ヒトゴトか? 『他責・他律社員』は職場がつくり、職場を機能不全にする!
- 中村 連太氏(一般社団法人中部産業連盟 東京事業部 人材マネジメントコンサルティング部長)
「指示待ち」は若手だけでなく、中堅・ベテラン社員にも該当するキーワードであり、職場崩壊の要因になり得る。マネジメント専門集団として研究開発・コンサルティング・研修などを行っている一般社団法人中部産業連盟では、「自律型社員」の育成に8年間取り組んできた。裏を返せば他責や他律と向き合うことだった経験をふまえ、「他責・他律社員」の問題とその取り組みについて、人材マネジメントコンサルティング部長の中村連太氏が語った。
(なかむら れんた)慶応義塾大学経済学部卒業後、大手通信キャリア、外資系コンサルティング会社などで勤務し中部産業連盟(東京本部)に入職。事業企画部長、事業管理部長を経て現職。「Web自律度診断」の開発責任者でもあり、現在は「自律型社員の育成」「職場力の強化」のための講演・研修・コンサルティングを担当。
「他責・他律社員」が起こす問題
中部産業連盟では、自ら考え行動し成長する人材を育てる「自律型社員育成プログラム」を構築し、自律度診断やワークショップを提供している。中村氏は冒頭、まず「他責・他律社員」を定義した。仕事を頼まれても自分の仕事という意識が希薄で、自分が中心となって仕事を前に進めたり、事態を動かそうとしない社員であるという。
「『指示待ち』とは35年前から新人に向けて使われてきた言葉ですが、若手の場合は仕事の場面場面で何を確認すればよいのか、何を検討・判断すべきなのかが『分からない』ために指示待ちになります。一方、業務経験を積んだ中堅やベテランの場合は、自分で仕事を前に進めていく、事態を動かしていく『つもりがない』ため、自分なりの考えを持たずに指示待ちになる傾向にあります。こういった『他責・他律社員』が職場の中で増えています」
「他責・他律社員」だらけの職場では、部下にべったりになることで上司の立ち位置が落ちてしまう。これにより関係者と十分な意思疎通が図れず、問題意識や課題の共有もままならない。トップダウン、ボトムアップ、部門間連携が機能しない状態に陥ってしまう。
「困った社員が一人や二人であれば、管理職として力をつけるいい機会になるかもしれませんが、たくさんとなると管理職本来の仕事ができなくなります。『他責・他律社員』が増え、管理職が職場を立て直す気力をなくしてしまった状態を『職場崩壊』と言っています。『他責・他律社員』の問題とは、上司・同僚の仕事を増やし職場の生産性を下げる、職場の中に不満を生み出し他責・他律を伝染させる、増えてしまうと職場が機能不全になる、ということが挙げられます」
「他責・他律の芽」とは何か
いきなり「他責・他律社員」になるわけではない。まず初期段階で「芽」がでる。例えば若手社員が上司から仕事を頼まれた。簡単な説明だったので、やることは分かったが、その仕事の目的・背景や重要性までは理解できなかった。そもそも上司の指示はいつも雑で、忙しそうに「話しかけるなオーラ」を放っている。困っていても先輩社員は声をかけてくれない。そんな中で「上司や職場に問題があるんだから、自分から動く必要はない」と感じてしまうところに「他責・他律の芽」はあると中村氏は言う。
「芽の段階では、『頼まれた仕事に分からないことがあれば、自分から聞きに行かないとまずいかな』という感覚が、まだあるんです。しかし、実際に自分から動かず、それを繰り返していると、やがて『まずいかな』という感覚もなくなり、『他責・他律社員』になってしまう。そうなると、もう仕事を頼まれても自分ごとではない、一時的に部分的に自分は指示者の仕事を手伝っているだけ、という認識に変わってしまいます。『他責・他律社員』がよく口にする言葉は、『聞いていません』『どうしましょうか』『できませんでした』です。この三つの言葉は順に、『それは最初に言われていないですし、私の仕事ではありません』『次にどうしたらいいのか決めてください』『他の仕事で忙しいのであとはお願いします』を意味します」
「他責・他律の芽」は誰にでもあるが、その違いはいわゆる「2:6:2」に分かれて表れてくる。芽と向き合って摘める人が2、向き合わないで芽を伸ばし放題にする人が2、どちらとも言えない人が6。そして今、一部の職場で起きているのが、ボリュームゾーンである6の人たちの芽が伸びてしまい、他責・他律の傾向が強まり、職場の中で「他責・他律社員」が増えていることだ。
「芽が生え、伸びてしまう職場の特徴は、『部下を正さない、方向付けない』『上司らしい振る舞いができない』『他責・他律を許している』の三つです。一つ目の特徴は、プレイングマネジャー化して部下と向き合う時間が取れなくなった。一方で部下を正す際の拠り所であった『職場の当たり前』がなくなり、また管理職の存在も軽くなったことで、部下を方向付けるのが難しくなったことが原因です。二つ目の特徴は、『上司の負担が増し、上司が部下を正さなくなり、部下の他責・他律の芽が生え伸びて、さらに上司の負担が増す』という、負のスパイラルに原因があります。三つ目の特徴は、管理職が、自分と同年代やそれ以上の『他責・他律社員』に対して注意しづらいことも原因になっています」
他責・他律傾向のある社員から自律型社員へ
「他責・他律社員」の反対にあたるのが「自律型社員」だ。その定義は「指示された」を「自分に任された」と受け止め、自分から進んで関係者と関わり、自分が中心となって仕事を前に進め、自分が主導して事態を動かし、「任された自分の仕事」をやりきる社員である。他責・他律傾向のある社員たちを自律型社員にしていくためには、「2:6:2」の6に照準を定め、その6を習慣によって「他責・他律社員」化させないことを、中村氏は最初の目標として推奨する。
「中部産業連盟では6つのステップで、目標に向けた取り組みを進めていきます。ステップ1は『他責・他律の芽』と向き合うことの習慣づけです。上司も部下である若手社員も、共に問題があるというケースを読んだ上で三つの課題を出します。課題1は『上司の言動で問題だと思う箇所を話し合いまとめる』。例えば『指示があいまい』『指示を出したのに進捗管理をしていない』などが出ます。課題2は『若手社員の方も問題だと思う言動を話し合いまとめる』。例えば『分からないことがあっても確認しない』『途中途中で報告しない』などが出ます。課題3は『自分たちも同じようなことをやっていないか。若手社員の問題行動一つひとつを振り返る』。自分たちにも『他責・他律の芽』があることを自覚させます。
ステップ2は、一歩踏み出すための自律的な姿勢・行動を具体的な場面で理解してもらいます。例えば報連相を行う場面で、『他責・他律社員』『自律型社員』の具体例を比べてみます。中部産業連盟では自律度開発ガイドブックを作成し、報連相、PDCA、問題形成・共有、リーダーシップ・フォロワーシップといった場面ごとに『これは他責・他律で、これは自律』と対比させる形で100以上の事例を具体的にまとめています。
ステップ3では、一人ひとりが仕事の中で実践します。習慣化のためにガイドブックを常に参照しながら、脱他責・他律のために一歩踏み出してみます。ステップ4ではガイドブックを離れ、ウチの職場の自律的な姿勢・行動(=ウチの職場の当たり前)を自分たちで作成し、ステップ5で、それをみんなで実践・定着させます。最後のステップ6は、上司と部下が一緒になってウチの職場で当たり前になったことを確認します。自分たちで作った当たり前を繰り返し実践することで、本当の意味での当たり前にしていきます」
習慣化の先にあるものと育成のコツ
6つのステップを経て「2:6:2」の6にあたる人が「成長機会を与えられ→成長実感を獲得し→成長意欲を高め→成長機会が得られるように自ら働きかける」の成長サイクルにたどり着くまでにはある程度時間を要する。「MUSTの1階→当事者意識の2階→WILLの3階→CANの4階」という階段を上って初めてサイクルは回り出すと中村氏は言う。すなわち、任されたことに当事者意識をもって取り組み、言われたことに自分の「思い」を乗せ、「誰でもできるわけではない仕事」としてやりきると、習慣化の先に成長がある。
「MUSTと当事者意識の間には大きな段差があります。『当事者意識を持つ』とは、仕事を任されたら、自分からプロセス責任を引き受けて取り組んでいくことです。プロセス責任とはゴールまで、ゴールを目指して手を尽くすこと。もちろん、上司はプロセスに関心を持ち進捗を把握し、必要な時は部下に支援や助言を与えますが、プロセス責任を果たすのは部下です。そうでなければ『私は上司の仕事を手伝っているだけ』になってしまいます」
以上から、次の4点を続けることが、他責・他律社員化を防ぎ、自律型社員の育成につながると中村氏はまとめた。(1)「他責・他律の芽」を自覚させ、向き合うことを習慣づける。(2)ガイドブックを使い、「半強制的」に自律型社員としての姿勢・行動を実践させる。(3)職場の当たり前を作って「半自主的」に、自律型社員としての姿勢・行動を習慣化させる。(4)部下である若手・中堅社員に「成長のサイクル」「MUST→当事者意識→WILL→CANの階段」「当事者意識を持つ」の意味を話し聞かせる。
最後に、事前にもらった質問について回答した。「一番多かった声は『いろいろ取り組んできたがなかなか成果が出ない。他責・他律傾向のある人を自律型社員にするのは難しいのではないか』というものでした。考えるべきポイントを列挙しておきます。第一に『2:6:2』の6に照準を定めること。そして、6の人たちに合った目標に見直すことです。上位2に該当する人たちは、機会や役割を与えればある意味勝手に育ちます。ですから、まずは6の人たちを『他責・他律社員』化させないことを目標とし、次にその内の半分程度が成長のサイクルが回った自律型社員になっていくことを目指します。対象者が多い事もあり、手応えが感じられると思います。第二に『意識や意欲を高める取り組み』ではなくて、一歩踏み出す姿勢や行動の習慣化に力を注ぐことです。私たちの意識や意欲の多くは、当たり前や習慣から生まれます。第三に、習慣化のために今更感があっても報連相から始めます。報連相は全ての仕事の基礎と言えますし、一日に何回も行うため何回も気付かせることができます。最後に、取り組み成果が確認できるように、今できていないことをきちんと把握します。『仕事を任せられるようになった』『上司が本来の仕事に取り組めるようになった』『放置されていた課題に着手できるようになった』『仕事量が平準化された』は立派な成果です。何より『働き方改革』につながります。他責・他律社員を増やしてしまっては、職場崩壊までいかなくても、『働き方』を変えていくことはできません」
中部産業連盟(略称・中産連)は1948年、産業の振興、企業経営の支援を目的に、経済産業省(旧商工省)所管の公益法人として設立され、2012年に法令改正に基づき一般社団法人へ移行しました。現在は、中部圏のみならず全国約800社の企業・団体・大学に会員として参加をいただき、シンクタンクである「中産連総合研究所」を中心にコンサルティングと人材育成を二大基幹事業とし、グローバルに活動を展開しています。
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