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人的資本経営の潮流2023/11/16

人的資本経営において不可欠な「女性活躍推進」

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人的資本経営において不可欠な「女性活躍推進」

人的資本経営を推進するうえで、女性の活用は不可欠です。一方で、日本企業における女性の活躍についてはまだその途上にあると言わざるを得ません。日本企業における女性活用の実態や人的資本経営の枠組みの中で、どのように女性活用に向けた取り組みを実戦していくべきなのかを解説します。

女性活用の実態

数字で見る女性の現在地

就業者数

総務省の「令和4年労働力調査」によると、2022年の就業者数は男女合わせて6723万人で、前年と比べて10万人増加しました。ただしその内訳をみると、男性は3699万人で12万人減少している一方、女性は3024万人と22万人の増加となっています。男性の就業者数は2019年の3744万人をピークに減少傾向にありますが、女性は過去最高を更新しています。

日本ではこれまで、女性が出産や育児のために離職し、20代後半から30代にかけて就業率が下がるM字カーブが問題視されてきました。しかし、2012年に7割を下回っていた25~44歳の就業率は、2022年には8割前後にまで上昇。欧米のような「台形」へと近づいています。

正規の職員・従業員数

2022年の正規の職員・従業員数においても、男性は前年比14万人減のところ、女性では16万人の増加となりました。ただし、男性では正規で雇用されている人数が2348万人と男性の就業者全体の77.8%を占めていますが、女性は1250万人で、女性の就業者数全体の46.6%にとどまっています。また正規の職員・従業員全体の中で女性の占める割合は、3割を下回っています。

女性管理職比率

管理職の割合についても、男女で大きな差がみられます。厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、2022年度で課長相当職以上の女性管理職を有する企業の割合は52.1%で、前年を1.1%下回る結果となりました。女性が課長相当職以上の管理職に占める割合は12.7%と、前年度を0.4%上回り過去最高となりましたが、諸外国では女性管理職の割合が30%程度を占める国も多く、国際的に見ても低い水準です。

女性の課長相当職以上の管理職に占める割合を企業の規模別でみると、10人以上30人未満の企業が21.3%と最も高い結果となりました。300人以上1000人未満の企業では6.2%、1000人以上5000人未満の企業では7.2%、5000人以上の企業では8.2%と、大企業のほうが女性管理職の割合が低いことが示されています。

政府は2003年、「2020年までに指導的地位の女性を少なくとも30%」との目標を打ち出しましたが達成できず、2023年にあらためて「2030年までに女性役員比率30%以上(東証プライム市場上場企業)」との目標を再掲しました。現在の女性役員比率は21.1%であり、女性管理職比率よりも高い数字ではありますが、「役員」には社外の取締役や監査役も含まれていることから、実質的には経営にかかわっていないケースが多い点に注意が必要です。

男女間賃金差異

東京商工リサーチの調査によると、2023年3月期決算の有価証券報告書に記載された正規雇用の男女間賃金差異は、平均で71.7%との結果になりました。これは、女性が男性よりも3割程度賃金が低いことを意味します。同調査によると、約4分の1の企業が「70.0%以上75.0%未満」のレンジに収まっており、差が大きく開いているケースでは、男性より6割以上賃金が低い企業も散見されます。

業種別にみると、「金融・保険業」(63.6%)、「建設業」(65.3%)、「水産・林業・鉱業」(65.5%)での賃金差異が目立ちます。ただし同調査では、職位や職務が同じであれば男女間の賃金の差はなく、「賃金差異の結果は女性の登用が進んでいない現状を大きく反映している」としています。

妊娠・出産後の就業継続率/育児休業取得率

出産後に働き続ける女性の数も増え続けています。1985~89年にかけては、出産後に仕事を続けていた女性の割合は23.9%にとどまっていましたが、2015~19年では53.8%に増加。正規職員では、83.4%の女性が仕事を続けています。

ただし、23.6%の女性が出産を機に退職しており、とくにパートや派遣では6割近くが退職していることにも目を向ける必要があるでしょう。出産後に女性が退職を選ぶ背景には、日本は諸外国と比べて男性の労働時間が長く、家事や育児の多くを女性が担っている点などが挙げられます。

育児休業取得者の割合は、2022年度で女性80.2%、男性17.13%となっています。男性の育児休業取得率は過去最高を記録していますが、政府の目標とする「2025年までに50%」とは大きな開きがあり、依然として低い水準です。また、育休を取得する期間も女性では9割以上が「6ヵ月以上」となっているところ、男性では半数以上が「2週間未満」にとどまっています。

ジェンダーギャップ指数

世界経済フォーラム(WEF)が公表している「世界各国のジェンダーギャップ指数」によると、2023年の日本のジェンダーギャップは前年度より九つ順位を落とし、過去最低となる146ヵ国中125位という結果になりました。同レポートは「政治」「経済」「教育」「健康」の四つの分野で女性にまつわるデータを分析しており、日本は「教育」「健康」の分野では世界平均を上回っていますが、女性議員の少なさなどから「政治」分野での遅れが目立つ結果となっています。

女性が多い産業・職業

総務省の「令和4年従業構造基本調査」では、女性が就いている割合が最も高い産業は「医療、福祉」(22.8%)であることが示されています。次いで「卸売業、小売業」(17.3%)、「製造業」(11.1%)の順です。男性では「製造業」(20.2%)、「卸売業、小売業」(12.9%)、「建設業」(10.5%)となっており、性差によって従事する職業に特色があることがわかります。なお、女性が少ない産業としては、「鉱業、採石業、砂利採取業」(0.0%)、「漁業」(0.1%)、「電気・ガス・熱供給、水道業」(0.2%)などが挙げられます。

次に職種別に男女の構成比をみると、女性では「事務従事者」が 22.3%と最も高い結果に。次いで「専門的・技術的職業従事者」(19.8%)、「サービス職業従事者」(18.3%)となりました。一方、男性では、「専門的・技術的職業従事者」(18.9%)、「生産工程従事者」(16.4%)、「事務従事者」(16.3%)の順となっています。

女性管理職の割合を産業別でみた場合、就業者数の最も多い「医療・福祉」(53%)が最も多く、「生活関連サービス・娯楽業」(24.6%)、「宿泊業、飲食サービス業」(17.5%)と続きます。女性管理者が少ない業種は「電気・ガス・水道業」が4.1%でトップとなり、「製造業」と「鉱業・採石業・砂利採取業」でともに8%となっています。

女性活用が必要な理由

ダイバーシティの推進

女性活躍推進はダイバーシティ推進の取り組みの一丁目一番地といえます。「ダイバーシティ」はもともと、男女の雇用機会均等や人種問題の解消のために提唱されましたが、性別や価値観の違う多様な人材が集まることは、それまで自社になかった発想を生み出すことにつながり、企業のイノベーションの源泉となります。

女性の能力の発揮

ハーバード大学の社会学者ロザベス・モス・カンター氏は、「構成人数の30%を少数派が占めると影響力を持つようになる」とする「黄金の3割」理論を提唱しました。つまり、女性が少ない職場では、女性が影響力を持てず、その能力が十分に発揮されてこなかったと考えることができます。

企業に女性が少なければ、その企業の展開するビジネスに女性目線を反映することが困難になります。たとえば車の衝突実験では、これまで主に男性のダミー人形が使われてきたため、女性がケガをする確率が低く見積もられてきたことが知られています。女性が増えていくことで、これまで生かすことができなかった女性の目線や能力を発揮することができるようになるでしょう。

人口減少社会に伴う人手不足

少子高齢化の進展により、日本はすでに人口減少社会に突入しています。今後多くの企業が、いまよりも強い人手不足感を覚える事態に直面することは避けられません。すでに女性の社会進出は進んでいますが、男性と比べるとまだ就業率は低く、非正規社員の割合も多いのが現状です。企業が生産性を維持・向上させていくために、女性のさらなる活用は不可欠といえます。

投資家からの目線

内閣府の調査によると、約65%の機関投資家が投資するうえで「女性活躍情報を活用している」と回答しています。その理由としては、「企業の業績に長期的には影響がある情報と考えるため」との回答が75%を超えてトップとなりました。また、女性活躍情報に特化している、あるいは女性活躍情報をインテグレートしたファンドを運用している企業も 15.9 %にのぼります。機関投資家の中には、企業に対して積極的に女性登用を働きかける動きも見られます。

企業業績の向上につながる

現在は消費者の好みが多様化し、よりきめ細やかな製品・サービスを打ち出していくことが求められています。女性目線を採り入れていくことは、製品・サービスの売り上げ向上につながる可能性が高いといえるでしょう。また、多様な人材を受け入れるために仕事の進め方や働き方、処遇などを見直すことは、女性だけでなくすべての従業員が働きやすい職場へと変化していくことにつながります。モチベーションの上昇やリテンションが期待できるため、結果として企業業績の向上につながります。

法律に基づく女性活躍に向けた取り組み

女性活躍に関する法律は、以下の通りです。

法律名 義務 対象
女性活躍推進法 行動計画の策定・公表等 従業員数101人以上
男女間賃金差異の開示 従業員数301人以上
育児介護休業法 雇用環境の整備/育休取得の意向確認等   
男性従業員の育休取得状況の公表 従業員数1001人以上
(301人以上に拡充予定)
男女雇用機会均等法 差別の禁止/ハラスメントの禁止と対策/妊娠・出産における女性の健康管理等   
労働基準法 賃金差別の禁止   
金融商品取引法 有価証券報告書への記載
(女性管理職比率/男性の育休取得率/男女間賃金差異)
有価証券報告書を発行する企業

自社が取り組むべき女性活躍推進に向けた取り組み

目標の設定と現状把握

まずは自社の経営戦略に連動させる形で、女性をどのように活用していくのかについて目標を立てることが求められます。「どのような項目で目標を立てるべきか」について悩んだ場合は、人的資本経営の情報開示項目として推奨されている事項を参照するとよいでしょう。たとえば内閣府の人的資本可視化指針では、下記のような事項を開示事項の例として挙げています。

人的可視化指針におけるダイバーシティに関連する開示事項(例)

  • 属性別の社員・経営層の比率
  • 男女間の給与の差
  • 正社員・非正規社員等の福利厚生の差
  • 育児休暇等の後の復職率・定着率
  • 男女別家族関連休暇取得社員比率
  • 男女別育児休暇取得社員数
  • 男女間賃金格差を是正するため事業者が講じた措置

次に自社の現状を把握していきますが、女性の従業員数や管理職数、管理職候補者数といった定量的な情報のほか、女性従業員のキャリア・子育てに対する支援施策や、女性従業員の抱える本音にも着目する必要があります。

課題の特定

目標の設定と現状の把握が終われば、そのギャップを確認し、目標達成に至るまでの壁の把握や必要な対応について考えます。たとえば多くの企業では、女性管理職の少なさや妊娠・出産後の退職率の高さなどが問題になっていますが、これらの現象が起こるのは、単一の理由によるものではないケースが多くみられます。柔軟性のない働き方やマネジャー層の理解のなさ、女性従業員自身のモチベーションの低さといった複合的な理由が組み合わさっていることに目を向ける必要があるでしょう。正しく課題を特定するために、女性従業員の抱える不満や不安を正確に理解し、ニーズをくみ取ることが求められます。

雇用環境の整備

課題の特定後は、自社に必要な施策を取りまとめ、KPIを策定するなどして推進していきます。ここでは働き方の整備や女性管理職候補の育成システムといった体系だった制度の整備はもちろん、ロールモデルの提示やメンターといった、女性従業員の精神的な支えになる施策も実施していくことが効果的です。「育児期の女性従業員が抜けた分の仕事をそれ以外の従業員でカバーする」「育児期の女性には責任ある仕事を任せない」といったようなシステムになっている場合、かえって従業員のモチベーションが低下するおそれがある点には注意が必要です。

併せて、全社的に意識改革を進めることも重要です。日本において女性活躍を妨げる一因として、性別役割意識が強く根付いていることが挙げられます。たとえば、内閣府の「令和4年度性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」では、男女の性別役割として思い当たる選択肢としてトップとなったのは「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」(男性48.7%、女性44.9%)でした。職場での性別役割に限ってみれば、「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない」(男性33.8%、女性33.2%)が最も高い結果となっています。企業は制度を整えるだけでなく、無意識のうちにはびこる思い込みを取り除くよう、働きかけていく必要があります。

モニタリング/フォローアップ/公表

施策を決めたら、その実行状況をモニタリングし、想定通りに進んでいない場合は何が原因なのかを突き止め、解消していく必要があります。女性の登用は心理的な障壁によって進まないケースも考えられるため、アンケートやサーベイ、1on1などを実施していくことも不可欠な要素です。

重要なのは、実行状況を整理して可能な限り公表していくこと。ほかの人的資本情報とともに社内外に発信し、自社の人的資本経営の取り組みをアピールしていくことで、ステークホルダーからの理解や愛着の増進を期待できます。内閣府の調査では企業の女性活躍情報の開示に対して求めることとして、「将来の目標を明示」(62.5%)、「経年変化が分かるように過去の情報を開示」(60.0%)が上位に挙げられており、時系列に沿って丁寧に開示することが必要であることがわかります。

企業の実践例

資生堂

従業員の80%を女性が占める資生堂では、2023年時点の女性管理職がグローバルで58.1%に上ります。同社では女性従業員の就業継続を支援するため、育児・介護休業法に先駆けて育休制度や短時間勤務制度を導入。2003年には自社内に保育所「カンガルーム」を設け、2023年からは「カンガルームプラス」として、生後57日から小学6年生までの子どもを1対1で預かるベビーシッター事業を開始しました。育児による時短勤務を取得する従業員の代替要員として「カンガルースタッフ制」を導入しており、育児休業からの復職率は2022年で94.9%にのぼります。

女性管理職育成プロジェクトとして、2017年から「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN(NLW)」を開催しています。現在までに185人の従業員(退職者を除く)が参加し、うち約半数が昇進。NLWでは、マネジメントや経営スキル、多様なリーダーシップのスタイルについての知識を深め、従来のリーダー像にとらわれない「自分らしい」リーダーシップのスタイルを見つけることを重視しています。また男性従業員に向けての意識啓発についても注力しています。

アフラック

1955年の創業以来、「人財を大切にすれば、人財が効果的に業務を成し遂げる」と考えてきたアフラック。意思決定の場に多様性を確保するべく、積極的に女性の採用に務めてきました。現在正社員における男女比率は約半数で、管理職の割合も3割を超えています。自律的なキャリア形成を支援する取り組みとして、キャリア開発計画書(CDP)の作成やジョブ・ポスティング(社内公募制度)を導入しています。

2015年からは、「アフラック Work SMART」と銘打った仕事の進め方や働き方の見直しを推進。2019年には子どもが生まれた男性従業員の9割が育休を取得しており、「育児と仕事の両立に不安を感じない」と答えた従業員も2020年時点で88%に及びます。リモートワークの導入や育児と仕事に関する勉強会の実施など、制度と意識の両面の改革を進めた結果、離職率は2014年に20代女性で約14%、30代女性で約8%だったところ、2020年には20代で約4%、30代女性で約3%と大きく減少しています。

イオン

イオンでは、ダイバーシティの推進を「経営戦略の一つ」と位置付けており、女性の活用を積極的に進めています。2013年には、当時15%ほどだった女性管理職比率を「50%まで伸ばす」と宣言。現在は全従業員のうち44%を女性が締め、管理職比率は26.4%となっています。同社ではダイバーシティが生み出す満足を「ダイ満足」と定義。管理職の意識・風土改革につなげる「ダイ満足フォーラム」やイオングループ内のダイバーシティ推進企業を表彰する社内アワード「ダイ満足アワード」を展開しています。

2014年には、若年女性の退職率の低下を目的に、25歳前後の女性従業員を対象とした「キャリアデザインコース」をスタート。その後、女性管理職向け、女性管理職候補向けの研修も開始しました。管理職向けコースではマネジメントスキルだけではなく、自身がロールモデルとなり後進の育成を担う意識を育てているほか、管理職養成コースでは「管理職一歩手前」と「5~8年目の中堅従業員」にわけ、女性従業員の置かれた状況に合わせたきめ細かい指導を行っています。

メルカリ

女性や外国人など、多様な人材が活躍しているメルカリ。採用・登用候補者プールにKPIを設けて数値で管理し、多様性を確保するうえでの課題を特定して組織横断的なアクションプランを策定・実行するなど、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に注力しています。管理職における女性比率20.4%、男性の育児休業取得率91.4%、男性の育休取得日数平均80.4日など、着実に取り組みの効果が表れています。

メルカリが2023年6月に発表したレポートの中で、男女間の賃金差異について「説明できない格差」が発生していると公表。具体的には、男女の平均賃金に37.5%の格差があり、同じ職種・等級(グレード)の男女でも7%の差が生じているとしました。メルカリはこの格差が生じた理由について、一般的に女性の方が男性よりも賃金が低い社会的な構造を、中途採用時の給与オファーの際にそのまま取り入れてしまったためと分析。個別に報酬調整を行い、格差を2.5%まで縮小させています。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。


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