュニケーションを取りながら、キャリアプランや仕事の目標や成果について話し合います。その結果を、本人の能力開発や、育成やローテーションの参考情報として、活用しています」

この他では、ダイバーシティおよびワークライフバランスを推進し、社員への啓蒙を図り、マネジャー教育にも反映させている。

「階層別若手社員研修にも、キャリア自律を盛り込んでいます。キャリアデザイン研修は、個々でキャリアを考えるタイミングは違うということから希望者に対して行うよう見直しを始めています。また、シニア支援の観点から、55歳前後の層に対する支援プログラムを新たにスタートさせています。

マネジャー向け支援では、評価者トレーニング(適正な評価と育成視点でのマネジメント)、360度フィードバック、ダイバーシティマネジメント教育、組織開発研修などを行っている。

「360度フィードバックでは、今年からMBTIという性格検査を活用し、自己理解と他者理解を進め、行動変容への適応を行っています」

田村氏によるプレゼンテーション:
博報堂におけるキャリア開発支援施策について

博報堂は2005年4月に、博報堂大学(HAKUHODO UNIV.)という企業内大学を立ち上げた。人事とは別組織で、社員の能力開発の計画の立案や実施を行っている。同社には人材についての考えを示す「粒ぞろいよりも粒違い」という言葉があり、個人を資産と考え、個人を尊重する伝統がある。企業内大学の設置はまさにその言葉の実践と言える。田村氏はここでの育成メニューについて、次のように語った。

「社内の育成内容は大きく二つに分かれます。スキル・ナレッジを学ぶものと、職業観醸成やキャリア自律支援を行うもの。その中でポイントとなる、新人向けのエントリープログラムとキャリアデザインプログラムをご紹介します」

エントリープログラムの目的は、新人全員を配属した職場になじませること、仕事を自分ごと化させることだ。入社前研修、導入研修、初任業務レビュー研修、フォローアップ研修という四つの研修とその間のOJTで構成される。

「この研修で最初に基礎をつくったあと、キャリアデザインプログラムに乗せていくことになります。このプログラムの目的は、社員一人ひとりが公私にわたる経験や知見の積み重ねから、自分ならではの動機やスキル・コンピテンシーを理解し、会社への成果の出し方を主体的に模索する。そのための支援です」

キャリアデザインプログラムの特徴には、節目における気付きの機会の提供、そして育成の仕組みの実施・運営がある。この後、継続的な支援インフラの構築・運営は、キャリア相談窓口で公的な資格をもったスタッフが行う。

講演写真

次に田村氏は世代別研修について語った。その一つは20代が対象となる、多段階キャリア育成制度だ。

「この制度の目的は、足腰の強いプロを育てることです。29歳時までに想定外を含めた多様な業務領域の経験を担うことを狙った、意図的・計画的な異動を絡めたキャリア支援策です。入社4年目および7年目を基準年として、全員が二度の異動を経験します」

また、30代、40代、50代のミドルシニア向けには、2010年に整備された世代別キャリア自律支援プログラムを実施している。これは各世代のキャリアイシューに即し、社員一人ひとりの文脈を尊重したオリジナルプログラムだ。

「構成フォーマットは、どの年代も共通です。まず対象者にキャリア講演会を行い、人事制度上の位置づけや、キャリアへの期待および役割を説明します。そして、この中の希望者でキャリアデザインワークショップを行います。プログラムは2日間で、自己理解、環境変化の理解、統合の3セットを行います。最後は個別・グループ対応となり、個人の属性や特性に合わせてアドバイスを行い、また、そこでのグループ活動を支援します。

人事は自社の戦略とその先の人材像を提示することが最低限必要です。そのうえで企業の求める姿と個人の思いの統合を図るには、個人側が自分なりの文脈で戦略や人材像を考えてみるプロセスや行為が必要になると思います」

ディスカッション:よりよいキャリア支援のカギとは

花田:私は、人事はもっと現場に出ていくべきではないかと思っています。現場の活動を見て、どのように個の視点に立ち、再定義しながら成長につなげるか。もっと多様な触れ合いの機会をつくることが求められていると感じます。この考えについて、お二人はどう思われますか。

加藤:当社でも、多様性のある活動を支援したいと考えています。キャリアのアドバイスができる専門家が、さまざま方策を考えて支援することは重要です。当社は従来、キャリアアドバイザーと教育担当を分けていましたが、今後はそれを一緒にして、連携させながら現場での支援につないでいきたいと考えています。

田村:困難な状況の中で自分で意味づけをして、自分でパフォーマンスを出すということは本当に大変なことです。そんな難しい支援を本当にキャリアアドバイザーだけで行うのか、と私も思っていました。私はキャリアアドバイザーがハブになり、コミュニティーの力を借りられるように支援することが大事だと思います。当社のワークショップで「自分をさらけ出せた」と喜んでいた人がいたのですが、そこからコミュニティーが生まれ、研修以降も皆で会う場ができていました。コミュニティーの力は個人の後押しになると思います。

花田:今は新しい組織戦略とキャリア自律を、どのように統合していくかが問われています。これまでのキャリア支援は不満の解消でした。いかに職務満足を高めるかという視点で、従業員対策を行っていた。不満とは、現状における他者との比較から生まれます。それに加え、今では不安もあります。これは、将来の自分と今を比較して感じられるものです。この不満と不安を期待に変えていくことが、これからの人事の役目ではないかと思います。

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