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「経験の浅い部下育成」を「科学」する
定着・目標設定・振り返り、そして「耳の痛い話」まで

  • 中原 淳氏(東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)
2017.01.16 掲載
講演写真

最近は、部下育成で成果を出せていない管理職が増えている。以前から難しいと言われる部下マネジメントだが、近年はその難しさの度合いが増しているのだ。その背景にあるものとして、東京大学准教授の中原氏は「突然化・二重化・多様化・煩雑化・若年化」と職場環境の変化を挙げる。「部下育成を科学する」と題し、部下育成における科学的データやその知見について中原氏が語った。

プロフィール
中原 淳氏( 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)
中原 淳 プロフィール写真

(なかはら じゅん)1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等をへて、2006年より現職。大阪大学博士(人間科学)。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシッ プについて研究している。専門は経営学習論(Management Learning)。単著に『職場学習論』(東京大学出版会)、『経営学習論』(東京大学出版会)、『研修開発入門 会社で「教える」、競争優位を「つくる」』(ダイヤモンド社)、『駆け出しマネジャーの成長論:7つの挑戦課題を科学する』(中央公論新社)など。共編著に『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社)、『プレイフル・ラーニング』(三省堂)など多数。働く大人の学びに関する公開研究会 Learning barを含め、各種のワークショップをプロデュースしている。


学ばないうちに昇進し、勝手につまずく新任管理職

中原氏はまず、仕事の中で必要になる能力はどこで学ばれているのかを、会場に問いかけた。

「仕事の中で必要になる能力の7割は現場で学ばれています。残りは上司からの指導が2割、研修からが1割。現場での仕事経験が原資となり、現場の管理職がそれを活性化させています。だからこそ、管理職の存在は大変重要なのです。しかし、最近は部下育成で成果を出せていない管理職が増えています。昔からマネジメントは難しいものでしたが、最近はよりややこしくなっているからです。マネジャーが仕事をしなければならない環境が変わってきたのだと思います。変化のキーワードは五つ。“突然化・二重化・多様化・煩雑化・若年化”です」

“突然化”とは、組織がフラット化したことで突然マネジャーに上げられてしまうことだ。以前であればマネジャーの代行経験をできる余裕があった。“二重化“とは、マネジャーがマネジメントするだけの役割から、プレイングの状態でマネジメントをする人に変わってきていること。中原氏は、ここ20年でもっとも進行した現象だと言う。“多様化”は人の多様化であり、職場にいろいろな雇用形態や国籍の人が増えた。“煩雑化”は仕事が忙しく、面倒になっていること。ペーパーワークが増え、マネジメントの時間がとれなくなっている。“若年化”は、経験のないうちからマネジャーに登用されることだ。

「このように、学ばないうちにマネジャーになる人が増えているのではないでしょうか。本来は、実務担当者とマネジャーには段差があるはず。実務担当者の時代は自分で動いて自分で成果を出せばいいけれど、マネジャーになると自分が動いてはいけません。部下を動かして育成し、職場の成果を出させなければならない。ここでつまずく人が多いのです。私が日本生産性本部と一緒に行った調査では、マネジャー初心者の3割がここでつまずきを覚えています」

では、新任マネジャーにはどのようなつまずきが起こるのか。そこには七つのステップがある。第一段階は「目標共有不全」。会社から降りてきた目標を、自分の言葉で部下に伝えられない。腹落ちした言い方ができない。第二段階は「メンバーに三つのクエスチョンが生まれる」。メンバーから「なぜやるのですか」「やるのはいいですが、他の仕事はどうするのですか」「なぜぼくなんですか」と疑問が生じる。これは目標が握れていないことによるズレだ。第三段階は「勝ちパターンの横展開」。困ったマネジャーはメンバーに「自分の言う通りにやれ」「いいからやれ」と命令してしまう。第四段階は「メンバーは思うようにできない」。なぜならメンバーはマネジャーではないから。マネジャーと同じような能力、スキルを持っているわけではない。第五段階は「恐怖政治か巻き取り」。すると、さらに焦って恐怖政治を行うか、仕事の巻き取りを行い、自分で仕事をやってしまう。第六段階は「恐怖政治なら一揆が起こる」。メンバーがついに反旗を翻し、個々にはメンタルダウンやフィジカルの問題が起こる。そして最終の第七段階は「脱線」。マネジャーに上がったのに成果が出せず、仕事は脱線してしまう。

ここで中原氏はその要因と、二つの管理者育成のパターンを示した。

「要因は、マネジャーが育成の方法や部下を動かす方法を知らな過ぎる、あるいは学習機会が限られ過ぎていることにあります。こうなった背景にあるのが、日本の管理職育成の二つのパターンです。一つ目は『実務担当者汚れモデル』、二つ目は『二階に上げて放火モデル』。これらに支配されていませんか」

一つ目の「実務担当者汚れモデル」は、人材開発の典型的なモデルといえる。若いときはガミガミ言われても、1年目を過ぎるとノーフィードバックになり、徐々にモチベーションが失われていく。

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「教育期間や新入社員のころは手厚いケアがあります。でも実務担当者の時期は、ひたすら今に集中し、仕事をしろと言われる。その期間が長いのです。そしてだんだん管理職へのモチベーションが下がっていく。そして突然、管理職に上げられる。これが典型的なパターンです」

二つ目の「二階に上げて放火モデル」とは、よく聞かれるメタファーで、「仕事はできるはずだから」ととりあえず昇進させ、後でプレッシャーをかけるモデルだ。

「世の中はグローバル化などと言われますが、本来、部下育成はしたたかに考えなければいけません。そこに根性論、精神論で戦おうとしている。もっと科学的、合理的に考えないといけないのではないかと思います」

ここで中原氏は、管理職になる前に「マネジメント準備ワクチン」を打ってほしいと語る。ワクチンとは、管理職には持ってほしい部下育成の五つのスキルだ。一つ目は「観察スキル」。部下をよく「観察」すること。二つ目は「目標咀嚼スキル」。部下に仕事の目標を理解させ、「契約」をすること。三つ目は「内省促進スキル」。振り返りを促し、未来の行動をつくること。四つ目は「面づくりスキル」。職場メンバーによる育成を可能にすること。五つ目は「フィードバックスキル」。耳の痛いことを告げて立て直すこと。

「スキルの重要度は企業規模や雇用形態で違いがあります。大企業において違いが生まれやすくなるのは、内省促進スキルと面づくりスキルです。ここがなかなかできません。中小企業では、目標咀嚼スキルがポイントになります。アルバイトやパートが多い職場では、面づくりスキルが特異的に重要になります」

部下育成とは「観察を通じた仮説づくり」

続いて中原氏は、部下育成のスキルについて解説した。一つ目は「観察スキル」だ。観察を通じて部下を知ることはなかなかできることではない。ラグビーの元日本代表コーチのエディ・ジョーズ氏は「よい指導者はよい観察者である」、元ナイキの人事部長である増田弥生氏は「リーダーシップは観察から始まる」と語っている。要するに、部下を巻き込む前に観察があるということが大事なのだ。

「相手を知ること、見ること、現状を分析することができなければ、部下は育成できません。部下育成は、観察を通じた仮説づくりに似ています。観察を通して問題解決をすること。それを支えるのは堅牢な現状の把握です。部下の今の能力や状態を把握ができていなければ、その人に合ったアドバイスはできません」

二つ目のスキルは「目標咀嚼スキル」だ。部下と握り合いができない伝言管理職や、押し切ってしまう強権管理職がよくいるが、部下が仕事の内容や目標について腹落ちできていないと、背伸びの仕事を任せることもできない。フィードバックをしても意味がなくなる。特に新人管理職がつまずきやすい点はここだと、中原氏は語る。これができなければ悪循環が生まれ、自身への負担も増えてくるのだ。

「流れで言えば一番大事な点は、目標を相手に打ち込むときと最後に契約させるときだと思います。皆さんも立場が変われば、目標についてきちんと教えてほしいと思うはずです。ここにおそらく、上司と部下の間の深い溝があります」

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三つ目は「内省促進スキル」だ。若いころはがむしゃらに経験することで、能力は伸びる傾向がある。しかし、入社3年目を越えるころから差が生まれる。年齢が上がると、さらに差がつく。

「振り返りの際は、何が良くて何が悪かったのか、これからどうするのかを考える。根性論で終わる振り返りはよくありません。振り返りの最後には、次にやることを具体的に決められるかどうかが問われます」

部下育成の四つ目のスキルは「面づくりスキル」だ。人を点と点で育成するのではなく、職場に育成の面をつくっていくということだ。

「人は職場の関わりのなかで成長します。人が育つ職場には三つの要素があります。一つ目は『業務の支援』。これは助言や指導です。二つ目は『振り返りを促すこと』。そして三つめは『精神的な支援』。励まされたり、ほめられたりすることです。要するに、いろんな人が育成に関わることが大事なのです」

これからは「耳の痛いことをきちんと言うスキル」が重要

部下育成の最後のスキルは「フィードバックスキル」だ。人を成長させるには本人に気付かせることが大事だが、言わなければいけないことをきちんと言うことも大変重要である。それがフィードバックなのだと、中原氏は言う。

「フィードバックとは耳の痛い結果の通知です。しかし『評価結果を通知すること=ダメ出しすること」ではありません。大事なことは、それと同時に立て直しの手伝いをすること。フィードバックの研究は非常に多いのですが、三つのポイントが言われています。一つ目は、なるべく具体的に行動と結果を指摘すること。行動と結果のセットがなければ、人は行動を変えようがありません。二つ目は、とにかく事実を鏡のように伝えること。三つ目は、立て直す手伝いをすること」

ここで中原氏は、フィードバックでありがちな三つの誤解を挙げる。

「一つ目は『言葉はスパイシーに言うべき』という誤解です。立て直すことに付き合うことが大事です。二つ目は『けなした後にほめるべき』という誤解。私も調査しましたが、この順でなくとも結果は変わりません。三つ目は『フィードバックは部下から嫌われる』という誤解。実は結構な確率で、部下は『もっと早くから言って欲しかった』と思っています。耳の痛いことははっきりと言うことが大事なのです」

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最後に中原氏は、フィードバック時によく起こる四つの現象を示した。一つ目は「大丈夫です病」だ。これは拒絶であり、若い人に多い印象があるという。打開策は「何が大丈夫なのか」と聞いていくことだ。二つ目は「とは言いますけどね病」で、つい言い訳をしてしまうこと。ここでの打開策は、反論時に矛盾が出てくるのでそこを突いていく。三つ目は「沈黙病」。何も言わなくなる、または泣いてしまう。こうなるとコーチング不能であり、時と場所を変える。四つ目は「瞬間湯沸かし器病」。すぐに怒ってしまう。ここでの方策は、ひとまず話をさせて素材を集めたら反転し、「どうしたいのか」と聞いていくことだ。

「フィードバックには、これというやり方はありません。各々が経験から学んで、技術をつくっていくしかないと思います。特に昨今は個人の仕事人生が長くなっており、進む方向を微調整できるフィードバックスキルの重要度が増しています。管理職は部下がまっすぐに飛んでいけるよう、手を添えることが大事なのです」

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